しぃん、と静まり返った部屋
…その部屋の中で、望はどこか、居心地の悪さを感じていた
翼が、黒服も交えて、マドカと話し合うと言うから、少し心配になってついてきたのだが
……まさか、日景の家の人間に盛大に歓迎されるとは思っていなかった
いや、歓迎されると同時に、何か盛大に誤解されたような気がしないでもないのだが
それに関しては、高確立でその誤解の原因の一端であろう翼を軽く殴っておくとして、だ
…その部屋の中で、望はどこか、居心地の悪さを感じていた
翼が、黒服も交えて、マドカと話し合うと言うから、少し心配になってついてきたのだが
……まさか、日景の家の人間に盛大に歓迎されるとは思っていなかった
いや、歓迎されると同時に、何か盛大に誤解されたような気がしないでもないのだが
それに関しては、高確立でその誤解の原因の一端であろう翼を軽く殴っておくとして、だ
翼とマドカが、向かい合っている
一度は、徹底的に仲がこじれた母子
しかも、二人ともどちらかと言えば直情的であり、また、一度相手を嫌ってしまえばどこまでも徹底して嫌い続け、なかなかその認識を改める事が出来ないタイプだ
その二人が、果たして、和解などできるのか?
一度は、徹底的に仲がこじれた母子
しかも、二人ともどちらかと言えば直情的であり、また、一度相手を嫌ってしまえばどこまでも徹底して嫌い続け、なかなかその認識を改める事が出来ないタイプだ
その二人が、果たして、和解などできるのか?
(……まぁ、多分大丈夫なんでしょうけど…)
ちらりと、望は隣に座っている黒服の様子を覗き見た
…黒服は、落ち着いている様子だ
静かに、翼を見守っている
彼が、こんなにも落ち着いているのだから…きっと、大丈夫なのだろう
望は、そう信じる事にしたのだ
…黒服は、落ち着いている様子だ
静かに、翼を見守っている
彼が、こんなにも落ち着いているのだから…きっと、大丈夫なのだろう
望は、そう信じる事にしたのだ
「……つば、さ」
沈黙を破ったのは、マドカ
かすかに俯きながらも、じっと、翼を見据えて
…翼も、その視線から、逃げない
真っ直ぐに、それを受け止めている
かすかに俯きながらも、じっと、翼を見据えて
…翼も、その視線から、逃げない
真っ直ぐに、それを受け止めている
「御免、ね………まだ、小さかった、あんたに、寂しい思いをさせて…」
それは、マドカの精一杯の、心からの謝罪
らしくもなく考え込んで、話すべきことを考え込んで、伝えるべき謝罪の言葉だって、考えてきたはずだと言うのに
だと言うのに……いざ、その時になってみれば、口から出たのは、こんなにも短い言葉
らしくもなく考え込んで、話すべきことを考え込んで、伝えるべき謝罪の言葉だって、考えてきたはずだと言うのに
だと言うのに……いざ、その時になってみれば、口から出たのは、こんなにも短い言葉
違う
これじゃあ、足りない
これっぽちの謝罪で、許されるはずもない
これじゃあ、足りない
これっぽちの謝罪で、許されるはずもない
……違う
自分は、許されるはずもない
自分なりに、翼を愛していた
己が産んだ、たった一人の息子である翼を、自分なりに愛していたつもりだった
けれど…それを、うまく伝える事ができなかった
自分の行為は、結局、翼を傷つけ続けただけだったのだ
自分は、許されるはずもない
自分なりに、翼を愛していた
己が産んだ、たった一人の息子である翼を、自分なりに愛していたつもりだった
けれど…それを、うまく伝える事ができなかった
自分の行為は、結局、翼を傷つけ続けただけだったのだ
許してもらえるはずがない
だが、それでも
だが、それでも
せめて、謝罪の言葉だけでも、伝えたかったのだ
「お袋」
翼が、口を開く
「黄金伝説」のドラゴンの力を全開にしていた朝比奈 秀雄との戦いの最中、口にしたあの呼び方とは違うけれど
だが、口にしたその呼び名は、確かに、マドカを「母親」と認識している呼び方だった
「黄金伝説」のドラゴンの力を全開にしていた朝比奈 秀雄との戦いの最中、口にしたあの呼び方とは違うけれど
だが、口にしたその呼び名は、確かに、マドカを「母親」と認識している呼び方だった
翼は、自分を孤独にした両親を恨んでいた
自分は両親に愛されていないのだと、深い孤独を抱え続けていた
だが、その誤解も、今は緩和されている
あの戦いの最中、マドカが現場に駆けつけた時、マドカが翼を救おうとしたことを、翼はわかっているから
「あたしの息子に何しようってんだい」と言い放った、マドカのその言葉から
翼はようやく、母からの愛情と言うものを、感じ取る事ができたのだから
自分は両親に愛されていないのだと、深い孤独を抱え続けていた
だが、その誤解も、今は緩和されている
あの戦いの最中、マドカが現場に駆けつけた時、マドカが翼を救おうとしたことを、翼はわかっているから
「あたしの息子に何しようってんだい」と言い放った、マドカのその言葉から
翼はようやく、母からの愛情と言うものを、感じ取る事ができたのだから
「俺は……あんま、頭よくねぇから。こう言う時、どう言う言葉を言えばいいのか、よくわかんねぇ」
けど、と
軽く笑って、こう、マドカに告げる
軽く笑って、こう、マドカに告げる
「お袋が、俺の事を、ちゃんと息子だと思ってくれていたんなら…………それで、いいや」
「…翼」
「…翼」
自分は、親から愛してもらえていなかった、と
そう感じていたから、何よりも辛かったし、孤独を感じていた
だからこそ、自分をわかりやすく心配してくれていた黒服にすがっていたのだ
そう感じていたから、何よりも辛かったし、孤独を感じていた
だからこそ、自分をわかりやすく心配してくれていた黒服にすがっていたのだ
…マドカが、自分のことを息子だと思ってくれていて、母親として愛情を向けていてくれていたのだと
それが、わかった今は……恨む気持ちは、薄れていた
完全に消えた訳ではない
完全に許せた訳でもない
今でも、文句言いたいことは山ほどある
だが、今は……それを口に出す気にも、なれなかった
そう言う事は、後でいくらでも言えるのだし
それが、わかった今は……恨む気持ちは、薄れていた
完全に消えた訳ではない
完全に許せた訳でもない
今でも、文句言いたいことは山ほどある
だが、今は……それを口に出す気にも、なれなかった
そう言う事は、後でいくらでも言えるのだし
「いいのですか?翼さん」
どこか、心配そうに口を開いたのは、日景 千鶴……マドカの母、翼から見れば、祖母である女性だ
千鶴の隣では、日景 宗光、マドカの父であり、翼から見れば祖父にあたる男性が、静かに黙り込んでいる
この二人からしてみれば、勘当した娘が子供にまともな愛情すら注げなかった、と自分達の教育が悪かった生だと、孫である翼に申し訳なさを感じていたし
この馬鹿娘が、と言う気持ちが、なんとも強かったようだが
千鶴の隣では、日景 宗光、マドカの父であり、翼から見れば祖父にあたる男性が、静かに黙り込んでいる
この二人からしてみれば、勘当した娘が子供にまともな愛情すら注げなかった、と自分達の教育が悪かった生だと、孫である翼に申し訳なさを感じていたし
この馬鹿娘が、と言う気持ちが、なんとも強かったようだが
「いいんだよ、俺は」
…娘に対しては厳しかった、癖に、孫に対してはとことん甘い孫馬鹿二人
翼にこういわれては、納得するしかなく
翼にこういわれては、納得するしかなく
「…だから、さ」
そして
「前から言ってたけど…爺ちゃんと婆ちゃんも、お袋のこと、許してやってくれよ」
翼の、その言葉に
マドカが、「え?」と、どこか気の抜けた声を出した
マドカが、「え?」と、どこか気の抜けた声を出した
黒服、大門 大樹は思い出す
翼と共に、初めて日景家を訪れたその日の事を
翼と共に、初めて日景家を訪れたその日の事を
「初めて、この日景家に来た時…翼さん、私たちがマドカを勘当したときの話を聞いて………私達に、頼んできた事が、あるのですよ」
どこか、困ったようにそう言った千鶴
大樹は、小さく首を傾げた
大樹は、小さく首を傾げた
「頼んできた事、ですか?」
「あぁ……私達に、その勘当を解いて欲しい、とそう、言ってきたのだよ」
「あぁ……私達に、その勘当を解いて欲しい、とそう、言ってきたのだよ」
そう言って、宗光は軽く目を閉じる
その時の光景を、思い出しているかのように
その時の光景を、思い出しているかのように
「朝比奈 マドカの勘当を、ですか?」
「あぁ………親子と言う繋がりを、断ち切ったままでいるなんて悲しいことだから、と」
「あぁ………親子と言う繋がりを、断ち切ったままでいるなんて悲しいことだから、と」
その時、家族がバラバラになってしまっていた翼にとって
実の両親からも縁を切られてしまっていたマドカが、酷く憐れに思えていたのだ
それは、その時の自分の状態と、全く違うはずなのに、どこか、重なっていて
実の両親からも縁を切られてしまっていたマドカが、酷く憐れに思えていたのだ
それは、その時の自分の状態と、全く違うはずなのに、どこか、重なっていて
だからこそ、必死に頼み込んだのだ
母親を、許してやって欲しい、と
母親が祖父母から勘当された経緯を叔父から聞いて、母親に同情するものもあったのかもしれない
必死に頼み込む孫の様子に、結局、宗光も千鶴も折れたのだ
母親を、許してやって欲しい、と
母親が祖父母から勘当された経緯を叔父から聞いて、母親に同情するものもあったのかもしれない
必死に頼み込む孫の様子に、結局、宗光も千鶴も折れたのだ
……とは、言っても
自分達から勘当した手前、素直に許す事も出来ずに
翼が「日景」の苗字を名乗る事になった件について怒鳴り込んできたマドカ相手に、また盛大に大喧嘩をしてしまい、許すどころの騒ぎではなくなったのはさておき…
自分達から勘当した手前、素直に許す事も出来ずに
翼が「日景」の苗字を名乗る事になった件について怒鳴り込んできたマドカ相手に、また盛大に大喧嘩をしてしまい、許すどころの騒ぎではなくなったのはさておき…
……その話を聞いた時、大樹は気付いていた
翼はとっくに、母親であるマドカのことを、許していたのだ、と
ただ、それを素直に表に出すことができなかっただけだ
顔を合わせる機会はあったはずなのだが、心の準備が出来ていない状況ばかりで、顔を合わせる事もままならなかった
だが、確かに……マドカのことを、翼は既に許していたのだ
翼はとっくに、母親であるマドカのことを、許していたのだ、と
ただ、それを素直に表に出すことができなかっただけだ
顔を合わせる機会はあったはずなのだが、心の準備が出来ていない状況ばかりで、顔を合わせる事もままならなかった
だが、確かに……マドカのことを、翼は既に許していたのだ
許していなかったのは、翼の周囲だけだった
……自分が、翼がマドカと和解する機会を、奪ってしまっていたのではないか
話を聞いた当初、大樹はそう自分を責めた
千鶴達から話を聞いた時、大樹はそれに気付き……気付きながらも、それをすぐに認められなかったのも、事実
翼が両親と不仲である事を嘆きながらも
それを、改善する手伝いを、結局自分はできなかったのだ
話を聞いた当初、大樹はそう自分を責めた
千鶴達から話を聞いた時、大樹はそれに気付き……気付きながらも、それをすぐに認められなかったのも、事実
翼が両親と不仲である事を嘆きながらも
それを、改善する手伝いを、結局自分はできなかったのだ
だから、こそ
翼に、話し合いの場に一緒にいて欲しいと頼まれた時、大樹は承諾した
翼の不安を感じ取り、傍にいる事で、少しでも翼の不安を和らげることができるなら、と
翼に、話し合いの場に一緒にいて欲しいと頼まれた時、大樹は承諾した
翼の不安を感じ取り、傍にいる事で、少しでも翼の不安を和らげることができるなら、と
今、少しでも
翼を支えている事が、できていればいいのだが
望と詩織と共に翼の傍にいながら、大樹はそう考えているのだった
翼を支えている事が、できていればいいのだが
望と詩織と共に翼の傍にいながら、大樹はそう考えているのだった
きょとん、としているマドカ
思わず、己の両親を見つめる
思わず、己の両親を見つめる
「…ぇ」
「………そう、だな」
「………そう、だな」
ふぅ、と
宗光が、小さくため息をついた
マドカを見つめ、尋ねる
宗光が、小さくため息をついた
マドカを見つめ、尋ねる
「…翼が許しているのなら……私達も、認めるしかあるまい」
「………父、ちゃん?」
「私達も、あの時は少し、頭に血が上っていましたしね」
「………母ちゃん」
「………父、ちゃん?」
「私達も、あの時は少し、頭に血が上っていましたしね」
「………母ちゃん」
ゆっくりと
積り、凍り付いていた雪が、融けていくかのように
決定的なまでに広がってしまっていた溝が……埋まっていく
積り、凍り付いていた雪が、融けていくかのように
決定的なまでに広がってしまっていた溝が……埋まっていく
「家に戻りたければ、いつでも戻ってくればいい」
短く、簡潔に告げられたその言葉
第三者が聞けば、どうと言う事のないその言葉も、当人達にとっては、今までの関係をひっくり返す、大きな意味を持つ言葉で
第三者が聞けば、どうと言う事のないその言葉も、当人達にとっては、今までの関係をひっくり返す、大きな意味を持つ言葉で
俯いた、マドカ
その口元には、かすかに笑みが浮かんでいて
その口元には、かすかに笑みが浮かんでいて
「…………ありがとう」
という感謝の声が、かすかに涙声だったのは
決して、その場にいた者の聞き間違いでは、なかっただろう
決して、その場にいた者の聞き間違いでは、なかっただろう
過ぎた時間は戻らない
だからこそ、その後悔を繰り返さない為に
これからの時間を、生きていくのだ
だからこそ、その後悔を繰り返さない為に
これからの時間を、生きていくのだ
Happy End