朝比奈 秀雄が入院している学校からの、帰り道
「…恵、あれで良かったのか?」
恵と並んで歩きながら、そう尋ねる辰也
こくり、恵は小さく頷く
こくり、恵は小さく頷く
「………父さん、と、呼ばせてもらえて、良かった」
「あー…」
「あー…」
…そっちの意味で聞いたのではなかったのだが
まぁ、良いか、と辰也は結論付けた
まぁ、良いか、と辰也は結論付けた
恵は、優しい
家族が生きていた、その事実を純粋に喜んで
あんな男を、許してしまうのだから
……いや、そもそも、恵は朝比奈を恨んですらいなかったのだから、許す、と言うのもまた違うのかもしれないが
家族が生きていた、その事実を純粋に喜んで
あんな男を、許してしまうのだから
……いや、そもそも、恵は朝比奈を恨んですらいなかったのだから、許す、と言うのもまた違うのかもしれないが
「…恵、あいつが父親だとわかったんなら……あっちと、一緒に暮らすのか?」
ぼそり
そう、尋ねる辰也
恵は、小さく、首を左右にふる
そう、尋ねる辰也
恵は、小さく、首を左右にふる
「……それは…父さんの、迷惑になると、思う、から………」
「…そうか」
「………それに」
「…そうか」
「………それに」
辰也を見上げて
恵は、やんわりと微笑んだ
恵は、やんわりと微笑んだ
「…俺は、皆と一緒に、いたいから」
「……そうか。なら、今まで通りで、いいよな」
「……そうか。なら、今まで通りで、いいよな」
恵の言葉に、ほっとする辰也
恵が本来は男である事は、充分に承知している
恵の精神面は、今だって男性である事も承知している
恵の精神面は、今だって男性である事も承知している
…だが、それでも
辰也は、確実に恵に惹かれていた
別に、同性愛の気がある訳ではない
相手が、恵だったから
だから、惹かれた
ただ、それだけのことなのだろう
辰也は、確実に恵に惹かれていた
別に、同性愛の気がある訳ではない
相手が、恵だったから
だから、惹かれた
ただ、それだけのことなのだろう
…とは言え
やはり、辰也は相手が本来男である事と、メンタル面は男のままである事などを考え、想いを告げる事もできないままだが
やはり、辰也は相手が本来男である事と、メンタル面は男のままである事などを考え、想いを告げる事もできないままだが
だから
恵が、朝比奈の元に行くのでは、なく
自分達と、今まで通り、生活していくのだと言う事実に
これ以上なく、ほっとした
恵が、朝比奈の元に行くのでは、なく
自分達と、今まで通り、生活していくのだと言う事実に
これ以上なく、ほっとした
ただ、傍にいられるだけで
共に生きられるだけで
……自分にとって、相応しくないほどの、幸福なのだから
共に生きられるだけで
……自分にとって、相応しくないほどの、幸福なのだから
恵と並び、ゆっくりと教会への帰路に着く
人通りの多い繁華街を、恵と逸れないようにしながら通り抜けていって…
人通りの多い繁華街を、恵と逸れないようにしながら通り抜けていって…
……その、途中
ーーーーーーっす、と
白衣を着た、眼帯をした男と、すれ違った
ーーーーーーっす、と
白衣を着た、眼帯をした男と、すれ違った
「近い内に迎えに行くぞ、H-No.96」
「--------------っ!!」
「たつ、や?」
「たつ、や?」
全身の、血の気が、引いて行く
慌てて振り返ったが、あの男の姿は、もう見えない
人波の中に、その姿は消えてしまった
慌てて振り返ったが、あの男の姿は、もう見えない
人波の中に、その姿は消えてしまった
「辰也?………辰也、どうしたんだ…?」
かたかたと、体が震える
ズキ、と……背中の火傷の痕が、痛んだ
恵の声が、酷く遠くから聞えるような気がする
ズキ、と……背中の火傷の痕が、痛んだ
恵の声が、酷く遠くから聞えるような気がする
ひや、と
冷たい指先が、頬に触れて
びくん、と大きく体を跳ねらせる
見れば、恵が酷く心配そうに、顔を覗き込んできていた
冷たい指先が、頬に触れて
びくん、と大きく体を跳ねらせる
見れば、恵が酷く心配そうに、顔を覗き込んできていた
「…辰也、顔色、悪い………具合、悪いの、か?」
「………け、い」
「………け、い」
ズキズキと、背中の火傷の痕が痛む
……あの番号を消した、火傷の、痕が
……あの番号を消した、火傷の、痕が
あの声は
あの男は
あの、眼帯の、男は……
あの男は
あの、眼帯の、男は……
「…H……No.……1……」
「………?」
「………?」
何故
何故、あの男が
何故、あの男が
やっと、自分は
あの男の呪縛から、逃れられたと思っていたというのに
あの男の呪縛から、逃れられたと思っていたというのに
背中のナンバーを消せば
逃れられると、思っていたと、言う、のに
逃れられると、思っていたと、言う、のに
真っ青になって、震え続ける辰也を心配したのだろう
恵が、その手をぎゅう、と掴んで
ぐいぐいと、人気のない路地へと、引っ張っていく
そして、改めて、辰也をじっと見つめた
恵が、その手をぎゅう、と掴んで
ぐいぐいと、人気のない路地へと、引っ張っていく
そして、改めて、辰也をじっと見つめた
「辰也、具合、悪いのか……?どこか、痛い、のか……?」
心配そうに、見あげてくる恵
その、小さな体を
その、小さな体を
「……くけ?」
ぎゅう、と
辰也は、衝動的に抱きしめた
辰也は、衝動的に抱きしめた
がたがたと、体は震え続けている
恵を抱きしめている状態でなければ、そのまま、座り込んでしまうかもしれない
恵を抱きしめている状態でなければ、そのまま、座り込んでしまうかもしれない
「………嫌、だ……あ、あんな、場所……もう、二度と……………戻りたくねぇ…」
「辰也…?」
「も、う……実験体になんざ、戻りたく……ない……!」
「辰也…?」
「も、う……実験体になんざ、戻りたく……ない……!」
もう
もう、二度と、あの場所に戻るのは嫌だ
もう、二度と、あの場所に戻るのは嫌だ
H-No.96に戻るのは、嫌だ
自分は、広瀬 辰也
人間だ
あの連中のモルモットではない
実験動物ではない
----人間、なのだから
人間だ
あの連中のモルモットではない
実験動物ではない
----人間、なのだから
たとえ
この、広瀬 辰也が、自分の名前でなかったと、しても
他人の名前だったとしても
自分は、この名前にすがるしかないのだ
この、広瀬 辰也が、自分の名前でなかったと、しても
他人の名前だったとしても
自分は、この名前にすがるしかないのだ
いつかは、返さなければならない名前だとしても
せめて、名乗っていられる間、だけでも
せめて、名乗っていられる間、だけでも
「広瀬 辰也のままでいたい。もう、H-No.96に戻りたくない…………っもう、名無しには、戻りたくねぇ………!」
「辰也……」
「辰也……」
泣き出しそうな声で、呟き続ける辰也の体を
恵は、そっと、優しく、抱きしめ返した
辰也を落ち着かせるように、優しく背中を撫でてくる
恵は、そっと、優しく、抱きしめ返した
辰也を落ち着かせるように、優しく背中を撫でてくる
「…辰也は、辰也だ……それ以外の、何者でも、ない」
「恵…」
「……大丈夫……みんな、一緒なら………怖く、ないから」
「恵…」
「……大丈夫……みんな、一緒なら………怖く、ないから」
辰也を気遣うように
辰也を、恐怖から解放させるように…優しく、微笑みかける恵
辰也を、恐怖から解放させるように…優しく、微笑みかける恵
「だから……大丈夫、何も、怖がらなくて、いい…………俺達は、辰也の味方、だから……みんな、辰也の味方だから…」
「……み、な……」
「……み、な……」
もし
あの男が、本気で、こちらを回収しようとしてくるの、ならば
恵だけではなく、マッドガッサー達も、皆、巻き込んで…………--------
あの男が、本気で、こちらを回収しようとしてくるの、ならば
恵だけではなく、マッドガッサー達も、皆、巻き込んで…………--------
「……っくけ」
ぎゅう、と
強く、強く
ただし、恵を壊さない程度の力で……辰也は、恵を抱きしめ続けた
強く、強く
ただし、恵を壊さない程度の力で……辰也は、恵を抱きしめ続けた
恵を
仲間達を、護る為に
仲間達を、護る為に
早く、復讐を完了させなければ
あいつらを、皆殺しにしなければ
あいつらを、皆殺しにしなければ
たとえ、この身が朽ち果てたと、しても
恵を抱きしめ続けながら、しかし、決して口に出すことはなく
辰也は、その誓いを新たにしているのだった
辰也は、その誓いを新たにしているのだった
待ち受けている、運命を
残酷な現実を、真実を
知る事も、ないままに
残酷な現実を、真実を
知る事も、ないままに
to be … ?