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連載 - 拝戸直しの人殺し-04

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【拝戸直の人殺し 第四話「拝戸直は殺人鬼」】


デパートでの買い物が終わると俺と口裂け女はいったん家に戻ることにした。
いつもならば人の一人や二人殺してしまうのだが一度名作を作ってしまったのでいまいち気分が乗らないのだ。

「そういえば拝戸さん。」
「どうしたの口裂け女。」
「その口裂け女ってやめてくれません?
 なんていうか人前でも呼びづらいんで……。」

おお、それは気づかなかった。
デパートではとくに呼ぼうとしなかったから良かったけど、
確かに呼称が口裂け女ではあまり都合がよろしくない。

「それは失礼、じゃあなんて呼ぼうかな?
 君は人間の時なんて呼ばれていたんだっけ?」
「えっ。」
「え?」
「記憶が…………、ない。」
「名前覚えていないの?」
「まったく、そもそも貴方に殺されたときのこともうすぼんやりとしか……。
 口裂け女になった直後は覚えていたはずなのに……。
 憎いとかいう感情もあんまり思い出せなくなってきている?」

ほうほう、それはこれからやっていく分には都合が良い。
だますようで申し訳ないがそれならこのまま彼女も俺と一緒にいてくれるはずだ。
そして俺はもっとたくさんの芸術を世に送り出せる。





だが、一つだけ問題があった。

「お父さんのことも思い出せない、お母さんのことも思い出せない。」

そんな悲しそうな顔をしないでほしい。
不覚にも興奮してしまうじゃないか。

「拝戸さん、わたしこれからどうなるんですか?」
「…………。」

どう答えるべきだ?
まるでゲームのようにいくつもの選択肢が浮かんでは消える。
崩れ落ちる崖に掴まるかのように俺はその中の一つを選んだ。

「わからない。」

口裂け女はおびえきった瞳でこちらを見つめる。
でもそれは初めて会った時の“俺を恐れる瞳”ではない。
もっと切実な、一人の人間の死を見つめるそれだった。
年齢に反してどちらかというと子供っぽい大きめの丸い目が涙があふれる。
彼女は小動物のように恐怖していた。
だが俺は覚えている。
彼女の人間だった頃の名前を確かに覚えている。
彼女の名刺が財布に入っていたのだ。
名刺や財布はそこらへんに捨ててしまったから何処にあるかは解らないが、
名前だけは実はしっかり覚えている。
「ただ、君の名前なら一応俺は知っている。」
俺がそういうと彼女は泣くのをやめた。
良い表情だ。





「君の名前は――――――――――。」

俺は彼女に彼女の名前を伝えた。

「……思い出せないけど、それが私の名前なんですね?」
「ああ、俺の見た名刺ではそうなっていた。」
「ありがとうございます。」
「妙じゃないか、俺に礼を言うなんて。」
「だって、親切にしてくれたじゃないですか。」
「いやそれも嘘かもしれないだろう。」
「嘘だったならなおのこと、お礼を言うべきですよ。
 それはもう私のための嘘じゃないですか。」

…………なるほど。
やはりすばらしい、なんて善意に満ちた人間なのだろう。
俺は間違いなく彼女に恋している。

「そうか、まあとりあえず今の話は本当だから安心してくれ。
 俺はこれからその名前……呼ぶの面倒だからみぃちゃんにしよう、それで呼ぶよ。」
「みぃちゃんって猫じゃないんですから……。」
「可愛いじゃないか。」

作品に恋をするなんてとてつもなく文学的で素敵だ。
倒錯的な愛はしばしば芸術をさらなる領域に高めていくものである。
俺と彼女が出会ったのは本当に運命なのだ、と俺は強く感じた。




「みぃちゃん。」
「何ですか?」
「少し付き合ってほしい場所があるんだ。良いかな?」
「別に良いですけど……。」
俺は町を見渡せる丘の上に車で行くことにした。
そこから眺める風景は本当に綺麗で、いつか文章にして誰かに読ませたいと思っていたのだ。
「みぃちゃん。」
俺は屋台で売っていた玉こんにゃくを買うとみぃちゃんに渡した。
彼女はそれをおいしそうにぱくぱくと食べる。
だめだこりゃ、俺の話を聞いていない。
勝手に話させてもらうとしよう。
「俺はどうしようもなく快楽殺人鬼だ。
 初めて殺したのは近所の子供で、殺しやすそうだからと思って殺したんだよ。
 両親が嘆き悲しむ姿が芸術的でまだ子供だったのにその姿に感動したのをよく覚えている。
 その時以来、人々が悲しむ姿や、人々の喜ぶ姿を見たくて仕方がなくなった。
 そのどちらにも人間の美しさが凝縮されているからだ。
 だからまだ人間だった君が殺されかけたりした時のおびえた表情も
 飽きたから返してやると言われて希望に顔を輝かせた時の表情も
 どちらも見ていてすごく感動した。文学的だった。
 恐怖と絶望でいっそ殺してくれとわめいた君が綺麗だった。
 それなのに助かると解れば生き意地汚く必死で逃げようとした君が綺麗だった。
 どうしようもなく人間だった。
 そしてそれに後ろからとどめを刺した時は最高だった。
 逃げようとして自分の足が使い物にならないことに気づいた君の絶望した表情は“私”に生きる喜びを実感させてくれた。
 本当に皆が皆あのようなうつろな表情を浮かべるんだよ。
 何度も言うが私は人間が大好きだ。
 だから清く正しく汚く普通で人間な君もまた大好きだ。
 君は私が今まで為してきた殺人芸術の中で最高のものだ。
 愛している。」




子供の血をインクにしてセンター試験を自己採点した時も
子供の前で父親を使って保健体育の授業をした時も
とある男性の目の前で恋人を解体した時も
こんな愛情を感じたことはなかった。
ただひたすらに私はこの口裂け女が愛おしいのだ。
今すぐにでもこの身をすべて捧げて愛を示したい。
でも彼女はそういうのは好きじゃない。

「よくわかんないけど私嫌いですからね、貴方のこと。」

そのつれない返事も俺の気持ちを掻き立てる。
こんなにも届かない気持ちを秘め続ける人間とはなんと文学的なのだろう。
そしてそれは自分なのだ。
ああ、芸術的ではないか。
ああ、文学的ではないか。
最高だ。
幸せだ。
私は彼女という芸術であり人間であり怪物であるそれのそばにいるだけでこんなにも幸せだ。
世のすべての人よ、羨め。

「だって見ず知らず私を殺したじゃないですか。
 やっぱそういうの最低ですよ。」
「良いよ、君が気持ちを受け入れてくれるまで僕は努力を続けよう。」

この哀れで虚ろな殺人鬼に明確な目的を与えてくれたのは君なのだから。
待っていてくれ。
君をもっと美しく完成させてみせる。それが私の一生の仕事だ。




「ここ、綺麗な場所だろう?
 子供の頃、親父に連れてきてもらった場所でね。
 ずいぶん旧型のジープで長い坂道を越えてきたものさ。
 夏になると青葉はしげり、川のせせらぎが耳に迫る、それはそれは美しい日本の原風景が現れるんだ。
 こうしていると創作意欲がわいてくるんだよ。
 家族以外の人間とここにこうして来たことはないんだ。」
「そうなの?じゃあなんで私をここに?」
「君とは一生付き合っていきたいと思ったんだ。
 一生をかけて君を完成させる義務が僕にはある。
 それが君という芸術に対する全人類、いいやこの私の義務なんだ。」

私は彼女に向けて手を伸ばす。

「この先にちょっとした山があるんだけど、そこで初めての共同作業としゃれ込まないか?」

こんな殺人鬼に許された精一杯のラブコール。
もし彼女が許してくれるならば、まずは共同作業で一つ作品を作りたい。
それそのものは大した出来にはならないだろうが彼女との思い出の品になるに違いない。
八つ裂きにしようか?
粉みじんにしようか?
それとも無傷が良いのだろうか?
ありとあらゆる方法でありとあらゆるものを殺して見せよう。

誰にもまねできない。
私だけの芸術を私だけの最高傑作と一緒に心を込めて作るのだ。
幸せだ。
幸せだ。
幸せだ。
私は彼女の手を取るとふらふらと山の中へ向かった。
【拝戸直の人殺し 第四話「拝戸直は殺人鬼」fin】

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