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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-七夕-01

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「あぢいいいいいぃ……」
 三限が終了した時点で俺は既に気分的にグロッキー状態だった。
 窓の外では太陽が高々と昇っている。
 ああ、もう夏だなぁ……太陽が憎い……。
 机に突っ伏しながらそうぼんやり思っていると、俺の方に向かって知った顔が歩いてきた。
「舞ー、なにだらけてんのよ」
「うっせーよ香織」
 適当に答えて尚だらんとしていると、香織は「まあ気分は分かるけどね」と言って下敷きを俺の腕の下から引っ張り出した。
 煽いでくれる。
 断続的に顔に当たる微風に心癒された俺はとりあえず友人様を拝む事にした。
「おおー、神がいらっしゃるー」
「何バカ言ってんのよ」
「ただでさえ馬鹿なのに頭ついに沸いちゃったの?」
 香織に続いてもう一人、紗紀が無駄にでかい胸を揺らしながらどこかの店の広告を地紙にした団扇で俺の頭を叩いて言う。
 あーくそ、そういう何気ない言葉が人を傷つけるんだぞ。それに馬鹿馬鹿って言うけどなぁ……。
「てめーらにゃ勝てねえけど俺だって最近成績上がって来てんだぜ?」
 最近の俺はなんと平均点をとれているのだ。さあ褒めろ!
「まあ、それは確かに」
 香織が呟き、「でもそれって……」と紗紀がにんまりと笑んだ。
「彼氏のおかげなんでしょ?」
「おー、まあなー……」
 俺は自分一人じゃぁぜってえ勉強なんざしねえからな。
 と、紗紀に答えて数秒、
 ……ん?
「…………おぉっ!?」
 ガバッと身体を起こすと紗紀が呆れた顔をしていた。
「何驚いてんの?」
「いや、だって……ええ!?」
 いつ気付いた?!
「あんた普通に休みの日とか学校終わってからとか男の人と一緒に買い物してんのたまに見るわよ。この前も文房具屋でなんか参考書選ばされてるの見たしね」
 選んでる。と言ってくれないところに悪意を感じるがなるほどそういうことかと納得がいく。
「あの人、なかなか大人っぽい雰囲気してるから社会人じゃないかって思ってたんだよねー。それでいて実家からやってきた舞のお父さんって感じには見えないし、舞一人っ子って言ってたし」
 ああ、普通の社会とほとんど関わりもっちゃあいないが――まあ一応社会人っちゃあ社会人だな。
 唸っていると香織が興味津々の体で訊いてきた。
「その様子見るに本当に彼氏?」
「……まあ」
 改めて言うのは恥ずかしいな。ただでさえ暑いのにこれ以上暑くさせんな。
「へえ、舞に彼氏……か」
「なんだよ?」
 香織はわざとらしくおほほほとか笑いながら、
「いやいや、幸せそうでなによりですわ、ねえ奥様?」
 紗紀が悪乗りする。
「ええ、そうですわよねぇ」
「うわーうぜえ……」
「まあまあ、勉強見てくれるような面倒見の良い彼氏でよかったじゃない」
「せいぜい今夜は愛想尽かされませんようにとでもお願いしときなさい」
「あん?」
 お願い? 縁結びの神様にでも祈っとけってか?
 思っていると紗紀が団扇の地紙を見せつけてきた。そこには七夕セールがどうこうとか書かれている。
「今日は七月七日よ?」
「ああ……七夕か」
「そういや駅の近くでも飾り付けしてたわね」
 黒板清掃業務に励んでいた委員長がそう言いながら話に混ざってきた。
 いや、黒板清掃お疲れ様です。まったく日直は一体何をやってるんだかな。……あ、こら、半目を向けるんじゃない。しょうがないじゃないか、暑いんだし。
「まあ今日はうまい具合に晴れてくれそうだしな、俺もなんか短冊書こうかな」
「おーおー祈れ祈れー」
「大丈夫よぉ舞ー、私も願ってあげるから」
 そう言いながら委員長が俺の髪を掻きまわす。うるせえ頭撫でんなチョークの粉が付くじゃねえか。
 手を払いのけつつ七夕に話を戻す。
「紗紀の団扇もそうだけど、どこの店も季節の行事に乗じてイベントでもして客呼び込みたいんだろうな」
「世知辛いわねえ」
 香織がわけしり顔で言う。
「まったくだな」
 俺も殊更に厳かな口調で言う。
「お偉いさんかいっ」
 的確に委員長のツッコミが入ったところで、
「おまえらー授業はじまっとるぞ」
 先生のただでさえ疲れてる雰囲気を漂わせているのに今日の暑さでさらに伝わる疲労感が増した声が飛んできた。
「……世知辛いわねぇ」
 香織がだるそうに言う。
「本当になぁ」
 俺は同意して机に顔をうつぶせた。


            ●


 チャイムが鳴る音がして、俺は机から身を起こした。
 目の前には妖精さんに悪戯でもされたのか字がグチャグチャになっているノートがある。
「……うん、まあ、あれだ」
 都合の悪い過去は振り返るまい。
 そう思いながらノートを静かに閉じた。と、先生がいつの間にか目の前に居る事に気付く。
「あ、おはよ、先生」
 片手を軽やかに挙げて挨拶を敢行する。
「悪びれないあたりが流石だな、伏見」
 先生は額を押さえている。あれだ。何かストレスが溜まってるんだろうな。かわいそうに。
「ともあれ、最近成績上がってきて先生は嬉しいぞ」
「俺もうれしいぞー」
 鬼教官のTさんから与えられる苦労が報われてて。
「授業態度も、もう少し真剣ならなあ」
 切実な声音で言われた。
「それは言わねえ約束だぜ。ほら、昼飯の時間なんだからそんな小言は無し無し」
「まあいいが、ああ、学級日誌を担任の先生から預かって来たぞ。今日は伏見が日直だな?」
「あ、サンキュ」
 学級日誌を受け取る。先生はどことなく疲れた足取りで教室を出て行った。
 俺も息を一つ吐き、とりあえずめんどくさそうな日誌やノートを即行鞄に放り込むと入れ替わりに弁当箱を取り出した。
「うっしゃあ! 昼飯だ!」
「待て待てー、はい、涎拭いてー」
 購買に行く紗紀たちがそういって俺にハンカチを差し出してきた。
「昼飯買うまで待てってんだろ。わぁーってるよ。あと涎なんか垂らしてねぇ」
「ごめんごめん」
「すぐに買ってくるわね」
 笑いながら奴らが教室を出て行く直前に注文を叩きつける。
「俺麦茶な」
 購買は混むから行きたくない。
「はいはい」
 そう言って出て行くのを見送り、俺は弁当を広げて待ちの姿勢に入った。ちなみに自分が作った物だ。味はそれなりだと思っている。
 けど、
「Tさんの方が料理上手いというのはなんか悔しいよな……」
 いつか抜いてやろうと思う。一つくらいはTさんに勝てるものを持っていたいもんだ。
 と、鞄から物音が聞こえた。
 もしやと思い、急いで鞄を抱えるように膝抱きにして口を開く。中ではリカちゃんが教科書をベッドに、携帯を枕にしてだらんと横たわっていた。
「リカちゃん、大丈夫か?」
「あついのー」
「あー、やっぱりリカちゃんにもキツイか……」
 だるそうにしてるリカちゃんに同情する。今度氷枕か保冷剤でも持ってこようかと考えていると、リカちゃんが小さい声で訊いてきた。
「きょう、たなばたなの?」
「ん? 話し聞いてたのか? そうだぞ、今日は七夕だ」
「クリスマスの時にきいたの、おねがいするの」
 ああ、そういやサンタのじいちゃんと会った時にそんな事を話したな。
「そうだな……」
 あの時からずっと興味を持ってたってことか、これはちょいとその興味に応えてやりたいな。
 そう思っていると皆が帰って来た。俺はリカちゃんに小さく謝ってからさりげなく、しかし高速で鞄の口を閉じた。
「ん? どうかした?」
「いや? なんにも?」
 鞄を放り出しながら言うと、そう? と首を傾げて委員長が麦茶を差し出してきた。
「ほら、特別にお代はサービスしとくわよ」
「感謝、流石委員長!」
 二拝二拍一拝してから恭しく紙パックの麦茶を受け取りストローを刺す。
 ああ、夏はやっぱり麦茶だな。
 喉を駆けて行く爽快なのどごしにそう実感していると紗紀が唐突に挙手した。委員長が「はい、紗紀さん」と指すと起立して発言しだす。その挙動で揺れる胸が目障りだ。いつか揉んでやろう。
「ねえねえ、学校終わったら駅前まで買い物に行かない?」
 香織が首を傾げた。
「買い物?」
「ほら、七夕セールとかやってそうじゃない?」
 あー、やってそうだなぁ……。
「そりゃ見ておきてえな」
「でしょ?」
 我が意を得たりと紗紀が胸を張る。
「おう、行こうぜ」
 言いながら何故かムカついたので紗紀の胸に対して先程の考えを不言実行した。
「けってーい!」
 委員長が決を下して放課後の行動が決定した。
 紗紀の悲鳴をバックに俺は今夜の為に何を買おうかと考え始めた。


            ●


 学校がつつがなく終了した。学級日誌を職員室に提出してから校門に向かう。
 これから昼に約束したとおり、香織や沙紀、委員長たちと買い物に行くのだ。
「っと、その前に……」
 俺は携帯を取り出した。校門に足を進めながらTさんに電話して用件を言う。
「――で、今日は外で食えるようにしといてくれ」
『分かった。そっちの方は大丈夫か?』
「おうよ」
 ガッツポーズで答えて電話を切る。
「何? 彼氏に電話?」
 校門で待っていた委員長が訊いてくるのにうるせえと答えて携帯を鞄の中に放り込む。
 学校近くのバス停から出ているバスに乗って南区の駅近くへと行く。駅にもどこからかとってきた竹がちらほらと飾ってあり、どこからか懐かしい〝たなばたさま〟の歌がBGMとして流れてくる。
 なるほど七夕モードだ。
 まあでも、それなりに飾ってるけどあれだな……。
「とりあえず竹を置いてみましたって感じだな」
「まあそんなもんでしょ」
「まあなー」
 どこかの町でやってるみたいに妙に仰々しくても息が詰まる。そう思いながら夢子ちゃんは今頃どこかで盛大にパレードでも開いてるんだろうなぁと考える。また近いうちに会いに行こうか。
 もの思いに沈んでいると香織が突然店内の一角を指さした。
「見てよほら、商売人たちはともかく子供たちは無邪気じゃない」
 そう言って香織が指さしたのは近所の幼稚園の子共達が飾ったのか、折り紙の輪っかを繋げたものや星飾りで装飾している竹と、それにぶら下がっている短冊だった。香織は短冊を何枚か読んでは「かわいぃ~」と楽しそうに黄色い悲鳴をあげる。
 俺も何枚か見てみる。
 五色の短冊にはそれぞれ下手な文字で確かに無邪気な願い事が書いてある。
 うわー、『●●くんとけっこんできますように』とかこんな事まで書いちまうあたり流石は子供って感じだなぁ、若干羨ましいわ。
 そんな事を思いながらいくつか店を回るうちに目当ての店が目に入った。
 友人一同にひと声かける。
「ちょっと文具屋寄ってっていいか?」
「なに? 彼氏にノートでも買ってくるように言われたの?」
「ちーがーいーまーすー」
 なんでもそっちにつなげようとする連中に悪態をつきながら文具屋で欲しいものを購入する。
 その後もいくつか店を冷やかして回り、小一時間もすると塾なり帰宅なりで皆それぞれ別れはじめた。
 明日また会おうと言って別れ、一人になった俺は空を見上げた。
 空はオレンジ色を通り過ぎ、紺色に近づいている。
「あっちゃー、流石にそろそろ暗くなってくんなー」
 暮れかけている日を見上げて呟きながら鞄からリカちゃんを取り出した。
「誰にも見られてないか?」
 ひとりかくれんぼでもあるリカちゃんに周りから見られてないか訊く。
 リカちゃんは数秒何かを探るように首を巡らすと、
「大丈夫なの」
 声を出した。
 それに「よし」と答えて頭にリカちゃんを乗せる。もう慣れた感がある適度な重みを感じながら頭上に声を投げかける。
「リカちゃん、これからもう一本寄り道しようぜ」
「もういっぽん?」
 俺は降ってくる疑問に頷く。
「頼むぜ? リカちゃん」
「?」
 頭上でリカちゃんの重心が少し変化した。頭を傾けたみたいだった。




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