ドクター77
年齢の頃は10歳前後
華奢な体格にやや不釣合いな、白いリボンで彩られた大きめの麦藁帽子
僅かに青み掛かった白いサマードレス
その身体がすっぽりと納まりそうな、古めかしい革張りの旅行鞄
腰ほどまである長い金色の髪と、金色と見間違えそうなほど明るい茶色の瞳
海外の避暑地に立っていれば何の違和感も無いその姿だが、日本の一地方都市の駅前に立つと正直かなり浮いている
「ここが学校町……お話通り、実に美味しそうなところ」
清楚で幼い顔立ちと、それ相応の流麗で上品な声
そしてそれを全て帳消しにするほどの、艶かしい舌遣いでちろりと唇を湿らせる仕草
「さて、まずはあの子のところに行かないと」
少女は大きな旅行鞄を身体を傾けながら持ち上げ、どこか頼りない足取りで歩き出した
華奢な体格にやや不釣合いな、白いリボンで彩られた大きめの麦藁帽子
僅かに青み掛かった白いサマードレス
その身体がすっぽりと納まりそうな、古めかしい革張りの旅行鞄
腰ほどまである長い金色の髪と、金色と見間違えそうなほど明るい茶色の瞳
海外の避暑地に立っていれば何の違和感も無いその姿だが、日本の一地方都市の駅前に立つと正直かなり浮いている
「ここが学校町……お話通り、実に美味しそうなところ」
清楚で幼い顔立ちと、それ相応の流麗で上品な声
そしてそれを全て帳消しにするほどの、艶かしい舌遣いでちろりと唇を湿らせる仕草
「さて、まずはあの子のところに行かないと」
少女は大きな旅行鞄を身体を傾けながら持ち上げ、どこか頼りない足取りで歩き出した
―――
ざわり、と
背中を走り抜ける悪寒に、ドクターは周囲をきょろきょろと見回す
「どうしたんですか、ドクター?」
事務仕事をしていたメアリーが手を止めて、不思議そうにそちらを見る
「いや……多分気のせいだと思うんだが。何かこう、懐かしく恐ろしい気配を感じてな」
「懐かしく、恐ろしい……ですか?」
「ドイツに居た頃の、医学の先生なのだが。その人と出会わなければ今のボクは無いと言っても過言ではない大恩師だ」
「厳しい方だったんですね、ドクターが恐ろしいだなんて言うぐらいに」
「厳しい……ああ、厳しい人だったな。随分と技を磨いたが、未だに勝てる気がしない」
「……技?」
首を傾げるメアリーだったが、ふと玄関口の扉に吊るしたベルが鳴りそちらに視線を向ける
「こんにちは、診察の方ですか……?」
戸口に立つのは10歳前後の可愛らしい少女
大きな旅行鞄を提げたその姿は、診察に訪れたというよりは遠方よりの来客といった感じで
「エルフリーデは居ますか?」
エルフリーデ・マイツェン
普段は誰からもドクターと呼ばれているせいで印象が薄いが、ドクターの本名である
そしてその名を呼んだ少女の声に、診療室にいたドクターは転がるような勢いで飛び出して、少女の前に跪く
「先生!? 何で日本に居るんですか! 来るなら連絡を……いや、総統からもそんな話は聞いてません!」
「内緒で来ちゃった。『賢者の石』とか『都市伝説の人間化』の研究、出来上がったんでしょう?」
「――っ!? 何故それを!」
「総統に報告したんでしょう? だったら私の耳にも入って当然じゃない」
くすくすと笑いながら、少女はドクターの首筋にそっと腕を絡める
「見せて♪」
「それは構いませんが……今は診療時間ですし」
「見せて♪」
「先生も長旅でお疲れでしょうから一休みしてから」
「見せて♪」
「総統へのご連絡も先に済ませておいた方が」
「見せて♪」
「……判りました」
首に腕を回されたまま、少女を抱き上げて立ち上がるドクター
「メアリー、ボクはしばらく奥に居る。診察はバイトくんに任せるよう、ミツキにも伝えておいてくれ」
「あ、はい、わかりました」
一連の流れを呆然と見詰めていたメアリーは、二人が居なくなってからぼそりと呟いた
「……ドクターが押し負けてるの、初めて見たかも」
背中を走り抜ける悪寒に、ドクターは周囲をきょろきょろと見回す
「どうしたんですか、ドクター?」
事務仕事をしていたメアリーが手を止めて、不思議そうにそちらを見る
「いや……多分気のせいだと思うんだが。何かこう、懐かしく恐ろしい気配を感じてな」
「懐かしく、恐ろしい……ですか?」
「ドイツに居た頃の、医学の先生なのだが。その人と出会わなければ今のボクは無いと言っても過言ではない大恩師だ」
「厳しい方だったんですね、ドクターが恐ろしいだなんて言うぐらいに」
「厳しい……ああ、厳しい人だったな。随分と技を磨いたが、未だに勝てる気がしない」
「……技?」
首を傾げるメアリーだったが、ふと玄関口の扉に吊るしたベルが鳴りそちらに視線を向ける
「こんにちは、診察の方ですか……?」
戸口に立つのは10歳前後の可愛らしい少女
大きな旅行鞄を提げたその姿は、診察に訪れたというよりは遠方よりの来客といった感じで
「エルフリーデは居ますか?」
エルフリーデ・マイツェン
普段は誰からもドクターと呼ばれているせいで印象が薄いが、ドクターの本名である
そしてその名を呼んだ少女の声に、診療室にいたドクターは転がるような勢いで飛び出して、少女の前に跪く
「先生!? 何で日本に居るんですか! 来るなら連絡を……いや、総統からもそんな話は聞いてません!」
「内緒で来ちゃった。『賢者の石』とか『都市伝説の人間化』の研究、出来上がったんでしょう?」
「――っ!? 何故それを!」
「総統に報告したんでしょう? だったら私の耳にも入って当然じゃない」
くすくすと笑いながら、少女はドクターの首筋にそっと腕を絡める
「見せて♪」
「それは構いませんが……今は診療時間ですし」
「見せて♪」
「先生も長旅でお疲れでしょうから一休みしてから」
「見せて♪」
「総統へのご連絡も先に済ませておいた方が」
「見せて♪」
「……判りました」
首に腕を回されたまま、少女を抱き上げて立ち上がるドクター
「メアリー、ボクはしばらく奥に居る。診察はバイトくんに任せるよう、ミツキにも伝えておいてくれ」
「あ、はい、わかりました」
一連の流れを呆然と見詰めていたメアリーは、二人が居なくなってからぼそりと呟いた
「……ドクターが押し負けてるの、初めて見たかも」
―――
最新鋭の設備が居並び、古めかしい錬金術の資料や実験道具の数々が積み上げられた地下研究室
数台のパソコンとそれに繋がれたプリンターから絶え間なく吐き出される紙を、枚数でも数えているかのような速度で読み進めていく
「独学でよくここまでできたものね」
「相変わらずパソコンのモニターは苦手ですか」
「ダメね、ずっと見てると目がチカチカしちゃうから」
少女は薄い笑みを浮かべるが、その目は全く笑ってはいない
「随分と人体実験のデータが豊富なようだけれど?」
「とある筋からデータだけを譲渡されました。決して人体実験を行うような真似は」
ぐいと白衣の裾を引っ張られ、僅かに屈んだところを襟首を掴まれて顔を引き寄せられる
「エルフリーデ、あなたは未だに人体実験も為さずに事を成そうとしてたの? その程度の覚悟も無しに、譲り受けた上澄みだけのデータを取って、この可哀想な検体達を哀れんでその命が無駄にならないように、なんて思っているの?」
「それは……」
「この検体が居なければあなたの研究は成されなかった、それを理解なさい。データを利用したならこの検体はあなたが殺したも同じ。直接手を下そうと横から攫おうと、データに込められた命の価値は同じ。解った?」
「……申し訳ありませんでした」
「人体実験を推奨するような子には育てた覚えは無いけど、かといってここまで覚悟が甘い子に育てた覚えも無いわよ? あなたはまだまだお子様ね」
ばさりと紙束を机の上に積み上げると、それまでの雰囲気は何処へやら
「まあ成果自体は上出来。そこは誉めてあげる……御褒美をあげなくちゃ、ね」
「先程もお伝えしましたが、まだ仕事中なのですが」
「あら、随分と真面目になっちゃって。あなたが私の研究室に来たばかりの頃を思い出すわ」
少女が襟首を掴んでいた手をくいと捻ると、ドクターは簡単に床に転がされてしまう
「あの頃は私とあまり変わらない体格だったのに。随分と立派になっちゃったものね」
ドクターの豊満な胸のすぐ下辺りに馬乗りになった少女は、獣が得物を見るようなぎらついた光を浮かべてちろりと舌なめずりをする
「ちゃぁんとお仕事に戻りたいなら、一生懸命頑張りなさい、ね?」
数台のパソコンとそれに繋がれたプリンターから絶え間なく吐き出される紙を、枚数でも数えているかのような速度で読み進めていく
「独学でよくここまでできたものね」
「相変わらずパソコンのモニターは苦手ですか」
「ダメね、ずっと見てると目がチカチカしちゃうから」
少女は薄い笑みを浮かべるが、その目は全く笑ってはいない
「随分と人体実験のデータが豊富なようだけれど?」
「とある筋からデータだけを譲渡されました。決して人体実験を行うような真似は」
ぐいと白衣の裾を引っ張られ、僅かに屈んだところを襟首を掴まれて顔を引き寄せられる
「エルフリーデ、あなたは未だに人体実験も為さずに事を成そうとしてたの? その程度の覚悟も無しに、譲り受けた上澄みだけのデータを取って、この可哀想な検体達を哀れんでその命が無駄にならないように、なんて思っているの?」
「それは……」
「この検体が居なければあなたの研究は成されなかった、それを理解なさい。データを利用したならこの検体はあなたが殺したも同じ。直接手を下そうと横から攫おうと、データに込められた命の価値は同じ。解った?」
「……申し訳ありませんでした」
「人体実験を推奨するような子には育てた覚えは無いけど、かといってここまで覚悟が甘い子に育てた覚えも無いわよ? あなたはまだまだお子様ね」
ばさりと紙束を机の上に積み上げると、それまでの雰囲気は何処へやら
「まあ成果自体は上出来。そこは誉めてあげる……御褒美をあげなくちゃ、ね」
「先程もお伝えしましたが、まだ仕事中なのですが」
「あら、随分と真面目になっちゃって。あなたが私の研究室に来たばかりの頃を思い出すわ」
少女が襟首を掴んでいた手をくいと捻ると、ドクターは簡単に床に転がされてしまう
「あの頃は私とあまり変わらない体格だったのに。随分と立派になっちゃったものね」
ドクターの豊満な胸のすぐ下辺りに馬乗りになった少女は、獣が得物を見るようなぎらついた光を浮かべてちろりと舌なめずりをする
「ちゃぁんとお仕事に戻りたいなら、一生懸命頑張りなさい、ね?」
そして――
完全防音の地下研究室から、げっそりとしたドクターと年齢以上に肌の艶を増した少女が出てきたのは、日がとっぷりと暮れてからだったという
完全防音の地下研究室から、げっそりとしたドクターと年齢以上に肌の艶を増した少女が出てきたのは、日がとっぷりと暮れてからだったという