●
事件から数日後、俺達は髪の伸びる黒服さんが別れ際に言ってたお礼をありがたく受ける事になった。
なにか奢ってくれるというので呼び出されて来た場所は、繁華街にあるフェアリーモートとかいう際どい格好の姉ちゃんが接客してくれるファミレスだった。
席につき、メニューを眺めながらTさんが小さく呟く。
「……髪の伸びる黒服さんの趣味なのは分かるが」
俺も頷く。
「空気がなぁ……」
こう、なんだろう。若干きらびやかすぎるっつーか、客の回転数も早そうだし、あと目のやり場に困る。
「あまり長居するにも適してなさそうだ」
Tさんと頷き合う。
「ここもきっさてん、なの?」
「あー、リカちゃんはルーモア以外喫茶店知らねえもんなー、ま、こういう店もあんのさ」
水商売はこういうパフォーマンスも必要なのだよ。とキメ顔で心中呟く。
髪の伸びる黒服さんはこの店によく来るのか、メニューを見もせずに注文を決めて俺にオススメまで紹介しながら、
「まあまあ、味は保証するから楽しんでくれ。ほらTさん、≪組織≫の蔵から上等な酒を持ってきたぞ」
そう言って一本巻きにされた酒瓶をTさんに渡した。
「開けてみろ」
言われるままに布の包みを開けると、中からは一升瓶が出てきた。
Tさんは瓶に書いてある酒の名前を見て「ほう」と感心したように呟く。
「これは上等だ……神便鬼毒酒、銘酒も銘酒、最上級の代物じゃないか」
「気に入ったか?」
「ああ」
声が心なしか上機嫌に弾んでいる。嬉しそうなTさんだけど、そもそもその酒がなんなのか俺には分からない。
注文を、やっぱり際どい格好の姉ちゃんにしてからTさんに訊ねる。
「なに? そんなにすげえ酒なのか?」
「じんべんきどくしゅ?」
「ん? ああ」
Tさんは分からんか、と苦笑して酒の由来を解説した。
「かつて大江山、という山を本拠にしていたとされる鬼と曰くがある酒だ。鬼の神通力を潰し、人の力を幇助するという謂れをもつ」
「伝説として存在した酒ってことになるな」
髪の伸びる黒服さんのフォローが入る。
「ああ、だからTさん嬉しそうなのか」
Tさん酒好きだからなぁ……都市伝説様々ってわけだ。
Tさんが酒瓶を包み直していると、注文の品が運ばれて来た。
「おお」
「すごいの」
テーブルに並べられたのはフルーツやウエハースで装飾されまくったパフェだ。
「本当に奢りでいいのか? これ」
高そうなそれを見てお伺いを立ててみる。
「この前の礼だからな、遠慮なくやってくれ」
許可が出た。
では、とスプーンを取りあげる。
いたーだきます。
なにか奢ってくれるというので呼び出されて来た場所は、繁華街にあるフェアリーモートとかいう際どい格好の姉ちゃんが接客してくれるファミレスだった。
席につき、メニューを眺めながらTさんが小さく呟く。
「……髪の伸びる黒服さんの趣味なのは分かるが」
俺も頷く。
「空気がなぁ……」
こう、なんだろう。若干きらびやかすぎるっつーか、客の回転数も早そうだし、あと目のやり場に困る。
「あまり長居するにも適してなさそうだ」
Tさんと頷き合う。
「ここもきっさてん、なの?」
「あー、リカちゃんはルーモア以外喫茶店知らねえもんなー、ま、こういう店もあんのさ」
水商売はこういうパフォーマンスも必要なのだよ。とキメ顔で心中呟く。
髪の伸びる黒服さんはこの店によく来るのか、メニューを見もせずに注文を決めて俺にオススメまで紹介しながら、
「まあまあ、味は保証するから楽しんでくれ。ほらTさん、≪組織≫の蔵から上等な酒を持ってきたぞ」
そう言って一本巻きにされた酒瓶をTさんに渡した。
「開けてみろ」
言われるままに布の包みを開けると、中からは一升瓶が出てきた。
Tさんは瓶に書いてある酒の名前を見て「ほう」と感心したように呟く。
「これは上等だ……神便鬼毒酒、銘酒も銘酒、最上級の代物じゃないか」
「気に入ったか?」
「ああ」
声が心なしか上機嫌に弾んでいる。嬉しそうなTさんだけど、そもそもその酒がなんなのか俺には分からない。
注文を、やっぱり際どい格好の姉ちゃんにしてからTさんに訊ねる。
「なに? そんなにすげえ酒なのか?」
「じんべんきどくしゅ?」
「ん? ああ」
Tさんは分からんか、と苦笑して酒の由来を解説した。
「かつて大江山、という山を本拠にしていたとされる鬼と曰くがある酒だ。鬼の神通力を潰し、人の力を幇助するという謂れをもつ」
「伝説として存在した酒ってことになるな」
髪の伸びる黒服さんのフォローが入る。
「ああ、だからTさん嬉しそうなのか」
Tさん酒好きだからなぁ……都市伝説様々ってわけだ。
Tさんが酒瓶を包み直していると、注文の品が運ばれて来た。
「おお」
「すごいの」
テーブルに並べられたのはフルーツやウエハースで装飾されまくったパフェだ。
「本当に奢りでいいのか? これ」
高そうなそれを見てお伺いを立ててみる。
「この前の礼だからな、遠慮なくやってくれ」
許可が出た。
では、とスプーンを取りあげる。
いたーだきます。
●
幸せそうな顔をしてパフェを食べている舞、Tさんはそれを見て顔をほころばせ、
「食べながらで悪いが、あの後の事をいくつか聞いてもかまわないか?」
「構わないぜ?」
返答に会釈し、
「ではまず」
注文したコーヒーを一口飲んで聞きたい事、聞く順番を頭の中で簡単にまとめあげる。
まずは、
「……H№の研究者達、彼等は全滅したのか?」
H№2は辰也が殺したとあの時聞いた。H№1のハンニバルも目の前で消えた。H№の研究者たちの実質トップだった男は消えたことになる。しかしあと何人いたのかは分からない。もし研究者が生き残っているのならば多少警戒しておかねばなるまい。
そう思っての問いかけに、
「H№の研究者連中か。奴らは全滅した。もう誰一人として残っちゃいねえ」
口許に獰猛と、そう形容できる笑みを浮かべて宏也は答えた。
「えーと、何人くらいいたんだ? 研究者って」
アイスの部分をつつきながら舞。
「H№9が朝比奈秀雄の件でおっ死んだ時点で残りの研究者の数は3人だった。前の騒動の時、そいつら三人共殺ってやったよ」
「俺たちが知らない間に一人討伐されていたか」
「ニアミスだったけどな」
「ニアミス?」
「恵の奴を病院まで届けてくれただろう? あの時、H№3が病院を襲撃してたんだよ」
宏也の言葉にTさんは納得を心に抱く。
「だからヘンリエッタ嬢が返り血をかぶっていたんだな?」
「そうなるな。ちなみにH№3を殺ったのは辰也だ」
「そうか、彼が……」
そうなると辰也は病院でH№3を殺し、その足でハンニバルの研究施設に攻め込み、Tさん達が巨大な蛇を相手にした時間を考えるとH№2もその道程で殺し、その上でハンニバルに挑んだという事になる。
特攻もいい所だな……。
よく生きていたものだと思う。そしてこれでH№の研究者達を警戒する必要は無くなった。
その事実に内心の緊張を少し緩め、Tさんは質問を続ける。
「門条晴海の三人の遺児、辰也と天地、それに祐樹と呼ばれていた少年はその後、どうだ?」
「全員命は無事だ。まあ精神面に問題抱える奴もいるが……支える奴らがいるしな。大丈夫だろ」
「辰也の兄ちゃんの≪爆発する携帯電話≫の姉ちゃんみたいな?」
「おう、天地にも祐樹にもそれぞれ支える奴がいる」
「では、一安心だな」
天地も辰也もあの戦いの時に精神状態はひどいものに見受けられた。相当な傷を心に負ったようだが、支えてくれる者がいるのなら癒えるだろう。
宏也は「ああ」と答え、しかし。
「んー、でもさ」
そう舞がフルーツをつまみあげながら言葉を選ぶような沈黙を挟み、
「ぶっちゃけ天地の兄ちゃんと辰也の兄ちゃんって命のやり取りしたわけじゃん? そこんとこ大丈夫なのかよ?」
結局率直に訊ねた。
「それぞれ生活環境も違う、ウマが合わないのならば会わなければいい、というのも一つの道だな」
「それだとなんか寂しくね?」
そうTさんに言いながら舞は宏也に「どうよ?」と問う。
「あー……天地は辰也と兄弟ってことに色々と不満もありそうだが、辰也の奴が適当にやってくだろ。アレも朝比奈秀雄に門条晴海の最期の言葉を聞いて思うところがあったようだしな」
ゆっくりとでも兄弟になっていくのではないか。そう示す言葉に舞は満足げに頷いた。
「そうかそうか、そりゃ門条晴海って人も喜ぶな」
兄弟は仲良いにこしたこたぁねえよ。と独白している舞に、さもありなんとTさんと宏也は頷いた。
「食べながらで悪いが、あの後の事をいくつか聞いてもかまわないか?」
「構わないぜ?」
返答に会釈し、
「ではまず」
注文したコーヒーを一口飲んで聞きたい事、聞く順番を頭の中で簡単にまとめあげる。
まずは、
「……H№の研究者達、彼等は全滅したのか?」
H№2は辰也が殺したとあの時聞いた。H№1のハンニバルも目の前で消えた。H№の研究者たちの実質トップだった男は消えたことになる。しかしあと何人いたのかは分からない。もし研究者が生き残っているのならば多少警戒しておかねばなるまい。
そう思っての問いかけに、
「H№の研究者連中か。奴らは全滅した。もう誰一人として残っちゃいねえ」
口許に獰猛と、そう形容できる笑みを浮かべて宏也は答えた。
「えーと、何人くらいいたんだ? 研究者って」
アイスの部分をつつきながら舞。
「H№9が朝比奈秀雄の件でおっ死んだ時点で残りの研究者の数は3人だった。前の騒動の時、そいつら三人共殺ってやったよ」
「俺たちが知らない間に一人討伐されていたか」
「ニアミスだったけどな」
「ニアミス?」
「恵の奴を病院まで届けてくれただろう? あの時、H№3が病院を襲撃してたんだよ」
宏也の言葉にTさんは納得を心に抱く。
「だからヘンリエッタ嬢が返り血をかぶっていたんだな?」
「そうなるな。ちなみにH№3を殺ったのは辰也だ」
「そうか、彼が……」
そうなると辰也は病院でH№3を殺し、その足でハンニバルの研究施設に攻め込み、Tさん達が巨大な蛇を相手にした時間を考えるとH№2もその道程で殺し、その上でハンニバルに挑んだという事になる。
特攻もいい所だな……。
よく生きていたものだと思う。そしてこれでH№の研究者達を警戒する必要は無くなった。
その事実に内心の緊張を少し緩め、Tさんは質問を続ける。
「門条晴海の三人の遺児、辰也と天地、それに祐樹と呼ばれていた少年はその後、どうだ?」
「全員命は無事だ。まあ精神面に問題抱える奴もいるが……支える奴らがいるしな。大丈夫だろ」
「辰也の兄ちゃんの≪爆発する携帯電話≫の姉ちゃんみたいな?」
「おう、天地にも祐樹にもそれぞれ支える奴がいる」
「では、一安心だな」
天地も辰也もあの戦いの時に精神状態はひどいものに見受けられた。相当な傷を心に負ったようだが、支えてくれる者がいるのなら癒えるだろう。
宏也は「ああ」と答え、しかし。
「んー、でもさ」
そう舞がフルーツをつまみあげながら言葉を選ぶような沈黙を挟み、
「ぶっちゃけ天地の兄ちゃんと辰也の兄ちゃんって命のやり取りしたわけじゃん? そこんとこ大丈夫なのかよ?」
結局率直に訊ねた。
「それぞれ生活環境も違う、ウマが合わないのならば会わなければいい、というのも一つの道だな」
「それだとなんか寂しくね?」
そうTさんに言いながら舞は宏也に「どうよ?」と問う。
「あー……天地は辰也と兄弟ってことに色々と不満もありそうだが、辰也の奴が適当にやってくだろ。アレも朝比奈秀雄に門条晴海の最期の言葉を聞いて思うところがあったようだしな」
ゆっくりとでも兄弟になっていくのではないか。そう示す言葉に舞は満足げに頷いた。
「そうかそうか、そりゃ門条晴海って人も喜ぶな」
兄弟は仲良いにこしたこたぁねえよ。と独白している舞に、さもありなんとTさんと宏也は頷いた。
●
舞の独白で出来た間のあいだ、更に追加で注文を行う。運んでこられた、これもまた妙に装飾がかったケーキをフォークで解体していきながらTさんは質問をもう一つ重ねる。
「……ヘンリエッタ嬢は無事か?」
「ん? ヘンリエッタの嬢ちゃんの服に付いてた血って返り血だったんだろ? 大丈夫じゃねえの?」
物欲しそうに苺を見てくるのでそれを与えながらいや、とTさんは首を振る。
「ハンニバルとの戦闘中、髪の伸びる黒服さんはハンニバルが目の異常を訴える発言をした時、お嬢さんがうまくやったか。と言っていたな?」
「え? マジかよ? ってか嬢ちゃんになにかやらせてたのか?」
「良い耳してるなぁ」
宏也は呆れたように言って、
「お嬢さんは別の所でハンニバルに最強の目を統御していた存在を解放しにいってたんだよ。あの人は無事だぜ?」
「そうか……」
それはよかったと呟き、
「ではヘンリエッタ嬢の正体についても触れて大丈夫か?」
「……む?」
「え?」
二人の疑問詞を無視してTさんは続ける。
「以前黒服さんは彼女がH№に特殊な位置を占めていると言ったな。もしその位置が黒服さんや辰也の復讐の対象になるのなら……」
と言ったところで舞のフォークの動きが止まった。殊更にこちらの話に注意を傾けているのがわかる。
Tさんは顔から力を抜き、目を細めて意志を込める。
「まあ、一度助けられた恩もある。手を下すのをやめてくれと言うのにやぶさかではない」
「おおこわいこわい」
言いつつも宏也の顔には笑みが浮かんでいる。そしてこう口にした。
「お嬢さんはな、H№のトップ、H№0だ」
彼女がH№のトップ……。
なるほど特殊な位置だ。そう思いながら続きを促す。
「元々、お嬢さんは実験の指揮をとっていた。その時の実験の内容は都市伝説化した人間の人化……まあその過程で多くの犠牲が出たわけだ。やがてお嬢さんは犠牲の多いその実験関連の全てを凍結し」
「しかしその処置に不満を覚えた残りのH№の研究者達が、彼女の手を離れて非人道的な実験を続けていた、と」
その通り、と宏也は口端を歪めた。
「以前は罪悪感にでも塗れたか、研究者共のケリがついたら自分を殺してくれと言ってたが……」
舞がいよいよもって次の言葉に注目している。その視線の先で宏也は口端の歪みを円弧の笑みに変え、
「≪組織≫の外に出るようになって色々と未練が出来たらしい、死にたがりは卒業したんじゃねえか?」
その言葉に舞がほっとしたような顔をして何度も頷きながら、ケーキ攻略を再開する。
「それは重畳」
Tさんも表情を緩めて皿を空けた。
「……ヘンリエッタ嬢は無事か?」
「ん? ヘンリエッタの嬢ちゃんの服に付いてた血って返り血だったんだろ? 大丈夫じゃねえの?」
物欲しそうに苺を見てくるのでそれを与えながらいや、とTさんは首を振る。
「ハンニバルとの戦闘中、髪の伸びる黒服さんはハンニバルが目の異常を訴える発言をした時、お嬢さんがうまくやったか。と言っていたな?」
「え? マジかよ? ってか嬢ちゃんになにかやらせてたのか?」
「良い耳してるなぁ」
宏也は呆れたように言って、
「お嬢さんは別の所でハンニバルに最強の目を統御していた存在を解放しにいってたんだよ。あの人は無事だぜ?」
「そうか……」
それはよかったと呟き、
「ではヘンリエッタ嬢の正体についても触れて大丈夫か?」
「……む?」
「え?」
二人の疑問詞を無視してTさんは続ける。
「以前黒服さんは彼女がH№に特殊な位置を占めていると言ったな。もしその位置が黒服さんや辰也の復讐の対象になるのなら……」
と言ったところで舞のフォークの動きが止まった。殊更にこちらの話に注意を傾けているのがわかる。
Tさんは顔から力を抜き、目を細めて意志を込める。
「まあ、一度助けられた恩もある。手を下すのをやめてくれと言うのにやぶさかではない」
「おおこわいこわい」
言いつつも宏也の顔には笑みが浮かんでいる。そしてこう口にした。
「お嬢さんはな、H№のトップ、H№0だ」
彼女がH№のトップ……。
なるほど特殊な位置だ。そう思いながら続きを促す。
「元々、お嬢さんは実験の指揮をとっていた。その時の実験の内容は都市伝説化した人間の人化……まあその過程で多くの犠牲が出たわけだ。やがてお嬢さんは犠牲の多いその実験関連の全てを凍結し」
「しかしその処置に不満を覚えた残りのH№の研究者達が、彼女の手を離れて非人道的な実験を続けていた、と」
その通り、と宏也は口端を歪めた。
「以前は罪悪感にでも塗れたか、研究者共のケリがついたら自分を殺してくれと言ってたが……」
舞がいよいよもって次の言葉に注目している。その視線の先で宏也は口端の歪みを円弧の笑みに変え、
「≪組織≫の外に出るようになって色々と未練が出来たらしい、死にたがりは卒業したんじゃねえか?」
その言葉に舞がほっとしたような顔をして何度も頷きながら、ケーキ攻略を再開する。
「それは重畳」
Tさんも表情を緩めて皿を空けた。
●
綺麗に片付いた皿、それらを笑顔で見渡して舞が言う。
「ごちそうさん! 美味かった!」
「そいつはよかった」
舞の頬や口端に付いたクリームを見ながら満足気に頷いている宏也。
「舞、会計を済ませるから化粧室で口を拭いて来い」
「え? うわ、なんか付いてる?」
「ああ」
言ってやると舞は急ぎ足で化粧室に消えていく。Tさんは呆れたように息を吐き、宏也はそれを見て苦笑している。すかさず、
「あのままでもいいんじゃないか? あれはあれでいいものが……」
「黒服さん」
心持ち鋭く言うと意地悪げな笑いを残して言葉が止まった。Tさんはもう一つ息を吐き、
「……真面目な話をしてもいいか?」
「うん? いいぜ?」
くつくつとした笑みに人面犬を思い出しながらTさんは言葉を紡いだ。
「自身を実験に利用してきた者達への復讐を果たした今、何を思って生きていく?」
「おいおいなんだよ? 深入りしてくるじゃねえか」
「一人、復讐に生きた男の末路を知っている」
言葉尻からその男が死んだのを察したのか宏也は眉をフラットにし、
「なんだ、心配してくれるのか? 俺よりも辰也のほうが危なっかしいと思うがなあ」
「彼には≪爆発する携帯電話≫の契約者が居るだろう」
「それもそうだ」
だが、
「俺にもそういう奴は居るんだぜ? Tさん、あんたにとっての舞と同じような奴がな、――ほら、≪マッドガッサー≫の時に聴かせたあのテープの娘だ」
だから、
「何が何でも死ぬつもりはねえ」
その言葉にTさんは安堵の笑みを浮かべる。
「そうか」
お返しとばかりに意地の悪い笑みを浮かべ、
「請われれば介錯を引き受けようと思ったんだがな」
「言うねえ」
皮肉に皮肉を返し、
「ただ」
と声のトーンを低く落とした宏也は、
「俺は復讐のためにこれまで周囲のありとあらゆるものを犠牲にして、利用してきた。その、まあアレだ。大切な奴とくっついてから、償おうとか殊勝な事を考えたりしはじめたわけだ」
気恥かしそうに咳払いが一つ、
「それを今後も続けて、で、≪組織≫が二度と俺らみたいな犠牲者を出さねえように≪組織≫を見張ったり手を出したりしつつ、護るべきもんはしっかり護ろうかと考えてる」
「雄図な事じゃないか。感心する」
「そうかい……あまり言いふらすなよ?」
あーあー似合わねえ似合わねえと言いながら宏也は伝票をもっていく。
その背を微苦笑で眺めていると、
「あれ? Tさんまだ会計済ませてないのか?」
舞が戻ってきた。
「ああ、ちょっとな」
答えると舞はむむ、と眉根を寄せ、
「……まさか店員の姉ちゃん見てたとか?」
はいはい、と舞の頭を数度軽く叩いていなし、
「――最後に」
そう会計を済ませた宏也に声をかける。
「?」
「幸せに」
「ああ――互いにな」
店を出て互いに別れる。
Tさんは横で未だに眉根を寄せている舞の頭にもう一度手を乗せた。
「言われるまでも無いさ……」
「ん? Tさんなんか言ったか?」
「いや」
答えつつ舞の髪をかき回す。抗議の声を聞き流し、Tさんは空を見上げた。
夏の、遮るもののない青空がどこまでも輝かしく映った。
「ごちそうさん! 美味かった!」
「そいつはよかった」
舞の頬や口端に付いたクリームを見ながら満足気に頷いている宏也。
「舞、会計を済ませるから化粧室で口を拭いて来い」
「え? うわ、なんか付いてる?」
「ああ」
言ってやると舞は急ぎ足で化粧室に消えていく。Tさんは呆れたように息を吐き、宏也はそれを見て苦笑している。すかさず、
「あのままでもいいんじゃないか? あれはあれでいいものが……」
「黒服さん」
心持ち鋭く言うと意地悪げな笑いを残して言葉が止まった。Tさんはもう一つ息を吐き、
「……真面目な話をしてもいいか?」
「うん? いいぜ?」
くつくつとした笑みに人面犬を思い出しながらTさんは言葉を紡いだ。
「自身を実験に利用してきた者達への復讐を果たした今、何を思って生きていく?」
「おいおいなんだよ? 深入りしてくるじゃねえか」
「一人、復讐に生きた男の末路を知っている」
言葉尻からその男が死んだのを察したのか宏也は眉をフラットにし、
「なんだ、心配してくれるのか? 俺よりも辰也のほうが危なっかしいと思うがなあ」
「彼には≪爆発する携帯電話≫の契約者が居るだろう」
「それもそうだ」
だが、
「俺にもそういう奴は居るんだぜ? Tさん、あんたにとっての舞と同じような奴がな、――ほら、≪マッドガッサー≫の時に聴かせたあのテープの娘だ」
だから、
「何が何でも死ぬつもりはねえ」
その言葉にTさんは安堵の笑みを浮かべる。
「そうか」
お返しとばかりに意地の悪い笑みを浮かべ、
「請われれば介錯を引き受けようと思ったんだがな」
「言うねえ」
皮肉に皮肉を返し、
「ただ」
と声のトーンを低く落とした宏也は、
「俺は復讐のためにこれまで周囲のありとあらゆるものを犠牲にして、利用してきた。その、まあアレだ。大切な奴とくっついてから、償おうとか殊勝な事を考えたりしはじめたわけだ」
気恥かしそうに咳払いが一つ、
「それを今後も続けて、で、≪組織≫が二度と俺らみたいな犠牲者を出さねえように≪組織≫を見張ったり手を出したりしつつ、護るべきもんはしっかり護ろうかと考えてる」
「雄図な事じゃないか。感心する」
「そうかい……あまり言いふらすなよ?」
あーあー似合わねえ似合わねえと言いながら宏也は伝票をもっていく。
その背を微苦笑で眺めていると、
「あれ? Tさんまだ会計済ませてないのか?」
舞が戻ってきた。
「ああ、ちょっとな」
答えると舞はむむ、と眉根を寄せ、
「……まさか店員の姉ちゃん見てたとか?」
はいはい、と舞の頭を数度軽く叩いていなし、
「――最後に」
そう会計を済ませた宏也に声をかける。
「?」
「幸せに」
「ああ――互いにな」
店を出て互いに別れる。
Tさんは横で未だに眉根を寄せている舞の頭にもう一度手を乗せた。
「言われるまでも無いさ……」
「ん? Tさんなんか言ったか?」
「いや」
答えつつ舞の髪をかき回す。抗議の声を聞き流し、Tさんは空を見上げた。
夏の、遮るもののない青空がどこまでも輝かしく映った。