…妹である吉静と再会するより以前のことを、自分はよく覚えていない
なぜか、ぽっかりと記憶が消えてしまっているのだ
明也さんやサンジェルマンさんは何か知っているらしいけど、何だか聞きだしにくくて、尋ねた事はない
なぜか、ぽっかりと記憶が消えてしまっているのだ
明也さんやサンジェルマンさんは何か知っているらしいけど、何だか聞きだしにくくて、尋ねた事はない
……誰かに、裏切られてしまったような気がする
それが誰だったのか、思い出せない
思い出そうとすると、酷く頭が痛む
それが誰だったのか、思い出せない
思い出そうとすると、酷く頭が痛む
誰かから、親切にされたような気がする
周りに秘密に、色んな事を教えてくれた人がいたような気がする
その人の顔も名前も、自分は思い出すことができない
周りに秘密に、色んな事を教えてくれた人がいたような気がする
その人の顔も名前も、自分は思い出すことができない
「お兄ちゃん?どうしたの?」
「ぁ……いや、何でもないよ、吉静」
「ぁ……いや、何でもないよ、吉静」
きょとん、と首をかしげながら見あげてきた吉静に、彼方は慌ててそう答えた
…ぼ~っとしてしまっていたらしい
きゅ、と吉静の手をしっかりと握りなおす
…ぼ~っとしてしまっていたらしい
きゅ、と吉静の手をしっかりと握りなおす
「御免、早く帰ろうか?」
「うん!」
「うん!」
笑顔を見せてやれば、吉静はほっとしたように笑ってくれる
夕食の買出しの帰り道
夕暮れの道を、二人はゆっくりと歩いていく
夕食の買出しの帰り道
夕暮れの道を、二人はゆっくりと歩いていく
「それでね、それでね。明也お兄ちゃんがその麻婆豆腐を食べきったらね、お店のお客さん達がビックリしてたの!」
吉静は、無邪気に上田 明也の話をしてくれる
彼方が知らない上田の話を聞かせてくれて、探偵事務所に来たばかりの彼方に、たくさんの事を教えてクレルのだ
…そうする事で、彼方がほんのりと感じている疎外感を、薄めてくれるように
そんな吉静の心配りが、嬉しくて、しかし、同時に申し訳ない
彼方が知らない上田の話を聞かせてくれて、探偵事務所に来たばかりの彼方に、たくさんの事を教えてクレルのだ
…そうする事で、彼方がほんのりと感じている疎外感を、薄めてくれるように
そんな吉静の心配りが、嬉しくて、しかし、同時に申し訳ない
「吉静は、本当に明也さんに親切にしてもらっているんだね」
「うん!」
「うん!」
元気に答える吉静
…吉静は、上田をはじめとする、探偵事務所のメンバーの話はよくしてくれる
……しかし
吉静自身が、上田に保護されるより前の話は…ほとんど、しない
あまり、よく覚えていないのか、それとも、あまりよい思い出がないのか
……後者なのではないか、と彼方はかすかに感じ取っていた
だから、それを尋ねようとも思わない
妹に、つらい事を思い出させたくはないのだ
…吉静は、上田をはじめとする、探偵事務所のメンバーの話はよくしてくれる
……しかし
吉静自身が、上田に保護されるより前の話は…ほとんど、しない
あまり、よく覚えていないのか、それとも、あまりよい思い出がないのか
……後者なのではないか、と彼方はかすかに感じ取っていた
だから、それを尋ねようとも思わない
妹に、つらい事を思い出させたくはないのだ
そうして、たわいのない話をしながら、ゆっくり、ゆっくりと
夕暮れの道を歩いていく2人
探偵事務所まで、後、もう少し、と言う所で
夕暮れの道を歩いていく2人
探偵事務所まで、後、もう少し、と言う所で
「…………!」
2人の、前に
一人の男性が、立ちはだかった
一人の男性が、立ちはだかった
3,40代程だろうか
長身で、黒いスーツを身に纏った男性
しかし、そのスーツの上から白衣を身にまとっており、さらに、顔には眼帯がつけられていて…何だか、酷くちぐはぐな印象を与える外見をしている
何よりも、特異なのは
……彼が腰から下げている、西洋風の長剣だ
酷く立派な、豪華とも言える鞘に収められている、それ
…それから、強い気配を彼方は感じ取った
長身で、黒いスーツを身に纏った男性
しかし、そのスーツの上から白衣を身にまとっており、さらに、顔には眼帯がつけられていて…何だか、酷くちぐはぐな印象を与える外見をしている
何よりも、特異なのは
……彼が腰から下げている、西洋風の長剣だ
酷く立派な、豪華とも言える鞘に収められている、それ
…それから、強い気配を彼方は感じ取った
「お兄ちゃん…?」
「…吉静……下がって」
「…吉静……下がって」
…嫌な汗が、背中を伝う
目の前の男性から感じる威圧感に、彼方はかすかに恐怖を覚えた
目の前の男性から感じる威圧感に、彼方はかすかに恐怖を覚えた
それだけではない
頭がズキズキと、痛み出す
頭がズキズキと、痛み出す
「ふむ…?生き延びていたか。はて、ハーメルンの笛吹きに治癒系の能力があったとは思えないが………協力者でもいたか」
じゃり、と
男性が、一歩、彼方達に近づく
その手が、腰から下げている剣の柄に触れた
男性が、一歩、彼方達に近づく
その手が、腰から下げている剣の柄に触れた
「-----っ」
咄嗟に、彼方も携帯していた剣の柄に触れる
とさ、と、持っていた買い物袋が、地面に落ちた
とさ、と、持っていた買い物袋が、地面に落ちた
駄目ダ、逃ゲロ
自分ハ、コノ人ニハ敵ワナイ
自分ハ、コノ人ニハ敵ワナイ
本能が、そう告げてくる
だが、自分は逃げる訳には、いかない
吉静を護らなければ
だが、自分は逃げる訳には、いかない
吉静を護らなければ
「…吉静、逃げるんだ!」
「え……お、お兄ちゃん!?」
「え……お、お兄ちゃん!?」
ぐ、と帽子を被りなおす彼方
瞬間、彼方の姿が消える
彼方が契約している「アルプ」が持つ、「透明になる帽子」の能力だ
姿を消したまま、彼方は剣の柄を強く握り緊め……アスファルトの地面を蹴った
驚異的な瞬発力で男性に近づきながら、剣を抜き放ち……切りかかる
瞬間、彼方の姿が消える
彼方が契約している「アルプ」が持つ、「透明になる帽子」の能力だ
姿を消したまま、彼方は剣の柄を強く握り緊め……アスファルトの地面を蹴った
驚異的な瞬発力で男性に近づきながら、剣を抜き放ち……切りかかる
しかし
「-----っが!?」
鮮血が、辺りに飛び散る
彼方の剣は、男性に……届かずに
果たして、いつの間に剣を抜いていたと言うのか
ぱちん、と言う音と共に、男性が剣を鞘に収めて
果たして、いつの間に剣を抜いていたと言うのか
ぱちん、と言う音と共に、男性が剣を鞘に収めて
………どさり
右肩から左わき腹にかけて、ばっさりと大きな切り傷を作った彼方の体は
切りつけられた衝撃で吹き飛ばされ、吉静の足元まで、弾き飛ばされた
透明になる能力を維持しきれずに、傷ついた姿が露になる
右肩から左わき腹にかけて、ばっさりと大きな切り傷を作った彼方の体は
切りつけられた衝撃で吹き飛ばされ、吉静の足元まで、弾き飛ばされた
透明になる能力を維持しきれずに、傷ついた姿が露になる
「…!?お兄ちゃん、お兄ちゃん!?」
兄の姿が消えて……次の瞬間、大怪我を負っていた
吉静の目には、そう見えただろう
慌てて、彼方の体を抱き起こそうとする
吉静の目には、そう見えただろう
慌てて、彼方の体を抱き起こそうとする
「……よし、ず…駄目、早く、逃げ……」
「先手の一撃、良い判断だ。だが、力が足りんな」
「先手の一撃、良い判断だ。だが、力が足りんな」
一歩
男性が、彼方達に近づいてくる
男性が、彼方達に近づいてくる
「ふむ………強化剤を投与した割りには、スピードが……薬を体から抜いたのか?それにしては、あまり身体能力が落ちていないな」
…一歩
また、近づく
また、近づく
「……改めて回収して調べるのも、一興か」
…吉静は、ここから逃げる事ができない
彼方を置いて逃げることなど、彼女には、出来ない
……やっと見つけた家族を置いて逃げるなど、できるはずもない
彼方を置いて逃げることなど、彼女には、出来ない
……やっと見つけた家族を置いて逃げるなど、できるはずもない
しかし
彼方も、吉静も…この男性には、敵わない
吉静は知らないし、彼方は忘れてしまった事だが
この男性の名前は……ハンニバル・ヘースティングス
「組織」所属の黒服、通称「不死身の狂人」なのだから
彼方も、吉静も…この男性には、敵わない
吉静は知らないし、彼方は忘れてしまった事だが
この男性の名前は……ハンニバル・ヘースティングス
「組織」所属の黒服、通称「不死身の狂人」なのだから
一歩、また一歩と
ハンニバルは、吉静達に近づいて
……その、手が
吉静達に伸ばされようとした、その時
ハンニバルは、吉静達に近づいて
……その、手が
吉静達に伸ばされようとした、その時
「その手で、吉静ちゃん達に触れないでもらおうか」
駆けつけた、男がいた
護るべき者を護る為に
今、彼は不死身の狂人の前に立つ
護るべき者を護る為に
今、彼は不死身の狂人の前に立つ
「あ………ぁ」
「吉静ちゃん、君達を、助けに来た!!!」
「--------っ明也お兄ちゃん!!」
「吉静ちゃん、君達を、助けに来た!!!」
「--------っ明也お兄ちゃん!!」
上田 明也
彼は、素早く吉静達とハンニバルの間に割り込んだ
鋭い敵意をハンニバルに向け、睨みつける
彼は、素早く吉静達とハンニバルの間に割り込んだ
鋭い敵意をハンニバルに向け、睨みつける
「メル、吉静ちゃん達を連れて逃げろ!」
「はい!……マスター、無茶はしないでくださいよ!」
「はい!……マスター、無茶はしないでくださいよ!」
メルが、彼方と吉静を回収していく
吉静が、上田を置いていくことを拒否するように叫んでいる声が聞えたが……今は、それに答える訳にも、いかない
吉静が、上田を置いていくことを拒否するように叫んでいる声が聞えたが……今は、それに答える訳にも、いかない
「ふむ?………君が、ハーメルンの笛吹きの契約者か」
「さて……どうだろうな」
「さて……どうだろうな」
…ハンニバル・ヘースティングス
サンジェルマンから話は聞いているが…どんな都市伝説と契約して飲み込まれた存在なのか、そこまではわからない
サンジェルマンをもってしても、彼が何の都市伝説に飲み込まれたのか、知る事ができなかったのだ
そこまで…ハンニバルは、己を飲み込んだ都市伝説を、隠しとおそうとしている
サンジェルマンから話は聞いているが…どんな都市伝説と契約して飲み込まれた存在なのか、そこまではわからない
サンジェルマンをもってしても、彼が何の都市伝説に飲み込まれたのか、知る事ができなかったのだ
そこまで…ハンニバルは、己を飲み込んだ都市伝説を、隠しとおそうとしている
(つまり、その都市伝説さえわかれば、対策はできる訳だ)
ならば、見極めてやろうじゃないか
上田が、まずは軽く先制攻撃しようとした、瞬間
上田が、まずは軽く先制攻撃しようとした、瞬間
---すぱぁんっ
「へ?」
何時の間にか……目の前まで、ハンニバルが接近してきていて
既に、剣は抜かれていた
既に、剣は抜かれていた
…右腕が、軽い
否
……右腕、が
喪失した
否
……右腕、が
喪失した
「---っぐ!?」
右腕を、切り飛ばされた
コートに隠していた武器を、取り出す間もなく
一瞬の、抜刀
コートに隠していた武器を、取り出す間もなく
一瞬の、抜刀
「この…っ」
「遅い」
「遅い」
ひゅんっ、と
剣が、振るわれた…らしかった
らしかった、というのは
上田には、それが見えなかったから
剣が、振るわれた…らしかった
らしかった、というのは
上田には、それが見えなかったから
気づいた時には、上田の体は…ごとり
アスファルトの道路の上に、転がっていた
アスファルトの道路の上に、転がっていた
上半身と下半身が、切り離された、姿で
「検体の回収を、邪魔されては困るのだがね」
ぱちん、と
剣が、鞘に収められる
ハンニバルはそのまま、メルが吉静達を連れて走り去っていった方向へと向かおうとして
剣が、鞘に収められる
ハンニバルはそのまま、メルが吉静達を連れて走り去っていった方向へと向かおうとして
「…ま、て!」
「…?」
「…?」
ぎ、と
上田は、ハンニバルを睨みあげた
上半身と下半身を切り離されながらも……上田は、まだ生きている
そして、切り離された体は…ゆっくりと、元に戻ろうとしていっている
上田は、ハンニバルを睨みあげた
上半身と下半身を切り離されながらも……上田は、まだ生きている
そして、切り離された体は…ゆっくりと、元に戻ろうとしていっている
ふむ、と
ハンニバルは、その姿を見下ろして
ハンニバルは、その姿を見下ろして
「……ぐぁ!?」
---ざん!と
再び鞘から抜き放たれた剣の切っ先が、上田の体に突き刺さった
辛うじて、心臓を貫かれる事は免れたものの……恐らく、肺を片方、貫かれた
呼吸が、うまくできない
再び鞘から抜き放たれた剣の切っ先が、上田の体に突き刺さった
辛うじて、心臓を貫かれる事は免れたものの……恐らく、肺を片方、貫かれた
呼吸が、うまくできない
「ふぅむ……はて、既に二度は殺したつもりだが……まだ、生きているか」
上田を見下ろす、ハンニバルの視線に
……上田への興味が、芽生え始める
……上田への興味が、芽生え始める
「…さて」
剣が、上田の体から抜き放たれた
血塗れの切っ先を、目の前に突きつけられる
血塗れの切っ先を、目の前に突きつけられる
「君は、何度殺せば死ぬのかね?」
to be … ?