ドクター91
蜘蛛の糸で雁字搦めにされたコンスタンツェとデリア
極度の緊張状態から解放されたせいか、コンスタンツェはその場にくたりと倒れ込んで気を失ってしまった
「ところで、私達は全く動けないんですが」
倒れた姉を心配そうに見詰めつつ、デリアが苦笑を浮かべる
「無論、路上に転がしたままではいられまい」
「『第三帝国』の診療所とやらに運ぶ? でもいくら協力体制を取りたい組織のところだからって、他所の組織の施設にのこのこ出て来ないと思うよ、エーちゃんは」
「ふむ……妾の部屋で一時預かるかの。ムチプリに連絡をしておかんとな」
イクトミが少女二人を運ぶべく、一歩近付いたその瞬間
突如、二人の首に鋼の首輪ががちりと填まり込む
「その二人から離れなさい、ね?」
首輪から伸びる鎖が蛇のようにうねり、街灯の天辺に輪を掛けるように絡みつき
金属が激しく擦れ合う嫌な音と共に、首輪は一瞬で地面から遥か高くへと舞い上がった
首輪、だけがである
「あーびっくりした」
「知らぬ顔だな。何者だ?」
中空で揺れる二つの首輪が、がちんがちんとぶつかり合い揺れるその下に
何事も無かったかのように立つヘンリエッタとイクトミ
純白のサマードレスを翻し現れたトライレスは、二人を見てくすくすと笑う
「なるほど、拘束するような技は効かないわけね……それなら」
「ちょ、先生!? いきなり何やらかしてるんですか!?」
悲鳴じみた声を上げるデリアに、トライレスは不思議そうに首を傾げる
「簀巻きにされて捕まってる子が何を言ってるの。すぐに助けてあげるからお待ちなさいな」
「助けるも何も、この方々はドクターに協力されている方で、敵とかじゃありません!」
「あら」
わざとらしく驚いたように、口元に手を当てて目を丸くするトライレス
その後ろから、息を切らせて走ってくるドクターの姿
「先生っ……突然走り出してっ……何がっ……?」
息を荒げ、その場にいる全員の様子をぐるりと見回すと、ドクターはやや呆れたように、そして疲れ果てたようにその場に屈み込む
「先生、今度は何をやらかしましたか」
「エルフリーデ? 何で真っ先に私が悪いような言い方をするのかしら?」
「そちらの方は、以前に話したボクの研究の協力者です。信用に値する人物ですから」
「師匠よりも利害関係を取るのね……先生悲しいわ」
「能力、知識、人柄については尊敬していますが。性的な手癖の悪さ、空気の読めなさ、喧嘩っ早さと勘違いっぷりは正直どうかと思います」
座り込み呼吸を整えながら、ドクターは簀巻きになっている双子に視線を向ける
「そちらの二人は、知り合いに粗相をするようなタイプではないのだが。一体何をやらかしたのだね」
「やらかしたというよりは、やらかされたといった感じだな。説明をしたいところだが、路上でこの有様ではまた通りすがりの者に誤解を招きそうだ」
目を細めて睨みつけてくるヘンリエッタに、全く目の笑っていない微笑を返すトライレス
「ふむ、移動も兼ねて車を呼ぶとするか」
ドクターがそう言って携帯電話を取り出そうとしたその瞬間
エンジン音を響かせてやってきたロールス・ロイスが僅かにタイヤを軋ませる音を立てて一行の手前に停車した
「お呼びでございましょうか」
運転席のドアを開け現れた運転手は、その場で深々と一礼する
「呼ぼうとしたところだったのだが、随分と察しが早い」
「ドクター周辺を常に警戒しております故」
定員にはやや多いが小柄な者ばかりといった面子
助手席にイクトミ、ドクターの膝の上にトライレスという配置に落ち着いて問題なく車には乗り込めた
「イクトミ、運転手に道案内を頼む。こちらは状況の説明と整理をするのでな」
いつの間にか場を仕切っているヘンリエッタ
ふと、縛られたままのデリアが不安げに呟く
「そういえば、バイトさんの方は大丈夫ですか?」
「あれでも一応、うちでは一番まともに戦える人材だ。何かあったとしたら、ボクらではむしろ足手纏いだろう」
事態は進んでいく
緩やかに緩やかに
何処へ向かうか
迷っているのか
誰も判らないまま
緩やかに、緩やかに
極度の緊張状態から解放されたせいか、コンスタンツェはその場にくたりと倒れ込んで気を失ってしまった
「ところで、私達は全く動けないんですが」
倒れた姉を心配そうに見詰めつつ、デリアが苦笑を浮かべる
「無論、路上に転がしたままではいられまい」
「『第三帝国』の診療所とやらに運ぶ? でもいくら協力体制を取りたい組織のところだからって、他所の組織の施設にのこのこ出て来ないと思うよ、エーちゃんは」
「ふむ……妾の部屋で一時預かるかの。ムチプリに連絡をしておかんとな」
イクトミが少女二人を運ぶべく、一歩近付いたその瞬間
突如、二人の首に鋼の首輪ががちりと填まり込む
「その二人から離れなさい、ね?」
首輪から伸びる鎖が蛇のようにうねり、街灯の天辺に輪を掛けるように絡みつき
金属が激しく擦れ合う嫌な音と共に、首輪は一瞬で地面から遥か高くへと舞い上がった
首輪、だけがである
「あーびっくりした」
「知らぬ顔だな。何者だ?」
中空で揺れる二つの首輪が、がちんがちんとぶつかり合い揺れるその下に
何事も無かったかのように立つヘンリエッタとイクトミ
純白のサマードレスを翻し現れたトライレスは、二人を見てくすくすと笑う
「なるほど、拘束するような技は効かないわけね……それなら」
「ちょ、先生!? いきなり何やらかしてるんですか!?」
悲鳴じみた声を上げるデリアに、トライレスは不思議そうに首を傾げる
「簀巻きにされて捕まってる子が何を言ってるの。すぐに助けてあげるからお待ちなさいな」
「助けるも何も、この方々はドクターに協力されている方で、敵とかじゃありません!」
「あら」
わざとらしく驚いたように、口元に手を当てて目を丸くするトライレス
その後ろから、息を切らせて走ってくるドクターの姿
「先生っ……突然走り出してっ……何がっ……?」
息を荒げ、その場にいる全員の様子をぐるりと見回すと、ドクターはやや呆れたように、そして疲れ果てたようにその場に屈み込む
「先生、今度は何をやらかしましたか」
「エルフリーデ? 何で真っ先に私が悪いような言い方をするのかしら?」
「そちらの方は、以前に話したボクの研究の協力者です。信用に値する人物ですから」
「師匠よりも利害関係を取るのね……先生悲しいわ」
「能力、知識、人柄については尊敬していますが。性的な手癖の悪さ、空気の読めなさ、喧嘩っ早さと勘違いっぷりは正直どうかと思います」
座り込み呼吸を整えながら、ドクターは簀巻きになっている双子に視線を向ける
「そちらの二人は、知り合いに粗相をするようなタイプではないのだが。一体何をやらかしたのだね」
「やらかしたというよりは、やらかされたといった感じだな。説明をしたいところだが、路上でこの有様ではまた通りすがりの者に誤解を招きそうだ」
目を細めて睨みつけてくるヘンリエッタに、全く目の笑っていない微笑を返すトライレス
「ふむ、移動も兼ねて車を呼ぶとするか」
ドクターがそう言って携帯電話を取り出そうとしたその瞬間
エンジン音を響かせてやってきたロールス・ロイスが僅かにタイヤを軋ませる音を立てて一行の手前に停車した
「お呼びでございましょうか」
運転席のドアを開け現れた運転手は、その場で深々と一礼する
「呼ぼうとしたところだったのだが、随分と察しが早い」
「ドクター周辺を常に警戒しております故」
定員にはやや多いが小柄な者ばかりといった面子
助手席にイクトミ、ドクターの膝の上にトライレスという配置に落ち着いて問題なく車には乗り込めた
「イクトミ、運転手に道案内を頼む。こちらは状況の説明と整理をするのでな」
いつの間にか場を仕切っているヘンリエッタ
ふと、縛られたままのデリアが不安げに呟く
「そういえば、バイトさんの方は大丈夫ですか?」
「あれでも一応、うちでは一番まともに戦える人材だ。何かあったとしたら、ボクらではむしろ足手纏いだろう」
事態は進んでいく
緩やかに緩やかに
何処へ向かうか
迷っているのか
誰も判らないまま
緩やかに、緩やかに