「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 三面鏡の少女-68

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Elfriede

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三面鏡の少女 68


突如現れたという事で、都市伝説かその契約者である事は理解できた
ディランの名前を呼び毒とか癒しとか言っていたので、ディランを治すために駆けつけてくれた事も理解できた
だが、引き裂かれ前面がほぼフルオープンな自分を姿を思い出し、そんな姿でディランの傍に寄り添っていたという現実を把握した瞬間
繰は悲鳴を上げるよりも身体を隠すよりも、その乱入者を自らの能力で殴り飛ばしていた
手加減抜きで
「あ、え、その」
繰の髪の毛による打撃力は全力ならコンクリートブロックも粉砕し、人体ぐらいは平気で引き裂ける程である
その全力の打撃で原型を留めているのは、彼が丈夫だったからでも変態だったからでもなく、繰の身体能力が格段に落ちているだけだった
頭はひたすら熱っぽく視界も思考もぐるぐると止め処もなく回っているようで、心臓は破裂しそうな程に激しく脈打ち、下腹部がきゅうきゅうと締め付けられるような奇妙な感覚に陥っているのだ
そんな状況にありながら正確に相手をぶん殴れたのは、その一瞬だけ羞恥心が全てを持っていったからに他ならない
そんなこんなで、白い男が殴られた側頭部を押さえて起き上がってきたその瞬間
繰は破れた制服を押さえて教室を飛び出し、廊下を駆け抜けて行った
呼び止めようとしたディランの声も、苦悶混じりではその勢いには届かず
ジャージの入ったバッグを頭の上に担いでてちてち走ってきた菊花を拾い上げ、繰は女子トイレに飛び込んだ
その勢いで個室へと駆け込み、引き裂かれた制服と下着を乱暴に脱ぎ捨てて素肌の上にジャージを着込む
「ああもう、何やってるのよ私ってば……」
そこでやっと一息ついて、便座の上にぐったりと座り込む繰
戦闘での不覚から、ディランへの対応、助けに来たであろう人物への奇襲攻撃など、考えればきりがない
そんな内心こそ理解していないものの、精神的に参っているであろう事は理解している菊花が、膝から肩へよじよじと登り、項垂れる繰の頭を小さい手でくしくしと撫でる
「ん、ありがとう菊花……なんか疲れたし、今日は帰ろ。補習は先生が調子良くなったら連絡してくるだろうし」
蜘蛛の糸でべたつく髪は伸ばして洗面台で洗い、髪の毛の力で水気を絞り元の長さに戻す
ボロ布と化した制服と下着をジャージの入っていたバッグに押し込み、繰は廊下の様子を窺ってそっとトイレから出る
「携帯と財布、教室の鞄の中……まあいいか。家に帰ったら佳奈美と黒服には電話しとけばいいし、財布も小銭しか入れてなかったし」
その足取りはある程度しっかりはしていたものの、普段の繰に比べると非常に頼りないものだった

―――

都市伝説に関わると、また都市伝説と出会う確率は高くなる
そして、一度結ばれた縁は容易には解けないものである
繰はぼんやりとした調子のまま、駅前のショッピングセンターに居た
なんとなく下着を着けていない事が気になって、適当なものを買って行こうと思い立ち、自分のサイズで安いものを物色していてふと気付く
「……財布、置いてきちゃったのにな」
もっとも小銭ばかりの財布では下着もろくに買えないのだが
「お客様、何かお探しでしょうか」
そんな時に限って、笑顔の店員が現れて足を止められてしまう
「すいません、財布忘れてきちゃって取りに戻ろうかと」
よくある事だと思いつつ、繰は愛想笑いを浮かべてその場を離れようとするが
「今、大手メーカーの方で新作が出てまして。試供品セットがあるんですが如何ですか?」
下着の試供品など聞いた事も無いが、LOLIQLOの台頭以来、衣料メーカー大手各社はあの手この手で市場の確保を狙っている
そんな事もやるのだなと深く考えず、試供品が入っているという小さな手提げ紙袋を受け取っていた
「サイズはおおよそですので、一度ご試着をどうぞ」
いくつか予備のものらしい紙袋やメジャーを手に、店員はぼんやりとした繰を試着室へと引っ張り込んだ
「スタイル良いですね、お客様。サイズは測った事は?」
「別に……Dぐらいのやつで適当に」
「アンダーとトップをきちんと計りませんと型崩れの原因になりますよ?」
屈み込んで、ごそごそと紙袋を探っていた店員が顔を上げると
「……え?」
その顔は営業感溢れる笑顔ではなく、ごついガスマスクに覆われており
同時に天井から噴き出した真っ白いガスが、繰の視界を一気に遮った
即座に暴れれば、ドアを破り店員を叩き伏せる事ぐらいは出来たはずなのだが、ガスを吸うよりも前に繰の身体は動かなくなっていた
それは過去に一度経験した恐怖から
中学を卒業した折に、家族と行った海外旅行先のブティックで
そして、その時に黒服に助けられた事と
その黒服は既にこの世を去っている事を思い出し
繰の意識はそこで途絶えた
繰が動かなくなったのを確認すると、ガスマスクをした店員が白む視界の中で鏡をコンコンと叩く
すると鏡が扉のようにがちゃりと開き、店員は繰の身体と菊花の入った鞄をずるずると引き摺ってその奥へと消えていった
やがてガスは空気に染み込むように消えていき、がちゃりと通路を塞いだ鏡は元のように動かなくなる
その更衣室の外では、どうやらトイレに行っていたらしい先程の人物とは全く違う下着売り場の店員が、レジの同僚に挨拶をして所定の位置に戻っていた
鏡の向こうへと消えていった店員や繰の存在など、初めから無かったかのように


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