何が悪かったと言うのか
誰が悪かったと言うのか
誰が悪かったと言うのか
「龍一っ!!」
「………ぁ」
「………ぁ」
彼が、そこにたどり着いた時
そこは、すでに血で濡れていた
そこは、すでに血で濡れていた
小さな、少年が
刀を、手に持って
頭から、真っ赤な血をかぶって、立ち尽くしていた
刀を、手に持って
頭から、真っ赤な血をかぶって、立ち尽くしていた
少年の傍らには、気を失っているおかっぱ頭の少女の姿があって
彼はとっさに、そちらを警戒した
彼はとっさに、そちらを警戒した
「…っ、花子さんは、敵じゃ、ない」
彼の警戒に気付いた少年が、慌ててそう言ってきた
…ひとまずは、警戒を解く
…ひとまずは、警戒を解く
そして
…血の海の中心に倒れているそれに、視線をやった
少年と同じくらいの年頃の少女の姿をしていた、それは
ゆっくりと、元の、化け物の姿へと戻っていって
…ゆっくりと、光の粒子となって、消えていこうとしていた
ゆっくりと、元の、化け物の姿へと戻っていって
…ゆっくりと、光の粒子となって、消えていこうとしていた
「……の、れ………おのれぇ……!」
ごふごふと、血を吐きながら
光の粒子と化していきながらも、それは、未だ激しい憎悪に囚われた眼差しで少年を睨みつけていた
光の粒子と化していきながらも、それは、未だ激しい憎悪に囚われた眼差しで少年を睨みつけていた
「おのれ………おのれおのれおのれぇえええええ!!!!何故、大人しく殺されぬ!?何故、大人しく折られぬ!!??」
憎悪の言葉が、眼差しが
少年に、まっすぐに向けられる
少年に、まっすぐに向けられる
先年を越える、積み上げられた憎悪
どこまでも深い、深い、底知れぬ憎悪
幼い少年に向けるには、あまりにも重過ぎる、憎悪
どこまでも深い、深い、底知れぬ憎悪
幼い少年に向けるには、あまりにも重過ぎる、憎悪
「これで……っ終わりと、思うでないぞ…………父上を斬った、その刀………必ずしや、へし折って………っ」
「………黙れ」
「………黙れ」
ぎろりと
彼は、それを睨みつける
何時の間にか、一瞬で、それの傍まで移動していた彼は
持っていた刀で……その喉を、突き刺した
彼は、それを睨みつける
何時の間にか、一瞬で、それの傍まで移動していた彼は
持っていた刀で……その喉を、突き刺した
それはますます血を吐き、すでに、言葉を吐き出すこともできなくなる
「こいつの前で……これ以上、喋るんじゃねぇ……………餓鬼相手に、八つ当たりしてるんじゃねぇよ、馬鹿野郎が……!」
それは、憎憎しげに、彼を睨み上げて
…しかし、それ以上、何もできない
…しかし、それ以上、何もできない
完全に、全てが光の粒子と化して
………この世から、消えうせた
………この世から、消えうせた
「………」
それが、消え行く様子を
少年はただ、じっと眺めていた
全身にかぶった血を、拭う事もせずに
ただただ、じっと、静かに、静かに
少年はただ、じっと眺めていた
全身にかぶった血を、拭う事もせずに
ただただ、じっと、静かに、静かに
「…龍一、怪我ぁ、してねぇか?」
「………俺は、ない……花子さん、が」
「ん……あぁ、こっちの嬢ちゃんも、大丈夫だ。気絶してるだけで、たいした怪我はしてねぇ」
「……そう、か」
「………俺は、ない……花子さん、が」
「ん……あぁ、こっちの嬢ちゃんも、大丈夫だ。気絶してるだけで、たいした怪我はしてねぇ」
「……そう、か」
ほっとしたような表情をする少年
…からん、と
その手から……ようやく、刀が放されて
血でそまった刃が、床に落ちる
その手から……ようやく、刀が放されて
血でそまった刃が、床に落ちる
「……お前………それを、振るったのか……?」
「…………」
「…………」
少年は、答えない
血で染まった己の手を
血で染まった刀を、静かに見つめて
血で染まった己の手を
血で染まった刀を、静かに見つめて
「……呼ばれた、から」
と
ただ、小さく、答える
ただ、小さく、答える
「………手にとれと。斬れと…………そう、聞こえた」
「……っ!」
「……っ!」
彼は、刀に視線をやった
…彼は、この刀の正体を知っている
これが、どんなモノなのか、理解している
…彼は、この刀の正体を知っている
これが、どんなモノなのか、理解している
…コレは、こんな子供に、自身を振るわせたというのか
まだ、こんなにも幼い子供に!
まだ、この子供には……生き物を斬る感触を知るには、速すぎる!!
まだ、こんなにも幼い子供に!
まだ、この子供には……生き物を斬る感触を知るには、速すぎる!!
「……ぬら……?……怒っているのか?」
「…当たりめぇだ……お前に怒ってるんじゃないぞ?……こいつに、怒ってるんだよ」
「…当たりめぇだ……お前に怒ってるんじゃないぞ?……こいつに、怒ってるんだよ」
血にまみれた刀を拾う彼
刀は、ただ、血に塗れているだけ
刀は、ただ、血に塗れているだけ
「………怒らないでやってほしい…………あの状況では………それを、手にとらなければ。俺達は、死んでいたから」
「だが……!」
「…誰かが。やらなければいけなかったのだから」
「だが……!」
「…誰かが。やらなければいけなかったのだから」
そう、呟く少年の表情には
深い、諦めが浮かんでいて
深い、諦めが浮かんでいて
「……八代目様も、そうだったんだろう…?………誰かが、日景家のお嬢さんをお護りしなければならなかった。人ではない存在を知っていて、なおかつ、護る事ができたのは……あの時は、八代目様だけだった、から」
彼から聞いた、その話を
少年は、どこまでもしっかりと、覚えていて
少年は、どこまでもしっかりと、覚えていて
「…俺は……八代目様のようには、うまくできなかったけれど………でも、あの場では。俺しか、刀を振るえなかった、から」
……カタカタと
小さな体が、震えている
生まれて初めて、他者の命を奪った、その重さに
押しつぶされそうになるのを、必死に耐えている
小さな体が、震えている
生まれて初めて、他者の命を奪った、その重さに
押しつぶされそうになるのを、必死に耐えている
「………っだか、ら………たとえ、彼女に………人殺しと呼ばれようが……………化け物と、呼ばれようが………俺が、やらなければ……ならなかった、から……」
「…龍」
「…龍」
そっと
彼は、刀を床に置いて、その小さな体を抱きしめた
何時の間にか、ぼろぼろと、涙を流し始めていた、その少年を
あやすように、優しく抱きしめ、背中を撫でる
彼は、刀を床に置いて、その小さな体を抱きしめた
何時の間にか、ぼろぼろと、涙を流し始めていた、その少年を
あやすように、優しく抱きしめ、背中を撫でる
「…いい……もう、いい………今夜の事は、忘れろ…………後は、俺が何とかしてやる」
「……忘れる……?……できるはずがない………彼女は、忘れた方がいいだろうけれど…俺は………忘れて、は、いけない」
「……忘れる……?……できるはずがない………彼女は、忘れた方がいいだろうけれど…俺は………忘れて、は、いけない」
しゃっくりあげながら
少年は、しかし、強く言い切る
少年は、しかし、強く言い切る
「………命を切り捨てた、この感触を……………俺は、永遠に…忘れては、いけ、ない」
「龍…」
「…………だから、こそ……俺は、これに……………………に、真に、ふさわしいと思ってもらえる、その日まで………刀は、手にとるべきでは、ない」
「龍…」
「…………だから、こそ……俺は、これに……………………に、真に、ふさわしいと思ってもらえる、その日まで………刀は、手にとるべきでは、ない」
床に置かれた刀に視線をやり、そう口にする少年
まだ
少年は、この刀を手にするには、早い
……早すぎたのだ
少年は、この刀を手にするには、早い
……早すぎたのだ
肉体も、精神も
まだ、この少年は、幼すぎる
まだ、この少年は、幼すぎる
この、鬼斬りの刀を手にするには
あまりにも……早すぎた
あまりにも……早すぎた
「……そうか……お前が、それを選ぶんなら……俺は、止めねぇ。龍の奴も…………同じ状況に置かれたならば、お前と同じ事をしただろうしな」
「…八代目、様も…?」
「あぁ………お前は、あいつと似てるよ………おっかねぇくらいにな。あいつの生まれ変わりみてぇだ」
「…八代目、様も…?」
「あぁ………お前は、あいつと似てるよ………おっかねぇくらいにな。あいつの生まれ変わりみてぇだ」
だから、こそ
彼は、少年に干渉してしまうのだろう
己のかつての契約者に、あまりにもよく似ている、この少年に
彼は、少年に干渉してしまうのだろう
己のかつての契約者に、あまりにもよく似ている、この少年に
「…せめて、この場の後始末は、俺に任せろ………お前が、命かけて護った女の子の事も、俺が確認してくる。とにかく…お前は、その血を拭って。服も着替えて……眠っちまえ。今は、ただ……眠っていれば、いい」
「………でも」
「本当なら、俺がやるべきだったんだ……俺が間に合わなかったから、お前をこんな目にあわせちまった…せめて、それくらいはさせてくれ」
「………でも」
「本当なら、俺がやるべきだったんだ……俺が間に合わなかったから、お前をこんな目にあわせちまった…せめて、それくらいはさせてくれ」
彼の言葉に、少年は俯いて
……小さく、頷くと
……小さく、頷くと
「っとと!?」
糸が切れたように、意識を失ってしまった
小さな寝息が、聞こえてくる
小さな寝息が、聞こえてくる
「…やっぱり、限界だったか」
……とにかく、広間に広がる血を、どうにかしなければ
花子さん、と少年が呼んでいた、人間ではない気配のするこの少女についても、介抱してやる必要がある
それに、少年が護って……しかし、少年の行為に恐怖して、この場から逃げ出した少女
あちらも、どうにかしなければ…
花子さん、と少年が呼んでいた、人間ではない気配のするこの少女についても、介抱してやる必要がある
それに、少年が護って……しかし、少年の行為に恐怖して、この場から逃げ出した少女
あちらも、どうにかしなければ…
「………あぁ、まったく」
月を、見上げる
夜空に浮かぶそれは………真っ赤に、染まっているように見えた
夜空に浮かぶそれは………真っ赤に、染まっているように見えた
「どうして、こうなっちまうんだか…………なぁ?龍よ」
床に置かれた、血染めの刀に視線をやる彼
刀は沈黙し、ただ、血に染まり続けている…
刀は沈黙し、ただ、血に染まり続けている…
何故、こうなってしまったのか
誰が悪かったのか
何が悪かったのか
誰が悪かったのか
何が悪かったのか
ただ、この出来事は
少年の心に深い傷をつけ、その心を縛り続けるのだ
少年の心に深い傷をつけ、その心を縛り続けるのだ
………fin?