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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 葬儀屋と地獄の帝王-01

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sougiya

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第一話
【相死相愛】

 彼と知り合ったのは今から十四年前、互いに中学生の時だった。
 たまたま同じクラスで、たまたま隣同士の席で、たまたま視線が良く合って。
 卒業式の日、照れで顔を真っ赤にした彼に告白されて。
 同じ高校に行き、それなりに仲睦まじく、それなりに健全な付き合いで――高校一年の冬、ようやく結ばれて。
 たまに喧嘩はして。周囲からも微笑ましいふたりだと温かく見守られて。
 大学と短大と進路こそ別れたものの、互いの両親も同棲を認めてくれて。
 社会人二年目を迎えようとしていた春、彼と同じ姓を名乗ることになって。

 あの時の出会いから十四年。
 互いに三十路も近くなろうという矢先。
 収入も安定し、そろそろ子供でも、なんて話をしていた矢先。

 彼の葬儀はわけもわからずあっという間に過ぎ去った。
 悲しむ暇もなく、現状を把握することすらできず。何が起きたか理解することすら許されず。
 それぞれの両親が葬儀を取り仕切り、呆然とする間もなく彼は小さな骨箱の中に入ってしまった。
 全てが終わっていた頃にようやく、彼がいなくなってしまったということのみ、理解できた。

 そして――夫の初七日を迎える前に、彼女は行方をくらませた。

◆  □  ◆  □  ◆

 その日、彼は一仕事終えて帰路についていた。
 時間は深夜二時過ぎ。とても仕事帰りとはいえない時間ではあるが。
 胸元の黒のネクタイを緩め、煙草を吸いながら疲れた足取りで自宅である安アパートへ向かっていた。
 声がかけられたのは、家についたら着替えて即寝て明朝に熱いシャワーでも浴びてから出社だな――などと考えていた矢先のことである。

「ねえ……」

 突如かけられた女の声。深夜二時過ぎという時間を考えればありえる話ではない。
 だが、彼に動じた様子がないのは今までにも何度か深夜に声をかけられたことがあるからだ。
 鎌を片手にマスクをしている女だったり、真っ赤なマントを羽織った男だったり、ブーメランパンツ一丁のマッスルだったりと、この町では深夜でも人が活動することを彼は知っていた。
 だからこそ、かけられた声に無視を決め込んだのだ。

「ねえ……知らない……?」

 街灯によって照らされたのは女の姿。
 そこにいたのはエプロン姿のごく平凡な、深夜二時過ぎという時間を考えれば異様ともいえる女だった。
 女も彼の姿を認識できたのだろう、彼の姿を見てふと歩みが止まる。

「あなた、その黒い服……ああ、また来たの? 私の邪魔をするの?」

 彼の服装に何かを得心が行ったらしい女に対し、彼の表情が変わる。――明らかに嫌そうな顔に。

「良く間違えられるが俺は〈組織〉とは無関係な一般市民だ」
「嘘。嘘つカないで。――ああソう、アなたがあの人ヲ隠したのね。ダから何度も何度も私を狙ウのね」

 女の目は彼を映してはいない。
 彼が身に着けている黒いスーツのみを映していた。

「あノ人はハドこに行っタの? ネえ、どこ? どコにいルノ?」

 ――取り憑かれている。
 話の噛み合わぬ支離滅裂な会話だけではない、生気のない眼だけではない。
 女の言う「あの人」への異常な執着心。
 そこに何かが取り憑いた。

「鉄道模型を捨テたダケなの、アの人はどこにいるの? 衣装ケーすがなイノ、アの人ガいなクナッて私はどうスレばいイの」
「鉄道模型? 何の話だ?」
「返しテ! カえして! アのひトヲ返してよ!」

 何度も歯を打ち鳴らした女の目がぐるりと反転すると同時に、ざわりと頬を生温い風が吹き抜ける。
 どこからか聞こえてくる列車の疾走音。
 レールの上を走らない列車は静穏な夜の住宅街を疾走――というよりは爆走――して、背後から突っ込んできた。

「……チッ!」

 黒服を飲み込んだ暴走列車は、女の目の前で今まで存在すらしていなかったように幻のように消え去った。
 また徘徊を始めるべく動き始めた女の足が止まる。
 わずかに感じる違和感。
 嗅覚ではない感覚で嗅いでいたヒトの臭いがない。
 今まで轢殺してきた黒服にすら存在していた死の香り。それが感じられない。

 もし、女が取り憑かれていなければ気づいたであろう。
 列車に轢き殺されたのであれば必ずある死体。
 原形を留めることすら許されぬほどにちぎれて飛び散っているはずの死体と大量の血。
 考えもしなかったのは取り憑かれ、狂っていたからに他ならない。
 そしてわずかに感じた違和感――それは、狂っていたからこそのまともな感覚。
 その感覚が告げる。
 男は背後にいる、と。

「あんた、今年の頭に事故で旦那を亡くした、――さんだな?」

 彼の告げた名前。
 それこそが十四年も前から想い続けてきた男の姓であり、齢二十四の頃から名乗ってきた女の姓であった。

「どウシてアなたがワたしのなマえをしッているノネえアナたがあのひトヲかクシテいるのねあノヒとをかえしテドうしてどコニつれていったのあのひトハドこにいルの」

 一切抑揚のない声。
  ただ、淡々と頭の中にある言葉をただ口に出しているだけだ。
 対して、彼もただ淡々と事実のみを口にした。

「あんたの旦那は事故で死んだ」
「……?」
「大雨暴風警報が発令されていた晩、単身事故を起こして死亡。――あくまで俺が聞いた話だがな」

 理解しているのかいないのか、生気の無い目には何の感情も感じ取れない。
 ――が、不意に女の顔が笑顔に変わる。頬の筋肉で形成された偽物の笑顔。

「アノひとハイえをでるときいっタノよいッテきますってイったのよヘヤガひろくナっタのヨイシょうケーすふタつにおさマっタのヨ」

 ――二〇〇六年三月、「便所の落書き」と呼ばれる某巨大掲示板にて、ある書き込みがされた。

◆  □  ◆  □  ◆

802 名前:おさかなくわえた名無しさん 投稿日:2006/03/10(金) 17:32:24 ID:s2RHsW2o
上にコレクションについての話がありましたけど
私は夫のコレクションを捨ててしまって後悔した立場でした
鉄道模型でしたけど

かなり古い模型がまさに大量(線路も敷いてて一部屋使っていた)という感じでした
結婚2年目ぐらいから「こんなにあるんだから売り払ってよ」と夫に言い続けたのですが
毎回全然行動してくれずに言葉を濁す夫にキレてしまい
留守中に業者を呼んで引き取ってもらえるものは引き取ってもらいました

帰ってきた夫は「売り払ったお金は好きにしていい」「今まで迷惑かけててごめん」と謝ってくれました
残っていた模型も全部処分してくれたのですごく嬉しかったです

でもその後夫は蔵書をはじめ自分のもの全てを捨て始めてしまいました
会社で着るスーツとワイシャツや下着以外は服すらまともに持たなくなり
今では夫のものは全部含めても衣装ケース二つに納まるだけになってしまって

あまりにも行きすぎていて心配になり色々なものを買っていいと言うのですが
夫は服などの消耗品以外絶対に買わなくなってしまい
かえって私が苦しくなってしまいました

これだけ夫のものがないと夫がふらっといなくなってしまいそうですごく恐いのです
こういう場合ってどうしたらいいんでしょう

◆  □  ◆  □  ◆

 事実かどうかもわからないこの書き込みは、あちこちにコピペされることによりいつしかネットロアへと昇華した。
『鉄道模型を捨ててから、夫の様子がおかしい』という名の都市伝説が、いつ、どこで彼女に取り憑いたのかはわからない。
 ただ、彼女の現状を見るに、精神の奥深くまで侵蝕してしまっている。
 都市伝説と契約を交わした契約者が良く使う表現をするならば「飲まれかけて」いる。

 女に契約を解除させれば助かるかもしれない。
 だが、それは不可能だと男は考える。
 第一に、彼女と都市伝説の関係は契約ではなく憑依。
 彼女が暴走列車を召喚した時に彼女の目が反転して意識が途絶えたのは、自己を守ろうとする本能によるものだ。
 契約による拡大解釈以上の能力の発揮ではなく、憑依することによる強制的な拡大解釈。
 第二に、彼女は都市伝説と出会う前から狂っていた可能性が高い。
 少しずつ侵蝕されていたならば彼女の自我は完全に都市伝説に乗っ取られているはずである。
 第三に、都市伝説の侵蝕率が八割を越えている。
 いつ完全に飲まれてしまってもおかしくはない。
 辛うじて引き止めているのは、支離滅裂な言動の中で一貫して出てくる「あの人」こと彼女の夫のことが気になっているからだ。
 そして決定的な事項――彼には都市伝説を強制解除する手段がない。

「あノヒとはどこにいくノドこにいッタのかくさないでねエキイてルあのヒとをかエシてはやくはやくはやく」

 はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえして

 女の目がぐるりと一回転すると同時に再び音が聞こえてくる。
 レールも何もない住宅街を列車が暴走する音が。

 ――同時に、彼は動いていた。
 女の髪を掴み、右に引くことで上体を倒れかけさせ、右手で髪ごと頭部を、左手で顎を固定し、そのまま半回転。

 ごきり。

 不気味な、それでいて単純な音が聞こえた。
 暴走列車は不意に消え、女は力なく崩れ落ちた。

「……ひとりで勝手に死んだこと後悔させてやるって葬儀終わった時に言ったのはあんただろうが。なんで自分見失って化物に憑かれてんだ――莫迦が」

 数ヶ月前の葬儀で呆然自失となっていた彼女は葬儀が終わった翌々日、葬儀担当者だった彼が集金に訪れると笑顔を見せた。
 夫の身に何が起きたのかを理解した上で、彼女はようやく涙を見せ、そして最後に笑ったのだ。――泣きながら、哀しげに。
 彼女が何を考えていたのかはわからない。
 もしかすると、その時からすでに――全ては彼の想像の中でしかない。

「こういう仕事こそ〈組織〉の連中がやれよ」

 誰に聞かれることなく呟くと、その場を後にした。
 立ち去る直前、仲睦まじい夫婦の気配を感じたような気がしたが、無視を決め込んだ。
 明日もまた、葬儀屋の仕事が残っているのだ。


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