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連載 - CoA編 ~その名は~-01

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CoA編 ~その名は~


幕開け、酒場にて



星の数ほどの物語がある。

多くの者たちが知る物語もあれば

僅かな者にしか知られない物語もある。

だが、確かに物語は存在する。


確かに、人の数だけ物語がある。

確かに、視点の数だけ物語がある。

確かに、貴方の物語がここにある。


    Cup of Aeon


これは、確かに、貴方の物語。

 



酒、煙草、料理、香水、体臭
様々な臭いが混じりあい、混沌とした空間を作り上げていた。
酒場である。

そこかしこから聞こえる談笑や嬌声に混じり、静かな声で話す者たち。
この酒場は、密談には適していない。
彼らが声を潜めて話したところで、おそらく明日・明後日には
CoA の全ワールドに広まっている事だろう。
ただし、その会話が興味引かれるものであれば、という条件付きでの話だ。

「それにしても……貴様、大層な名を付けたものだな。」

騎士服らしきものを着た黒髪の男が、同じ服装をした金髪の男に話を振る。

「いや、これはその……ですが、そういう"フクちゃん"も随分ではないですか。」
「そうか?中々よいと思ったんだが……親しみやすいだろう?」
「名前だけならそうかもしれませんが……呼んでいて、どうにも落ち着かない。」
「貴様のことだ。どうせ、私にはこの名が似合わないとでも思っているのだろう。」
「いや……その様なことは……。」
「やはり、思っているのだな。ふん、貴様などは"ふっさん"とでも付けていれば良かったのだ。」
「ぷぷっ……"ふっさん"だって……なんかオヤジ臭いね。」

会話を隣で聞いていた茶色い髪の青年が、飲んでいた物を思わず吹き出す。

「テンもそう思うだろう?」
「似合うかどうかは別として、こっちとしては呼びやすくていいけどね。」

黒髪の騎士の問いかけに、テンと呼ばれた青年が肩を竦めると
その柔らかい色合いの髪からぴょんと突き出た毛束が揺れた。

「……そうか……そういう考え方もある。」

などと、金髪の騎士が深く頷く。

「……呼び名など区別がつけばいいじゃない。」

そう、ぼそりとつぶやいたのは、顔を黒い布で隠した者だった。
職はアサシンか忍者か……その類である事に間違いは無い。
その小さく華奢な体つきのアバターから、おそらくは女性と思われたが
もちろん、プレイヤーも女性とは限らない。
つまるところ、ゲーム上での見た目や性別に大した意味は無いと言えるのかもしれない。

「テンとJiLLがそう言うなら決まりだな。俺の事は以降、ふっさんと呼んでくれ。」
「そうだ、そうしておけ。」
「じゃあこれからは、ふっさんって呼ぶね。」
「そうね、そうしましょう。」

名もまた然り、大した意味は持たない。
本名ではないからだ。
この世界では皆、自分ではない自分を演じる。
互いに名を知っている仲であろうとも、本名で呼び合う事はまず無い。
これは基本であり、暗黙の了解だ。
また、キャラ付けの為に、普段使わない様な語尾を付ける事もある。
貴様や貴殿、ワシや拙者などど言い、気分を出したりする事もある。
これらは全て、オンラインゲームにおいては、よくある事例と言えた。

「話を戻しますが、フクちゃん。」

ふっさんが仕切りなおす。

「ん……そうだったな。」
「そっちに任せた件の進行状況はどう?」

テンが、ふっさんの言葉を継ぐ様に訊ねた。

「なぁに、問題ない。こういう事は得意でな。」
「あ~、確かに得意そう。」
「そうだな……俺も過去の経験から考えて、同意しか導き出せない。」
「そうね。」
「……おだてても何も出んぞ。」
「いや、もうフクちゃんからは装備とかお金とか色々もらったから。」
「ホントよね。何も返せないのが少し悔しいわ。」

JiLLの表情は黒い布に覆われて見えなかったが
言葉通り、確かに悔しいと感じているのだろう。
彼女はそういう人物だ。

「先ほどもここで話して確認したが、ふっさんの話は既にいくつかのポイントへと流してある。」
「ふむ……それで?」
「それで十分なのだよ。」
「う~ん……あ~……なるほど、そうかもね。」
「……だけど、ふっさん……あなた、一体何をするつもりなの?」

不安げにJiLLが訊ねる。

「何、心配は要らない。奥の手というやつだよ。」
「奥の手ねぇ……教えてよ。」

ふっさんの言葉に少し興味引かれ、少し訝しみ、テンが言葉をもらす。

「それは、言えないな。」

真剣な表情のふっさんに、今度は他の二人も興味を引かれた様だったが
その後も頑として口を割る事は無かった。

 



フクちゃんと別れた後、三人は当初から決まっていたそれぞれの役割を演じ始める。

「じゃ、そういう事で、こっちは街中を探索して情報収集してみるよ。」
「わかった、頼む。」
「それじゃあ、ふっさんと私はフィールドに出て探索しましょう。」
「よし。では、気をつけて行こう。」
「うん、ここは何が起こるか分からないからね。」
「ええ、十二分に注意を……テン、また後で。」
「うん、JiLLも気をつけてね。」

この先、待ち受けるは

幸福か、悲哀か

希望か、絶望か

生か、死か

今はまだ判らない。

だが、彼等の物語は、確かに幕を開けていたのである。



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