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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - CoA編 ~その名は~-02

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CoA編 ~その名は~


孤峰をゆく



酷烈な風と、峻烈な岩肌が、来る者を阻む。
そこには、ただ一つそびえる峰。

孤峰アグリナウン

「まだ、先は長いな……。」
「ふっさん、体調はどう?」

中腹においても自然回復を減弱させる程の熾烈な環境だ。
後に深刻な影響を及ぼす可能性もある。
JiLLの言葉に応えるかの様に、騎士は腰に吊るした三振りの剣のうち二振りを素早く抜いた。

構えられたそれは、両刃の長剣と短剣。
二振りは一対のものであると、その流麗な意匠から判る。
見事な西洋剣であった。
手に入れる為の対価は、決して安くはないであろう。

スラッシュ、ガード、スラスト、スラッシュと
矢継ぎ早に繰り出される二刀による攻防一体の剣技。

「俺は問題ないな。JiLLは?」
「問題ないわ……それにしても見事な剣技ね。」
「いや、右の長剣に対し、左のマインゴーシュが出遅れる。」
「仕方ないわよ。久々の二刀なのでしょう?」
「ああ、そうなるな。」
「守りを底上げするなら、盾でもいいんじゃないかしら?」
「盾は不得手でな。短剣の方が大分まし、といったところか。」


『マインゴーシュ』とは、フランス語で『左手用の短剣』という意味である。

中世において、鎧や盾は徐々に重量化し、その強固さを誇示していたが
銃の登場と共に廃れていくこととなる。
歩兵にとって鎧の重量が足枷となり、銃にとって格好の的となったからだ。
結果、銃から逃れる為に鎧は軽量化し、盾もまたその例に外れなかった。
そして盾の軽量化の発展形のひとつが『パリーイングダガー』と呼ばれる『受け流し用の短剣』である。
また、防御を重視した"短い得物"というものは、日本においても『十手』という形で発現しており
世界的に見ても、その有用性は認められていると考えてよいだろう。


「道具の減り具合も問題ないな……では、行くか。」
「ええ、行きましょう。」

見上げれば、高き頂。
曇天であれば雲を衝いていたであろうその威容に、知らず息を呑む。

黒髪の騎士との会合、探索開始からカウントして
ゲーム内時間では、既に2週間ほどの時が過ぎていた。

気を抜けば滑落しそうになる狭い道。
急に方向を変える風。
体温を奪う冷気。
体力を奪う急峻。

そんな厳しいフィールドを、二人は進む。
だが、彼等の気力は損なわれない。
決して。



雲ひとつ無い晴天。
この孤峰を踏破するには、またとない天候といえたが
それでも尚、過酷な道のりと言えた。

「?!」
「ん?」

見通しの良い開けた場所、比較的安全と思えるその場所で
休憩をとろうとした、その時だった。
雲ひとつない晴天であったはずだが、急に陰りが覆う。

「上よ!」

顔を上げ、異常に気付いたJiLLが鋭く声を響かせる。

巨大な翼を広げ、滑空するモノがそこにはあった。
急速に近づくそれは
鷲の頭に翼と前足、獅子の下半身を持つ伝説上の生物。

「鷲頭獅子(グリプス)か!」

グリプスには重要な役目が2つある。
1つめは、天上の神々の車を引くことであるが
2つめの役目は、財宝を狙う欲に目の眩んだ人間たちを処罰することであるとされる。

それはつまり、この孤峰アグリナウンには財宝が眠っているという証だった。

「こんなところで、お出ましとはねッ!」

辺りを見回すが、ただただ見通しの良い開けた場所である。

「これでは……逃げる場所がない。」

モンスターの接近がすぐに判ると思い、休憩に選ぶこととなったが
それが仇になってしまっていた。

白銀の鎧に身を包んだ金髪の騎士は、大小二振りの剣を抜き放ち、構える。
黒装束の女は、右手にクナイ、左手は腰の鞄へと添える。

一陣の風となって襲い来るグリプスの前足が目前となった時
女の手から既にクナイは無く
感情の無いかの様な、獲物を探す為だけに存在するかの様な、グリプスの左眼へと突き立っていた。

「おぉぉぉぉぉぉ!!」

蹴り出してくるグリプスの左足を避けながら、騎士は長剣で叩く様に斬りつけ
次いで、迫る胴体へと短剣をあてがう様にして、その表皮を裂く。
が、もがく様な羽ばたきが、その鋼の様な翼が、騎士の全身に打ち付けられ、吹き飛ばされる。

「ぐッ!」
「ふっさん!?」

鷲頭獅子は地へと叩き落され、倒れるも、怒りの鳴声をあげながら
翼を激しく羽ばたかせ、何枚もの羽──鋼の様な羽が、翼から鋭く放たれる。

「なッ?!」

立ち上がりながらも驚愕する騎士。
叫ぶ様な鳴声をあげるグリプス。

幾条ものきらめきが、騎士へと襲い掛かる。
鋭く息を吐き、眼に捉え切れぬ速度で、両手の指間に挟んだクナイ8本を投げ打つ女。
幾条ものきらめきが、騎士を守る。
投げられたクナイは24本。
その全てが、鋼の羽を打ち落とし、騎士を守っていた。

「すまんッ!」
「お礼は後で受けるわッ!」

危機を脱したとはいえ、相手は健在。
二手に別れ、両側に回り込む。

「こいつは何処を突けば倒せる?!」
「そんなの! 心臓を貫くか! 首を落とすかよ!」

声を張り上げ

「心臓か!……だが、鳥の胸板は厚いからなッ!……となれば!」
「首ねッ! でも、下からでは届かないわッ!」

巨体の突進をかわしながら

「……あの、グリプスの背へ上がれとでも?!……無茶を言う。」
「無茶は承知の上よッ!」

意思を伝えあう。

「……聞こえていたか。」
「ふっさんの声は、いつでも私に届いているわッ!」
「……そうか……よし、覚悟は出来た! いくぞッ!」
「左からよッ!」
「分かっているさッ!」

グリプスは左眼を貫かれている。
故に、左からならばチャンスはある。

突進し、蹴り脚をだすグリプスを見事な体捌きで身をかわすJiLL。
しばらくは、かわし続ける事が可能だろう。
だが、それでは戦いは終止しない。
騎士が動く。
グリプスに気付かれぬうちに、左の翼下へと潜り込み
その付け根、胴へと短剣を突き立てる。

騎士は、甲高い叫びをあげながら暴れるグリプスに突き立てた短剣へとぶら下がり振り回されるが
その揺れ、振り回される反動を利用し
まるで、鉄棒にでも回り上がるかの様にくるりと体を跳ね上げた。

翼の上へと脚を着き、次いで背へと移る。
長剣を逆手、両手持ちに構え

「はッ!!」

掛け声とともに、グリプスの首筋へと刃を深々と収めていた。
されど、騎士は止まらず、刺さったままの長剣を掴みつつも、背から勢いをつけて飛び降りる。
位置エネルギーは力に変換され、剣は肉を引き裂きながら時計の針の様に半円を描いていく。
どう、と倒れ地に伏せるグリプスから剣を抜き
止めの一撃を浴びせたところで、ようやく甲高い叫びが止んだ。

「無茶を通せたわね……。」
「ああ、何とかな。」

勝利の余韻に浸ることなく、二人は歩を進める。
見通しの良過ぎるこの場は危険だからだ。

「これでは、現実世界とは考え方を変えねば対処しきれないな。」
「そうね。」
「あの岩陰で休むとしよう。」

少し先に見える岩陰を指した騎士に、女は無言で頷く。
休みを摂ろうとしたその時に襲撃を受け、流石に疲労が出たのだろう。

「流石に手強かったな……怪我は無いか?」
「ええ。」
「そうか……無理はするな。」
「……ありがとう……でも、大丈夫。」

岩陰へと辿り着き座り込むと、携帯してきたポットから暖かいお茶を注ぎ二人で回し飲む。

「……いい香りだ。」
「ええ、この世界のお茶はとても品の良い香りがするわ。」
「雑味が無いというか……物足りないというわけでもないが……何といってよいのか……。」
「そうね……何だか少し、綺麗過ぎる気がするのよね。」

並んで座る二人。
騎士の肩へと女はそっと頭をのせ、眼を瞑る。

「悪い世界ではないな……。」
「ええ、悪くない……けど……」
「ん?」
「けどね……ここは私たちの居場所じゃない。」
「……そうだな……俺たちの居場所はここではない。」

風の音だけが唸る、少しだけの間。

「さ、もう行きましょう。」
「いいのか?」
「ええ、私はもう回復できたわ。」
「分かった、行こう。」

先ほどよりも、体が軽く感じる。
味だけでなく、回復効果もあるお茶が効いたのだろう。

立ち上がり、岩陰から出る。
そこから少し進むと断崖があった。
崖のふちへと近づき下界を見下ろす。

「これは……落ちたら死ぬわね。」
「気を付けろ、突風でも吹けば落ちかねない。」
「あら?……アレは……何かしら?」
「どうした?」

ゴツゴツとした岩肌の一部に、棚の様な出っ張りが見える。
風雨に削られたものとは違う、明らかに何者かによって手を加えられた形状だった。
鳥の巣の様に、大きな枝が組まれている。

「この遠近感から考えても、鳥の巣にしては大きいわね。」
「確かに大きいな……グリプスの巣なのではないか?」
「なるほど、そうかもしれないわ。」

グリプスは巣に財宝を隠し持つと言われている。
ならば、ここにもその財宝とやらがあるのかもしれない。
であればこそ、先ほどのグリプスも襲ってきたのだろう。

「何か動いたぞ?」
「そうね……犬?……いえ、翼があるわ……アレは、鳥?」
「人間くらいの大きさはあるな……。」
「まさか、雛!?」
「グリプスの雛だと?!……では、先ほどのアレは……」
「親鳥……という事になるわね。」
「……そうか……すまない事をしたな。」
「これは創られた世界だもの。あそこに来たプレイヤーを襲う様にプログラムされていたのよ。」
「そうだろうな……隠された財宝を守る為に……。」
「つまり……アレが宝ってことね。」
「ああ、おそらくな。」

沈鬱な空気が流れる。

「ゲームとは残酷なものだな。」
「そうね。」
「子供たちは、これをプレイして何かを得てくれるだろうか。」
「苦労してグリプスを倒しても、レアアイテムは手に入らなかったと、そう思う子もいるでしょうね。」
「寂しいことだな……」
「大丈夫よきっと、気付いてくれる子もいるわ。」
「己を強くしたり、高得点を出したりする事だけがゲームの楽しみ方ではない……」
「説明の無いシナリオの中に、自分なりの答えを……かしら?」
「ああ、そうあって欲しい。」

彼らは歩いていく。
感慨を胸に、覚悟を胸に。
高き頂を目指して。



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