誘拐と人食い 11
薄暗い下水道の奥深く
食料が潤沢な折に、肉を腐らせないように生きたまま保存しておくための檻がそこにはあった
「お前の契約している都市伝説を取り込めば、我々は地上で堂々と、だが誰にも見付からず咎められずに繁栄を謳歌できるのだ」
「……のーさんきゅー」
ぷいと顔を背けるπ-No.1
「つれない事を言うな、我が娘の一人よ。これから家族として我らに取り込まれるのであれば、過去の裏切りなど水に流してやろうではないか」
「ごーほーむー」
「ははは、ここが我らの家なのだがな? まあ今のところは引っ込むとしようか。お前の『インヴィジプル・ピンク・ユニコーン』を我らが一族に取り込む方策は既にあるのだからな」
満足げに笑いながら、牢を後にする『ソニー・ビーン』
残されたπ-No.1の周囲には常に子供達が座り込み、逃亡や救出に備えていた
さほど広くないこの空間、例え居場所を確認してテレポートの類で飛び込んできたとしても、少人数ではこの子供達を退ける事は出来ないだろう
π-No.1は傍らに佇む姿の見えないピンク色のユニコーンに、契約を解いて離れるよう念を送ってみたが
首を振って頬に鼻先を擦り付けてくる気配だけが返ってきた
彼女はこのユニコーンに取り込まれる事で『ソニー・ビーン一家』でありながら黒服として存在を維持している
その結びつきは強固であり、それを解くという事は彼女のほぼ全てをユニコーンに持っていかれるという事である
黒服が都市伝説存在を無理矢理引き離せば、その存在は消滅するだろう
もし、彼が
自分が囚われている事で『ソニー・ビーン一家』の殲滅作戦を躊躇うようであれば
己をこの世界から抹消する事で、その後押しをしなければいけない
「さーちあんどですとろーい」
π-No.1こと、ポーラ・フェニックス
『ソニー・ビーン一家』として名前の無かった彼女に、π-No.0が付けた名前
その名前を抱いて消えていけるのであれば、それだけで充分だと
静かに覚悟を決めていた
食料が潤沢な折に、肉を腐らせないように生きたまま保存しておくための檻がそこにはあった
「お前の契約している都市伝説を取り込めば、我々は地上で堂々と、だが誰にも見付からず咎められずに繁栄を謳歌できるのだ」
「……のーさんきゅー」
ぷいと顔を背けるπ-No.1
「つれない事を言うな、我が娘の一人よ。これから家族として我らに取り込まれるのであれば、過去の裏切りなど水に流してやろうではないか」
「ごーほーむー」
「ははは、ここが我らの家なのだがな? まあ今のところは引っ込むとしようか。お前の『インヴィジプル・ピンク・ユニコーン』を我らが一族に取り込む方策は既にあるのだからな」
満足げに笑いながら、牢を後にする『ソニー・ビーン』
残されたπ-No.1の周囲には常に子供達が座り込み、逃亡や救出に備えていた
さほど広くないこの空間、例え居場所を確認してテレポートの類で飛び込んできたとしても、少人数ではこの子供達を退ける事は出来ないだろう
π-No.1は傍らに佇む姿の見えないピンク色のユニコーンに、契約を解いて離れるよう念を送ってみたが
首を振って頬に鼻先を擦り付けてくる気配だけが返ってきた
彼女はこのユニコーンに取り込まれる事で『ソニー・ビーン一家』でありながら黒服として存在を維持している
その結びつきは強固であり、それを解くという事は彼女のほぼ全てをユニコーンに持っていかれるという事である
黒服が都市伝説存在を無理矢理引き離せば、その存在は消滅するだろう
もし、彼が
自分が囚われている事で『ソニー・ビーン一家』の殲滅作戦を躊躇うようであれば
己をこの世界から抹消する事で、その後押しをしなければいけない
「さーちあんどですとろーい」
π-No.1こと、ポーラ・フェニックス
『ソニー・ビーン一家』として名前の無かった彼女に、π-No.0が付けた名前
その名前を抱いて消えていけるのであれば、それだけで充分だと
静かに覚悟を決めていた
―――
「いやーまいったまいった。鼻がバカになるよね、下水道にずっと居ると」
汚水で汚れた服を着替え、いつもの黒服姿に戻ったπ-No.0
いつも傍らにいるはずのπ-No.1の姿が見えない事に、周囲の黒服は微妙な違和感を覚えていた
「あ、もしもし、僕でーす。例の契約者や都市伝説の手配どうにかなりそう? うん、できれば速攻で仕掛けるから」
『ソニー・ビーン一家』が下水道に潜んでいると判った時点で、彼らを全滅させる手として水責めを計画していた
直接対峙する事が無ければ、人数差を認識させず無敵能力を発揮させる事も無い
水を操る都市伝説や契約者の力で彼らの巣ごと水流で押し流し、死体も物資も生き残りもまとめて一箇所から排出して一網打尽にする
最悪でも家長の『ソニー・ビーン』さえこれで仕留められれば、これ以上増える事も統制の取れた襲撃をされる事も無くなる
「あいつもね、彼女ごと殲滅しに掛かってくるとは考えてないと思うから。できるだけ早く仕掛けたいからよろしく」
ぷつりと通話を切って、大きく溜息を吐く
「……ま、お互い覚悟の上だし。奴らを仕留められるだけ上々って事かな」
いつもなら、そこで一言可愛らしい声がついてくるのだが
『組織』内を行き交う黒服達の声や足音だけが、やけに耳につく
「一人って、やだね」
そう一言呟いて
π-No.0こと、ピーター・ペインは作戦を進めるべく活動を開始した
汚水で汚れた服を着替え、いつもの黒服姿に戻ったπ-No.0
いつも傍らにいるはずのπ-No.1の姿が見えない事に、周囲の黒服は微妙な違和感を覚えていた
「あ、もしもし、僕でーす。例の契約者や都市伝説の手配どうにかなりそう? うん、できれば速攻で仕掛けるから」
『ソニー・ビーン一家』が下水道に潜んでいると判った時点で、彼らを全滅させる手として水責めを計画していた
直接対峙する事が無ければ、人数差を認識させず無敵能力を発揮させる事も無い
水を操る都市伝説や契約者の力で彼らの巣ごと水流で押し流し、死体も物資も生き残りもまとめて一箇所から排出して一網打尽にする
最悪でも家長の『ソニー・ビーン』さえこれで仕留められれば、これ以上増える事も統制の取れた襲撃をされる事も無くなる
「あいつもね、彼女ごと殲滅しに掛かってくるとは考えてないと思うから。できるだけ早く仕掛けたいからよろしく」
ぷつりと通話を切って、大きく溜息を吐く
「……ま、お互い覚悟の上だし。奴らを仕留められるだけ上々って事かな」
いつもなら、そこで一言可愛らしい声がついてくるのだが
『組織』内を行き交う黒服達の声や足音だけが、やけに耳につく
「一人って、やだね」
そう一言呟いて
π-No.0こと、ピーター・ペインは作戦を進めるべく活動を開始した
―――
学校町と隣町の境にある、寂れた喫茶店
その奥の席に座るサロリアスと『人攫いサーカス』の団長の姿は、どう見ても闇金の取り立てと債権者といった雰囲気である
「奴は本当に来るのか?」
「そればかりはなんとも……横も縦も繋がりが希薄、それぞれ自己責任がうちの組織のモットーですんで」
ひっきりなしにハンカチで汗を拭いながら、へこへこと頭を下げる団長
「いやもう来てるんだけどね?」
隣の席で新聞を読んでいた青年が、ばさりと新聞を畳んで笑顔を浮かべる
「時間通りに来るとか、なんか悪っぽくないからさ」
「そんな理由で人を待たせるんじゃねぇ。またシメられたいのか」
「んー、それは恐いなぁ」
へらへらと笑いながら、がたりと席を立ってサロリアスの向かいに座り直す青年
「そこの彼も言ってるけど、うちの組織って自己責任なんだよね。電脳の二人組は入ったばっかりでお約束が伝わってなかったみたいだし、そこの彼は知ってて勝手にやっちゃったわけだし」
「仮にも結社を名乗ってんだ。管理責任はあるだろうが」
「そうは言われてもなぁ。別に代表とかいないし、うちの組織。この場にも、古株だからとりあえずぼくが顔出しただけだよ」
肩を竦ませ、やれやれといった調子で苦笑を浮かべる
「うちの組織を壊滅させたいなら好きにしたらいいさ。ぼくは逃げるけど」
「昔と変わらずやる気がこれっぽっちも無ぇな」
「ぼく、他人に全然興味とか無いから」
「一度くたばっとけ」
「やだ」
ぴりぴりとした殺気とゆるゆるとした気だるさがぶつかり合い、間に挟まれた団長は小さく縮こまっている
「まあ、アレだよね。ぼくらって基本的に悪い組織なわけだし。通知は改めてやるけど、聞かない奴がいなくても知らないよ?」
「その時は潰す。何をされても文句を言うなよ?」
「ぼくらのやってる事自体、文句も有無も言わせないしね。やらかしてるのがバレた奴に何されても文句は言わないよ」
そう言って青年は、ちらりと腕時計を見る
「銀行閉まっちゃうから、こんなとこでいい?」
「遅らせたのは手前ぇの都合だろうが。大体犯罪者が銀行に何の用だ」
「ぼく子供が学校町にいるんだよね。特に親らしい事はしてないけど生活費だけは入れてるんだ」
「人間の子か」
「うん、女の子。別に野垂れ死んでもいいんだけど、お金を使うアテがあるとやる気が出るから飼ってるの」
「攫ったのか?」
「んや、人間の女に産ませたの。ぼくと似た者夫婦で、子供とか全然興味なしで産むだけ産んだら仕事しにどっか行っちゃった」
「やっぱりロクでもねぇな、手前ぇらは」
「うん、よく言われる」
笑顔でそう答えて、伝票を持って席を立つ青年
「じゃ、銀行いってから帰るから。遅らせたお詫びにここの支払いは持っておくよ」
伝票をぴらぴらと振りながら会計に向かう青年を睨みながら、サロリアスは舌打ちする
「相変わらず食えねぇ奴だ……あいつの頭ん中はどうだった?」
「概ね言ったまんまっスね」
青年が座っていた更に向こうの席、いつもの黒服姿ではない上品なスーツ姿の梨々が眉を顰めながら呟いた
「通知をちゃんとやるってのも、子供の話も全部本当っス。何度覗いても嫌な精神構造してるっスよ、あいつ」
綺麗に整えられた髪をくしゃりと掻き回し、サングラスを掛けいつもの顔つきになりながら、梨々はサロリアスの隣に座る
「子供はほったらかしらしいっスけど、あれに育てられてないってだけでちょっとほっとするっス」
「どっちにしろ不憫なもんだがな。まともに育ってりゃ良いんだが」
その奥の席に座るサロリアスと『人攫いサーカス』の団長の姿は、どう見ても闇金の取り立てと債権者といった雰囲気である
「奴は本当に来るのか?」
「そればかりはなんとも……横も縦も繋がりが希薄、それぞれ自己責任がうちの組織のモットーですんで」
ひっきりなしにハンカチで汗を拭いながら、へこへこと頭を下げる団長
「いやもう来てるんだけどね?」
隣の席で新聞を読んでいた青年が、ばさりと新聞を畳んで笑顔を浮かべる
「時間通りに来るとか、なんか悪っぽくないからさ」
「そんな理由で人を待たせるんじゃねぇ。またシメられたいのか」
「んー、それは恐いなぁ」
へらへらと笑いながら、がたりと席を立ってサロリアスの向かいに座り直す青年
「そこの彼も言ってるけど、うちの組織って自己責任なんだよね。電脳の二人組は入ったばっかりでお約束が伝わってなかったみたいだし、そこの彼は知ってて勝手にやっちゃったわけだし」
「仮にも結社を名乗ってんだ。管理責任はあるだろうが」
「そうは言われてもなぁ。別に代表とかいないし、うちの組織。この場にも、古株だからとりあえずぼくが顔出しただけだよ」
肩を竦ませ、やれやれといった調子で苦笑を浮かべる
「うちの組織を壊滅させたいなら好きにしたらいいさ。ぼくは逃げるけど」
「昔と変わらずやる気がこれっぽっちも無ぇな」
「ぼく、他人に全然興味とか無いから」
「一度くたばっとけ」
「やだ」
ぴりぴりとした殺気とゆるゆるとした気だるさがぶつかり合い、間に挟まれた団長は小さく縮こまっている
「まあ、アレだよね。ぼくらって基本的に悪い組織なわけだし。通知は改めてやるけど、聞かない奴がいなくても知らないよ?」
「その時は潰す。何をされても文句を言うなよ?」
「ぼくらのやってる事自体、文句も有無も言わせないしね。やらかしてるのがバレた奴に何されても文句は言わないよ」
そう言って青年は、ちらりと腕時計を見る
「銀行閉まっちゃうから、こんなとこでいい?」
「遅らせたのは手前ぇの都合だろうが。大体犯罪者が銀行に何の用だ」
「ぼく子供が学校町にいるんだよね。特に親らしい事はしてないけど生活費だけは入れてるんだ」
「人間の子か」
「うん、女の子。別に野垂れ死んでもいいんだけど、お金を使うアテがあるとやる気が出るから飼ってるの」
「攫ったのか?」
「んや、人間の女に産ませたの。ぼくと似た者夫婦で、子供とか全然興味なしで産むだけ産んだら仕事しにどっか行っちゃった」
「やっぱりロクでもねぇな、手前ぇらは」
「うん、よく言われる」
笑顔でそう答えて、伝票を持って席を立つ青年
「じゃ、銀行いってから帰るから。遅らせたお詫びにここの支払いは持っておくよ」
伝票をぴらぴらと振りながら会計に向かう青年を睨みながら、サロリアスは舌打ちする
「相変わらず食えねぇ奴だ……あいつの頭ん中はどうだった?」
「概ね言ったまんまっスね」
青年が座っていた更に向こうの席、いつもの黒服姿ではない上品なスーツ姿の梨々が眉を顰めながら呟いた
「通知をちゃんとやるってのも、子供の話も全部本当っス。何度覗いても嫌な精神構造してるっスよ、あいつ」
綺麗に整えられた髪をくしゃりと掻き回し、サングラスを掛けいつもの顔つきになりながら、梨々はサロリアスの隣に座る
「子供はほったらかしらしいっスけど、あれに育てられてないってだけでちょっとほっとするっス」
「どっちにしろ不憫なもんだがな。まともに育ってりゃ良いんだが」