誘拐と人食い 10
「うわー、ここ本当に下水道?」
「ふぉーとれすー」
あちこちに築き上げられた廃材のバリケード
常備された人骨で作り上げられた武具
頭蓋骨製のランタンがあちこちに掲げられ、持ってきた懐中電灯は使う必要が無いほどだった
本来なら流れる汚水に浸かって歩かなければいけないのだろうが、彼らの生活圏はすのこ状の板が水よりもやや高い位置に渡されていた
「こりゃ増水時の対策とかもしてるかな? 相当強い能力者を見つけないと、あの作戦もやばいかも」
「ふぃふてぃーふぃふてぃー」
すのこ状の板張り床は、想像以上に音を響かせる
汚水を掻き分ける音と違い、誰かが歩いている事を明確に報せる構造となっているようだ
「僕らじゃなきゃ、速攻アウトだねこりゃ」
「でんじゃらすー」
携帯端末で地図を確認しながら、居住区の中心位置を目指すπ-No.0と1
途中、武器を提げて狩りに出ていく一団と擦れ違ったり、獲物を担いで戻ってきた一団に追い抜かれたりしながら
「生きてる人がいたら助けたりもしたんだけどねぇ」
「なむあみだぶつー」
彼らは効率的に作業を進めるために、仕留めた獲物はその場で解体する
運び込まれたものは大半が運搬しやすいサイズに加工されており、たまに混じる小柄なものも生存の可能性は全く無いものばかりだった
「さて……本命、『ソニー・ビーン一家』の家長の居場所を突き止めないとな。あいつを仕留め損なったら元の木阿弥だ」
「えんどれすー」
「また世界中を駆け巡って捜すのは大変だからね。君の為にも、ここで終わりにしなきゃ」
「はっぴーえんどー」
「うん、そうなるように頑張ろう」
そんな他愛も無い会話をしながら歩み続けた先に、明らかに生活感がある空間が広がっていた
通路よりも明らかに多くの明かりで照らされたやや開けた空間
吊るされた血の染みや裂け痕のある衣料品
様々な容器に詰め込まれた、塩漬けされた肉
剥ぎ取られた皮や搾り取られた油
武器に加工するために丁寧に付着物が削ぎ落とされた大量の人骨
積み上げられた、奪い取った金品や嗜好品が無造作に詰め込まれた箱
どこから換気しているのか、勢い良く炎が燃えるかまどが並び、その上には材料を知らなければ食欲をそそられる煮込み料理の鍋が並んでいた
食事の支度をしているのは、まだ幼い身体つきの少女達
身の丈に合わない大振りな肉切り包丁を振り回して一生懸命材料を加工し、大鍋の中身を掻き回し味を確かめては調味料を放り込んでいた
そんな微笑ましくもおぞましいお手伝いの光景を尻目に、二人は更に奥へと進む
武器を加工する者達
言葉の練習をする者達
衣服を繕う者達
次の狩りの方針を練る者達
一族を増やす営みを続ける者達
様々な光景を見送りながら、二人はやがて『ソニー・ビーン一家』の子供達すら近寄らない一角へと踏み込んだ
そこは一族の長、家長である『ソニー・ビーン』の居住区
一族の全てを知り、一族の全てを知らせる食人強盗団の首領
本来なら全盛期には壮年に差し掛かるはずのその男は、都市伝説と化した影響か青年と言っていいほどの若さを保っていた
何処から運び込んだのか上質なソファーに身を沈め、塩漬けの干し肉を食みながら優雅に読書に耽っていた
「うーん……この位置だと、ほぼ全域から仕掛けないと届かないな。そういう場所を自分の住処に選ぶ辺りは流石って事か」
地図と現在位置を確認し、改めて下水道大迷宮の全景を見ながら眉を顰めるπ-No.0
「戻って計算と人員確保だ。これだけ大規模な居住区ならそう簡単には動かないだろうけど、早めに行動しないと被害が増える」
「はりーあっぷー」
二人は踵を返し、来た道を足早に戻っていく
はずだった
「っ!?」
腕を引っ張られ、その場に引き倒されるπ-No.1
「気付かれた!? そんなはずは!」
「迂闊だったな。随分と隠れるのが上手くなったようだが……私には無意味だ」
その言葉も視線も、π-No.0には向けられていない
腕を掴んだπ-No.1にだけ向けられている
「よもやお前の方から出向いてくれるとはな。お前が得たその力には、とても興味があったのだよ」
くくっと喉を鳴らせて笑う『ソニー・ビーン』
すぐさま拳銃を抜くπ-No.0だが、それを見たπ-No.1が制するように首を振る
隠蔽・偽装能力が桁外れの二人だが、戦闘能力は人並み以下である
一撃で仕留める事ができなければ、殺人のプロである『ソニー・ビーン』は『認識できない敵がいる』と知り感知できずとも反撃してくる可能性が高い
「じぇのさいどー」
作戦は実行し、自分諸共この男を、この一族を倒せ
この機を逃せばまた姿を隠す
二人とも死ねば追う者が居なくなる
「ははは、何故に我々を憎む。お前が親しくしていた少年を喰った事か? 果実や花を贈ってきた若者を喰った事か? パンを与えてくれた夫婦を喰った事か?」
π-No.1は、怒りでも憎しみでもない、哀れみを込めた視線を『ソニー・ビーン』に向ける
「ふぃなーれー」
「終わりを求めるのか。我らの終わりは、男は八つ裂きにされ女は火炙りにされる皆殺し。それを求めるというのか」
未だ余裕の笑みを浮かべた『ソニー・ビーン』は、π-No.1の襟首を掴み嘲笑う
「終わらんよ。我が一族は増え続け、奪い続け、喰い続ける。それが世界の望んだ我らの存在よ」
今にも絞め殺しそうな勢いだったが、それ以上の力が加えられる事は無い
「殺しはせんし、喰いもせん。それが我ら唯一の縛りだからな」
『ソニー・ビーン一家』は、強盗、殺人、食肉加工の教育を施された一族ではあったが
決して
決して
家族を殺す事も喰う事も無かったという
「帰ってきたお前を歓迎しよう、都市伝説と化した我が一族の末姫よ。唯一肉を食わぬ一族の異端よ。私以外で唯一生き延びた『前』の家族よ!」
「ふぉーとれすー」
あちこちに築き上げられた廃材のバリケード
常備された人骨で作り上げられた武具
頭蓋骨製のランタンがあちこちに掲げられ、持ってきた懐中電灯は使う必要が無いほどだった
本来なら流れる汚水に浸かって歩かなければいけないのだろうが、彼らの生活圏はすのこ状の板が水よりもやや高い位置に渡されていた
「こりゃ増水時の対策とかもしてるかな? 相当強い能力者を見つけないと、あの作戦もやばいかも」
「ふぃふてぃーふぃふてぃー」
すのこ状の板張り床は、想像以上に音を響かせる
汚水を掻き分ける音と違い、誰かが歩いている事を明確に報せる構造となっているようだ
「僕らじゃなきゃ、速攻アウトだねこりゃ」
「でんじゃらすー」
携帯端末で地図を確認しながら、居住区の中心位置を目指すπ-No.0と1
途中、武器を提げて狩りに出ていく一団と擦れ違ったり、獲物を担いで戻ってきた一団に追い抜かれたりしながら
「生きてる人がいたら助けたりもしたんだけどねぇ」
「なむあみだぶつー」
彼らは効率的に作業を進めるために、仕留めた獲物はその場で解体する
運び込まれたものは大半が運搬しやすいサイズに加工されており、たまに混じる小柄なものも生存の可能性は全く無いものばかりだった
「さて……本命、『ソニー・ビーン一家』の家長の居場所を突き止めないとな。あいつを仕留め損なったら元の木阿弥だ」
「えんどれすー」
「また世界中を駆け巡って捜すのは大変だからね。君の為にも、ここで終わりにしなきゃ」
「はっぴーえんどー」
「うん、そうなるように頑張ろう」
そんな他愛も無い会話をしながら歩み続けた先に、明らかに生活感がある空間が広がっていた
通路よりも明らかに多くの明かりで照らされたやや開けた空間
吊るされた血の染みや裂け痕のある衣料品
様々な容器に詰め込まれた、塩漬けされた肉
剥ぎ取られた皮や搾り取られた油
武器に加工するために丁寧に付着物が削ぎ落とされた大量の人骨
積み上げられた、奪い取った金品や嗜好品が無造作に詰め込まれた箱
どこから換気しているのか、勢い良く炎が燃えるかまどが並び、その上には材料を知らなければ食欲をそそられる煮込み料理の鍋が並んでいた
食事の支度をしているのは、まだ幼い身体つきの少女達
身の丈に合わない大振りな肉切り包丁を振り回して一生懸命材料を加工し、大鍋の中身を掻き回し味を確かめては調味料を放り込んでいた
そんな微笑ましくもおぞましいお手伝いの光景を尻目に、二人は更に奥へと進む
武器を加工する者達
言葉の練習をする者達
衣服を繕う者達
次の狩りの方針を練る者達
一族を増やす営みを続ける者達
様々な光景を見送りながら、二人はやがて『ソニー・ビーン一家』の子供達すら近寄らない一角へと踏み込んだ
そこは一族の長、家長である『ソニー・ビーン』の居住区
一族の全てを知り、一族の全てを知らせる食人強盗団の首領
本来なら全盛期には壮年に差し掛かるはずのその男は、都市伝説と化した影響か青年と言っていいほどの若さを保っていた
何処から運び込んだのか上質なソファーに身を沈め、塩漬けの干し肉を食みながら優雅に読書に耽っていた
「うーん……この位置だと、ほぼ全域から仕掛けないと届かないな。そういう場所を自分の住処に選ぶ辺りは流石って事か」
地図と現在位置を確認し、改めて下水道大迷宮の全景を見ながら眉を顰めるπ-No.0
「戻って計算と人員確保だ。これだけ大規模な居住区ならそう簡単には動かないだろうけど、早めに行動しないと被害が増える」
「はりーあっぷー」
二人は踵を返し、来た道を足早に戻っていく
はずだった
「っ!?」
腕を引っ張られ、その場に引き倒されるπ-No.1
「気付かれた!? そんなはずは!」
「迂闊だったな。随分と隠れるのが上手くなったようだが……私には無意味だ」
その言葉も視線も、π-No.0には向けられていない
腕を掴んだπ-No.1にだけ向けられている
「よもやお前の方から出向いてくれるとはな。お前が得たその力には、とても興味があったのだよ」
くくっと喉を鳴らせて笑う『ソニー・ビーン』
すぐさま拳銃を抜くπ-No.0だが、それを見たπ-No.1が制するように首を振る
隠蔽・偽装能力が桁外れの二人だが、戦闘能力は人並み以下である
一撃で仕留める事ができなければ、殺人のプロである『ソニー・ビーン』は『認識できない敵がいる』と知り感知できずとも反撃してくる可能性が高い
「じぇのさいどー」
作戦は実行し、自分諸共この男を、この一族を倒せ
この機を逃せばまた姿を隠す
二人とも死ねば追う者が居なくなる
「ははは、何故に我々を憎む。お前が親しくしていた少年を喰った事か? 果実や花を贈ってきた若者を喰った事か? パンを与えてくれた夫婦を喰った事か?」
π-No.1は、怒りでも憎しみでもない、哀れみを込めた視線を『ソニー・ビーン』に向ける
「ふぃなーれー」
「終わりを求めるのか。我らの終わりは、男は八つ裂きにされ女は火炙りにされる皆殺し。それを求めるというのか」
未だ余裕の笑みを浮かべた『ソニー・ビーン』は、π-No.1の襟首を掴み嘲笑う
「終わらんよ。我が一族は増え続け、奪い続け、喰い続ける。それが世界の望んだ我らの存在よ」
今にも絞め殺しそうな勢いだったが、それ以上の力が加えられる事は無い
「殺しはせんし、喰いもせん。それが我ら唯一の縛りだからな」
『ソニー・ビーン一家』は、強盗、殺人、食肉加工の教育を施された一族ではあったが
決して
決して
家族を殺す事も喰う事も無かったという
「帰ってきたお前を歓迎しよう、都市伝説と化した我が一族の末姫よ。唯一肉を食わぬ一族の異端よ。私以外で唯一生き延びた『前』の家族よ!」