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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-22

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 泥だらけで現れた由実を見て、ウィリアムは片眉を上げた。
「おや、そちらには≪ヨーウィー≫を遣っていたはずなのだがね」
「叩き潰してやったわよ」
「ほう……? ≪フィラデルフィア計画≫以外にも何かと契約しているのかね?」
 問いかけに、由実は≪ヨーウィー≫に殴られた腹を抑えながら首を振った。
「いいえ、これ以上の契約は私が呑まれるわ。――だから」
 由実はウィリアムを睨みつけた。
「こうしたのよ!」
 次の瞬間、上空に出現した≪フィラデルフィア計画≫の鉄箱が、轟音と共にウィリアムが居る位置へと落下した。
 ウィリアムがどうなったのかを確認する事無く、由実はモニカの許へと走る。
 由実の動向を確認した≪ブギーマン≫が人質にとるようにモニカの首に不定形の腕をあてがうが、由実は構わず突き進んだ。
 彼等がモニカを追ってここまで来たのなら、こんなところでモニカを使い捨てになんかしないはず……っ!
 反応は数歩を進むまでもなく現れた。
 走るのをを止めない事を確認した≪ブギーマン≫が、モニカを放り出して由実へと跳びかかって来たのだ。
 やっぱり――!
 冷たい汗を内心かきながら思惑通りに進んだ事に安堵を得、由実は能力を行使する。
 ≪フィラデルフィア計画≫の鉄箱が≪ブギーマン≫二体の眼前に現れた。
「転移しなさい!」
 由実の命令と共に≪フィラデルフィア計画≫の鉄箱は空中で再転位を開始した。
 鉄箱を光が包み込む。
 ≪フィラデルフィア計画≫。その都市伝説では、転移時に現れた発光体に包まれた者は体が燃え上がり、あるいは凍て付き、あるいは船に体が溶け込み、あるいは精神に異常をきたしたという。
 ――そう、鉄の隔壁に守られた技術者以外は。
 鉄箱の発光体に巻き込まれた≪ブギーマン≫二体は、鉄箱の転移に取り残され、地面へとへばりつくようなかたちで同化した。
 醜悪な鳴き声を上げてもがいている彼等を踏みつぶし、由実はモニカに駆けよる。
「モニカ、大丈夫?」
 モニカを抱き締める。小さな体は震えと共に涙ぐんだ声を寄越した。
「フィラちゃん……ごめんなさい。扉、あけちゃった……でも、お父さんとお母さんが……」
「ええ、わかってるわ」
 モニカを抱き締めたまま、由実はモニカの言葉から事態を了解する。≪ブギーマン≫――姿を変化させることのできる都市伝説を使ってモニカをおびき寄せたのだろう。
 モニカの発言から察するに、おそらくは彼女が最も心を許すだろう両親の姿へと。
 最っ悪っ……!
 腕の中で泣くモニカを宥めていると、背後から声がかかった。
「そのようにしてワタシの自信作の≪ヨーウィー≫を倒したのか。≪フィラデルフィア計画≫、土と同化した≪ブギーマン≫が即死していないあたりはやはり興味深いね……しかしワタシは今その娘にぞっこんでね、君には渡せないよ」
「……ッ」
 生きていた……ッ!
 鉄箱を避けたのか、外傷なども一切なく、余裕の態度も崩さないウィリアムに、由実は舌打ちして次の動作を考える。
 彼女の≪フィラデルフィア計画≫は初動が遅い。不意打ちでなければ戦闘の心得のある者にはまず当てる事は出来ない。そうでなくとも、由実には≪ヨーウィー≫との戦闘で負った傷があるのだ。集中力も体力も全てが落ちている。
 あの男に戦う事に適した力があるのなら、戦うのは避けてなんとかして逃げないと……。
 牽制として≪フィラデルフィア計画≫の鉄箱を眼前へと展開しながら必死に逃げる算段をしている由実に、怖気を感じさせるような不気味な笑みでウィリアムは微笑みかける。
「今の鉄箱の落下、落ちてくる時に木の枝に当たって音を立てていなければ、ワタシはただでは済まなかっただろうね。ワタシには戦う力はないのだよ。だから」
 そう言ってウィリアムは口許を更に歪めた。
 由実はウィリアムの言葉の真偽を忖度しようとして、唐突に襲ってきた体を貫く衝撃に膝をついた。
「――ッ!?」
 何が起こったのか分からないままに、腕をついて体を支えようとして、体が痛みに引き攣って動かず、地面に倒れる。
 ウィリアムはそれを見下ろして呟いた。
「――だから、周りに気を配った方が良い」
 いつの間にか、山中に溶け込むような服装をした兵士の群れに、由実達は取り囲まれていた。


            ●


 っ……しまった……!
 辛うじて顔を上げた由実の視界の中には、いまや10を超える兵士がいた。全員銃器で武装してこちらに銃口を向けている。
「フィラちゃん!」
 縋りついてくるモニカへ大丈夫と答えようとして、喉がショックで干上がり口が満足に動かないのを悟る。
 感覚はマヒしていて傷みはあまり感じないが、そのせいで怪我の程度が把握できない。
 ……ッ!
 自身の身体の状態に焦りを抱えながら、由実は≪フィラデルフィア計画≫を発動して兵士が居る所へと鉄箱を呼び出した。
 出現した鉄箱の落下は兵士の跳躍一つで避けられ、続いて展開した鉄箱から発される光からも逃れられる。
 兵士が着地しざまに銃を構えた。
 由実は鉄箱を即座に立方体に組み直して壁にしようと鉄箱に指示を出す。
 展開した鉄が再び箱の形を取り戻すかどうかというところで銃声が轟いた。
 間に合った……ッ!
 そう思った次の瞬間、鉄箱をめがけて飛んでいた筈の銃弾は由実の腕を貫いた。
「――ッ!?」
 周りの他の兵士に撃たれたのかと視線を巡らせるが、どの兵士の銃からも硝煙は立ち昇っていない。
 どう、いう……?
 傷みのあまり集中力が途切れ、≪フィラデルフィア計画≫の鉄箱が由実の管理下を離れて消失した。
 鉄箱が消え去った先では、硝煙の立ち昇る銃を構えた兵士が笑みを浮かべている。
 鉄箱を迂回するような不可思議な弾道で弾が飛んできたとでもいうのだろうか? 
 その疑問を吟味する事が出来ない程、穿たれた腕から這い登り、全身を蝕み始めた痛みに由実は意識を焼かれた。
 それでも必死に挑みかかるようにウィリアムを睨みつけていると、ウィリアムは肩をすくめて兵士達を示した。
「弾道の操作、念動力……超能力部隊という奴だ。けっこうな数を連れて来ていたのだけど、随分と数が減っているようだね」
「≪組織≫、T№0の禁軍が数体いまして、削られました」
「そうかね……やはり本物にはなかなか勝てないものだね。君達はそれでも≪731部隊の実験データ≫や≪ナチス・ドイツの生体実験データ≫を参考に改良したなかなかの自信作なのだが……」
 兵士の返答にウィリアムはそう呟いて、まあいいやと息を吐いた。
「目的は果たせているのだから及第点だよ」
 ウィリアムが手を挙げると、それに応えるように兵士の持つ銃がその先を由実に向けた。
 由実はせめて一矢報いようと≪フィラデルフィア計画≫を発動させようとするが、痛みに集中力をかき乱された今の彼女に能力を発動させる事はできない。
 っく……、このっ……。
 悔しさに歯噛みし、せめてモニカだけでも逃がそうと考えていると、目の前に影が刺した。
 モニカが由実の前に、両手を広げて庇うように立ったのだ。
 彼女は悲鳴に近い声で言い放つ。
「わたしが……わたしが行けば、おじさんたちは満足なんでしょ!? フィラちゃんは撃たないでっ!」
 だ……め……。
 言葉は掠れ、口を介して外に発される事は無い。由実は制止の言葉の代わりに、先程撃たれていない方の腕を必死に伸ばしてモニカの足を掴もうとする。しかしいつの間にかもう片方の腕も撃たれていたのか、力が入らず、ただ血が抜けていく冷たい感覚があった。
「……モニ、カ」
 辛うじて発された言葉にも、モニカは振り向かない。
 そのモニカを興味深げに眺めていたウィリアムは、やがて挙げていた手をゆっくりと下ろした。
「ウィリアム様、よろしいので?」
「構わないよ」
 兵士にそう答えてウィリアムは気分よさげに放言する。
「いいだろう。モニカ嬢さえ手に入ればワタシとしては言う事は無い。この場所もテッシンの禁軍がいた事を思えば悟られているだろう、長居は無用だ。
 モニカ嬢、君が大人しくしていてくれるのなら≪フィラデルフィア計画≫の契約者については見逃そう。助けもすぐに来るだろうから、彼女はここに放置して行く。ただし、君が自殺なんてしようものなら彼女は死ぬよりもひどい目に遭う事になるから気を付けるようにしておくといい」
 モニカは無言で頷いて、ウィリアムの元へと歩いて行く。その身体は微かな震えを帯びていた。
 ……だ、め……。
 土を掻きながらの由実の呻き声は、明確な音になっていない。体の節々に空いた銃創から血液と共に力が抜けていく。
 その様子にモニカが振り返った。
 長い金の髪が揺れて彼女の表情を半ば隠し、
「ごめんなさい……わたしの、わたしのせいだから……」
 零れた言葉はひどく揺れを帯びていた。
 その言葉を最後に、いくつもの気配が遠のいていく。
 ……だれ、か…………。
 由実の意識はそのまま闇へと落下して行った。





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