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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん、エピローグに至るまで-神智学協会-23

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 目を覚まして最初に飛び込んできた木目の天井。その知らない天井をぼんやりと見上げて、頭が半ば眠っている状態の由実は疑問を抱いた。
 ……ここは?
 自分達が隠れている、≪首塚≫保有の小屋の中ではない。自分は何をしていたのだろうと薄い靄がかかった頭で考える。
 ……たしか、モニカを連れて小屋に隠れて、備蓄が尽きたから買い物に行って……その帰りに襲われて――――!
 そこまで思考が辿りついたところで、由実は全てを思い出した。身に迫る危機感に一息に覚醒した彼女は体を起こし、
 ――ッ!?
 体の各所に走った痛みに顔をしかめた。
 ……そうだ、私は撃たれて。
「……っ」
 体を屈折させて傷みをやり過ごしていると、横合いから心配そうな声が飛んできた。
「フィラちゃん大丈夫か?! ――リカちゃん、Tさん達呼んできてくれ!」
「分かったの」
 リカちゃんを使いにやった舞が身を折る由実の体を支えてくれた。
 どうも今までベッドに寝かされていたらしい。舞が居た所に丸椅子が置いてある所をみるに、彼女はずっとついていてくれたようだ。
「ここは?」
「徹心のおっちゃんのとこのコテージの中。フィラちゃんが山の中でぶっ倒れてたの見つけてここに運んだんだ。大変だったんだぜ? 弾を取り出したりTさんの治癒能力使ったりさ。まだあれから半日しか経ってねえんだし、怪我も微妙に治りかけなんだから無理すんなよ?」
 そこまで言った舞に、由実は周囲を見回しながら問いかける。
「……モニカは?」
 急いた語調の問いかけに、舞は顔を伏せて首を左右に振った。
「ごめん、わかんねえ……小屋の中も調べてみたんだけど誰もいなくてさ……」
 申し訳なさそうに言う舞に、由実は慌てて取り繕った。
「いえ、ごめんなさいね……私が、全て憶えてるわ……」
 モニカは由実を助ける為に白衣の男に身を差し出してくれたのだ。それらを完全に覚めた頭で思い出しながら、由実は額に手を当ててうなだれる。
 危ないって理解していた筈なのに……まんまと連れていかれてしまった……。
 しかも由実自身が至らないばかりにだ。
 暗澹たる気分で俯く。
「……モニカを連れていかれてしまったわ」
「モニカも心配だけどフィラちゃんも心配だよ。大丈夫か?」
「ええ……大丈夫よ」
 答えて由実は顔を上げた。そう、いつまでも悔やんでばかりもいられない。早くモニカを取り戻す為に動きださなければ。
 そう思って由実は口を開く。
「徹心さんのコテージの中ということは、徹心さん達は近くに居るのね? 悪いけど、呼んできてもらえるかしら?」
「呼ばれるまでなく来てしまったわけだが……」
 リカちゃんを伴って現れたTさんを見て、由実は体の痛みを身を折ってこらえながら、ぎこちなく笑った。
「流石は寺生まれね……話したい事があるの、聞いてもらえるかしら?」
 Tさんはただ頷いた。


            ●


 Tさんの後を追うようにして現れた千勢とケウ、それに徹心の姿を確認した由実は、モニカが異形と超能力部隊を率いる白衣の男によって連れていかれてしまった流れを詳細に説明した。
「……モニカの両親の事を知っていたようだからたぶんあの白衣の男も≪神智学協会≫の人間ね」
 そこまで語り、由実は面を下げた。
 小さく呟く。
「ごめんなさい、私の見通しが甘かったんだわ……」
「僕がもう少し多くの護衛をつけておけばよかったんだ。藤宮君、君は気にしなくていい」
 気遣うような徹心に、でも、と由実が返しかけ、それを千勢が遮った。
「過ぎてしまった事だ。それを言えば私もこんなに早く発見はされないだろうと高を括っていた。責任は私にもある。皆が悪い。それでこの件は手打ちだ。
 今はモニカをどう救出するかについて考えよう」
「ええ……」
 力無く頷き、由実は千勢の発言にはっとした。
 モニカを救出する。という事は――、
「≪神智学協会≫の本拠地を割り出せたの?」
 たしか≪神智学協会≫は幽霊船系都市伝説を本拠地とし、念入りにその姿を隠しているという話だった筈だ。それを見つける事が出来たのだろうか。そう思っての問いには否定が返ってきた。
「いや、船を見つける手段は今の所残念ながら無い」
 しかし、とTさんの言葉は続く。
「モニカはおそらく≪神智学協会≫の本拠地には連れて行かれてはいない」
「…どういうこと?」
 あの白衣の男は≪神智学協会≫の人間ではなかったのだろうか?
 疑義を抱いた由実に、Tさんはそうだな、と前置きして説明を始めた。
「お前達が襲撃を受けていた時、俺達も≪神智学協会≫側からの攻撃を受けた。相手は≪テンプル騎士団≫のユーグ、曰くのある武具を幾つも携帯していた秋月弘蔵という総髪の男、そして、≪デリーの鉄柱≫を所持しているエレナ・サヴァレーゼという女の三人だった」
「そいつらとTさんと千勢姉ちゃんが戦ってたんだけどさ、途中でこっちにモニカが居ないって気づいたらいきなり……えーっと、なんて言ったっけ?」
「ウィリアムだな」
 Tさんが出した名に舞はそうそう、と頷いた。
「そのウィリアムとか言う奴に嵌められたとか何とか言ってすぐに撤退しちまいやがったんだ」
「ウィリアム……ですって?」
 体に走る痛みを無視して由実は身を乗り出した。話を聞きがてら治療をしていたTさんが、落ち着け、と窘める。
「どうしたんだフィラちゃん?」
 ベッドに寝かせかけてくる舞へ、由実は口を開く。
「モニカを連れて行った奴らのリーダー、そいつの名前がウィリアムだったわ」
 千勢の目が鋭く細まる。
「……外見を聞いてもいいか?」
「ええ、少し濃い肌をした外人だった……白衣を着てて、いやに嫌気を誘う雰囲気の男だったわ」
「なるほど、そいつがウィリアムか。よくある名前ではあるが、この局面で出てくるのなら、おそらく彼がそうなのだろう」
「知っているの?」
 千勢は頷く。
「フィラちゃんも徹心が作った書類は見たな? ≪神智学協会≫研究班の長の名、それがウィリアム。ウィリアム・ウェッブだ」
「あ……」
 思い出した。ウィリアム・ウェッブ、≪神智学協会≫の研究班の長の名前、そう書類にはまとめられていた。
 なんですぐに思い出せなかったのよ……。
 相手は所詮研究者、分かりやすい脅威である≪冬将軍≫達、オルコットの側近の情報に目を取られていたのだ。
 まったく……。
 つくづく自分にうんざりする。由実が軽い自己嫌悪を募らせていると、疑問が一つ生まれた。
「……嵌められたってことは、オルコット達とウィリアムは仲違いしているってことなの?」
 元々≪神智学協会≫はいくつもの派閥を有する巨大組織だった。それをオルコットが内紛を起こし、他勢力を叩き潰した結果が今の状態のはずだ。そこまでしておいて何故未だに彼等は内部に争いの種を抱えているのだろうか。その疑問の投げかけには、
「おそらくはそうだろう。ユーグ達は本気で焦りを見せているようだった。内紛以後、彼等の中で新たな利害関係が生まれてウィリアムが離反した、という可能性もあるが……」
 そう応じたTさんが促すように徹心に目をやった。彼はうん、と応え、
「オルコットが手元に裏切る可能性がある者を置いているというのもおかしな話だ。そこまであの男は迂闊じゃない、少なくとも僕が知っている限りにおいてはね。
 たぶん、ウィリアムという男は裏切りのリスクを負ってでも必要な人材だったんじゃないかと、僕は思っている」
「研究班の長、それに先のフィラちゃんの話からすると人体改造についても詳しそうだ……利用し、利用されという関係だったのかもしれないな」
 千勢の予想に由実はうすら寒いものを感じた。
 人体改造に詳しい、そのような人間がモニカを攫っていったのだ。それにあの男はモニカに異常に興味を抱いているようではなかっただろうか。
 事態は急を要している。その思いにとらわれながら由実は尋ねた。
「それで、そのウィリアムの居場所は分かるの?」
「いや……しかし、ウィリアムはこの街を出てはいない」
 Tさんはそう言って徹心へと再度目配せした。
「そうなの?」
 Tさんにならって由実も顔を向ける。徹心は頷くと、
「この街はいま僕の都市伝説を外周部に配備して密かに閉鎖している。誰だろうと僕達の目を逃れて街の外へと逃げる事は出来ない。転移系の都市伝説を保有している場合は話が変わるけど、今回の襲撃でそれを使ってこなかった所を見ると彼等には――オルコットにもウィリアムにも部隊単位を移動できる転移系の都市伝説の用意は無いらしい」
 ならば、と徹心は結論を告げる。
「現在ウィリアムは永取市内に居る」
「じゃあ……」
「今はいくつかの候補を絞れているだけだ。ウィリアムがいる場所の確証を得られるまでは下手に動く事はしないほうがいい。自身に近付く追跡者達の足音を聞いて、ウィリアムがどのような行動にでるのか分からないんだからね」
 急いた口調に対する徹心の諭すような言葉に、由実は渋々と頷いた。
「つってもさ、急いでウィリアムとかいう奴の居場所見つけねえとやばいんだよな。オルコット達って探したい物を探す都市伝説持ってんだろ? 急がねえとモニカが向こうに連れてかれちまう」
 その舞の発言を周囲が首肯する。
 やっぱりそうなのね……。
 由実もまた舞の言葉に納得を得ていた。
 探索を行うことのできる都市伝説がなければ、最初に≪神智学協会≫のメンバーと接触した学校町を離れ、この永取市に潜んでいたTさん達を見つける事は不可能だったろう。それだけではない。
「≪首塚≫に匿われていたモニカをそもそも発見出来た事、その後、死霊を祓ったにも関わらず公園の場所を突きとめられた事、そして今回、永取市の、それも隠れ家に潜んでいた藤宮由実達を発見出来た事。――≪神智学協会≫は優秀な探知器を所持していると見ていいだろう」
「たんちき? お兄ちゃん、どういうものなの?」
「そりゃやっぱり……≪コックリさん≫とかか?」
「欧風だと≪ヴィジャ盤≫というものもあるな」
 舞と千勢が挙げた都市伝説を聞いて、由実は今自分が徹心の異界内に居る意味を悟った。
「だから徹心さんの異界にいるのね」
 落ち着いて治療に専念するために、相手からの探査を避けることのできる異界に避難したのだろう。
「空間を挟めばたいていの占術系も、探査系の都市伝説も回避できるからね。特に僕のはそういう能力を避けるにはもってこいだ」
 応じた徹心の言葉に、由実は自嘲の笑みを浮かべた。
「やっぱりあなた達の言う通りに庇護を受けておけばよかったわね……」
 後悔はしばらく消えそうも無い。ともすれば卑屈になってしまいそうな心をモニカをなんとしても救出するという意思でなんとか維持する。
 そんな由実に千勢が問いかけてきた。
「フィラちゃん、モニカに取りつけられていた発信機の受信機は今も持っているか?」
「ええ」
 応えて傍にかけられていた血濡れのコートのポケットを示す。舞が「ごめんな」と断って探り、取りだされた受信機は、
「あれ……? 千勢姉ちゃん、動いてないぜ?」
「む、壊れてしまったのか?」
 眉をひそめた千勢に徹心がいや、と首を振った。
「モニカとその両親が≪神智学協会≫から逃亡してきた時も無事だったそれが簡単に壊れるとも思えない……その受信機やモニカ君の中の機械を作ったのはウィリアム、もしくは設計図をウィリアムが手に入れているんじゃないかな? 作った本人にならその受信機を無力化させることもできると思う」
「そう……」
 モニカの両親が作ったわけではないのかもしれないという事実に少し安堵する自分を自覚して由実は口許を笑みの形に歪めた。
 ……まったく、結局この機械でモニカを見つける事は出来ないって知っただけなのに……。
 由実は役に立たない機械を受け取り、それを自身の手でゴミ箱に放り込むと徹心に訊ねた。
「ウィリアムがどう隠れても、オルコット達に見つけられる可能性は高いのね?」
「うん、時間がどのくらいかかるのかは僕には分からないけど、君達の事例を考えるとそう時間はかからないんじゃないかと思う」
「それを知っている筈のウィリアムはどうして危険を冒そうとしているのかしら?」
「それほどにモニカに価値が有るのか、ウィリアム側に戦力が揃っているのか……いずれにしても急がねばならん事に変わりは無い」
「どうやってモニカお姉ちゃんをさがすの? 千勢お姉ちゃん」
 そう問いかけたリカちゃんに続くように、唸りながら舞が聞いた。
「リカちゃんの≪ひとりかくれんぼ≫か≪電話をかけるリカちゃん人形≫の力で探せないのか?」
「む、むりなの……お姉ちゃん」
「そうか……うおっと、そんなに落ち込むなよリカちゃん」
 気落ちした様子のリカちゃんを舞が抱いてあやす。その様子に薄く笑みを浮かべながらTさんが訊ねる。
「街は包囲しているのだったな……その包囲の範囲を狭めてしらみつぶしに探していくという事はできるのか?」
「無理だ。これ以上包囲を狭めれば街中に兵を降ろさなければならなくなる。僕の使役する兵は普通の人とは少し違うから、街の人達に見つかればパニックになるよ。そうなったら混乱の内にウィリアムに逃げられかねない」
「では、範囲内の怪しい箇所を俺達が足で探すしかないか」
「そんな……」
 それだとどれだけの時間がかかってしまうのか分からない。どうにか他に手は無いものかと皆が考えを巡らせていると、徹心が再びTさんの言葉を否定した。
「いや、この街の事ならば僕に地の利がある」
 そう言って彼は一同を見回した。
「皆、少し頼まれてくれるかな?」



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