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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - プレダトリー・カウアード-24

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uranaishi

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プレダトリー・カウアード 日常編 24



 廃工場の一角、出口付近に彼はいた。
 鉄パイプによって鼻を圧し折られた彼に、つい数分前までの悠然とした雰囲気は欠片も無い。
 今は怒りでその顔を醜く歪め、鉄パイプの投擲者たる瑞樹を睨んでいる。
 対する彼女は悠々たる足取りで彼へと進み、尊大とも取れる微笑を湛えていた。
 その笑みが彼の敵愾心を煽る。
 彼には被って見えるのだ。彼女の笑いが、あの吸血鬼のそれと。

「――――――お前は、契約者か」
「いいや、違う」

 憎しみのままに疑問を吐き捨てた彼に、瑞樹は短く答える。
 そうか、と彼は呟いて、より一層の憎悪を湧き上がらせた。

「ただの人間風情が俺に勝てると、本気でそう思うのか?」
「勝てるさ」

 彼女の顔に不安の色は無い。
 本気で、勝利に対し一縷の不審すら抱かずに、瑞樹は彼へと近づいた。
 一歩、また一歩と進む彼女を前に、彼の身体が震える。
 ――恐怖ではなく、怒りで。

「生憎と、銀の弾も木の杭も持ってはいないが――――」

 瑞樹が止まる。
 両者の感覚は約十メートル。
 常人にはまだ遠いと形容できるそれも、吸血鬼と彼女の前では無いも同然。
 場の緊張は高まるばかり。
 きっかけ一つ。僅かな動きで全てが始まる、その距離で

「首でも千切れば、死ぬだろう?」

 ――――瑞樹は引き金を、引いた。

 先に動いたのは又も吸血鬼。
 ただの一歩で間合いを詰めて、腕を脇へと引き絞り、彼は拳を打ち放つ。
 彼は武道を学ばなかった。
 第二の生のその全てを、彼は身体の鍛錬にのみ費やした。
 彼にあるのは技術でなく惟ひたすらの力と速さ。
 故に放つはフェイントすらない渾身の右ストレート。
 一芸特化したその拳は、けれど彼女には届かない。
 腰を落とし重心は左後ろへ。心の臓へと向かう拳へと瑞樹は掌を沿わせる。
 拳の威力を受け切れる程、彼女の身体は強くない。
 だからただ逸らすだけ。
 沿い合わされた掌は、流れそのまま向きを外へと受け変える。
 拳が緩やかにカーブを描いた。
 威力は死なず、そのまま拳は宙を切る。

 受けも止められもしなかった拳打の勢いは彼を釣り、吸血鬼が前方へと傾ぐ。
 がら空きになった胴へと瑞樹が膝突きを放つも、吸血鬼は強引に左足で前進の威力を相殺後、それを軸に身体を半転。今度は彼女が空を裂く。
 吸血鬼の両足が着地する。一度重心を右へ移して左足での踏み込み、それを再度軸にした回し蹴りが瑞樹を襲う。
 背後からの急襲に反応が遅れる。外れた膝は折り曲げたまま右足を地へ、重心をそこへ移し姿勢を低く足を避ける。
 一房の髪が宙を舞い、吸血鬼の蹴りが彼女を掠った。
 体勢不利を悟った瑞樹は、右足で地を蹴って、一歩後方へと下がる。
 逃すまいと拳が飛ぶが、初手同様、弧を描く掌に流され拳は彼女を捕えない。

 舌打ちをして吸血鬼は前傾姿勢に、ボクサースタイルで瑞樹へと肉迫する。
 散らす拳はどれもが必殺。黒い残像を残して翔けるそれらは、人の視覚を掻い潜り、見えぬ拳打と化して瑞樹に迫る。
 にも拘らず、瑞樹の掌はただ一度の侵入も許さない。
 苛立ちを隠せず、吸血鬼の頬が痙攣した。
 力対力では圧倒的に吸血鬼が有利。しかし経験と技術の差には埋め難いものが在る。

 瑞樹の基本姿勢は受けだ。
 己から攻める事はせず、常に相手の拳を待つ。
 元より都市伝説相手に速度で上回ろうとする方が難しい。
 回避も防御も、速度と力で劣る相手に為すのは無意味。
 だからこそ捌く。
 力が無くてもいい。耐久力が無くてもいい。
 相手の軌道を逸らすのに必要なのは、相手の動きを読む勘と感覚、そして経験。速度ですら、躱す為に求められるそれと比べれば可愛いものだ。
 ひたすらに積み重ねられたそれらを以って、瑞樹は吸血鬼へと差し迫る。

「………………シッ!」

 吸血鬼の拳が迫る。
 反応が一瞬遅れ、瑞樹の頬に赤い一本線が走った。
 続いた彼の拳を、焦らず、冷静に、瑞樹は掌で、今度こそ堅実に捌き切る。
 既に幾つもの傷が彼女を覆っているが、そのどれもが掠り傷。致命傷に値するものはなく、元より拳は掠るだけで空を舞う。
 瑞樹は待つ。ただひたすらに、敵が、吸血鬼が隙を作るのを、待つ。
 捌く。ただひたすらに、吸血鬼の拳を捌いて、捌いて、捌いて、捌いて、捌いて。
 そして――――

「何でだ、何で当たらないっ…………っ!!」

 ……ついに彼が、痺れを切らせた。
 結局、吸血鬼は「闘い」に於いては素人なのだ。
 これまで彼が経験したのは、一方的な勝利か敗北の二択だけ。
 そこに「戦闘」の要素など、欠片一つ在りはしない。
 故に焦る。己の拳が届かぬ事に、焦燥を感じる。

「――――くそっ!」

 吸血鬼が大きく振りかぶった。
 今までで最も速い拳を求めて、吸血鬼が勝負に出る。
 ……それが瑞樹の狙いだとも、知らず。

 溜めは大小関せず、一秒にも満たない行為だ。
 大きく溜めるか小さく溜めるか、常時であればその二つの使い分けなど意識せずともよい。
 けれどここは戦場。
 コンマの世界を争う相手に、そんな悠長な事などすべきでは――――なかった。

 瑞樹が笑う。口角を高く高く吊り上げて。
 それを見てしかし、吸血鬼は止まらない。

 彼は憎い。あの吸血鬼以上に、あの場で無力だった「彼自身」が。
 あの時彼は何も出来なかった。
 全て受動。彼は何一つ為さずに、自身の家族を失った。
 だから、だからこそ――――彼は瑞樹が、羨ましかった。
 彼女には力がある。己を守り、家族を守る為の力が。
 これは嫉妬だ。
 自分に持ち得なかったものを持つ、彼女に対する、醜い嫉妬。
 だから彼は止まらない。
 止まれなど、しない。

 瑞樹が動いた。
 彼が腕を畳むのにあわせて、吸血鬼の懐へと入り込む。
 拳の動きは止まらず、為す術も無く、ただ彼は懐の彼女を見る。

 ――――終わりだ、吸血鬼。

 彼女の唇がそう動いたか、どうか。
 …………それすら確認する暇も無く、瑞樹の掌打が、彼の身体を捕えていた。

【Continued...】





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