ドクター97
自らの身体がすっぽり納まるほどの古めかしい革張りの旅行鞄
来訪したその時に持っていたそれを再び手にして、診療所の玄関口に立つトライレス
麦藁帽子とサマードレスという夏らしい服装から、純白の毛皮の帽子とロングコートという冬らしい格好には変わっているが
「さて、それじゃあちょっと出掛けてくるわね」
そう言って微笑みかけるトライレスに、見送りに出てきたドクターは訝しげな顔をしていた
「どうしたのですか、突然」
「ちょっと用事が出来ただけ。早いうちに帰るから、ちゃんとバレンタインにはプレゼント頂戴ね?」
何も聞くな
心配するな
有無を言わせない雰囲気を漂わせて、ひらひらと手を振りながら軽い足取りで診療所を出ていってしまう
「……まあ、ああいう雰囲気の時はボクでは邪魔になるから仕方ないか」
診療所の面々は、戦闘能力はさほど高くない
白兵戦が可能な有羽と銃器の扱いに長けたコンスタンツェが留守にしている今では尚更である
更に、トライレスが本気で戦うとなると広範囲無差別攻撃となる毒性ガスを使う
周囲に誰も居ない方が自由に戦えるのだ
雪に紛れてしまいそうな白い後姿を見送った後、ドクターはのんびりと診察室へと戻っていく
「メアリー、ミツキ、デリア。今年のバレンタインの準備はボクも混ぜて貰えるか?」
「良いですけど、ドクターに差し上げる分は当日までのお楽しみですからね?」
「それじゃあ、ご近所さんや甘味が平気な患者さんに差し上げる分とかは、ドクターも一緒に作りましょうか」
「バイトさんにあげたらお姉が不貞腐れちゃいますよ?」
「……ふむ」
「どうしたんですか、ドクター?」
「いや、ボクもこの町に来て随分と落ち着いたものだなと、改めて認識していたところだ」
「アメリカで出会った時は、もうちょっとはっちゃけてましたもんね」
「私とであった時も結構はっちゃけてた気がしますけど」
「ドイツに居た頃のドクターは、南米支部にもその名が伝わるほどの問題児っぷりでしたものねー」
「デリアちゃん、その話を詳しく」
「むむ、聞きたいような聞きたくないような」
「ボクの昔話は後回しだ。もうじき暇潰しのご老人方がやってくるぞ?」
戻ってきた時にこうして楽しい雰囲気で出迎えてあげよう
いつもと変わらない平穏な日常で
来訪したその時に持っていたそれを再び手にして、診療所の玄関口に立つトライレス
麦藁帽子とサマードレスという夏らしい服装から、純白の毛皮の帽子とロングコートという冬らしい格好には変わっているが
「さて、それじゃあちょっと出掛けてくるわね」
そう言って微笑みかけるトライレスに、見送りに出てきたドクターは訝しげな顔をしていた
「どうしたのですか、突然」
「ちょっと用事が出来ただけ。早いうちに帰るから、ちゃんとバレンタインにはプレゼント頂戴ね?」
何も聞くな
心配するな
有無を言わせない雰囲気を漂わせて、ひらひらと手を振りながら軽い足取りで診療所を出ていってしまう
「……まあ、ああいう雰囲気の時はボクでは邪魔になるから仕方ないか」
診療所の面々は、戦闘能力はさほど高くない
白兵戦が可能な有羽と銃器の扱いに長けたコンスタンツェが留守にしている今では尚更である
更に、トライレスが本気で戦うとなると広範囲無差別攻撃となる毒性ガスを使う
周囲に誰も居ない方が自由に戦えるのだ
雪に紛れてしまいそうな白い後姿を見送った後、ドクターはのんびりと診察室へと戻っていく
「メアリー、ミツキ、デリア。今年のバレンタインの準備はボクも混ぜて貰えるか?」
「良いですけど、ドクターに差し上げる分は当日までのお楽しみですからね?」
「それじゃあ、ご近所さんや甘味が平気な患者さんに差し上げる分とかは、ドクターも一緒に作りましょうか」
「バイトさんにあげたらお姉が不貞腐れちゃいますよ?」
「……ふむ」
「どうしたんですか、ドクター?」
「いや、ボクもこの町に来て随分と落ち着いたものだなと、改めて認識していたところだ」
「アメリカで出会った時は、もうちょっとはっちゃけてましたもんね」
「私とであった時も結構はっちゃけてた気がしますけど」
「ドイツに居た頃のドクターは、南米支部にもその名が伝わるほどの問題児っぷりでしたものねー」
「デリアちゃん、その話を詳しく」
「むむ、聞きたいような聞きたくないような」
「ボクの昔話は後回しだ。もうじき暇潰しのご老人方がやってくるぞ?」
戻ってきた時にこうして楽しい雰囲気で出迎えてあげよう
いつもと変わらない平穏な日常で
―――
冬が支配する寒空の下、少女の外見をした魔女が闊歩する
思い出すのは、一人の男の声と殺意
かつて自分を助け進むべき道を示した血族の遺志捻じ曲げて、喰らい合わせようという悪趣味な企みからは、とてもよく似たにおいを感じる
「さて、折角売ってもらった喧嘩だし。高く買ってあげないと可哀想よね」
敵が何を企んでいるのか、そこを想定した上で
打ち砕くでも解決するでもなく、ただただ最も望ましくない結果にしてくれようという
魔女の、魔女による、魔女のための
全身全霊、全力全開の嫌がらせが行うために
私はここにいるぞ、と
手も出せないのか腰抜けめ、と
堂々と、あまりにも堂々と
裏があると疑うしかできない程に堂々と
魔女は町を闊歩していったのだった
思い出すのは、一人の男の声と殺意
かつて自分を助け進むべき道を示した血族の遺志捻じ曲げて、喰らい合わせようという悪趣味な企みからは、とてもよく似たにおいを感じる
「さて、折角売ってもらった喧嘩だし。高く買ってあげないと可哀想よね」
敵が何を企んでいるのか、そこを想定した上で
打ち砕くでも解決するでもなく、ただただ最も望ましくない結果にしてくれようという
魔女の、魔女による、魔女のための
全身全霊、全力全開の嫌がらせが行うために
私はここにいるぞ、と
手も出せないのか腰抜けめ、と
堂々と、あまりにも堂々と
裏があると疑うしかできない程に堂々と
魔女は町を闊歩していったのだった