その日の祈りと、祭壇の掃除を終えて
カインは、静かに寝台に横たわった
カインは、静かに寝台に横たわった
……かすかな疲労感
未だにニーナと合流できていない事実
ヴァレンタインからも、何の連絡もない
そして…久々の、師 樹との再会
未だにニーナと合流できていない事実
ヴァレンタインからも、何の連絡もない
そして…久々の、師 樹との再会
世界中を放浪しているあの男が生きていてくれた事
その事実は喜ばしかった
その事実は喜ばしかった
ただ
彼との、会話の中で
……姉、マリアの話題が出た事
それが、カインの心に、揺らぎを作る
彼との、会話の中で
……姉、マリアの話題が出た事
それが、カインの心に、揺らぎを作る
樹は悪くない
樹からすれば、マリアのその後も心配だっただけの事だろう
18年前に別れたきりだったのだ
それから、カイン達に何があったのか、樹はまったく知らないままだったから
…だから、樹は何も、悪くはないのだ
樹からすれば、マリアのその後も心配だっただけの事だろう
18年前に別れたきりだったのだ
それから、カイン達に何があったのか、樹はまったく知らないままだったから
…だから、樹は何も、悪くはないのだ
「……姉さん」
胸元の銀のロザリオを、握り締める
…姉の遺品だと、そう言われて渡されたロザリオ
「教会」の一員の証でもある、それ
……これ以外は、何も残されていなかった
マリアの死を知った時には、既に彼女は棺に納められ、墓の下に収められた後だった
…姉の遺品だと、そう言われて渡されたロザリオ
「教会」の一員の証でもある、それ
……これ以外は、何も残されていなかった
マリアの死を知った時には、既に彼女は棺に納められ、墓の下に収められた後だった
何が、あったのか
カインは、何もわからないままだ
真実を知っているらしいエイブラハムは、「時が来たら伝えます」とだけ言っていた
エイブラハムの部下である「13使徒」の一人、イザークも何か知っているようだったが…申し訳なさそうな表情をするだけで、答えてはくれなかった
カインは、何もわからないままだ
真実を知っているらしいエイブラハムは、「時が来たら伝えます」とだけ言っていた
エイブラハムの部下である「13使徒」の一人、イザークも何か知っているようだったが…申し訳なさそうな表情をするだけで、答えてはくれなかった
自分は、何も知らない
どこまでも蚊帳の外
いつかは、知る事ができる
ただ、それを信じるしかないのだ
どこまでも蚊帳の外
いつかは、知る事ができる
ただ、それを信じるしかないのだ
………と
カインの視界に…ひらり、漆黒の蝶が、入り込んだ
それに気付いて、カインは慌てて身を起こす
カインの視界に…ひらり、漆黒の蝶が、入り込んだ
それに気付いて、カインは慌てて身を起こす
「…カラミティ?」
「よぉ」
「よぉ」
漆黒の蝶が、群れをなして
そして、カラミティが姿を現した
そして、カラミティが姿を現した
ヨーロッパにいたはずのカラミティ
だが、この男には、きっと、距離など関係ないのだろう
…何故なら、この男は、万能の「魔法」の力を自由自在に操る、大魔法使いなのだから
だが、この男には、きっと、距離など関係ないのだろう
…何故なら、この男は、万能の「魔法」の力を自由自在に操る、大魔法使いなのだから
「お前、何故、この国に……お前の存在を知る者に、目をつけられるぞ?」
「平気平気。どんな相手が来ようとも、俺様の素敵な魔法を持ってすれば、敵じゃねぇから」
「平気平気。どんな相手が来ようとも、俺様の素敵な魔法を持ってすれば、敵じゃねぇから」
気遣うようなカインの言葉に、カラミティはあっさりと言い切った
…まったくこの男は
カインはどこか困ったように、カラミティに視線をやる
…まったくこの男は
カインはどこか困ったように、カラミティに視線をやる
カラミティは、カインにとって、友人だ
「教会」所属の契約者であるカインが、よりによって魔法に飲まれた存在であるカラミティと友人である事は……「教会」から見れば、大問題だ
なぜなら、「教会」にとって魔法とは、悪魔の力によってなされる力だからだ
だから、カインとカラミティの関係は、「教会」には秘匿されている
それも、全てカラミティの魔法の力だ
「教会」所属の契約者であるカインが、よりによって魔法に飲まれた存在であるカラミティと友人である事は……「教会」から見れば、大問題だ
なぜなら、「教会」にとって魔法とは、悪魔の力によってなされる力だからだ
だから、カインとカラミティの関係は、「教会」には秘匿されている
それも、全てカラミティの魔法の力だ
「過信と軽率さは、お前の弱点だ……あまり、この国に長居しない方がいい」
「そうは言うけどよ。お前がいないと、つまらないんだよ」
「そうは言うけどよ。お前がいないと、つまらないんだよ」
子供っぽい表情で、そう言ってきたカラミティ
千年の時を生きた大魔法使い、本人はそう言うが…その思考回路は、酷く子供っぽい
まるで、子供がそのまま大人になったような、そんな存在なのだ
カラミティと話していると、自分の方が年上のような錯覚を覚えてしまう
千年の時を生きた大魔法使い、本人はそう言うが…その思考回路は、酷く子供っぽい
まるで、子供がそのまま大人になったような、そんな存在なのだ
カラミティと話していると、自分の方が年上のような錯覚を覚えてしまう
「…すまない。役目を終えるまで、帰る訳にはいかないからな」
「適当に済ませりゃいいじゃん、そんな役目」
「そう言う訳にはいかない………そうだな。今回の役目が終わったら、少し、休みをもらう。そうしたら、しばらくお前の相手が出来る」
「……本当か?」
「あぁ、約束だ」
「適当に済ませりゃいいじゃん、そんな役目」
「そう言う訳にはいかない………そうだな。今回の役目が終わったら、少し、休みをもらう。そうしたら、しばらくお前の相手が出来る」
「……本当か?」
「あぁ、約束だ」
魔法使いとの、約束
それは、重大なものである事を、カインは知っている
その上で、カインは約束した
しばし、忙しくてカラミティの相手をしてやれなかったのは、事実
そして、その結果、退屈したカラミティが、何かをやらかす可能性は、0ではない
事実、こうやって日本まで来てしまったのだ
これ以上、何かやらかす前に手を打つべきである
それは、重大なものである事を、カインは知っている
その上で、カインは約束した
しばし、忙しくてカラミティの相手をしてやれなかったのは、事実
そして、その結果、退屈したカラミティが、何かをやらかす可能性は、0ではない
事実、こうやって日本まで来てしまったのだ
これ以上、何かやらかす前に手を打つべきである
……何せ、カラミティは「災厄の魔法」と言う名前をもつような男だ
その存在自体が、災厄そのもの
日本の都市伝説組織にはあまり知られていないかもしれないが、ヨーロッパや北欧において、その名前は悪名以外の何者でもない
その存在自体が、災厄そのもの
日本の都市伝説組織にはあまり知られていないかもしれないが、ヨーロッパや北欧において、その名前は悪名以外の何者でもない
…そこまで、把握して
それでも、カインはカラミティと友人であり続けているのだ
だからこそ、余計にカラミティはカインに執着し続ける
その結果、辛うじてカラミティが巻き起こす迷惑が、若干は押さえ込まれているのも事実なのだ
それでも、カインはカラミティと友人であり続けているのだ
だからこそ、余計にカラミティはカインに執着し続ける
その結果、辛うじてカラミティが巻き起こす迷惑が、若干は押さえ込まれているのも事実なのだ
「…あ、そうだ。カイン。俺、ここに来る前に、人助けしたんだぞ」
「……人助け?お前が?」
「……人助け?お前が?」
他者の事など、暇つぶしのおもちゃ程度にしか考えていない、カラミティが?
「あぁ、凶悪そうな…えーと、この国では都市伝説って言うんだったか。それに襲われている奴がいたから、助けたんだ」
助けたというか、その都市伝説…ソニー・ビーン一家の子供達を相手に、戦闘の勘を取り戻す練習をしていただけとも言うのだが
まぁ、結果的には、襲われていた女性を助けたことになる
その後に、うっかり助けた相手まで殺そうとして、そこに助けに入った幼女二人もろとも赤ワイン塗れにしたりもしたが
一応、助けた事に変わりはない
盛大に大迷惑だったかもしれないが
まぁ、結果的には、襲われていた女性を助けたことになる
その後に、うっかり助けた相手まで殺そうとして、そこに助けに入った幼女二人もろとも赤ワイン塗れにしたりもしたが
一応、助けた事に変わりはない
盛大に大迷惑だったかもしれないが
「信じないか?」
「…いや、信じるさ」
「…いや、信じるさ」
じ、と見つめてくるカラミティに、カインは小さく笑って答えた
カラミティが嘘をついていない、と判断したのだ
カラミティが嘘をついていない、と判断したのだ
……一応、辛うじて嘘はついていない
話していないことがあるだけで
話していないことがあるだけで
「お前も、そう言う事ができるようになったんだな。よくやった」
「褒めてくれるのか?」
「あぁ。お前の力は強大だ。その力を誰かを救うために使う事は、素晴らしいことだ」
「褒めてくれるのか?」
「あぁ。お前の力は強大だ。その力を誰かを救うために使う事は、素晴らしいことだ」
いつも、自分の為にだけ、力を使うカラミティ
強大な力を、自分勝手に我侭に好き勝手に扱う
強大な力を、自分勝手に我侭に好き勝手に扱う
誰かの為に、力を使った
それだけで、充分に、賞賛に値する
……今回は、本当に誰かの為に使ったかどうか、判断が微妙なのはさておき
それだけで、充分に、賞賛に値する
……今回は、本当に誰かの為に使ったかどうか、判断が微妙なのはさておき
「ただ、お前の力は目立つからな。この国の者達に、目をつけられないようにな?」
「あぁ、任せろ。それに、俺様ずっとこの国に居続ける訳でもないしな。でも、お前の様子を見に、また来るからな」
「あぁ、任せろ。それに、俺様ずっとこの国に居続ける訳でもないしな。でも、お前の様子を見に、また来るからな」
ぽふ、と
カインにもたれかかってきたカラミティ
…やや小柄なカインと比べて、細身とは言え長身のカラミティ
もたれかかられるとやや迷惑なのだが、カインはそのままにさせてやる
カインにもたれかかってきたカラミティ
…やや小柄なカインと比べて、細身とは言え長身のカラミティ
もたれかかられるとやや迷惑なのだが、カインはそのままにさせてやる
「…無理するなよ?辛い事があるなら、ずっと俺様の傍にいればいいんだ。「教会」も何もかも、わずらわしいものは全部捨てて。ずぅっと、俺様の傍にいりゃいいんだよ」
「……そう言う訳にも、いかないさ。俺は、誰かを救いたいから…俺の力が、誰かを救う事ができるなら、それを実行していきたいからな」
「……そう言う訳にも、いかないさ。俺は、誰かを救いたいから…俺の力が、誰かを救う事ができるなら、それを実行していきたいからな」
答え、祭壇に目をやる
自身の契約している都市伝説に
誰かを救える、癒しの力を自分に与えてくれる存在
自身の契約している都市伝説に
誰かを救える、癒しの力を自分に与えてくれる存在
……カラミティが、それを鋭く睨んだ事に
カインは、気づく事はなかった
カインは、気づく事はなかった
to be … ?