“獣の王様 第一話「透明な悪」”
ガツガツと物を勢いよく咀嚼する音。
カチャカチャと食器の音。
良く味付けのされた肉の焼ける良い香り。
飲み物を飲み干して息をつく人々。
そこかしこのテーブルには赤や緑の様々な色をしたサラダがおいてある。
それも当然、ここはビュッフェ形式のレストラン。
カチャカチャと食器の音。
良く味付けのされた肉の焼ける良い香り。
飲み物を飲み干して息をつく人々。
そこかしこのテーブルには赤や緑の様々な色をしたサラダがおいてある。
それも当然、ここはビュッフェ形式のレストラン。
「食べること以外興味は無いのかい?」
「うん、性欲も休息欲も有りはするけどさ。
本物の女性は苦手だし、休みたくても俺は要領が悪いから仕事だって忙しい。
喰うぐらいでしか気は晴れないんだ。」
「うん、性欲も休息欲も有りはするけどさ。
本物の女性は苦手だし、休みたくても俺は要領が悪いから仕事だって忙しい。
喰うぐらいでしか気は晴れないんだ。」
「数学の教師マジ最悪なんだけどー!」
「解る解るー!なんか目つきがいやらしいモンねー!」
「解る解るー!なんか目つきがいやらしいモンねー!」
「今度の休みは何処に行く?」
「海に行こうかしら、山に行こうかしら、頭を抱えちゃうわね。」
「脚は充分にあるからさ。」
「海に行こうかしら、山に行こうかしら、頭を抱えちゃうわね。」
「脚は充分にあるからさ。」
他愛もない会話がそこかしこで繰り広げられている。
皆自分のことで手一杯、そして誰もが腹一杯。
周りなんて見ちゃいない。
先ほどまで甘い物を貪っていた女子高生の一団が席を立つ。
皆自分のことで手一杯、そして誰もが腹一杯。
周りなんて見ちゃいない。
先ほどまで甘い物を貪っていた女子高生の一団が席を立つ。
「でねー、ついに手紙出しちゃったんだ!」
「ミキったらもう先輩に告っちゃったのぉ?」
「うん!」
「ミキったらもう先輩に告っちゃったのぉ?」
「うん!」
明るい茶髪で巻き毛の少女、黒い髪を後ろで束ねた少女。
背の高い少女、子供のように小さな少女。
背の高い少女、子供のように小さな少女。
「ごめんねユカ~、抜け駆けしちゃって~。」
「い、良いよ私は!ミキには何時も世話になってるし!」
「怒っても良いんだぞぉ?」
「い、良いよ私は!ミキには何時も世話になってるし!」
「怒っても良いんだぞぉ?」
ユカという少女はそれが無意味なことを知っている。
大人しく、静かに、目の前の彼女に気に入られていることが、クラスカーストで上位に居続ける方法だと知っている。
だから何も言わない……のかもしれない。
半分の優しさと半分の打算を酷く曖昧に笑って誤魔化す。
大人しく、静かに、目の前の彼女に気に入られていることが、クラスカーストで上位に居続ける方法だと知っている。
だから何も言わない……のかもしれない。
半分の優しさと半分の打算を酷く曖昧に笑って誤魔化す。
「ユカは本当に自分の意見がないなあ」
「だ、だって私は別に……。
皆と普通に楽しく仲良くしていれれば良いんだもん。」
「だ、だって私は別に……。
皆と普通に楽しく仲良くしていれれば良いんだもん。」
紛う方無き彼女の本音である。
何も手に入れない代わりに何も失わない日々は楽だから。
何も手に入れない代わりに何も失わない日々は楽だから。
「これからは個人主義の時代だよ。
自分の意見が無ければ流されて流されて何処にもたどり着けなくなっちゃうよ。」
自分の意見が無ければ流されて流されて何処にもたどり着けなくなっちゃうよ。」
そう言ったのはレンという少女。
彼女は小学生の時に大病を患って一年間学校を休んでいた。
だから周囲の友人より一つ年上である。
しかし見た目は四人の中で一番幼い。
彼女は小学生の時に大病を患って一年間学校を休んでいた。
だから周囲の友人より一つ年上である。
しかし見た目は四人の中で一番幼い。
「レンちゃんったらまた面倒くさい事言っちゃってー」
「ノノは暢気過ぎる。」
「ノノは暢気過ぎる。」
ノノと呼ばれた長身の少女は笑う。
この二人は絵面的には凸凹なのだが何故だか気があっていた。
この二人は絵面的には凸凹なのだが何故だか気があっていた。
「じゃあ今日はここでお別れだね。」
四つに分かれる帰り道。
申し合わせたように少女はここでそれぞれの家路につくのだ。
申し合わせたように少女はここでそれぞれの家路につくのだ。
「じゃーね。」
「ばいばい。」
「また明日ー。」
「ばいちゃ。」
「ばいばい。」
「また明日ー。」
「ばいちゃ。」
四者四様に歩き始める。
薄暗闇が少女を包む。
何時も通りに過ぎる日常。
薄暗闇が少女を包む。
何時も通りに過ぎる日常。
足下から崩れていく。
レンと呼ばれた少女の歩いていた道が崩落した。
聞こえて叱るべき悲鳴は聞こえない。
その代わりに何かが這い回る音と砕ける骨の音だけが地面に空いた穴から響く。
聞こえて叱るべき悲鳴は聞こえない。
その代わりに何かが這い回る音と砕ける骨の音だけが地面に空いた穴から響く。
「ごちそうさまでした。」
小太りの男が暗がりから現れる。
彼は少女の生首を愛おしそうに抱えていた。
彼は少女の生首を愛おしそうに抱えていた。
「うん、解ったよ。買い物してくるね。
パート遅くなるの?
ううん、大丈夫、でも弟たちは?
ああそうなの、お姉ちゃん帰ってきてるんだ。
じゃあ電話切るね。」
パート遅くなるの?
ううん、大丈夫、でも弟たちは?
ああそうなの、お姉ちゃん帰ってきてるんだ。
じゃあ電話切るね。」
帰り道を急ぐノノの目の前にゴトリと転がる球体。
先ほどの生首である。
先ほどの生首である。
「――――え?」
それが彼女の素直な感想だった。
あまりにも日常から乖離しすぎて何が起きているのか、理解出来なかったのだ。
あまりにも日常から乖離しすぎて何が起きているのか、理解出来なかったのだ。
「頂きます。」
ノノの背中に電流が走る。
意識はひどくハッキリしている。
だがしかし、身体がまったく言うことを聞かない。
柔らかな手が彼女の肩を掴む。
その手の持ち主と彼女の目が合う。
その手の持ち主――小太りの男――はノノの喉を一瞬で食いちぎった。
意識はひどくハッキリしている。
だがしかし、身体がまったく言うことを聞かない。
柔らかな手が彼女の肩を掴む。
その手の持ち主と彼女の目が合う。
その手の持ち主――小太りの男――はノノの喉を一瞬で食いちぎった。
「ごちそうさまでした。」
酷く満足げに男は呟く。
生首だけになった少女を見て、男は嬉しそうに笑った。
生首だけになった少女を見て、男は嬉しそうに笑った。
「君はミキちゃんかな?」
男は問いかけた。
明らかに警戒したような目つきでミキは男を睨み付ける。
明らかに警戒したような目つきでミキは男を睨み付ける。
「何か勘違いして居るみたいだけど僕は怪しい物じゃないよ。」
「大声出しますよ?」
「そりゃ困るな。」
「大声出しますよ?」
「そりゃ困るな。」
次の瞬間、少女は意識を失った。
「大丈夫、命まではとらないさ。
これは大して強い毒じゃあない。」
これは大して強い毒じゃあない。」
気絶した彼女を引きずって、男は歩き始める。
「ユカちゃんユカちゃん。」
ユカはぎょっとした表情で声のする方向を見る。
声の方向には自分の友達と見たこともない小太りの男が居た。
声の方向には自分の友達と見たこともない小太りの男が居た。
「ミ、ミキ!?」
「ユカちゃん、君にお話があるんだ。」
「ユカちゃん、君にお話があるんだ。」
ユカと呼ばれた少女は迷うことなく逃げ出した。
彼女にはわずかに可能性が残されていた。
彼女にはわずかに可能性が残されていた。
「あーあ、逃げちゃった。もうちょっと恐怖体験して貰おうと思ったのに。」
男は残念そうに呟くと人間にあるまじき勢いで口を大きく広げ、ユカを食べた。
彼は契約者だから、このくらいは許される。
ちなみに彼が契約した都市伝説はモンゴリアンデスワーム。
都市伝説と戦うゲームなんて物があれば少しレベルアップしただけで倒せるような敵である。
その程度の物でも、儚く美しい少女達の日常を壊す程度ならば存分だ。
彼は契約者だから、このくらいは許される。
ちなみに彼が契約した都市伝説はモンゴリアンデスワーム。
都市伝説と戦うゲームなんて物があれば少しレベルアップしただけで倒せるような敵である。
その程度の物でも、儚く美しい少女達の日常を壊す程度ならば存分だ。
「に、逃げないと!警察!そうだ!電話で警察を…」
携帯電話を手に取る。
空気中で紫色の光が弾ける。
手に走る痛み。
携帯電話は黒い煙を上げて壊れていた。
空気中で紫色の光が弾ける。
手に走る痛み。
携帯電話は黒い煙を上げて壊れていた。
「やめてくれよ、無力で無能で無知な一般市民たる僕が警察に敵うわけ無いじゃないか。」
男は口についた血を拭う。
「それ……!?」
「ああ、君のお友達の血だよ。」
「なんでそんなこと……?」
「理由の言語化か、あまり好きじゃないな。
強いて言えば、君たちを不幸にしてみたくなったから、ってところか。」
「ああ、君のお友達の血だよ。」
「なんでそんなこと……?」
「理由の言語化か、あまり好きじゃないな。
強いて言えば、君たちを不幸にしてみたくなったから、ってところか。」
ペコちゃんのように男は自分の唇を舐める。
ユカの日常が壊れる音がした。
酷く耳障りな音だった。
ユカの日常が壊れる音がした。
酷く耳障りな音だった。
「ねえ君、俺と契約しないかい?」
そんな時、彼女の耳に一つの声が届いた。
「俺はドアーチュ、この国ではマイナーな存在だけど、
多分この危機を逃れる程度の力なら君にあげられるよ?」
多分この危機を逃れる程度の力なら君にあげられるよ?」
ユカが顔を上げると、男とユカの間に彼女を庇うようにして巨大なカワウソが立っていた。
「け、契約?」
「ああそうさ、急いだ方が良い。」
「……邪魔が入ったか。」
「おい、そこの蒸し暑いデブ!
変態趣味はそこそこにしておきな!
この子に手を出したら容赦しねえぞ!」
「契約すれば助かるの?」
「ああ!まず間違いなく助かるね!」
「じゃあ助けて、契約するわ!」
「オーケー!じゃあまずはあの川から逃げるよ!」
「面倒なことになったな……」
「ああそうさ、急いだ方が良い。」
「……邪魔が入ったか。」
「おい、そこの蒸し暑いデブ!
変態趣味はそこそこにしておきな!
この子に手を出したら容赦しねえぞ!」
「契約すれば助かるの?」
「ああ!まず間違いなく助かるね!」
「じゃあ助けて、契約するわ!」
「オーケー!じゃあまずはあの川から逃げるよ!」
「面倒なことになったな……」
男はうざったそうに呟く。
「なあユカちゃん、お友達は良いのかい?」
男の口の中から気絶した少女が出てくる。
先ほど彼が喰ってしまった筈のミキだ。
先ほど彼が喰ってしまった筈のミキだ。
「君がこのまま逃げれば彼女は僕のような三十才にして童貞の、
女性には一生縁がなさそうな気持ち悪~い男の……
唯一の“縁”になった上でそれはそれは惨めったらしく殺されるかも知れないけど……」
「この野郎!」
「黙れよユカイツーカイマスコット野郎、俺はそこの少女に質問している。
なあユカちゃん、君は友達を見捨てて逃げる?
それともお友達を助けようとして格好良く惨めに死ぬ?」
女性には一生縁がなさそうな気持ち悪~い男の……
唯一の“縁”になった上でそれはそれは惨めったらしく殺されるかも知れないけど……」
「この野郎!」
「黙れよユカイツーカイマスコット野郎、俺はそこの少女に質問している。
なあユカちゃん、君は友達を見捨てて逃げる?
それともお友達を助けようとして格好良く惨めに死ぬ?」
男の口角が上がる。
悪魔、という言葉以外に形容が思いつかない。
悪魔、という言葉以外に形容が思いつかない。
「――――ゴメン!」
「水の中に逃げな!」
「水の中に逃げな!」
ユカは一も二もなく逃げ出した。
ドアーチュの指示通りに欄干から近くの川に飛び込もうとする。
ドアーチュの指示通りに欄干から近くの川に飛び込もうとする。
「くはははは!」
男は服の中から大量のワームと、あらかじめ川の側に潜ませていたワームに命令を下す。
先ほどのカワウソの悲鳴が聞こえた。
先ほどのカワウソの悲鳴が聞こえた。
「やはりそうだよな!
一皮剥けば人間なんてそんな物だ!
自分が一番助かりたいよなあ!
良いぞ鵜入歌織、“ユカちゃん”!」
一皮剥けば人間なんてそんな物だ!
自分が一番助かりたいよなあ!
良いぞ鵜入歌織、“ユカちゃん”!」
血しぶきが上がる。
光に煌めく。
光に煌めく。
「さて、今日はお腹いっぱいだ。帰ろうか。」
男は橋の上から川面を見下ろす。
少女が先ほどまで着ていた服が浮かんでいる。
そしてその側で彼女に契約を促したカワウソ、ドアーチュが肉片となり消滅しかけていた。
少女が先ほどまで着ていた服が浮かんでいる。
そしてその側で彼女に契約を促したカワウソ、ドアーチュが肉片となり消滅しかけていた。
「うん、死んだね。」
男は満足げに頷いて歩き始める。
「あーあ、この町での狩りも飽きちゃった。
次はかの有名な学校町にでも行こうかな?
まー、その前に色々な場所で狩りをして力を溜めてからだな、うん。」
次はかの有名な学校町にでも行こうかな?
まー、その前に色々な場所で狩りをして力を溜めてからだな、うん。」
コツン、と気絶したミキの身体に男の脚が当たる。
「困った、正直に言えば生身の女とか気持ち悪いしなあ。
でも捨てておくには俺のこと知られすぎたし。
……殺すか、クエバウマイシ。」
でも捨てておくには俺のこと知られすぎたし。
……殺すか、クエバウマイシ。」
男の口がもう一度大きく開いてミキの身体が今度こそ咀嚼され、男の栄養になった。
げっぷの音が空に吸い込まれていった。
げっぷの音が空に吸い込まれていった。
「さて、今度は誰の幸せを壊そうか。」
特に感慨もなく、男は呟いた。
“獣の王様 第一話「透明な悪」 続”