「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 葬儀屋と地獄の帝王-06

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sougiya

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第六話
【魔法男女】

 とある場所で、八人の黒服がテーブルを囲んでいた。
 テーブルといっても、どこの会社にも置いてあるようなごく普通の会議室用のものだ。
 全員が全員黒服を身に纏っていることを除けばただの会議のようにしか見えない。
 全員が着席すると、長髪の黒服――A-№101が口を開いた。

「皆も知っていると思うが№106が死んだ。犯人は不明だが殺した連中は〈ゲーム王国〉なる組織を造ろうとしている男、もしくはその男の仲間だ」
「〈ゲーム王国〉?」
「十年位前にこの国で放映されてたテレビ番組さ」
「よくわからんな、テレビ番組と組織と何の繋がりがある?」

 九人の中では比較的大柄な男の言葉にやや苦笑し、順に説明を始めた。

「まず、№100の命令で№106は江良井卓を監視していた。監視理由などは諸兄らもご存知の通りだろうから説明は省く。――その監視対象である江良井卓に接触を図った男がいる。男の名前は錨野蝶助。〈ゲーム王国〉建国予定者であり、かつて『ゲーム脳』を廻り我々〈組織〉と敵対した男だ。当時、錨野には錨野自身を含め約三十名――全て都市伝説契約者――の仲間がいたが、我々と江良井卓の手により崩壊し、『ゲーム脳』入手は失敗に終わる。その後我々の監視下にあったが、当時勤務していた会社の関係で北海道へと転勤。転勤後は不穏な行動を見せることなかったために異常無しと判断して一昨年の秋に監視が解かれることになった。いつ戻ってきたのかわからないが十二月二十四日に江良井卓と接触。〈ゲーム王国〉造りの勧誘を行なうが江良井卓はこれを却下。現時点では〈ゲーム王国〉造りの目的、手段、仲間の有無も一切不明。頭部のみ返還された№106の死因は現在調査中だが、首を鋭利な刃物で切り裂いたものと思われる。当時の錨野の契約している都市伝説――契約解除及び多重契約していないと仮定してだが――から、錨野の手によるものではないと推測はできる」

 報告が終わっても彼らに言葉はない。
 現時点で彼らの前には様々な問題が山積みとなっている。またひとつ問題が増えただけに過ぎない。

「で、〈ゲーム王国〉とやらはどうします?」
「それに関して№100からの伝言がある。『№106の任務は№107が引き継ぐと同時に〈ゲーム王国〉の調査。残るナンバーは〈教会〉の調査及び監視の続行に当たること』――以上だ」
「了解」

◆  □  ◆  □  ◆

「――と、いうことで貴方には〈ゲーム王国〉並びに錨野の身元調査をお願いします」
「……わかりました」
「不満そうですね」

 会議という名の伝達から戻ってきたA-№107は彼が担当している都市伝説契約者――多原登志彦の不満げな顔に冷たい視線を投げる。

「〈教会〉の連中が動いているって言うのに、こんなことしている場合じゃないんじゃないかって……」
「必要ありません。これが私達の任務です」
「で、でも……」
「〈教会〉の情報も現段階では不明な点が多すぎます。それに――無駄死にはさせたくない」
「――ッ!」

 聞きようによっては担当契約者の命を慮っての言葉。
 だが、多原はそうは取れなかった。

「俺達では勝てないとでも言いたいんですか」
「はい」
「俺と、ひかるでは勝てないと」
「はい」

 登志彦の問いに冷徹に何の抑揚もなく答える黒服。
 そこに一切の情はなく、事実のみしか感じることはできない。
 №持ちとはいえ、他のナンバーを持たない量産型の黒服と同じように。否、彼らよりも冷徹に。
 だからこそ、登志彦は冷静になることができず。

「俺の、俺達の力は!」
「貴方の空手と『魔法少女』の魔法、それだけしか武器を持たない貴方達では〈教会〉には勝てません」
「そんなことは……!」
「貴方が弱者を救うために日々研鑽しているのはわかります。一時的とは言えK-№に師事していたことも、貴方の都市伝説がR-№の元で彼女の裡に眠る未知なる力を引き出そうとしていることも知っています。貴方は契約者となってからかなりの戦闘をこなしています。何度も死に掛け、敗北し、挫け、その度に立ち上がり勝ってきました。その齢でそれだけの心の強さを持つ契約者はいないでしょう。ですが――」

 何かを言おうとする多原に対し、被せるように№107は言葉を続ける。

「貴方達では勝てない」

 一言。
 その一言は多原の胸に深く突き刺さる。
 彼と彼の契約している都市伝説『魔法少女』、そして今までの強敵との戦い。それら全てを否定する一言。

「ホントにワタシ達じゃダメなの?」

 それまで多原の横で黙って聞いていた可愛らしい少女服を来た少女が尋ねる。
 彼女こそが彼の都市伝説『魔法少女』ひかるである。
 そもそもこの『魔法少女』はかつては『魔女』であり、決して弱い都市伝説ではない。
 まだ『魔女』であった時代に行なわれた魔女狩りから逃げ出し、各地を転々とした時に聞いた噂――東洋の島国では『魔女=ロリ』らしいとの噂。
 すなわち、年老いた魔女がその地に立てば若返る。魔法薬を使わずそこにいるだけで若返るなんてまるで魔法のようではないか。元々異端尋問の連中から逃げるために各地を転々とし、住処に執着はない。名を変え姿を変え、魔術による副作用を気にせずリセットするには絶好のチャンス。
 かくして彼女は日本に降り立ち、己を強固なものとする契約者――多原登志彦と出会い契約をし、ひかるという名を与えられた。
 元が数百年の時を生きる『魔女』にとって、弱きを助け強きを挫く多原は青臭い以外の何物でもないが、逆にそれが気に入ってもいた。
 当初はただ利用するためだけに多原と契約した『魔女』であったが、いつしか彼に惹かれ、彼の考えに賛同していた。
『魔女』から『魔法少女』に変質したからだと口では言うが、実際そうでないことは彼女自身わかっていた。

「私達が手に入れた情報から判断するに、〈教会〉と立ち向かっても五秒も経たず死にます。必要以上に綿密な作戦を立て、運が向いていたとしても持って三十秒がいいところです」
「そんなに強いの?」
「……前に『悪魔の囁き』を利用して学校町を混沌に陥れようとした男がいました。彼は〈教会〉の所有する『竜』と多重契約をしていました。『聖人伝』や『黄金伝説』に語られる本物の『竜』です。空を飛び、炎を吐き、毒を吐く、その爪は全てを切り裂き、その鱗は傷ひとつつかない。例えば、貴方達は紛い物ではない『竜』と戦って勝てますか?」

 №107の問いに答えはない。答えることができない。
 眼前の黒服は〈教会〉の所有する、と口にした。彼らの力が未知数ではあるが、最低でも同じレベルを有していると考えるべきであろう。
 彼らが戦おうとする敵はそれほど強大なのだ。
 だからといって、学校町が被害に遭うのを許せる彼らではなかった。
 納得しそうもない多原に困ったように溜息をひとつつくと、多原に背を向ける。

「……私が引き継いだ№106の任務内容には江良井卓の監視も含まれています」
「?」
「江良井卓、彼に勝てるようであれば〈教会〉にも勝てるでしょうね」
「……!」
「江良井卓と交戦して捕らえたとなれば、私も彼らの評価を変えて〈教会〉討伐メンバーに加えなければなりませんね。――と、独り言が多過ぎましたか」

「独り言」を終えた№107の背に深く一礼してすぐに部屋を出て行った多原は知らない。
 今までの一連のやり取りが全て相手の思い通りに進んでいたことも。
 黒服の顔に邪悪な笑みが浮かんでいたことも。
 A-№107が過激派に所属していることも。
 A-№107が彼らの担当となってから、一度も自分達の名を呼ばれたことがないことすらも。

◆  □  ◆  □  ◆

 戦いは圧倒的だった。
 多原の拳が、ひかるの魔法が、眼前の敵に通用しない。
 江良井卓に通用しない。
 ひかるの魔法により打ち出された氷塊はただの蹴りで砕かれ、火炎弾は弾かれ。多原の放つ連撃は動いたとも思えぬわずかな動きで往なされる。
 どれだけ拳を繰り出そうとも、どれだけ魔法を展開しようともその全てが届かない。
 反対に、江良井の攻撃は一切の手加減なく、多原にも少女の姿をしているひかるにも打ち込まれていた。
 子供の姿だからといって手加減されるとは思っていないし、手加減してきた敵もいなかった。それでも、子供の姿への慢心はあったのかもしれない。
 ひかるの頭部に振り下ろされた一撃。
 どれだけの力が込められていたのか、飛び散ったのは鮮血のみならず、頭皮、頭髪、肉片、そして――微量ながらの骨片。
 それでも死ななかったのはひかるが都市伝説であったからに他ならない。死ななかった――否、都市伝説であることが災いして死ねなかった。一撃を受けたのが多原だったなら即死していたであろう破壊力。
 ひかるが『魔法少女』であろうが契約者であろうが、躊躇いなく打ち込んだであろうことは想像に難くない。

「ひかる!」

 そして生じる致命的な隙。
 日本刀のような鋭利さを持つ手刀により、ひかるへと伸ばした左手の肘から先が――切断された。

「~~~~ッ!」

 声にならぬ悲鳴を喉の奥で抑え、少しでもひかるの近くへと向かう多原。
 江良井は今まで戦ってきたどんな敵とも違った。
 確実に敵を屠るべく、容赦も油断もなく攻撃できる人間は多原にとって初めての強者であった。
 数多の戦闘をこなしてきて初めて――生まれて初めて、多原は敗北を認めた。
 鎌を投擲する都市伝説と戦った時も、九つの尾を持つ妖と戦った時も、血を吸う鬼と戦った時も、天界から堕ちた悪魔と戦った時も、死を覚悟した時ですら負けたとは思わなかった多原が勝てないと思った初めての相手。
 絶望。
 敵わない相手。

「俺達の……負けです……許して……ください……殺さないでくだ、さい……」

 それは本心からの言葉であったろう。
 江良井の前に二度と現れず〈組織〉の裏切り者となる覚悟すらあっての信念も誇りも全てを捨てての命乞い。
 多原の必死の言葉に江良井はたった一言で答えた。

「断わる」

 ――と、一言だけ。
 信じられないものを見るような目で江良井を見、江良井の言葉を理解し、江良井の言葉通り敗北は自分達の死でしか許されないことを理解し――発狂。

「はは……あはははははハハハはハははははアはははハハははあははははは……」
「とし、ひこ……」
「ハはあはははははははははアははハハハハハハハハハハハ……」
「……しひこ、と、し、ひ……」

 狂った契約者と死にかけた都市伝説。
 江良井は何を思い、何を感じるのか。
 いつもと変わらぬ目で彼らを映し、静かに歩み寄る。

「う、うう……」
「と、し、ひ、こ……」

 ――そして、彼は飲み込まれる。

「う……あ……がああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 K-№が多原に戦いを教えていたのは何故か? ――彼には〈兄氣〉の素質があったからだ。
 R-№はひかるの裡に何の力を見抜いたのか? ――彼女に〈幼氣〉の片鱗を見出したのだ。
 江良井という決して敵わぬ巨大な敵に極限まで追い込まれることで多原は〈兄氣〉に覚醒し、自分が死んでも多原の傍らに居たいという想いがひかるの〈幼氣〉を目覚めさせ、心が折れたことで多原は都市伝説に飲み込まれる。
 多原の発狂とひかるの我侭と器の崩壊。
 折れた闘争心と淡い想いと悪夢とが重なり、溶け込み、混ざり合い――奇跡が生まれた。

「……飲み込まれたか」

 白濁した光が徐々に収まり、そこに立っていたのは巨体であった。
 身長は目測で一九〇センチ強、体重は目測で一〇〇キロ弱。
 トラックのタイヤのように分厚く弾力に優れた胸板、丸太のように太く幾重にも束ねた鋼のように強靭な手足、腰まで届く栗色の長髪を左右に分けたツインテール。
 ピンク色のロリータファッションに身を包んだ巨漢がそこに立っていた。

「我は……一体何が?」
「飲み込まれたことによる記憶障害か……? ――記憶はあるのか?」
「我は『魔法少女』。高みを目指す者也」

 巨漢の『魔法少女』の言葉を聞き、江良井は多原の意識、ひかるの意識がすでにないことを悟る。
 江良井自身、数多くの戦闘で飲み込まれた人間を見てきている。人間だった頃の記憶を残す者や残さない者――そこに一定の法則は存在しない。
 その経験から判断するに今目の前に居る巨大な少女はかつての記憶を残していないようだ。
 ふたりの意識と記憶が砕け散り、交じり合い、消え去る。残ったのは己の存在理由である『魔法少女』と求道心。
 その原因として〈兄氣〉と〈幼氣〉が関係していることまでは知る由もないのだが。

「黒の男よ、うぬは何者ぞ」
「飲み込まれる前のお前に襲われてた、ただの葬儀屋だ」
「ふむ……ならば問おう。うぬは我が前に立ち塞がるか?」
「誤解のないように言っておくが、先に襲ってきたのはお前――元のお前だ」

 視線を交わすふたり。
 江良井の視線から何を読み取ったのか、不敵な太い笑みを浮かべた。

「いつの日か手合わせしてみたいものだ」
「断わる」
「無論、今すぐにとは言わぬ。我にはやらねばならぬことがあるのでな。――ぬうん!」

 右手のリングが光り、角材を構成する。
 何の変哲もない角材である。
『魔法少女』が躊躇いもなく角材に乗ると、それも魔法の一種なのか『魔法少女』が乗った角材は空へと浮かび上がった。

「命あらばまた何処かで逢うことになるだろう」

 それだけ告げると遥か上空へと飛び去った。
 行き先こそわからないものの、江良井には『魔法少女』がどこへ行きたいのかは見当がついていた。

 彼らふたりとの戦闘が開始してからずっと感じていた粘りつくような視線がふたつ。
 恐らく、遠方からの視線の元に向かったのであろう。

 対して江良井はもうひとつの視線の先に向かおうともせず、スーツの埃を払うと軽い欠伸をして家路に着いたのであった。
 埃を払うその手でどれだけの人生を終わらせたのか、知る者は誰もいない。


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