第五話
【悪人正義】
【悪人正義】
十二月二十四日――クリスマスイブ。
日本中が、世界中がどことなく浮かれている当日。
学校町も例外ではなく、色とりどりのイルミネーションやクリスマスツリーが街中に飾られ、商店街だけではなく街中を彩っている。
そんな折、彼の元に一本の電話が入った。
日本中が、世界中がどことなく浮かれている当日。
学校町も例外ではなく、色とりどりのイルミネーションやクリスマスツリーが街中に飾られ、商店街だけではなく街中を彩っている。
そんな折、彼の元に一本の電話が入った。
『メリークリスマース! 我が息子! 人生エンジョイし』
何も言わず電話を切り、業務に戻る。
再度、着信。
相手はたった今電話を切った相手である。
再度、着信。
相手はたった今電話を切った相手である。
『なんで切るんだよ』
「こっちは忙しいんだ」
『え? それじゃあダーツバーとか行く時間無くない?』
「黙れ」
『実はな、この時期にぴったりのもん見つけてよ』
「『性の6時間』だろ」
『それどこ情報? どこ情報よー?』
「一昨年お前から聞いた」
「こっちは忙しいんだ」
『え? それじゃあダーツバーとか行く時間無くない?』
「黙れ」
『実はな、この時期にぴったりのもん見つけてよ』
「『性の6時間』だろ」
『それどこ情報? どこ情報よー?』
「一昨年お前から聞いた」
◆ □ ◆ □ ◆
12月24日の午後9時から翌25日の午前3時までの6時間は
1年間で最もセックスをする人の多い「性の6時間」です。
1年間で最もセックスをする人の多い「性の6時間」です。
貴方の知り合いや友人ももれなくセックスをしています。
普段はあどけない顔して世間話してるあの娘もセックスをしています。
貴方が片想いしているあの綺麗な女性もセックスをしています。
貴方にもし年頃の娘さんや姉・妹がいて、いま家にいないのでしたら間違いなくセックスしてます。
貴方と別れたあの娘も貴方がその娘にやってきたことを別の男にやられています。
貴方の将来の恋人や結婚する相手は、いま違う男のいちもつでヒィヒィ言っています。
普段はあどけない顔して世間話してるあの娘もセックスをしています。
貴方が片想いしているあの綺麗な女性もセックスをしています。
貴方にもし年頃の娘さんや姉・妹がいて、いま家にいないのでしたら間違いなくセックスしてます。
貴方と別れたあの娘も貴方がその娘にやってきたことを別の男にやられています。
貴方の将来の恋人や結婚する相手は、いま違う男のいちもつでヒィヒィ言っています。
◆ □ ◆ □ ◆
十二月になると度々目にする『クリスマス中止のお知らせ』と並ぶ『性の6時間』が都市伝説であることを知っているのは何人いるだろうか。
仮にそれが都市伝説だと知っていても己の商売に利用する者はいまい。
仮にそれが都市伝説だと知っていても己の商売に利用する者はいまい。
「都市伝説を商売に利用するなアホ」
『アホはてめえだ、使えるもんを使わないでどうするってんだよ』
「せめて自分で契約しろ」
『そんなリスク背負えるかバーカ』
『アホはてめえだ、使えるもんを使わないでどうするってんだよ』
「せめて自分で契約しろ」
『そんなリスク背負えるかバーカ』
彼、江良井卓の父が経営するラブホテル――ローペロペコンマは数多くの都市伝説と契約している。
代表的なものを挙げるとするならば『鏡がマジックミラー』『膣痙攣を起こして繋がったまま病院に搬送』『シャンプーの中身は精液』『コンドームには穴が開いている』等である。
これらに加え、一昨年の十二月二十四日に『性の6時間』が加わった。
どれもが同系統の都市伝説であるため、多少の器の広い契約者であれば多重契約するにしてもそう大きな問題はないのだが、問題は別のところにあった。
代表的なものを挙げるとするならば『鏡がマジックミラー』『膣痙攣を起こして繋がったまま病院に搬送』『シャンプーの中身は精液』『コンドームには穴が開いている』等である。
これらに加え、一昨年の十二月二十四日に『性の6時間』が加わった。
どれもが同系統の都市伝説であるため、多少の器の広い契約者であれば多重契約するにしてもそう大きな問題はないのだが、問題は別のところにあった。
「……ラブホに契約させるって何考えてやがる」
『るせー、新技術舐めんな』
『るせー、新技術舐めんな』
彼の言う通り、これら全ての都市伝説と契約しているのは人間ではなく、ラブホテルそのものなのだ。
彼の父親自身はどの都市伝説とも契約していない。都市伝説の存在を知っていることを除けばただの一般人である。
どこでそのような技術を身につけ、どのような理論で無生物が契約できるのか等は語ろうともしないので詳細は一切不明だが、ラブホテル自体が契約者ならぬ契約社なのは間違いない。
世にも稀な多重契約するラブホテル、ローペロペコンマが今晩盛況するであろうことは間違いない。
彼の父親自身はどの都市伝説とも契約していない。都市伝説の存在を知っていることを除けばただの一般人である。
どこでそのような技術を身につけ、どのような理論で無生物が契約できるのか等は語ろうともしないので詳細は一切不明だが、ラブホテル自体が契約者ならぬ契約社なのは間違いない。
世にも稀な多重契約するラブホテル、ローペロペコンマが今晩盛況するであろうことは間違いない。
◆ □ ◆ □ ◆
そして――夜。
祝日休日があろうとも何かしらのイベントがあろうとも葬儀屋には一切関係ない。
それが例え聖夜であってもである。
人の生死に暦は関係ない――葬儀屋に勤めて江良井が学んだことのひとつである。正月でも人は死ぬし、盆でも人は生まれる。当たり前過ぎて認識すらしていなかったことだ。
ただ、今日は珍しく通夜が早々に終わったおかげでいつもよりは――気持ち程度ではあるが――早く帰路についていた。
コンビニでカップラーメンを買い、自宅までもう少しというところで男が立っていた。
それも、逢いたくもない。
祝日休日があろうとも何かしらのイベントがあろうとも葬儀屋には一切関係ない。
それが例え聖夜であってもである。
人の生死に暦は関係ない――葬儀屋に勤めて江良井が学んだことのひとつである。正月でも人は死ぬし、盆でも人は生まれる。当たり前過ぎて認識すらしていなかったことだ。
ただ、今日は珍しく通夜が早々に終わったおかげでいつもよりは――気持ち程度ではあるが――早く帰路についていた。
コンビニでカップラーメンを買い、自宅までもう少しというところで男が立っていた。
それも、逢いたくもない。
「メリークリスマス、江良井くん。人生楽しんでるかい?」
「……誰かと思えばお前か」
「……誰かと思えばお前か」
声をかけてきた男に、嫌そうな顔を隠そうともせずに溜息を吐く。
彼に声をかけてきたのは中年の男であった。
彼に声をかけてきたのは中年の男であった。
「相変わらずつれないね。そんな顔されると傷つくじゃないか」
「用件は何だ?」
「用件は何だ?」
面倒そうな表情を隠そうともしない彼の言葉に、笑みを浮かべる男。
その笑みは子供にも老人のようにも見える。
その笑みは子供にも老人のようにも見える。
「ちょっとした話だよ。そう時間はかけないからそのまま聞いてくれ」
「『ゲーム脳』探しは断わったはずだ」
「そうじゃない、僕と一緒に〈国〉を造らないか?」
「『ゲーム脳』探しは断わったはずだ」
「そうじゃない、僕と一緒に〈国〉を造らないか?」
あまりに簡単な口調。
思わず冗談かと思ってしまうほどあっさりと簡単に。
冗談と思えなかったのは穏やかな視線の中に微かに存在する、射抜くような鋭い光があったからである。
思わず冗談かと思ってしまうほどあっさりと簡単に。
冗談と思えなかったのは穏やかな視線の中に微かに存在する、射抜くような鋭い光があったからである。
「ゲーマーのゲーマーによるゲーマーのための王国――その名も〈ゲーム王国〉さ」
「……小猫といっ平でも誘ってろ莫迦が」
「彼らは一般人じゃないか」
「……小猫といっ平でも誘ってろ莫迦が」
「彼らは一般人じゃないか」
にこやかに笑う男。
仮にこの場に第三者がいたとしても、どこにでもいる温厚な中年が冗談を口にしているとしか見えないだろう。
仮にこの場に第三者がいたとしても、どこにでもいる温厚な中年が冗談を口にしているとしか見えないだろう。
「国造りは僕達のような都市伝説契約者でなければできない仕事さ」
「本気で言っているのか?」
「勿論本気さ。冗談や悪ふざけを口にするわけがないのは君も知っている通りさ。それとも――」
「本気で言っているのか?」
「勿論本気さ。冗談や悪ふざけを口にするわけがないのは君も知っている通りさ。それとも――」
そこで言葉を区切る。
どこか試すような、それでいて無邪気な瞳で彼を見据える。
どこか試すような、それでいて無邪気な瞳で彼を見据える。
「僕の行動に理由が必要かい?」
「いいや。あったとしても興味はない」
「それでこそ江良井くんだ。君に声をかけた甲斐があったというものさ」
「お前がどんな理由で国を作ろうが俺に声をかけようがどうでもいい。だが――」
「俺を巻き込むな、だろ? 僕だってそうしたいところではあるが、今回に限り生憎とそうはいかないかもしれない」
「いいや。あったとしても興味はない」
「それでこそ江良井くんだ。君に声をかけた甲斐があったというものさ」
「お前がどんな理由で国を作ろうが俺に声をかけようがどうでもいい。だが――」
「俺を巻き込むな、だろ? 僕だってそうしたいところではあるが、今回に限り生憎とそうはいかないかもしれない」
男の外見だけを見ればただの温厚な中年にしか見えない。
身に着けているスーツも安物だろう。
手にしている鞄――ボストンバッグだが――も使い込まれているようだ。
口調も穏やかな波を思い起こさせるほど落ち着いている。
見た目だけでは人の好さそうな中年――それなのに、口にしている内容は見た目からは到底想像できない内容だ。
身に着けているスーツも安物だろう。
手にしている鞄――ボストンバッグだが――も使い込まれているようだ。
口調も穏やかな波を思い起こさせるほど落ち着いている。
見た目だけでは人の好さそうな中年――それなのに、口にしている内容は見た目からは到底想像できない内容だ。
「僕達は〈組織〉と敵対する。〈首塚〉や〈第三帝国〉や〈教会〉や〈アメリカ政府の陰謀論〉ともだ」
「気は確かか?」
「僕達の邪魔をするのであれば、だけどね。敵対する勢力は全て潰す。都市伝説、非都市伝説に関わらずだ。――それがこの国を相手取るとしても」
「気は確かか?」
「僕達の邪魔をするのであれば、だけどね。敵対する勢力は全て潰す。都市伝説、非都市伝説に関わらずだ。――それがこの国を相手取るとしても」
強く握る右拳には強い意志。
その瞳には狂気の片鱗すら見えはしない。
しかし、野望という言葉すら似合わぬ中年の言葉には誰よりも強い気迫が込められていた。
ふ、と体の力が抜ける。
その瞳には狂気の片鱗すら見えはしない。
しかし、野望という言葉すら似合わぬ中年の言葉には誰よりも強い気迫が込められていた。
ふ、と体の力が抜ける。
「でも、今言った組織の連中なんかよりもこの町の人達の方が何百倍もおっかないね。外道御三家や五大旧家を抱えているのを抜きにしてもだ。ここの住民は誰も気づいていないかもしれないが、この町にはある共通の意思がある。正義、使命、快楽、守護、復讐……人によって表現方法は様々だけどね。知らず知らず心の奥底に秘めているものがこの町の契約者――いや、この学校町には確実に存在する」
「……」
「学校町は何度も危機に直面した。ちょっと前だと『夢の国』事件、最近だと『CoA』事件や〈組織〉のK-№の乱なんかもそうだ。その都度危機を乗り越えてきたのは君も知っているだろう? 他の国、他の都市なんかじゃ絶対にこうはいかなかった。どうしてこの町は大丈夫か、なんてことは聞かないでくれよ。それは君もわかっていることだろう?」
「……ああ」
「だからこそ、この町は素晴らしいのさ。人間誰しもが持つ意思が――っと、話がそれすぎたな」
「……」
「学校町は何度も危機に直面した。ちょっと前だと『夢の国』事件、最近だと『CoA』事件や〈組織〉のK-№の乱なんかもそうだ。その都度危機を乗り越えてきたのは君も知っているだろう? 他の国、他の都市なんかじゃ絶対にこうはいかなかった。どうしてこの町は大丈夫か、なんてことは聞かないでくれよ。それは君もわかっていることだろう?」
「……ああ」
「だからこそ、この町は素晴らしいのさ。人間誰しもが持つ意思が――っと、話がそれすぎたな」
小さく苦笑して男は続ける。
「君を誘った理由はいくつかある。情けない話だけど、この町での知り合いが君しかいないってのがひとつ」
「他の理由は?」
「君とエスタークの戦闘力。雷獣と槍のコンビは二体で一体の妖だったけど、君達がまさしくそれなのさ」
「他の理由は?」
「君とエスタークの戦闘力。雷獣と槍のコンビは二体で一体の妖だったけど、君達がまさしくそれなのさ」
都市伝説の力を使わぬ彼の単体での戦闘力、都市伝説の力を使っての彼の単体の戦闘力。
これに〈地獄の帝王〉と冠されるエスタークの力が加わればどうなるのか。それを知る者は彼と敵対してきた者だけだ。
それらを踏まえたうえで男は彼を勧誘してきたのか。
これに〈地獄の帝王〉と冠されるエスタークの力が加わればどうなるのか。それを知る者は彼と敵対してきた者だけだ。
それらを踏まえたうえで男は彼を勧誘してきたのか。
「これが最大の理由になるんだが、江良井くん、君のあまりにも高潔で非情で誇り高い精神性だ。敵と認識した時点で、老若男女問わず言葉通り赤子でも長年つきあってきた無二の親友でもこの世にたったひとりの親兄弟でも一切躊躇せず懊悩せず顔色ひとつ変えずに殺せるだろ? その逆もまた然り。――気を悪くしたのなら謝る。だが、僕が君の精神性を高く評価している証拠だと思って欲しい」
挑発している様子も馬鹿にしている様子もない。
男の言葉には思わず頷きたくなってしまう響きがあった。
男の言葉には思わず頷きたくなってしまう響きがあった。
「すぐに答えを出してくれとは言わない。近いうち、また君の元を訪れるからそれまでに決めておいて欲しい。――そうそう、これは手土産だ」
ボストンバッグの中から取り出したのは生首であった。
その表情は苦悶に歪んでいる。
しかし、彼にはその男の顔は見覚えがなかった。
その表情は苦悶に歪んでいる。
しかし、彼にはその男の顔は見覚えがなかった。
「しばらく前から君を監視していた〈組織〉の黒服だよ。ナンバーは……忘れてしまったな」
こともなく告げる男の口調に罪悪感は微塵も感じられない。
対する彼にも嫌悪感は見えない。ボストンバッグから生首が出てきたことに驚く様子も、反応する素振りすらない。
だからというわけではないだろうが――反応した者は別にいた。
対する彼にも嫌悪感は見えない。ボストンバッグから生首が出てきたことに驚く様子も、反応する素振りすらない。
だからというわけではないだろうが――反応した者は別にいた。
「同胞の首、返してもらいたい」
現れたのは黒スーツの男。
夜だというのにサングラスを外しもしない姿から〈組織〉の黒服と察するのはあまりに容易なことだ。
夜だというのにサングラスを外しもしない姿から〈組織〉の黒服と察するのはあまりに容易なことだ。
「君は? 〈組織〉の黒服なのは見てわかるけど」
「お初にお目にかかる。私は〈組織〉所属の黒服、ナンバーはA-№102。貴殿が手にしているA-№106は同胞に当たる」
「用件は?」
「お初にお目にかかる。私は〈組織〉所属の黒服、ナンバーはA-№102。貴殿が手にしているA-№106は同胞に当たる」
「用件は?」
彼の男へ放った最初の問いと同じ問いを、今度は男が黒服へと投げかける。
彼に向ける言葉とは違い、やや敵意のこもった男の言葉に黒服は動じた様子もなく答えた。
彼に向ける言葉とは違い、やや敵意のこもった男の言葉に黒服は動じた様子もなく答えた。
「先も言った通り、貴殿の手にするA-№106の首を返してもらいたい。用件はそれのみだ」
「へえ。で、どうするつもりだい? 彼の敵討ちでも?」
「戦さにて死ぬのは仕方なきこと。また、私に貴殿らとの戦闘許可は出ておらぬ。A-№106の供養を行なうのみ」
「へえ。で、どうするつもりだい? 彼の敵討ちでも?」
「戦さにて死ぬのは仕方なきこと。また、私に貴殿らとの戦闘許可は出ておらぬ。A-№106の供養を行なうのみ」
私の独断だが、との小さな呟きを聞いた彼らふたりは何を感じたか。
生首を手にするのも平然としているのは人間。供養を望んでいるのは都市伝説そのもの。
人間と都市伝説――どちらが化物なのか。
生首を手にするのも平然としているのは人間。供養を望んでいるのは都市伝説そのもの。
人間と都市伝説――どちらが化物なのか。
「ま、首さえあれば供養はできるからね。江良井くんへの手土産のつもりだったけど渡しちゃってもいいかな?」
「俺が頼んだわけじゃない」
「俺が頼んだわけじゃない」
にべもない彼の返事に気を悪くするでもなく笑い、黒服に投げ渡す。
本来は江良井へ渡されるはずであった「手土産」は弧を描き、男の手の中へと収まった。
変わり果てたかつての同胞へ片手で拝んでから、彼へと向き直る。
本来は江良井へ渡されるはずであった「手土産」は弧を描き、男の手の中へと収まった。
変わり果てたかつての同胞へ片手で拝んでから、彼へと向き直る。
「江良井卓よ、A-№106は殿の命により貴殿を監視していた。決して害意があるわけではないことは信じてもらいたい」
「俺は静かに暮らせればそれでいい。お前らはお前らで監視なり何なり勝手にしてろ。ただし――降りかかる火の粉は払う」
「我らは殿の命があれば従うまで。それまでは一切手出しなどせぬ。――然らばだ」
「俺は静かに暮らせればそれでいい。お前らはお前らで監視なり何なり勝手にしてろ。ただし――降りかかる火の粉は払う」
「我らは殿の命があれば従うまで。それまでは一切手出しなどせぬ。――然らばだ」
それだけを言い残し、現れた時と同じように音もなく静かに黒服は立ち去った。
黒服の残した「殿の命」の言葉。命令があればいついかなる時でも命を狙うということ。
彼は言葉の意味に気づいているのかいないのか、A-№102の危険な発言に脅える様子はなく、むしろ嫌そうな目で見送った。
黒服の残した「殿の命」の言葉。命令があればいついかなる時でも命を狙うということ。
彼は言葉の意味に気づいているのかいないのか、A-№102の危険な発言に脅える様子はなく、むしろ嫌そうな目で見送った。
「……寒いと思ったら雪が降ってきたか」
手の平で雪を受け止め、空を見上げる。
静かにひらひらと飛ぶ蝶のように、わずかな風に乗った雪が舞う。
静かにひらひらと飛ぶ蝶のように、わずかな風に乗った雪が舞う。
「僕は帰る。風邪を引かないように気をつけて」
「……お前もな」
「……お前もな」
――こうして、聖夜に突如行なわれたふたりの邂逅は終わりを告げた。
彼らの足跡が、はらはらと降り積もる雪に覆われるまでそれほどの時間はかからなかった。
まるで、彼に――学校町にこれから先も訪れる危機のように。
彼らの足跡が、はらはらと降り積もる雪に覆われるまでそれほどの時間はかからなかった。
まるで、彼に――学校町にこれから先も訪れる危機のように。
了