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異界の入り口に施していた隠蔽が解除された事を確認して、徹心は口許に笑みを浮かべた。
「さて、オルコット達はどう動いて来るかな?」
何かしらの気配を感じとっているのか、チトセが目を眇めて異界の空気を眺めながら徹心に訊ねる。
「結界を解放したのはいいが……敵はこの誘いに乗って来ると思うか?」
「オルコットは僕の異界の正体を知っている。あの入り口が僕の異界に繋がるかどうかはすぐに分かるだろう。入口の位置はこの異界にとってはズバリの位置だし、あの川なら彼等の幽霊船も問題無く侵入してこれるだろうさ。そこまで条件がそろっているのなら、警戒して慎重になり過ぎることで僕達に防備を固める時間を与えはしないはずだ。
そしていつでも来るなら来いの構えでこちらは相手を待ちうける。これで≪ピリ・レイスの地図≫の探査を恐れる事は無いだろう。心理面での負担はこちらと向こうで対等になった」
「奴らが外で暴れて我等をここから引き出そうとするのではないか?」
将門が問いかける。それに徹心は首を振って答えた。
「それはない。外で暴れる事によって外部の者達が介入してくるのは彼等が最も警戒している事の一つだ。彼等は僕らが用意した戦場に乗り込んでこざるを得ないよ。それに僕達をおびき出せてもモニカ君が手に入らないのならば彼等にとっては意味が無い。奪いに乗り込んでくるしかないんだ」
「では目下のところ、守りを固めておけばいいんだな?」
「うん、敵は必ず異界に乗り込んでくるよ」
Tさんの確認に答えて、徹心は皆に指示を出す。
「さて、みんな先に決めた位置についてくれ。この数日で僕達が練り上げた防備の策がどこまで≪神智学協会≫に有効か試してみるとしよう」
「さて、オルコット達はどう動いて来るかな?」
何かしらの気配を感じとっているのか、チトセが目を眇めて異界の空気を眺めながら徹心に訊ねる。
「結界を解放したのはいいが……敵はこの誘いに乗って来ると思うか?」
「オルコットは僕の異界の正体を知っている。あの入り口が僕の異界に繋がるかどうかはすぐに分かるだろう。入口の位置はこの異界にとってはズバリの位置だし、あの川なら彼等の幽霊船も問題無く侵入してこれるだろうさ。そこまで条件がそろっているのなら、警戒して慎重になり過ぎることで僕達に防備を固める時間を与えはしないはずだ。
そしていつでも来るなら来いの構えでこちらは相手を待ちうける。これで≪ピリ・レイスの地図≫の探査を恐れる事は無いだろう。心理面での負担はこちらと向こうで対等になった」
「奴らが外で暴れて我等をここから引き出そうとするのではないか?」
将門が問いかける。それに徹心は首を振って答えた。
「それはない。外で暴れる事によって外部の者達が介入してくるのは彼等が最も警戒している事の一つだ。彼等は僕らが用意した戦場に乗り込んでこざるを得ないよ。それに僕達をおびき出せてもモニカ君が手に入らないのならば彼等にとっては意味が無い。奪いに乗り込んでくるしかないんだ」
「では目下のところ、守りを固めておけばいいんだな?」
「うん、敵は必ず異界に乗り込んでくるよ」
Tさんの確認に答えて、徹心は皆に指示を出す。
「さて、みんな先に決めた位置についてくれ。この数日で僕達が練り上げた防備の策がどこまで≪神智学協会≫に有効か試してみるとしよう」
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徹心の指示を受けたTさん、将門、千勢は地図の上で敵がどの位置に出現するのか、そして自分達の持ち場の位置を確認する。
「多少なりとも≪冬将軍≫の能力による侵食の影響があるはずだ。備えをしておいた方が良い」
「それに例の幽霊船もだな。異界の入り口を突き破って来る主体はおそらくそれだろう。他にも船に何らかの装備があるはずだ。下手に運用される前に沈黙させる事が出来るのならばそれが一番よいのだが」
「それは我が対処するとしよう」
将門が言い、Tさんが頷いた。
「ではそのように対応してもらいたい」
一通りの確認を終えてそれぞれ戦場に出て行く準備を整えたTさん、千勢、将門に舞やリカちゃん、由実が声をかける。
「皆死んだりすんじゃねえぞ」
「けがもしちゃだめなの」
指で三人を指示してビシリと言う舞とリカちゃんに苦笑して由実が落ち着いた声で言う。
「皆、気を付けて」
「怪我をしないというのはなかなか厳しい条件だな」
苦笑して千勢は力強く頷く。
「しかし死にはすまいよ。馬鹿弟子の嫁の頼みであるなら尚更な」
「お前達も銃後とはいえ争いの場に居る事を失念するでないぞ?」
「承知しております、将門様」
「本当に、ここが戦場にならないとも限らない。気を抜くな」
「おう」
「わかったの」
緊張した面持ちの舞達を気遣って徹心が言う。
「もし君達が抜けられてここまで≪神智学協会≫が攻めのぼって来た時は僕が必ず守りきると約束するよ」
「期待しているぞぉ、高部徹心」
「うん、精一杯やるよ」
請け負った徹心の表情に堅い決意を見てとって、Tさんは出発の言葉を告げた。
「では行こうか」
その声に待ったをかけたものがある。遠慮がちなモニカの声だった。
「あ、あの……待って、ください」
「ん? どうした?」
これまで一言もしゃべらなかったモニカは、今は蜂蜜色の髪に飾られた陶器のように綺麗な顔に、そして碧い瞳に決意をみなぎらせて、戦場に出ようとしている三人に向けて訴えるように口を開いた。
「ユ、ユーグおじさんはウィリアムとの戦いの時も助けてくれたの。あの時、背中を向けてだけど、言ってくれた言葉は覚えてる……『御無事なようで』って言ってくれたの……きっとあの時の、わたしのめんどうを見てくれてたユーグおじさんのままだとわたしは思う……です」
千勢が頷く。
「確かにあの時モニカを庇おうとして動いた事は確かだろう。しかし、あの騎士は本気でモニカを都市伝説、≪聖槍≫の器にしようとしているぞ? その果てに訪れる世界の改変と永遠の安眠とやらをモニカにもたらす為にな」
「それでもわたしは話せば分かってくれるってしんじてる」
「モニカの両親は彼の手によって殺されたようだ。俺自身何度か戦ったが、話し合いができるような相手ではないように見えたな」
Tさんが冷静に言う。それでもモニカは首を横に振った。
「お願い、この戦いでユーグおじさんと戦う事があっても殺さないで……おじさんとお話をさせて、ください」
言っている本人が難しい事だと、そして同時に無茶な事であると分かっているのだろう。
モニカがユーグの戦闘能力を実感できているかどうかまでは分からないが、なんとなくでも彼の実力をモニカも知っている筈だ。それでもこんな無茶を言うのは、
……一緒に仲良く生きたい、か……対象はお姉ちゃん――藤宮由実だけではないのだろうな。
おそらくはかつて一緒に生きた、そして今となっては唯一の肉親とも言える存在であるユーグもモニカにとっては一緒に仲良く生きたい一人なのかもしれない。
Tさんは小さな拳をきつく握りしめて、自分達にお願いをしているモニカに微笑みかけた。
「わかった」
将門が甲冑を鳴らして笑う。
「ユーグ、西洋の騎士の長の名であったな? 見合う事があっても殺さずにおく配慮はしようではないか」
「あの騎士も流石にぼこぼこにされた後にモニカの前に引きずり出されれば話し合いに応じんわけにもいかないだろう」
千勢はそう言って、モニカの髪を優しく撫でた。嬉しそうに笑む。
「随分とわがままがうまくなったじゃないか。まさかいきなりこうもド級の願いが来るとは予想しなかったがな」
「ご、ごめんなさい」
「よい、ただその願いの成就は保障できぬと、先に言っておくぞぉ? モニカ」
「はい、将門さま、わかってます。でも、ユーグおじさんとお話できたらって、そうおもうから、おねがいします」
「では、騎士殿については一つ大いに反省してもらう席を用意できるように頑張るとしようか」
Tさんは今度こそ戦場へと歩きだした。
その背に声援が届く。
……護るべきものがある。負けるわけにはいかないな。
そう思う彼の表情は特に気負ったものもなく、ただ全体に霊妙な気配を纏っていた。
戦が始まる。長い長い争いに決着を付ける為の決戦が。
それぞれの思いを胸に、戦端は開かれる。
「多少なりとも≪冬将軍≫の能力による侵食の影響があるはずだ。備えをしておいた方が良い」
「それに例の幽霊船もだな。異界の入り口を突き破って来る主体はおそらくそれだろう。他にも船に何らかの装備があるはずだ。下手に運用される前に沈黙させる事が出来るのならばそれが一番よいのだが」
「それは我が対処するとしよう」
将門が言い、Tさんが頷いた。
「ではそのように対応してもらいたい」
一通りの確認を終えてそれぞれ戦場に出て行く準備を整えたTさん、千勢、将門に舞やリカちゃん、由実が声をかける。
「皆死んだりすんじゃねえぞ」
「けがもしちゃだめなの」
指で三人を指示してビシリと言う舞とリカちゃんに苦笑して由実が落ち着いた声で言う。
「皆、気を付けて」
「怪我をしないというのはなかなか厳しい条件だな」
苦笑して千勢は力強く頷く。
「しかし死にはすまいよ。馬鹿弟子の嫁の頼みであるなら尚更な」
「お前達も銃後とはいえ争いの場に居る事を失念するでないぞ?」
「承知しております、将門様」
「本当に、ここが戦場にならないとも限らない。気を抜くな」
「おう」
「わかったの」
緊張した面持ちの舞達を気遣って徹心が言う。
「もし君達が抜けられてここまで≪神智学協会≫が攻めのぼって来た時は僕が必ず守りきると約束するよ」
「期待しているぞぉ、高部徹心」
「うん、精一杯やるよ」
請け負った徹心の表情に堅い決意を見てとって、Tさんは出発の言葉を告げた。
「では行こうか」
その声に待ったをかけたものがある。遠慮がちなモニカの声だった。
「あ、あの……待って、ください」
「ん? どうした?」
これまで一言もしゃべらなかったモニカは、今は蜂蜜色の髪に飾られた陶器のように綺麗な顔に、そして碧い瞳に決意をみなぎらせて、戦場に出ようとしている三人に向けて訴えるように口を開いた。
「ユ、ユーグおじさんはウィリアムとの戦いの時も助けてくれたの。あの時、背中を向けてだけど、言ってくれた言葉は覚えてる……『御無事なようで』って言ってくれたの……きっとあの時の、わたしのめんどうを見てくれてたユーグおじさんのままだとわたしは思う……です」
千勢が頷く。
「確かにあの時モニカを庇おうとして動いた事は確かだろう。しかし、あの騎士は本気でモニカを都市伝説、≪聖槍≫の器にしようとしているぞ? その果てに訪れる世界の改変と永遠の安眠とやらをモニカにもたらす為にな」
「それでもわたしは話せば分かってくれるってしんじてる」
「モニカの両親は彼の手によって殺されたようだ。俺自身何度か戦ったが、話し合いができるような相手ではないように見えたな」
Tさんが冷静に言う。それでもモニカは首を横に振った。
「お願い、この戦いでユーグおじさんと戦う事があっても殺さないで……おじさんとお話をさせて、ください」
言っている本人が難しい事だと、そして同時に無茶な事であると分かっているのだろう。
モニカがユーグの戦闘能力を実感できているかどうかまでは分からないが、なんとなくでも彼の実力をモニカも知っている筈だ。それでもこんな無茶を言うのは、
……一緒に仲良く生きたい、か……対象はお姉ちゃん――藤宮由実だけではないのだろうな。
おそらくはかつて一緒に生きた、そして今となっては唯一の肉親とも言える存在であるユーグもモニカにとっては一緒に仲良く生きたい一人なのかもしれない。
Tさんは小さな拳をきつく握りしめて、自分達にお願いをしているモニカに微笑みかけた。
「わかった」
将門が甲冑を鳴らして笑う。
「ユーグ、西洋の騎士の長の名であったな? 見合う事があっても殺さずにおく配慮はしようではないか」
「あの騎士も流石にぼこぼこにされた後にモニカの前に引きずり出されれば話し合いに応じんわけにもいかないだろう」
千勢はそう言って、モニカの髪を優しく撫でた。嬉しそうに笑む。
「随分とわがままがうまくなったじゃないか。まさかいきなりこうもド級の願いが来るとは予想しなかったがな」
「ご、ごめんなさい」
「よい、ただその願いの成就は保障できぬと、先に言っておくぞぉ? モニカ」
「はい、将門さま、わかってます。でも、ユーグおじさんとお話できたらって、そうおもうから、おねがいします」
「では、騎士殿については一つ大いに反省してもらう席を用意できるように頑張るとしようか」
Tさんは今度こそ戦場へと歩きだした。
その背に声援が届く。
……護るべきものがある。負けるわけにはいかないな。
そう思う彼の表情は特に気負ったものもなく、ただ全体に霊妙な気配を纏っていた。
戦が始まる。長い長い争いに決着を付ける為の決戦が。
それぞれの思いを胸に、戦端は開かれる。