ドクター102
石造りの台座の上に皮のベルトで仰向けに縛り付けられた、人の形をした人には見えないもの
歪に歪んで腫れ上がった腕や足は、添え木を当てられ固定され
大小様々な痣と傷で元の色がわからないほどの肌には丁寧な処置で包帯が巻かれていた
固定された腕から伸びるチューブは輸血用のパック
口元は酸素吸入器に覆われており、この姿だけ見れば重傷の患者を助けるための措置に見えなくはない
もっとも、それは半分だけ当たっている
「調子はどうかしら、シモネッタちゃん? 今のところ首から上と内臓器官には悪いところは無いはずだけど」
全裸に血塗れというスタイルはそのままに、首から下がミイラのようになったシモネッタに微笑みかけるトライレス
その手には奇妙な色の液体が入った硝子瓶が提げられていた
古めかしい硝子瓶のコルク栓をきゅぽんと抜く音に、シモネッタの身体がびくんと震える
「ふふ、刺激物とか酸とか、そういうものだとでも思った?」
僅かに傾けられた硝子瓶から零れ落ちた液体が、ぽたりと包帯の上に落ちてじわりと染み込んでいく
痛みがくるかと身体を強張らせたシモネッタだったが、結果は真逆のもの
液体が触れた部分は明らかに痛みが和らいでいる
「私の教え子が作った、外傷用の回復薬。『蝦蟇の油』や『河童の霊薬』のような劇的な効果は無いけれど、効くでしょう?」
怯えと戸惑いに満ちた顔でトライレスを見詰めるシモネッタ
「私を……どうす、る……つもり……」
「ああ、別に恩を売ろうとかそういうわけじゃないのよ?」
見た目の年齢相応な、屈託の無い笑顔
だがその仮面の下には、どす黒い悪意が渦巻いている
「単に、壊すところが無くなっちゃったから一旦治すだけ。内臓とか壊すと死んじゃうし、首から上を壊すと見てて面白くないから」
包帯に馴染ませるように、回復薬を振り撒いていく
ガスで麻痺し鈍くなった痛覚でも、全身に痛みを感じないところが無いほどだった身体が、じわじわと癒されていくのが判る
「まだ全ての拷問具のうちの半分も使ってないんだから。もっともっと、じっくりと愉しんでいって貰わないと……ねぇ?」
「あれ、で……まだ……半分……?」
「あなたも拷問具を使うのでしょう? どれぐらいの種類があるかぐらい、把握してるでしょうに」
回復薬で濡れた包帯の下、治りゆく傷跡を探るように指で弄びながら
「私はね? あなたを弄り殺すのが目的じゃないの。私に濡れ衣を着せ、私の恩人を殺し、私の恩人の子孫を騙し、それを嘲笑うなんて真似をね……ちゃぁんと反省して欲しいだけ」
「は……反省してるわ……もう、もう二度とあんな真似はしないと、神に誓うから……」
震える声でそう哀願するシモネッタ
僅かな希望に縋り、怯え震えるその姿を見て、トライレスは僅かに頬を紅潮させてちろりと舌で唇を濡らす
「もしもあなたが私の立場なら、そうして許しを乞う者を助けてあげるのかしら」
「も、勿論……」
「嘘吐き」
シモネッタの口元を覆っていた酸素吸入マスクがするりと外される
そして、身体に振り撒いていた回復薬とは違う、別の薬
体力を回復させる飲み薬を、シモネッタの口にとぷとぷと流し込む
「うぶっ!? がふっ! 待っ……い、ぎっ……が、ぶふっ!?」
口を閉じて逃れようとしたシモネッタだが、即座にその口に『洋梨』が捻じ込まれ、ぎりぎりと無理矢理にその口を押し広げていく
「これからあなたが口にしていい言葉は『ごめんなさい』だけ。それ以外の言葉を口にしたら、反省の色無しという事で拷問を続行するわ」
口を無理矢理抉じ開けられたまま、まともに喋る事もできず頷く事もできず、ただ視線だけで哀願するしかない
トライレスがぱちんと指を鳴らして『洋梨』を消すと、シモネッタは激しくむせ返りながらただただ首を縦に振る
「あなたが私に従順でいるのなら、あなたの所業の半分だけは許してあげる」
「げほっ……半分……?」
「あら、もう忘れたの? 物分りの悪い豚は躾のやり直しが必要かしら?」
「……っ! ごめんなさい、ごめんなさい!」
慌てて言葉を訂正するシモネッタの頬を優しく撫でながら、トライレスは笑う
「もう半分は、クラリッサが許してくれたら……もっとも、あなたの企みで追い詰められたあの子が、死んでしまってなければだけれど」
薬が効いてきたのか、シモネッタの顔色が良くなってきた事を確認すると、トライレスは室内の拷問具達を一斉に奮い立たせる
「さあ、己の所業を悔いなさい。そして許しを請いなさい。あなたが騙し貶めたクラリッサにその懺悔が届くように、大きな声で繰り返し謝りなさい。本当に心から反省できたのなら……神はきっとその声を届けてくれるわ」
天使のような声で高らかに
悪魔のような笑顔で残忍に
トライレスは宴の再開を告げる
「さて、そろそろ痛みは引いたかしら。次の拷問具のリクエストはあるかしら?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「そうそう、これなんて凄く痛いのよね。今でも覚えてるわ」
「ごめんなさいっ……ごめんなさい……」
「ああ、先にこっちをやった方がいいわね。これのインパクトが薄れちゃうもの」
「ごめ……なさ……」
そして、謝罪の懇願はすぐに絶望の悲鳴へと塗り潰されていった
歪に歪んで腫れ上がった腕や足は、添え木を当てられ固定され
大小様々な痣と傷で元の色がわからないほどの肌には丁寧な処置で包帯が巻かれていた
固定された腕から伸びるチューブは輸血用のパック
口元は酸素吸入器に覆われており、この姿だけ見れば重傷の患者を助けるための措置に見えなくはない
もっとも、それは半分だけ当たっている
「調子はどうかしら、シモネッタちゃん? 今のところ首から上と内臓器官には悪いところは無いはずだけど」
全裸に血塗れというスタイルはそのままに、首から下がミイラのようになったシモネッタに微笑みかけるトライレス
その手には奇妙な色の液体が入った硝子瓶が提げられていた
古めかしい硝子瓶のコルク栓をきゅぽんと抜く音に、シモネッタの身体がびくんと震える
「ふふ、刺激物とか酸とか、そういうものだとでも思った?」
僅かに傾けられた硝子瓶から零れ落ちた液体が、ぽたりと包帯の上に落ちてじわりと染み込んでいく
痛みがくるかと身体を強張らせたシモネッタだったが、結果は真逆のもの
液体が触れた部分は明らかに痛みが和らいでいる
「私の教え子が作った、外傷用の回復薬。『蝦蟇の油』や『河童の霊薬』のような劇的な効果は無いけれど、効くでしょう?」
怯えと戸惑いに満ちた顔でトライレスを見詰めるシモネッタ
「私を……どうす、る……つもり……」
「ああ、別に恩を売ろうとかそういうわけじゃないのよ?」
見た目の年齢相応な、屈託の無い笑顔
だがその仮面の下には、どす黒い悪意が渦巻いている
「単に、壊すところが無くなっちゃったから一旦治すだけ。内臓とか壊すと死んじゃうし、首から上を壊すと見てて面白くないから」
包帯に馴染ませるように、回復薬を振り撒いていく
ガスで麻痺し鈍くなった痛覚でも、全身に痛みを感じないところが無いほどだった身体が、じわじわと癒されていくのが判る
「まだ全ての拷問具のうちの半分も使ってないんだから。もっともっと、じっくりと愉しんでいって貰わないと……ねぇ?」
「あれ、で……まだ……半分……?」
「あなたも拷問具を使うのでしょう? どれぐらいの種類があるかぐらい、把握してるでしょうに」
回復薬で濡れた包帯の下、治りゆく傷跡を探るように指で弄びながら
「私はね? あなたを弄り殺すのが目的じゃないの。私に濡れ衣を着せ、私の恩人を殺し、私の恩人の子孫を騙し、それを嘲笑うなんて真似をね……ちゃぁんと反省して欲しいだけ」
「は……反省してるわ……もう、もう二度とあんな真似はしないと、神に誓うから……」
震える声でそう哀願するシモネッタ
僅かな希望に縋り、怯え震えるその姿を見て、トライレスは僅かに頬を紅潮させてちろりと舌で唇を濡らす
「もしもあなたが私の立場なら、そうして許しを乞う者を助けてあげるのかしら」
「も、勿論……」
「嘘吐き」
シモネッタの口元を覆っていた酸素吸入マスクがするりと外される
そして、身体に振り撒いていた回復薬とは違う、別の薬
体力を回復させる飲み薬を、シモネッタの口にとぷとぷと流し込む
「うぶっ!? がふっ! 待っ……い、ぎっ……が、ぶふっ!?」
口を閉じて逃れようとしたシモネッタだが、即座にその口に『洋梨』が捻じ込まれ、ぎりぎりと無理矢理にその口を押し広げていく
「これからあなたが口にしていい言葉は『ごめんなさい』だけ。それ以外の言葉を口にしたら、反省の色無しという事で拷問を続行するわ」
口を無理矢理抉じ開けられたまま、まともに喋る事もできず頷く事もできず、ただ視線だけで哀願するしかない
トライレスがぱちんと指を鳴らして『洋梨』を消すと、シモネッタは激しくむせ返りながらただただ首を縦に振る
「あなたが私に従順でいるのなら、あなたの所業の半分だけは許してあげる」
「げほっ……半分……?」
「あら、もう忘れたの? 物分りの悪い豚は躾のやり直しが必要かしら?」
「……っ! ごめんなさい、ごめんなさい!」
慌てて言葉を訂正するシモネッタの頬を優しく撫でながら、トライレスは笑う
「もう半分は、クラリッサが許してくれたら……もっとも、あなたの企みで追い詰められたあの子が、死んでしまってなければだけれど」
薬が効いてきたのか、シモネッタの顔色が良くなってきた事を確認すると、トライレスは室内の拷問具達を一斉に奮い立たせる
「さあ、己の所業を悔いなさい。そして許しを請いなさい。あなたが騙し貶めたクラリッサにその懺悔が届くように、大きな声で繰り返し謝りなさい。本当に心から反省できたのなら……神はきっとその声を届けてくれるわ」
天使のような声で高らかに
悪魔のような笑顔で残忍に
トライレスは宴の再開を告げる
「さて、そろそろ痛みは引いたかしら。次の拷問具のリクエストはあるかしら?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」
「そうそう、これなんて凄く痛いのよね。今でも覚えてるわ」
「ごめんなさいっ……ごめんなさい……」
「ああ、先にこっちをやった方がいいわね。これのインパクトが薄れちゃうもの」
「ごめ……なさ……」
そして、謝罪の懇願はすぐに絶望の悲鳴へと塗り潰されていった