正体不明 10
真っ白なベッドに横たわり、静かに寝息を立てている黒羽と雪華
その傍らの椅子に座った斬九郎は、病室の入り口に所在なさげに立っていたサロリアスに、深々と頭を下げていた
その傍らの椅子に座った斬九郎は、病室の入り口に所在なさげに立っていたサロリアスに、深々と頭を下げていた
「すまなかった」
「生きて戻れりゃ充分だ」
「生きて戻れりゃ充分だ」
少々苛つきの混じった声だったが、それは単に病室という事で煙草が吸えないというだけの事だ
「相手の手札が判っただけで上々だ。これ以上無駄弾は撃たねぇだろ」
「相手の手札が判っても、こちらに勝てる手札が無い以上は……どうしようもないがな」
「不意打ちかっ食らっただけで、本来の仕事はこなしてんだ。気にしねぇで他所の部署に回せ」
「あんたの口から、そういう言葉が出るとはな」
「相手の手札が判っても、こちらに勝てる手札が無い以上は……どうしようもないがな」
「不意打ちかっ食らっただけで、本来の仕事はこなしてんだ。気にしねぇで他所の部署に回せ」
「あんたの口から、そういう言葉が出るとはな」
斬九郎の憔悴した顔に、皮肉げな笑みが浮かぶ
「弱みを見せれば、一番若手の下っ端部署など良いように食い散らかされるだけだ……『組織』を抜けて忘れたのか、小夜の事を」
「忘れるかよ」
「忘れるかよ」
Zナンバーの立ち上げの折、新参だったサロリアスは黒服の人員を思うように集められず
黒服ではない妖怪、怪異の類を己の能力による『コネ』で集めたのだ
黒服ではない妖怪、怪異の類を己の能力による『コネ』で集めたのだ
Z-No.1『さとり』佐藤梨々
Z-No.2『烏天狗』天駆黒羽
Z-No.3『雪女』氷室雪華
Z-No.4『座敷童子』小夜(さよる)
Z-No.5『屋島の禿狸』屋島太三郎(やしま・たさぶろう)
Z-No.6『煙々羅』八巻燻(やつまき・いぶす)
Z-No.7『本所七不思議』七夜本丸(ななつや・ほんまる)
Z-No.2『烏天狗』天駆黒羽
Z-No.3『雪女』氷室雪華
Z-No.4『座敷童子』小夜(さよる)
Z-No.5『屋島の禿狸』屋島太三郎(やしま・たさぶろう)
Z-No.6『煙々羅』八巻燻(やつまき・いぶす)
Z-No.7『本所七不思議』七夜本丸(ななつや・ほんまる)
格としては並み居る都市伝説などものともしない古参の妖の数々が、ただ『コネ』だけで黒服を着込んで集い従う
それは脅威でもあり
格好の獲物でもあった
それは脅威でもあり
格好の獲物でもあった
「まだ、見付かってねぇのか?」
「そう簡単に見付かるなら、あんたは『組織』を辞めてない」
「確かにな」
「そう簡単に見付かるなら、あんたは『組織』を辞めてない」
「確かにな」
契約すら必要無い、純粋な個と力を手に入れた『座敷童子』
そんなものが存在するのであれば
対抗する者には持たせてはおけない
自らの手中に収めなくてはいけない
そして、諍いの種となる事を恐れ
何よりその力を欲した当時の『組織』の上層部は
彼女の『所有』を、一部署であるZナンバーから『組織』そのものにするべく、『組織』内の何処かに封じてしまったのだ
そんなものが存在するのであれば
対抗する者には持たせてはおけない
自らの手中に収めなくてはいけない
そして、諍いの種となる事を恐れ
何よりその力を欲した当時の『組織』の上層部は
彼女の『所有』を、一部署であるZナンバーから『組織』そのものにするべく、『組織』内の何処かに封じてしまったのだ
「……今は小夜の話をしてる場合じゃねぇだろ」
「ああ、そうだったな」
「ああ、そうだったな」
過去の問題を思い出し、今の問題から目を逸らす逃避だったのだろう
現実に引き戻された斬九郎の表情が、沈痛に歪む
現実に引き戻された斬九郎の表情が、沈痛に歪む
「今の我々には、あれに対抗する手立てが無い」
「お前は、あれは『攫う』事は出来ねぇのか?」
「え、僕?」
「お前は、あれは『攫う』事は出来ねぇのか?」
「え、僕?」
それまで所在なさげに病室の隅で菓子パンを齧っていた『誘拐結社』のリーダー
「不意打ちすれば、契約者の子を攫うならできるよ? 僕はあいつには食べられないからね」
もきゅもきゅごくんと口の中のパンを飲み下して、牛乳パックのストローに口を付ける
「ていうか、攫ってどうするの? 僕の本体が居る場所に引っ張り込むわけだから、閉じ込めようとしたら僕まで一緒に閉じ込められちゃうし」
「それで良いじゃねぇか。一緒に閉じ篭って反省しとけ犯罪者」
「ここしばらく凄く協力してるよね僕!?」
「冗談だ。第一、閉じ込めるにしても『ブロブ』に呑まれた契約者が飢えて死ぬとも思えねぇしな」
「何かの弾みで封印が解ければ、また大惨事だろうしな……異空間系の能力での放逐も似たようなものだろう」
「とはいえ、放っておくよりマシじゃない?」
「ていうか、攫ってどうするの? 僕の本体が居る場所に引っ張り込むわけだから、閉じ込めようとしたら僕まで一緒に閉じ込められちゃうし」
「それで良いじゃねぇか。一緒に閉じ篭って反省しとけ犯罪者」
「ここしばらく凄く協力してるよね僕!?」
「冗談だ。第一、閉じ込めるにしても『ブロブ』に呑まれた契約者が飢えて死ぬとも思えねぇしな」
「何かの弾みで封印が解ければ、また大惨事だろうしな……異空間系の能力での放逐も似たようなものだろう」
「とはいえ、放っておくよりマシじゃない?」
やれやれ、といった調子で椅子に座り込むリーダー
「閉じ込めるだけなら、うちの虎の子出すよ?」
「……ああ、例の素材か」
「うん、都市伝説能力無効化素材」
「……ああ、例の素材か」
「うん、都市伝説能力無効化素材」
『誘拐結社』が所有する、都市伝説を攫って売り飛ばすために使う、都市伝説存在の力が一切通用しない特殊素材
ガラスやアクリルのケース、鋼鉄の檻など様々な形態で作り上げられたものを所有しており、過去にサロリアスの知り合いである都市伝説が捕らわれた事があった
ガラスやアクリルのケース、鋼鉄の檻など様々な形態で作り上げられたものを所有しており、過去にサロリアスの知り合いである都市伝説が捕らわれた事があった
「その素材、逆に言えば都市伝説以外の存在なら普通にぶっ壊せるわけだな」
「そういう事。普通に経年劣化するし、封印とかには向かないね。まあ僕らは一時的な拘束・搬送に使ってるだけだし」
「鋼鉄や鉛などを使って、大型のシェルターのようなものは作れるのか?」
「そんだけ大掛かりだと流石に時間掛かるなぁ。なにせ都市伝説の力で加工はできないからね。人間を使わなきゃいけない」
「そうか……使えそうなものだと思ったが、今回は見送りか」
「そういう事。普通に経年劣化するし、封印とかには向かないね。まあ僕らは一時的な拘束・搬送に使ってるだけだし」
「鋼鉄や鉛などを使って、大型のシェルターのようなものは作れるのか?」
「そんだけ大掛かりだと流石に時間掛かるなぁ。なにせ都市伝説の力で加工はできないからね。人間を使わなきゃいけない」
「そうか……使えそうなものだと思ったが、今回は見送りか」
三人はそれぞれ思案状態に入り、静まり返った病室で意識の無い二人の女性の寝息だけが聞こえている
そんな長い沈黙を、にわかにノックの音が破る
そんな長い沈黙を、にわかにノックの音が破る
「どうも、Z-No.999です。協力者の旗上さんの保護を完了しました」
「ども、大変だったみたいですけど大丈夫ですか?」
「ども、大変だったみたいですけど大丈夫ですか?」
『組織』の末端一部署とはいえ、それを束ねる幹部と元幹部
その風体はヤクザの若頭とマフィアのボスといった異様な圧迫感にも関らず、詩卯はあまり気負った様子は無い
直接的な死の恐怖に比べれば、害意も敵意も無い雰囲気が恐いだけの空気など大した事は無いのだから
その風体はヤクザの若頭とマフィアのボスといった異様な圧迫感にも関らず、詩卯はあまり気負った様子は無い
直接的な死の恐怖に比べれば、害意も敵意も無い雰囲気が恐いだけの空気など大した事は無いのだから
「あの、今回はダメだったみたいですけど。また何かやる時に私が必要だったら、遠慮無く呼んで下さい」
「……化物に喰われかけて、まだそれを言えるか」
「三度続けば流石に慣れます」
「……化物に喰われかけて、まだそれを言えるか」
「三度続けば流石に慣れます」
斬九郎に問われてなお、 にひひと 強がりを込めて笑う詩卯
「あの化物をやっつける……あの子にこれ以上、罪を重ねさせないためなら。何でもやりますよ」
「まあ、手がありゃあな」
「まあ、手がありゃあな」
明るく振舞おうとする詩卯とは対照的に、思案続きで表情が冴えないサロリアス
「ぶっちゃけ手詰まりだ。ここから先は俺達じゃなく、どこか別の部署の連中に任せるかもしれん」
「別の部署の人達なら、簡単に片付くんですか?」
「さあな。適材が居れば簡単に片付くが、居なけりゃ……大惨事の幕開けだ」
「じゃあそうならないように手を考えましょう。私達も道すがら色々考えてたんですけど、どうも決め手に欠けるんですよね」
「別の部署の人達なら、簡単に片付くんですか?」
「さあな。適材が居れば簡単に片付くが、居なけりゃ……大惨事の幕開けだ」
「じゃあそうならないように手を考えましょう。私達も道すがら色々考えてたんですけど、どうも決め手に欠けるんですよね」
手近な椅子を引っ張り寄せ、すとんと腰を下ろし
まるでそこに居るのが当然だと言わんばかりに
一般人のただの女子大生が、化物退治の相談をする化物の輪に加わってくる
まるでそこに居るのが当然だと言わんばかりに
一般人のただの女子大生が、化物退治の相談をする化物の輪に加わってくる
「決め手に欠けても良いから、思いついた事を片っ端から検討してみましょう。人数増えればネタも増えるかもしれません」
「あ、ああ」
「あ、ああ」
あまりにもアクティブな詩卯の態度に、少々気圧されるサロリアスと斬九郎
言われるがままに、それまで検討していた内容を細かい説明や訂正を挟みながら伝えていく
言われるがままに、それまで検討していた内容を細かい説明や訂正を挟みながら伝えていく
「えーと、鉄郎さん。さっき来る途中で話してたプラン、いけそうじゃないですか?」
「鉄郎? 誰だそりゃ」
「Z-No.999さんの事ですよ。番号が999だから銀河鉄道っぽいので。番号じゃ呼びにくいんで勝手にそう呼ぶ事にしました」
「鉄郎? 誰だそりゃ」
「Z-No.999さんの事ですよ。番号が999だから銀河鉄道っぽいので。番号じゃ呼びにくいんで勝手にそう呼ぶ事にしました」
現在使える黒服及び契約者の能力
『ブロブ』とその契約者の能力
物資や備品とその性能
そして、『ブロブ』の被害をこれ以上広げないためにどうすべきか、その到達点
全てを検討し纏め上げ、詩卯は一つの結論に至る
『ブロブ』とその契約者の能力
物資や備品とその性能
そして、『ブロブ』の被害をこれ以上広げないためにどうすべきか、その到達点
全てを検討し纏め上げ、詩卯は一つの結論に至る
「『組織』の他の部署の偉い人に会わせて下さい。もう一つ、それがあれば勝てそうな都市伝説があるので、それが使える人がいるか探したいです」
その言葉に、サロリアスの表情が苦々しく歪められた
「無茶苦茶言いやがるな」
「でも、ここの人達でやるにしても他の部署に頼むにしても、情報の共有は必須事項ですよ?」
「……おい、斬九郎。俺が抜けてから、多少は与しやすそうな奴が幹部になったりしたか?」
「そんな事があったら、今こんな事にはなってない」
「えい」
「でも、ここの人達でやるにしても他の部署に頼むにしても、情報の共有は必須事項ですよ?」
「……おい、斬九郎。俺が抜けてから、多少は与しやすそうな奴が幹部になったりしたか?」
「そんな事があったら、今こんな事にはなってない」
「えい」
憮然とした表情の斬九郎の頭に、ぺしりと詩卯の手刀が落とされる
「今の一撃であなたは大ダメージを受けて、入院しなければいけなくなりました」
「……何だと?」
「というわけで、代理に任命された私が他の部署の幹部さんにご挨拶に行ってきます。一人だと心細いので前任だったというサロリアスさんと一緒に」
「待て!? 何でそういう方向に話が転がるんだ!」
「会って確認すると面倒事になりそうで、それでも状況を確認しなきゃいけないんですから。いざとなったら私が責任被ればなんとかなりますよ」
「一般人にそのような事を任せて、私はのうのうと寝ていろとでも言うのか!」
「あ、それじゃ斬九郎さんがちゃんとお話して確認してきてくれます?」
「ぐっ……!?」
「……何だと?」
「というわけで、代理に任命された私が他の部署の幹部さんにご挨拶に行ってきます。一人だと心細いので前任だったというサロリアスさんと一緒に」
「待て!? 何でそういう方向に話が転がるんだ!」
「会って確認すると面倒事になりそうで、それでも状況を確認しなきゃいけないんですから。いざとなったら私が責任被ればなんとかなりますよ」
「一般人にそのような事を任せて、私はのうのうと寝ていろとでも言うのか!」
「あ、それじゃ斬九郎さんがちゃんとお話して確認してきてくれます?」
「ぐっ……!?」
そこまで言って、そこまで言われては引き下がれるはずもなく
「あ、サロリアスさんもついていってあげて下さいね」
「代理のサポートとかそういうんじゃなけりゃ、俺が顔を出す義理は無ぇよ」
「じゃあ三人で行くという事で」
「何でそうなる!?」
「斬九郎さん一人だと感情面で心配ですから。前任の人ならついていく理由になるでしょう?」
「お前が来る理由はどうする」
「相談役という事で。こう見えても色々、感情や言葉には敏感な方なので役には立つと思いますよ? あと一般人しかどうこうできない素材の説明とかに必要になりません?」
「代理のサポートとかそういうんじゃなけりゃ、俺が顔を出す義理は無ぇよ」
「じゃあ三人で行くという事で」
「何でそうなる!?」
「斬九郎さん一人だと感情面で心配ですから。前任の人ならついていく理由になるでしょう?」
「お前が来る理由はどうする」
「相談役という事で。こう見えても色々、感情や言葉には敏感な方なので役には立つと思いますよ? あと一般人しかどうこうできない素材の説明とかに必要になりません?」
もう完全に吹っ切れたのか、いつものペースでにひひと笑う詩卯
「雰囲気出すならバイトの服着ましょうか? 年末年始に巫女のバイトやってるんですよ」
「やらんでいい」
「やらんでいい」
呆れた調子で頭を抱えるサロリアス
「厄介なのに絡まれたな、斬九郎。事が済むまで俺達は解放されそうに無いぞ」
「……それでも、事が済むなら重畳という奴だ」
「……それでも、事が済むなら重畳という奴だ」
かくして古参にして末席、幹部にして外様、精鋭にしてはぐれ者、そんな立場だったZナンバーを統べていた男と統べている男は
調子の良い女子大生巫女に率いられて『組織』における立ち位置を正す事になる
調子の良い女子大生巫女に率いられて『組織』における立ち位置を正す事になる
無敵になりつつある化物を倒すため
無敵の化物になりつつある少女を救うため