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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 正体不明-09

最終更新:

Elfriede

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正体不明 09


 頭上から迫リ来る夜の町の明かり
 足元へと遠ざかる夜の星の明かり
 全身を削ぎ取るように走る風が、自分が落下しているのだという事を強く認識させる
「最期、ってのは、呆気ないなぁ……」
 黒羽は、くくと自嘲気味に笑う
 ぽっかりと大穴の開いた腹部を押さえ、血の味しかしない口腔から呟きが漏れる
「もちっと上手く、やれる、と……思ってたけど……世の中、そんなに甘く、ない、か」
 霞む視界に、月明かりに照らされた家々や道路が急速に迫り来る
 あとものの数秒で地面に激突し、潰れて果てるという事が容易に想像できる
「さっちゃん、後味の悪い別れでごめんね」
 その呟きを残して
 黒羽の意識は闇に沈んでいった

―――

「かっ……は……」
 冷気と氷と冬の化身である雪女の口から、焼けて煤けた熱い息が漏れる
 肉体そのものを直接焼かれ、文字通りの意味ではらわたが煮え繰り返っている
「ね、そろそろ寒いのやめて? あんまり焼くと……食べるとこ無くなっちゃうから」
 凍りついた部分をみしみしと軋ませながら、『ブロブ』を炎で炙りその軟性を取り戻させていく少女
「ちゃんと、ね? 美味しく食べてあげるから。ずっと忘れないでいてあげるから」
 雪華の脳裏に、一つの策が浮かぶ
 この『ブロブ』が喰ったものの能力までもを取り込むのであれば
 自分が喰われる事で冷気を纏う能力そのものを取り込ませる事も出来るのではないかと
「そう……ね……ちゃんと全部……残さず綺麗に食べてくれる……のかしら?」
「うん、好き嫌いは言わないんだ。えらい?」
 本当に、ただ自慢げに
 何の悪意も敵意も無い、子供らしい笑顔を浮かべる少女
「冷たいのは好きじゃないけど、我慢できるから。それじゃあ」
 少女の腕がするりと雪華に向けられ
「いただきます」
 既に溶け落ちた『ブロブ』の一部が、大きく口でも開けるかのように膨れ上がった

―――

 真っ直ぐ向かってくる『ブロブ』の塊を、日本刀の一閃が薙ぎ払う
 その斬撃はほぼ液体とも言える『ブロブ』を、刃の届かぬ遥か先まで一刀両断にするが、飛び掛ってきた勢いを殺す程度にしか効果は無い
「液体、軟体の状態では、やはり届かないか……だが」
 すらりと抜き放たれる、もう一振りの刀
「線で留めるには限界がある、となれば」
 一撃
 二撃
 斬り抜かれた刀が地面に突き立てられ、更に何処からともなく抜かれた別の刀が新たなる斬撃を放つ
 三、四、五、六
 刀の数は増え、十重二十重に飛び交う刀の閃き
 七、八、九、十
 二十、四十、六十、八十、百
 隙間無く打ち込まれる線の斬撃は面の打撃となり、迫り来る『ブロブ』を弾き飛ばす
「このまま……押し、切れるか!?」
 無数の斬撃を放ちながら、ずん、と一歩踏み込み
『ブロブ』を斬り裂いた先、契約者の少女へと刃と届かせるために
 もう一歩、更にもう一歩
 迫る『ブロブ』を叩き返しながら、じりじりと前進する
 だが、十中八、九は届かない
 本来なら必殺であるはずの一撃を、無数に放たなければいけない以上、どう考えても持たない
 届かせるとすれば、それは気力だけの勝負である
「足止めできれば上出来だったが……まだまだ、欲は出るものだな!」
 巨大な平手で張り飛ばされたように、契約者の頭上へと弾き返される『ブロブ』の波
 ぽっかりと開いた空間の先に、小さくか細い少女の背中が見えた
「届、けっ!」
 空を裂き放たれた斬撃が、少女の背中を捉えた
 切断する
 ただそれだけの単純な能力が、少女の身体を袈裟懸けに斬り裂いた
 確かな手応えと、怖気の走るような違和感
「な、に?」
 肉を、骨を、確かに斬り裂いたはずの少女の身体は
 確かに斬られた傷跡をその身体に刻みながらも、平然とその場に立っていた
 骨も、筋肉も、血管も、神経すらも
 その全てを断ち斬られた瞬間に『ブロブ』が繋ぎ留め、その代替として機能していたのだ
「やはり、俺一人では……無理だったか」
 諦めの混じった呟きと共に、力の抜けた両手から刀が落ちる
 そして、『ブロブ』の進撃を阻む手は無くなった

―――

 溶け落ちた『ブロブ』が、少女の周囲一体を呑み込み、洗い流し、渦を巻いていく
「……また、逃げられちゃった」
 少女は不満そうにそう呟くと、辺りを埋め尽くす『ブロブ』をずるずるとその手のひらに引き戻し、吸い込んでいく
『ブロブ』に覆われた一帯は一切の有機物が食い尽くされており、残るものは無機物ばかり
 少女はすんすんと鼻を鳴らすと、ふうと息を吐く
「近くにも、もう居ないね……残念だなぁ、みんな美味しそうだったのに」
 とろりと手に絡み付く『ブロブ』を、水飴でも舐めるかのようにちゅぷりくちゅりと舐め取っていく
「はやく、世界中の生物とみんな一つになりたいね」

―――

「全部で三人だっけ? ほい、回収完了っと」
 どさりと地面に尻餅をつく斬九郎
 その傍らには、胴体を抉られて血塗れの黒羽と、全身を焼かれてぐったりとした雪華が、梨々とサロリアスに抱き留められていた
「これで貸し一つだね。いや、三人助けたから貸し三つかな?」
「やかましい。ごちゃごちゃ抜かしてねぇで運ぶのを手伝え。このままだとこいつらが死ぬ」
「はいはい、人使いが荒いねぇ……お兄さん、立てる?」
「……問題無い」
 リーダーの手を払い除け、歯を食い縛りながらよろよろと立ち上がる斬九郎
 その表情は、この惨状を招いた自分の見通しの甘さをただただ悔いているものだった
「後悔だけなら後でも出来るっスよ。今は一旦退いて体勢を立て直して、アレをどうにかする手を考えるっス」
 そうは言いながらも、『ブロブ』の契約者の精神に触れたせいか
 梨々の顔色もまたすこぶる悪い
「今はどうしようも無ぇ。こいつらが優先だ」
「治療のアテはあるのか?」
「『組織』の他の部署に借りを作りたく無ぇんだろ。だったら病院だ」
 都市伝説の治療が可能な病院と言えば、この町で有名なのは一箇所
 北区に存在する『第三帝国』の診療所だ
「『誘拐結社』といい『第三帝国』といい、外部組織とのコネが多いな」
「『組織』をアテにしたくは無ぇのは、俺も一緒だからな……まあ俺自体が既に『組織』の外だ」
 過去に0ナンバーとして関った『組織』の黒服達を思い出し、サロリアスは苦々しく顔を歪める
「今はどうだか知らねぇが、お前が信用してる様子が無ぇって事ぁ、今もロクなもんじゃ無ぇんだろ」
 サロリアスがまだ現役の頃は、斬九郎はその部下でしかなく
 彼は何があったのかを何も語らないままに『組織』を去ってしまった
 そんなかつての上司の顔を睨みつけ、斬九郎はぎりと歯軋りする
「戻ってきては、くれないのか?」
「ガラじゃねぇ」
 理由になってない返答を残し、サロリアスは黙り込む
 二人の間に重苦しい空気が流れるが、それをガン無視してリーダーが割り込んでくる
「お取り込み中のところ申し訳ないけど、移動するから集まってね?」
 二人からは返答は無かったが、無言を肯定として勝手に認識し、近くにある交通標識から影を引き摺り出す
「それじゃあ診療所の近くまで『攫う』から。怪我人はしっかり押さえといてね、安全まで気遣えないんだからさ」
 影はその場に居た全員を丸ごと呑み込み、交通標識の中へと引き摺り込む
 その場に残されたのは血の染みと、黒い烏の羽だけだった

―――

「……追いかけてはこないね」
「でも、結局は失敗だったみたいだね。いざとなったらあっち側に逃げるから、俺から離れないでいて」
 一般人にはまだ堂々と姿を晒さない様子である『ブロブ』の契約者を避けるべく、詩卯とZ-No.999はいつもの駅前へと向かう
「あの子、どうしてもやっつけなきゃダメなのかな」
「都市伝説に呑まれちゃったら、元に戻すのはまず無理だからね」
 さばさばとした様子のZ-No.999に、詩卯は何か納得できないような顔をしている
「襲われ喰われてる人を見て、何回も襲われて、それでも助けようって思うのは凄いと思うけど」
「んー、そりゃあ食べるためとはいえ、自分の事を覚えててくれた子供だし。このまま私だけ囮になって逃げ回って……なんてのはダメかな?」
「無理じゃないかな。逃げたらすぐ諦めて別の食べ物を探すみたいだしね」
「そっか……せめて、一旦捕まえるみたいな手はダメかなぁ」
「捕まえられるだけの設備があるかが問題かな。液体が漏れないのは必須として、今は炎や熱も使うからそれを凌げる耐久性が必要だし」
「むう、スペースシャトルとかそのぐらい?」
「そんなものに閉じ込められたら、そのまま地球の外まで捨てられるけどな」
 苦笑混じりにそう答えたZ-No.999
「流石に学校町じゃ、そんなものは……ん?」
 だがその表情は何か思い当たる節があるような、そんな顔
「シャトル……いや、ロケット……あとは閉じ込める手か……うーん」
「待って。あの子を地球の外に捨てるってのを本気で検討してる?」
「閉じ込めたままだと、何かの拍子で解放されるかもしれないしね。繰り返し言うけど、彼女を元に戻すのは無理だよ。都市伝説を人間にする研究に成功した人がこの町には居るらしいけど……『ブロブ』相手じゃ流石にね」
『ブロブ』を活動停止させるための凍結という手段がもう使えない今、彼女を捕縛して処置を施すというのはもう無理なのだ
「いつか誰かがやらなきゃいけない以上、俺達が出来るならやるしかない。恨まれるのも罵られるのも仕事のうちだし」
 Z-No.999は何かに気付いたようにポケットに手を入れる
 マナーモードになっていた携帯電話には、上司である斬九郎からのメール着信が告げられていた
「あ、無事だったっぽい」
 かちかちとボタンを押してメールの内容を確認し
「それじゃ俺は、君を安全なとこまで届けたら上司と合流するから。今後の作戦も練らないといけないし」
「だったら私も一緒に行くよ」
「え、何で?」
「また囮が必要になったら、協力できるでしょ? 連絡して意思確認されるより手っ取り早いし」
「でもなぁ……うーん」
「大丈夫。何をやると決めても邪魔しないし、文句も言わないから。最後までどうなるのか知りたいだけ」
「……まあ、俺と一緒に居た方が何かと安全か。また囮を頼むかどうかは別として」
 二人は駅前へと向かう道を、周囲を警戒しながら北区にある診療所へと変更する
 この戦いを最後まで見届けるために
 その最後が、どちらにとっての、どういった最後なのかは
 まだ判らない


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