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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 正体不明-11

最終更新:

Elfriede

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正体不明 11


 見慣れぬ顔に窺うような視線を向けてくる新参の黒服達
 知った顔にあからさまな警戒色を浮かべる古参の黒服達
 Z-No.0、然河斬九郎と
 元Z-No.0、サロリアス・サジャス
 ヤクザの若頭とマフィアのボスが、ピリピリとした空気を纏って闊歩している様は、知らぬ者には近寄り難く
 二人の素性を知る者には、近寄る前にまず関係各所へ警戒を呼び掛ける

「二人とも、なんかドン引かれてるよ? そんな仏頂面してるから」

 そんな風体も空気も気にした様子もなしに、前を歩いていた詩卯がくるりと振り返ってびしびしと指を突きつける

「これから協力を求めに行くんだから、笑顔とまではいかなくても殺気ぐらいは抑えてね」
「そうは言うがな……癖みたいなもんだ、仕方無ぇだろうが」
「お話は聞いたから事情は知ってるけど、まずは当面のお仕事を片付けなきゃダメだからね。そっちの問題も……これが上手くいけば転機になるかもしれないでしょ?」
「そうだと良いんだがな」
「昔の事情は聞いたけど、ネガ過ぎやしないかなー、ホント」
「都市伝説相手でも、金貸し仕事でも、悪い方を想定しながらじゃなきゃやってられねぇんだよ」

 そんな会話を遮るように、ひたりと斬九郎が足を止める

「どうした?」
「蜘蛛の糸に触れた」

 巣を張ろうと渡らせた糸に触れた経験は誰にでもあるだろう
 光の加減で目には見えない事が多いが、その感触は肌や髪の毛に触れればすぐ判る
 斬九郎のように、ズボンの裾に触れたものを察知するのは、それなりの能力が必要になるだろうが

「わざわざ足元に張っていたところからすると、奴だろう」
「イクトミか」

 心底面倒臭そうなサロリアスの表情

《まあそんな嫌な顔をしなさんな。A-No.0はまだ無理をさせられないんでな、勝手ながら出張らせてもらったわけだ》

 頭上から、ついと糸を伸ばして垂れ下がる小さな蜘蛛が一匹
 サロリアスの目の高さまで降りてきて、そのままつぅっと更に下へと降りていく

「んひゃうっ!?」

 蜘蛛が降りた先は、サロリアスとは頭一つ以上低い背丈の、詩卯の首筋

「ちょっ、蜘蛛っ!? 背中入った背中ー! 取って取ってー!?」

 じたばた暴れる詩卯を相手に、服の中をこそこそと這い回る蜘蛛

《ふはは、朴念仁だけど割とフェミニストなこの二人が女性の服に手を突っ込むとか、潰れるのを気にせず服の上から叩くような真似ができようはずもない》
「斬九郎、蜘蛛だけ斬れるな?」
「応」
《ごめんなさい、調子に乗りました。すぐ止めます》

 すらりと抜き放たれた日本刀が、ぎらりと光り
 服の裾からぽろりと落ちてくる小さな蜘蛛

《挨拶しないで不意打ちでやっとけば良かった》
「不意打ちでやられたら返答聞かずに斬らせてる」
「糸で察しなければ気配がした瞬間に斬ってるな」

 物騒な事を言うZナンバーの二人組

《というかそんな物騒な話をしに来たのか?》
「物騒な流れになる原因は手前ぇだろうが。用件は事前に連絡したはずだ」
《ああ、聞いてる聞いてる。それでもまあ、来る面子が面子だけにこっちも準備が必要でね》
「準備、だと?」
《そう凄むなっつーの。Zナンバーはほとんど独立機関状態だったし、ここ数年の激動具合とか知らないだろ?》

 気が付けば、周囲を取り囲む大小様々な蜘蛛の群れ
 背後は完全に封鎖されており、一行は前に進む事しかできそうにない

「閉じ込めたつもりか?」

 先程抜いた日本刀を構える斬九郎だが、イクトミの雰囲気には剣呑な様子は欠片も無い

《喧嘩っ早いなぁ……そっちの用件より先に、済ませておきたいっていうたっての希望があってな。あんまりおおっぴらに姿を見せるわけにいかないから、こういう形にしたんだって》

 蜘蛛の封鎖とは反対側
 通路の奥から静かに現れた小柄な影
 それは、見た目はただの子供でありながら、どこか上品な佇まいを感じさせる和服の少女

「……まさか」

 斬九郎の手から、日本刀がするりと抜け落ちて床の上にがしゃりと落ちる
 サロリアスもまた、信じられないものを見る目でその少女を見詰めており
 事情を知らない詩卯だけがなんだか置いてきぼりといった感じで頭の上に疑問符を浮かべていた

「誰?」
「……小夜」

 それは、過去に『組織』の過激派や急進派によって幽閉されたはずの、座敷童子の少女
 幻影の類ではなく、彼女は確かにそこに居た

「さっちゃん、きゅーちゃん」

 小夜は少女らしい、菜の花畑を思わせる柔らかな笑顔を浮かべると、まずは斬九郎の手を取り
 その手に握られていた日本刀の鞘をぐいと奪うと、呆然としているその眉間に思い切り突きをくれる

「おぐぅっ!?」

 思わず眉間を押さえて蹲る斬九郎
 即座に両手で鞘を握り直した小夜が、ゴルフクラブのようなスイングでサロリアスの向こう脛をぶっ叩いた

「~~~~~~~~っ!!!?」

 叩かれた脛を押さえ、悶絶するサロリアス
 小夜は満足げな顔で鞘を放り投げ、埃でも払うかのようにぱんぱんと手を叩く

「このド阿呆ども。私の考え一つ察せずに、『組織』は抜けるわ主流から外れるわ……情けなくて笑うしかできないわ、本当にもう」

 子供らしい笑顔のまま、子供らしい声のまま

「たかだか子供の力で小突かれたぐらいで……鍛え方が足りないのよ、鍛え方が」

 出来の悪い生徒を叱りつける教師のように、痛みに悶絶する大人の男二人を見下して語る小夜

「さて、とりあえずの用事は済んだわ、イクトミ。残りのお説教はそちらの用事が済んでからにしましょう」
《了解。それじゃあそっちの二人が復活したら応接間に通すから、そっちで待ってな》

 結構な強度を誇る日本刀の鞘でぶっ叩いておいてこの態度である
 世間一般で言う座敷童子の純朴なイメージとは程遠い

「……待て、小夜ってあんな奴だったか?」
《アレが素みたいだけど? Zナンバーに居た頃は大人しくしてたらしいけどな》

 涙目で額を押さえながら、押し殺した声で呟く斬九郎
 必死に笑いを堪えているのが漏れ伝わるほどの様子で、イクトミの声が震えているのが判る

《ま、積もる話もあるだろうけど、彼女の言う通り先に用事済ませちゃおうか。奥の部屋へどうぞ》
「通路は塞いだままでか?」
《小夜ちゃんの存在、割とトップシークレットだからな。秘密にしとく理由は重々承知だろうさ》
「存在は知っているとはいえ、確保している事を俺達には知らせて良いわけか」
《むしろもっと早く知らせたかったんだがね。過激派と急進派の勢力が削がれた頃ぐらいには》
「……何だと?」
《そういう事情を全然知らないで疎遠なままだったからなぁ、Zナンバー。そりゃ小夜ちゃんも怒るって》

 座敷童子が加護をもたらすのは、個人でも組織でも派閥でもなく、家
 半ばサロリアスの私兵隊だった当時のZナンバーから、小夜の加護が向けられる対象は『組織』に移った
 その結果、小夜の存在を確保するのが穏健派であろうと過激派や急進派であろうと、約束されるのは『組織』の末永い繁栄である
 そして、過激派や急進派が主流である『組織』などというものは、末永い繁栄などとは縁遠い事この上ない
 結果として、様々な騒動の末に過激派や急進派の勢力は大幅に削がれ、穏健派が最大勢力として現在の『組織』を動かしている
 そこにZナンバーが共に在れば、何事も無く全ては丸く収まったはずなのだが
 サロリアスは『組織』を離れ、斬九郎はZナンバーを『組織』から孤立する形で動かしていた
 小夜の加護はそこへと及ぶ事は無く、結果として再会が遅れたものの
 この度、斬九郎が『組織』との連携を求めた事により縁が繋がり、こうして様々な事が都合良く進んだのだという

《引退した人は仕方無いとしても、現役の人はちゃんと把握しとくべきだったんじゃねぇかな?》
「ぐぬ……」

 言葉に詰まる斬九郎の肩を、詩卯がぽんぽんと叩く

「ま、これから状況はいくらでも改善できるっしょ? 当面の問題さえ片付けちゃえばね」

 にひひと笑う詩卯に釣られてか、斬九郎の顔にも僅かに笑みが浮かぶ

「そうだな。またモタモタしてたら、この程度では済まなくなりそうだ」

―――

 応接間といった風情の部屋で、ソファーにちょこんと座る詩卯
 その両隣を固める新旧Z-No.0の二人は、向かいに座る小夜にどこか威圧されいてるかのように落ち着きがない

「……つまり、そういった事ができる都市伝説がいれば、例の『ブロブ』は片付けられると」

 三人の向かい、小夜の横に座る、蜘蛛を介してないネイティブな姿のイクトミが、足を組んだまま大仰に両手を広げて面白そうなものを見る目で詩卯を見ている

「まあそれは最終段階なので。問題は、そういう事に耐えられるぐらいのモノがあるかどうかなんですが」
「そうだねぇ……頑丈なだけだと、そっちの都市伝説の出力が必要になるし。理想は……マジで本物使っちゃう事なんだけどなぁ」
「流石にそんなものはこの町には無いですよね。それにあったとしても、警戒されるでしょうから閉じ込めるとか土台無理な話です」

 いつものように、唇の端を吊り上げてにひひと笑う詩卯

「熱と圧力に強い、密閉できるそこそこの大きさなもの。それぐらいならギリギリいけるんじゃないですかね?」
「問題はどうやってそこに誘い込むかだけど」
「ああ、それは大丈夫。私が囮やりますから」
「おい待て。いい加減懲りてないのかお前は」

 あっさりと言ってのけた詩卯に、サロリアスが流石にと口を挟む

「でも、あの子は食べ逃し続けてるせいか、私にずっとご執心じゃないですか。引っ張り込むには最適ですよ?」
「出力の都合を考えれば、密閉容器はさほど大きくできないはずだ。どう考えてもお前が助かる余地が無い」
「あー、その辺はですね?」

 詩卯はにっこりと微笑む

「助かるつもり、無いですから」

 その笑顔は、全てを割り切った覚悟で出来たもの

「いやまあ助かろうと思えば助かれるんですけどね。それだと……あの子が救われない」

 アルバイトとはいえ、神に仕えた巫女としての立場のもの

「きっちり話しておきたいんですよね、あの子と。でもまあタイミング的にはこれが最後でしょうし。食べられても意思は残るみたいだし、私的には問題ないですよ」
「待て、そんな作戦を決行させると思っているのか?」

 形式上は責任者である斬九郎が割って入るが

「じゃあ代案出して下さいね、私が実行する前に」
「……っ!」
「私以上にあの子を引きつけられる囮、いないでしょ?」
「……いや、待て。サロリアス、前に手助けさせた『誘拐結社』のリーダーだ。あいつの能力を使えば」
「足や腕の先程度にでも食いつかれたら、そのまままとめて引っ張り込むぞ、あいつの能力は。前にそれで酷い目に遭った」

 斬九郎の問いに、火の付いてない煙草を咥えて、苦々しげに呟くサロリアス

「ああでも、その人に控えといてもらえれば。万が一にお話が上手くいったらなんとかなるかもしれません」
「万に一つ程度か……」
「まあゼロじゃないですよ? まーなんとかなるでしょう、きっと」

 さばさばとした様子でソファから立ち上がり、しゅたりと片手を上げて

「んじゃ、準備の方はよろしくお願いします。急がないと被害も拡大するし、あの子の為にもならないから急いでねー。あ、ここどっか泊まれる部屋とかあります? 家に帰る途中で襲われたら台無しだから」
「丁度、私の部屋は誰にも見付からない仕掛けが施してあるから。そこにしましょう?」

 そう言って詩卯の手を引きながら、ちらりと残る男三人を振り返る小夜

「しっかり考えなさいな。無能は無能なりに知恵を絞りなさい、後悔したくなければね」

 小夜が詩卯を連れていったのを確認してから、それを待っていたかのようにイクトミが口を開く

「さっきから色々『先を観てる』んだけどな……こりゃあなかなか骨だね」

『破滅的な未来に限定した予知能力』を持つイクトミ
 そんな彼が、陽気さを潜めて溜息を吐き

「彼女の命か、彼女の気持ちか。どっちを切り捨てる?」

 そんな二択を突きつけてきた


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