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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 夏の夜の-01

最終更新:

Elfriede

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夏の夜の 01


 ぱさぱさと乾いた音を立てて羽ばたく蝙蝠のような翼
 先端が矢じりのように尖った蛇のように蠢く尻尾
 節がくっきりと浮いた美しい曲線の捻れ角
 初見での印象は誰が見ても「悪魔だ」と思うような造形のものを生やした少女は、憔悴しきった顔で空を飛んでいた

「あ~……おなかすいた……」

 その少女に名前は無い
 この町では何処にでもいるような十把一絡げの都市伝説の一匹で、サキュバスと呼ばれる夢魔の一種である
 夜な夜な若者の夢に入り込んでは淫らな行為に耽りその性欲を糧としているのだが

「最近大騒ぎばっかりだから、黒い服の連中の警戒が厳しいのよね……あたしみたいな雑魚は、衰弱させるほど吸えないっての」

 ぶちぶちと独り言で文句を呟きながら、ふらふらとマンションが立ち並ぶ町の空を飛んでいく

「あーもー、なんかもうダメ……お腹空いてまともに考えもまとまんない」

 よろよろと手近なマンションのベランダに着陸し、くてりとその場に体育座り
 くぅくぅきゅるると音の鳴るお腹を抑えて丸くなる
 そんなサキュバスの鼻腔を、堪えきれないほどに芳醇な香りがくすぐった

「ふわぁ……なにこれ、すっごい欲求不満っぷり……何年おあずけで寝かせたらこんな風になるんだろ……」

 香りに誘われるまま、するりとベランダのガラス戸をすり抜けて、リビングの向こう側にある寝室にふらふらと歩いていく
 この時の彼女の状態を体験したいなら、三日ほど食事を抜いた後に、営業中の中華料理屋かカレー屋の排気口の前を通るといいだろう

「うふふ、だーめでーすよー、性欲は発散させないと健康にも良くないですよー」

 夏だというのに冷房の気配も無く、網戸だけ残して開け放たれた窓と、のんびりと熱気をかき回す扇風機
 蚊取り線香の匂いが漂う中、汗ばんだ肢体をベッドの上に晒す少女の姿を見つけ、サキュバスの口元から涎が溢れる

「日常生活で悶々としない程度に、おねーさんが優しく食べてあげますからねー」

 ぎしりとベッドに乗り込んで、暑さのせいか機嫌の悪そうな顰めっ面の少女の額に、こつんと己の額を重ね合わせる

「それじゃ、いっただきまーす♪」

 サキュバスの姿が少女の身体に吸い込まれるように消えていった

―――

 サキュバスは少女の夢に入り込んで、奇妙な違和感に気付く
 大体の場合は気になる異性のイメージがあり、それを借りて望む性的欲求を満たしてあげるのがサキュバスの『食事』になるのだが

「……ん~?」

 異性のイメージはあるのだが、性的欲求のイメージが全く伝わってこない
 そして、異性イメージを把握した瞬間、サキュバスは背筋に液体窒素でもぶち込まれたような寒気どころではないものを感じた

「え、ちょ!? この子なんなの!? 契約してるよ! お手付きだよ!? しかも超凄いのに!?」

 そして、気が付く
 彼女の肉体は、確かに性的欲求を満たせずに悶々としている
 だがそれは我慢とか制約とか、そういう理由で満たされていなかったのではない
 性欲が水
 理性がダム
 性行為が放水弁だとしたら
 彼女のダムには、放水弁がついていない
 そして、水は溢れんばかりに溜まっており
 性行為について熟知しているサキュバスの存在が、夢に入り込む形で同化したその瞬間

「バレないうちに退散しない……と……?」

 溜まりに溜まった性的欲求は開放のための出口を見つけ、濁流のように溢れ出した

「んきゃー!? 無理! いっぺんには無理! 食べらんないー!?」

 鉄砲水に押し流されるように、欲望の濁流に飲み込まれるサキュバス
 その結果

―――

 何か悲鳴を聞いたような気がして、少女――宮定繰はベッドから身を起こす
 部屋はいつも通り何も変わらない様子
 窓から入ってくる町の明かりと、部屋の中にぽつんと灯った蚊取り線香の火、黙々と首を振り続ける扇風機

「……気のせいかしら」

 寝惚け眼をこすり、汗で濡れた下着を取り替えようと立ち上がろうとしたその瞬間
 ばさりと、背中で傘でも開いたような音がした

「……ん?」

 何気なしにそちらを見ると、そこには大きな蝙蝠のような翼

「………………え?」

 下着をずり下げて、尾骨の辺りからにょろりと生えた尻尾

「ちょっと待って、何これ」

 思わず髪を掻き上げた手にこつんと触れる、頭部からしっかりと生えた捻れた角

「ちょっ……マジで何よこれ!?」

 ベッドから飛び降りて、部屋の電気を点けて姿見の前に立つ
 艶かしい色つやで美麗な曲線を描く翼と尻尾と角

「これ……先生に相談した方が……? んっ……ふぁ……」

 そして、汗で濡れる自分の身体を見るや否や、胸から溢れ出し全身を熱く火照らせる圧倒的な欲望の渦
 それまでは全く知らず存ぜぬだった性的知識の数々が、その頭の中に溢れかえる
 その熱に堪えきれないように、身体の火照りを冷ますように
 繰はその姿のまま部屋の網戸を開け放つと、窓枠に足を掛けて夜空へ舞い上がる
 溢れかえる欲望を解放するために

―――

「これバレたら殺されるっ……死んじゃうっ……! 早くなんとかしないとっ!」

 サキュバスはディランの存在をよく理解していないが、強大な力を持った夢魔という事だけは同化した繰の力から判断できている
 ヤクザの三下がつまみ食いしようとしてひっくり返したケーキが超のつく高級品で、それが組長に出すものだったぐらいの状況

「どさくさで食べちゃってるけどっ……美味しいけどっ! というかあたしの力まで勝手に使われてるっ!? 飛んでるとこであたし離れたら落ちるんじゃないこれ!?」

 満腹を越えて吐きそうなほどに食べるだけ食べても、繰の中に溢れかえる性的欲求不満の勢いは目減りする様子はない
 プール一杯のゼリーを食べたいとアホな願い事をした子供が、本当にプール一杯のゼリーの中に突き落とされたような、そんな有様である

「せめてっ……せめて男には遭遇しないでっ……! 女の子ならギリギリセーフな気がするからっ!?」

 どう考えてもアウトではあるが、多少はマシといった程度である
 繰が誰と遭遇し、何処までいって止まるかが、サキュバスの運命の分かれ目となるだろう

 暑く熱い夏の夜は、始まったばかりであった


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