夏の夜の 02
異変にはすぐに気がついた
そこそこ高級なマンションで、壁越しに音は伝わるものではないのだが、開け放たれた窓から音は漏れ聞こえる
僅かに軋み擦れる音を立てて開く窓の音と、ばさりと風を打つ翼の音に、ディランは即座にベッドから跳ね起きて窓から身を乗り出した
その視界に飛び込んできたのは、下着姿の繰の肢体
捻れた角と大きな蝙蝠のような翼、先の尖った鞭のような尻尾は、ディランにとってはとても馴染みのある造形
そこそこ高級なマンションで、壁越しに音は伝わるものではないのだが、開け放たれた窓から音は漏れ聞こえる
僅かに軋み擦れる音を立てて開く窓の音と、ばさりと風を打つ翼の音に、ディランは即座にベッドから跳ね起きて窓から身を乗り出した
その視界に飛び込んできたのは、下着姿の繰の肢体
捻れた角と大きな蝙蝠のような翼、先の尖った鞭のような尻尾は、ディランにとってはとても馴染みのある造形
「繰ちゃんっ!?」
夜空へと舞い上がる繰は、その声に僅かに振り向き
妖艶な笑みを浮かべて飛び去っていってしまった
妖艶な笑みを浮かべて飛び去っていってしまった
「淫魔か夢魔の類が憑いてる……このままだと」
本来なら夢の中に忍び込み淫らな行為に耽り精気を吸い取るものなのだが、その姿が身体に現れているという事は
夢の中での行為を現実で、その身体で耽り溺れようという事
そんな事はさせたくない
全体のほとんどを占める庇護欲と、ほんの欠片のような独占欲が、即座にディランを突き動かす
そしてディランもまた、繰を追って暑い夏の夜へと、翼を広げてその身を躍らせていったのだった
夢の中での行為を現実で、その身体で耽り溺れようという事
そんな事はさせたくない
全体のほとんどを占める庇護欲と、ほんの欠片のような独占欲が、即座にディランを突き動かす
そしてディランもまた、繰を追って暑い夏の夜へと、翼を広げてその身を躍らせていったのだった
―――
《やっぱ追ってきたー!?》
繰の中に閉じ込められたサキュバスが、追ってくるディランの気配に戦慄し悲鳴を上げる
《どどどどどどうしよう!? これどう見てもあたしが取り憑いて操ってるように見えるよね!?》
そんなサキュバスの狼狽など知った事かと言わんばかりに、繰は不敵な笑みを浮かべる
都市伝説存在としての格は比較にならない違いの、ディランとサキュバス
全力で追いかけられればすぐに追いつかれるのだが
都市伝説存在としての格は比較にならない違いの、ディランとサキュバス
全力で追いかけられればすぐに追いつかれるのだが
「ふぅ……ん」
追ってくるディランに向かって、くるりと身を翻し相対する繰
上体を反らして軽く息を吸い、はふうと溜息のように濡れた空気を吐き出した
全身に満ち満ちた淫気に満ち溢れた空気が吐息と混ざり合い、淫靡な堕落へと誘う甘い香りとなった吐息は、ばさりと羽ばたいた繰の翼によって学校町の上空に広がっていく
上体を反らして軽く息を吸い、はふうと溜息のように濡れた空気を吐き出した
全身に満ち満ちた淫気に満ち溢れた空気が吐息と混ざり合い、淫靡な堕落へと誘う甘い香りとなった吐息は、ばさりと羽ばたいた繰の翼によって学校町の上空に広がっていく
「くっ……これは」
だがその程度のものは、格上であるディランには通じない
通じないのだが、その繰の吐息は、においは、気配を辿る邪魔をするのには充分な効果を発揮していた
ほんの一瞬気を取られた隙に、繰は市街地の建物の陰を縫うように、町の中へと消えていったのだった
通じないのだが、その繰の吐息は、においは、気配を辿る邪魔をするのには充分な効果を発揮していた
ほんの一瞬気を取られた隙に、繰は市街地の建物の陰を縫うように、町の中へと消えていったのだった
―――
ビルの隙間を縫うように飛び、やがて駅前の家電量販店の屋上にふわりと降り立つ繰
眼下にはネオンもまばらになった夜の町で、酒宴を切り上げ三々五々帰途につく男の姿が散見される
酔いで潰れかけた意識と記憶は、一夜の夢を貪るのには丁度良い
中でも若くて元気のありそうな男を物色していたその最中
眼下にはネオンもまばらになった夜の町で、酒宴を切り上げ三々五々帰途につく男の姿が散見される
酔いで潰れかけた意識と記憶は、一夜の夢を貪るのには丁度良い
中でも若くて元気のありそうな男を物色していたその最中
「はーい、ちょっとそこ行くお姉さん?」
少女はそこに現れた
「空を飛ぶのはしょうがないけど、もうちょっと格好に気を遣ってね? 『組織』としては町の風紀を乱されるのは困るから」
空を飛んできたわけでも、階段から屋上に上がってきたわけでもない
建物の壁を蹴り、三角跳びを繰り返してこの屋上まで跳ね上がってきたのだ
少女の名は銅島里予、『ツチノコ』の契約者にして『組織』のエージェントである
建物の壁を蹴り、三角跳びを繰り返してこの屋上まで跳ね上がってきたのだ
少女の名は銅島里予、『ツチノコ』の契約者にして『組織』のエージェントである
「……あなた、いくつ?」
「へ? いくつって……何が?」
「へ? いくつって……何が?」
突然の質問に、里予が首を傾げる
「年齢。学生さん?」
「あ、うん。今年で17歳。中央高校の二年生」
「あ、うん。今年で17歳。中央高校の二年生」
元々、話し合いで事件を解決しようとする里予の性分もあってか、聞かれた事は素直に口から漏れていく
これが呪いの類を扱う敵だった場合、かなりのピンチに陥る事もあるだろうが、今回はそのような能力は関与してこない
してこないのだが
これが呪いの類を扱う敵だった場合、かなりのピンチに陥る事もあるだろうが、今回はそのような能力は関与してこない
してこないのだが
「……美味しそう」
繰の中の性衝動が牙を剥くには、充分な反応だった
「物騒な反応ね!」
即座に動いたのは、里予
持ち前の俊足で繰との間合いを一気に詰めると、その腕を取ってくるりと捻り上げる
そのまま膝裏を蹴って体制を崩させると、まだ夏の日差しの熱が残るコンクリートの上にぺたりと組み伏せてしまった
持ち前の俊足で繰との間合いを一気に詰めると、その腕を取ってくるりと捻り上げる
そのまま膝裏を蹴って体制を崩させると、まだ夏の日差しの熱が残るコンクリートの上にぺたりと組み伏せてしまった
「悪いけど、担当の黒服さんが来るまで大人しくしててね。暴れられたら相応の対処しなきゃなんないから」
そうは言っても、さしたる抵抗をする気配もない
里予は油断だけはしないよう、繰を抑え込む手に僅かに力を込める
その時
里予は油断だけはしないよう、繰を抑え込む手に僅かに力を込める
その時
「ひゃふっ!?」
不意に、里予の手の力が緩む
繰の尻尾の先が、里予の背中をつうっと撫でたのだ
思わず跳ね上がった里予の身体を、その身を捻り自らの身体の下へと引き摺り込む繰
背面に馬乗りをされていた状態から、あっという間に対面で抱え込む形へと体勢が入れ替えられてしまった
繰の尻尾の先が、里予の背中をつうっと撫でたのだ
思わず跳ね上がった里予の身体を、その身を捻り自らの身体の下へと引き摺り込む繰
背面に馬乗りをされていた状態から、あっという間に対面で抱え込む形へと体勢が入れ替えられてしまった
「なっ……このっ!」
すぐさま足を振り上げ、コンクリートの床を蹴ろうとする里予
その脚力なら、女性の身体の一つや二つ容易に撥ね退ける事ができるのだが
振り上げた足の下に、するりと潜り込んだ繰の腕が絡み、膝を上げた姿勢のままで固められてしまう
その脚力なら、女性の身体の一つや二つ容易に撥ね退ける事ができるのだが
振り上げた足の下に、するりと潜り込んだ繰の腕が絡み、膝を上げた姿勢のままで固められてしまう
「ちょっ!? 放せー、はーなーせー!?」
眼前まで迫る妖艶な笑みに、じたばたともがく里予
足に絡む腕がするりと解けるのと同時に、里予は唇に触れる柔らかく温かい感触
唐突かつ衝撃的な出来事に、それが繰の唇だと気付くのに、何秒かの時間を要する事となる
その数秒の間に口腔に侵入した舌は圧倒的なまでの蹂躙を繰り広げ、欲情を誘う甘い吐息がたっぷりと流し込まれてしまった
足に絡む腕がするりと解けるのと同時に、里予は唇に触れる柔らかく温かい感触
唐突かつ衝撃的な出来事に、それが繰の唇だと気付くのに、何秒かの時間を要する事となる
その数秒の間に口腔に侵入した舌は圧倒的なまでの蹂躙を繰り広げ、欲情を誘う甘い吐息がたっぷりと流し込まれてしまった
「はな……ひっ……へぅ……やっ……」
ちゅ、ちゅと啄むように吸う音
くちゅり、ちゅぷりと濡れたものが絡み合う音
それは繰が唯一知る性衝動の解放手段
くちゅり、ちゅぷりと濡れたものが絡み合う音
それは繰が唯一知る性衝動の解放手段
「ふっ……ぅ……ぁ……や……」
途切れ途切れに音と息を漏らすだけ
身体は火照り汗ばみ、ただただ熱いものが身体の内側で脈打つような感覚に、何の抵抗も出来ない
ただただ貪るように唇と口腔だけを弄られ続け、繰が発散する極僅かな性的衝動に見合わないものが、里予の身体に満たされていく
身体は火照り汗ばみ、ただただ熱いものが身体の内側で脈打つような感覚に、何の抵抗も出来ない
ただただ貪るように唇と口腔だけを弄られ続け、繰が発散する極僅かな性的衝動に見合わないものが、里予の身体に満たされていく
「らめ……ひゃめ……へ……」
戒めから逃れようと身動ぎしていたせいか、着ていた制服は乱れに乱れ
口元から二人のものが混じった唾液が零れ落ちる、蕩け切ったその顔
口元から二人のものが混じった唾液が零れ落ちる、蕩け切ったその顔
「銅島さん、こっちは人目があるとエレベーターも使いにくいんですから……もう少し後先考えて行動をですね」
ぎしりと重い音を立てて、本来の屋上への侵入口である鉄扉が開き、里予の担当である黒服の女性が姿を現し
組み伏せられた里予の姿を見て、即座に懐から拳銃を抜いてぴたりと繰に狙いを定める
組み伏せられた里予の姿を見て、即座に懐から拳銃を抜いてぴたりと繰に狙いを定める
「その子から離れなさい!」
そう叫んだのと、繰が翼を羽ばたかせたのはほぼ同時だった
「繰ちゃん!」
頭上に現れたディランの姿に、繰は即座に身を翻し翼を羽ばたかせて逃亡し
ディランもそれを追って夜闇の中へと消えていく
ディランもそれを追って夜闇の中へと消えていく
「……ディランさん? そういえばあの女の子、確かAナンバー担当の契約者じゃ」
拳銃をしまい、倒れていた里予の元に駆け寄りながらも、呆気に取られて二人を見送る黒服の女性
その鼻腔をくするぐる甘いにおいは、里予と繰の居た場所に溢れていた淫の気
その鼻腔をくするぐる甘いにおいは、里予と繰の居た場所に溢れていた淫の気
「くろふく……さぁん……」
潤んだ瞳で、切なげな声を漏らす里予
本来ならば霊薬の類でその身の穢れを祓うものなのだが
本来ならば霊薬の類でその身の穢れを祓うものなのだが
「銅島、さん?」
抱き起こされた姿勢のまま、腕を絡めて
近付く顔から
近付く唇から
目を離す事が出来なくて
近付く顔から
近付く唇から
目を離す事が出来なくて
この後、夜明けを前にした頃に
淫気が抜け切る程に事に及びに及んだ二人は、正気を取り戻すと同時に互いに平謝りしたという
淫気が抜け切る程に事に及びに及んだ二人は、正気を取り戻すと同時に互いに平謝りしたという