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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 正体不明-14

最終更新:

Elfriede

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正体不明 14


 思い出すのは、少女の笑顔
 考えるのは、価値観の違い
 人間の価値観
 人間の倫理観
 彼女にそれを取り戻させる事はできなかった
 ずっと考えていたのは、そのための挑戦すらさせてくれなかった男への怒りばかり
 だが、脅威としての存在であった少女そのものが排除され、事を急いで片付けなければいけない状況でもなくなり
 ゆっくりと冷めてくる思考と感情は、彼の選択の意味に気付くようにと覚めていく
 詩卯はベッドの上でごろりと転がり、クッションを手繰り寄せてぼふりと顔を埋める

「私は、ただあの子を普通の生活に引き戻せればって思ってたけど……そうじゃなかったんだよね」

 一人暮らしの独り言、誰かに聞かれる事はない
 それでもなんとなく、誰かに語るように虚空に向かって呟き続ける

「あの子が人間の価値観を、倫理観を取り戻したら……罪も理解する事になっちゃうんだよね」

 それが例え、化物の本能に操られていた事だとしても
 それが例え、生きるために必要な事だとしても
 食べた生物を、人間を、取り込んで同化した少女がその罪を理解したら
 この町に住む人外とそれに携わる多くの者は、生きて償えば良いと語るだろう

 だが
 唯一、あの少女の思考感情を読み取った梨々が、サロリアスに伝えていた
 あの少女が、生きるために食べる事、食べるために殺す事にすら疑問を抱くような性格であった事を
 そんな彼女が人間の価値観を、倫理観を取り戻し
 人間としての記憶と感情を取り戻してしまったら
 未成熟の少女の思考と感情は、易々と押し潰され壊れてしまうだろう

 人間として苦しんで死なせる事
 化物のまま何も判らず死なせる事

 そのどちらが優しい事なのかは
 わからない

―――

「どうも、また会いましたね」
「……おう」

 都市伝説に関ると、別の都市伝説とも出会いやすくなる
 そんな話だったとはいえ、こうも縁があると妙な気分になるもので
 すこぶる不機嫌そうな顔をしたサロリアス
 肩車をした燻、左右の腕には太三郎と本丸が絡みつき、背中には黒羽が張り付いている
 その背後に、三歩下がって雪華が笑顔を浮かべて立っており、その影で何やら恨めしそうにもじもじしている梨々の姿があった

「相変わらずモテモテですね」
「五月蝿ぇ」

 心の底から苦々しい声で、吐き捨てるように即答するサロリアス

「まだ何か言い足りねぇなら後日にしろ。こいつらの花見だの神社参りだのに付き合わされてんだ」
「いえ、別に……たまたま会っただけですよ」

 詩卯は苦笑混じりにそう答え、集まった女性陣に会釈する

「言い足りないというか、納得はできてませんけどね。今度お暇な時に、知ってる事は洗いざらい話して下さいね」
「んな暇があるか。俺ぁ民間人だ、事件の詳細は斬九郎の奴に聞け」
「これ、勘なんですけどね……斬九郎さんにも言わないで色々勝手にまとめてる事、いっぱいあるでしょ」
「面倒臭ぇ事は全部斬九郎に投げてある。あっちの仕事にゃ関りたくねぇんだよ」
「嘘」

 詩卯はそう言って、にひひと笑う

「あなたは色々知ってる。他の誰かに苦労を掛けないために、ね」

 今度はぺこりと頭を下げて

「嫌でもそのうち、じっくり話を聞かせてもらいますからね。私、嘘には敏感なんで覚悟しといて下さい」

 そのまま一行と擦れ違い、歩み去っていく詩卯

「厄介なのに絡まれたのう、サの字? 儂ならあの娘とて化かしてみせるが?」
「後々面倒臭ぇだろ、そうすると……適当に時間を作るしかねぇ」

 太三郎に耳元で囁かれるが、鬱陶しげに首を捻ってその声を振り払う

「サの字は本当に面倒見が良いのぅ。これ以上ライバルが増えるのは御免じゃぞ?」
「そういう太三郎も面倒見が良いですよね。こうして身内でぴったり固めていれば、余所者は増えないのですから」

 扇子で口元を隠しながら、本丸がふふと笑う

「本当に、そろそろ所帯でも持っては如何ですか? 本妻がすぱりと決まってしまえば、このような争奪戦は起こりませんが」

 意味ありげな視線をちらりと梨々に向ける本丸だが、当人はそもそも思考が読める
 何も言うなと表情だけで伝えようとして、若干顔芸の域にまで踏み込みかけているのはご愛嬌

「クソやかましい。とっとと遊びを済ませて帰れ。こっちはここいらのゴタゴタで溜まってる仕事がある」
「……りっちゃんも苦労すんねー、ホント」

 サロリアスの頭の上で、燻が呟くが

「まったくだ。あいつも事務や外回りの仕事がある、苦労かけてると思うならちったぁ大人しくしてろ」

 全く察する様子の無い台詞に、方々視線を逸らして内心で溜息を吐くのであった

―――

『組織』の奥底深く、蜘蛛の封印に阻まれた小夜の部屋

「お前は行かなくていいのか」
「今更、仲良しごっこには興味がないもの」

 お手玉や鞠といった古いものから、PSPや3DSといった新しいものまで
 暇潰しには事欠かない玩具の数々が転がる部屋の真ん中で、卓袱台を挟んで向かい合う小夜と斬九郎

「外との接触は、完全に断っているのか?」
「テレビやパソコンは普通にあるわよ? お約束は、勝手に出歩かない程度かしら」

 ずず、とお茶を啜り柔らかそうな大福に手を伸ばす小夜

「そもそも……強硬派や過激派のせいとはいえ、一度私に依存した『組織』なんて潰そうと思えば簡単に潰せるもの」

『座敷童子』は住まう家に幸福をもたらす
 だが『座敷童子』が出ていった家はすぐに没落するという
 受けていた恩恵が無くなるだけなら、そのような事にはならないだろう
 彼女が持つ能力は、運気を与える事ではなく、運気を貸し与える事
 そして貸したものは当然回収できるし、利子もつけて奪う事とて可能である

「私が今まで『組織』に与えてきた運気はどれぐらいかしら? 過激派や強硬派、紛れ込む暗部の連中が、ここ数年でどれだけ不確実な行動を起こし運悪く倒されてきたか」

 くすくすと笑う小夜の姿は、言葉さえ無ければ無邪気な子供のよう

「ま……私は今の『組織』は気に入っているから、運気の回収なんてするつもりはないけれど」
「ありがたい事だ」

 甘い大福には手を出さず、ただお茶に口を付ける斬九郎

「サロリアスへの恩義からか何かか?」
「そちらはもう果たしたつもりだけれど」

 サロリアスの性分を考えれば、当時まだ大きな勢力であった強硬派や過激派との衝突は避けられなかっただろう
 だからこそ小夜は、自らそちらの派閥に身を投げ出し、彼が派閥争いに巻き込まれないよう仲間を連れて『組織』を離れるよう仕向けたのだ

「お陰で俺は苦労した」
「私の運気に逆らおうとするからよ」

 本来なら、斬九郎もまたサロリアスと共に『組織』を離れるはずだった
 そう仕向けたはずだった
 だが彼は『組織』へと残る

「一緒に『組織』を抜けてしまえば、そんな苦労はしなかったのに……とことん貧乏籤を引くのね」
「『座敷童子』を取り返そうとしてたのだ、貧乏籤の一つや二つは覚悟のうちだ」
「本当は、取り返すまでもなかったのにね」
「まったくだ」

 斬九郎は湯飲みを置き、ゆっくりと立ち上がり
 卓袱台の脇を抜けて、小夜の傍らに膝をつく

「また来る」

 そう言って小夜の頭を、そっと優しく撫でる

「そうね、またお茶を用意しておくわ」

 頭を撫でられ、表情を隠すように僅かに下を向く
 どこか嬉しそうな、はにかむようなその表情は隠したままで


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