悪の秘密結社 01
「『正義の味方』とは、何かね?」
彼はそう問い掛けてくる
「『正義の味方』が戦う相手は、何だと思うかね?」
彼はそう問い掛けてくる
「日常の些細な悪事の一つ一つかね? 強盗や殺人といった罪を犯しながらも、刑罰から逃れようとする犯罪者かね?」
彼はそう問い掛けてくる
「己の脳内の狂った理屈で、日常空間で銃器を乱射するような狂人かね? 利権に群がり私腹を肥やし民草を苦しめる政治家かね? 己の支配欲のために圧政を強いる独裁者かね?」
彼はそう問い掛けてくる
「日常の陰に潜む非日常、人の理屈と法が通じない『都市伝説』かね?」
彼はそう問い掛けてくる
「どれも違う。最後の一つだけは、半分は正解とも言えるのだがね」
彼はそう語り静かに笑う
「『正義の味方』は『悪』と戦うべきなのだ。人の理屈も、心も、何も干渉しない。ただそこにある『悪』、ただ『悪』を為す『悪』とだ」
彼はそう語り静かに笑う
「『正義の味方』が戦うべき相手は……『悪の秘密結社』以外には無いのだよ」
彼はそう語り静かに笑う
「そして……『悪の秘密結社』が戦うべき相手は、『正義の味方』以外には無いのだよ」
彼はそう語り静かに笑う
「さて……君は、『正義の味方』足りえるかね?」
彼はそう語り静かに笑う
「眩く輝くほどの愚直なまでの理想はあるかね? 改造された、製造されたなどの因縁はあるかね? 親友や恋人、肉親を手に掛けられたかね? ただ許せぬほどの『悪』を目の当たりにした事はあるかね?」
彼はそう語り静かに笑う
「ああ、足りぬ足りぬ、全く足りぬ。ただ『仕事だから』などという理由では足りぬにも程がある。せめて弱き民草を守るという使命感に燃えるぐらいの感情は持ちたまえ」
彼はそう語り静かに笑う
「残念ながら君は失格だ」
「だが、ね? これから君が立派な『正義の味方』に育つために、我々がしてあげられる事があると思うのだよ」
彼はそう語り薄ら笑う
「親友や恋人、肉親を手に掛けてあげよう。その身体を化物に改造してあげよう。ただ許せぬほどの『悪』を、その目に焼き付けてあげよう」
彼はそう語り薄ら笑う
「君が『正義の味方』足りえる存在になり、我々と戦う意義のある存在へと昇華されるまで、悪逆非道の限りを尽くして地獄を見せてあげよう」
彼はそう語り薄ら笑う
「是非とも我々の『悪』を認めてもらいたい。理屈ではなく、感情で理解していただきたい。ただ『悪』であるための『悪』というものを心に焼き付けて、正義を執行する糧にしていただきたい」
彼は手を上げて命令を下す
「さあ、彼の身辺を余す事無く探り尽くそう。もっとも親しい間柄の友を攫ってきて嬲り殺しにしよう。将来を約束するほどの女性を攫ってきて化物に改造しよう。愛しい家族を理不尽な事件や事故に巻き込んであげよう」
絶叫が聞こえる
罵倒が聞こえる
だがまだ足りぬという顔で彼は嘲笑う
罵倒が聞こえる
だがまだ足りぬという顔で彼は嘲笑う
「まだ足りぬ。これは千尋の谷の上に吊るした程度では一皮剥けた『正義』には届かぬ。命綱を切って谷底に突き落とし、這い上がってきてこそ足りる『正義』となるのだよ」
―――
それからしばし
「ダメでした」
白衣の女の報告に、彼はあからさまに落胆の色を浮かべていた
「恋人を怪人に改造した辺りまでは良かったのですが、一番の友人と評判だった者が意外と小物でして。友人が今際に漏らした『お前のせいで』という恨み言がよほど堪えたのか、独房の隅で自害して果てているのが先程発見されました」
「そうか、残念極まりない」
「そうか、残念極まりない」
彼、『悪の秘密結社』の首領は本当に、心底残念そうにそう呟いた
「嗚呼、このまま世界征服などしたところで、世に数ある『陰謀論』の一つに身を堕とすだけ。我々が真に『悪の秘密結社』として成立するためには、『正義の味方』の存在が必要不可欠だというのに」
「気を落とさずに、大首領様。彼らの犠牲もまたどこかに伝わり、いつしか『正義の味方』を生み出す種火になるかもしれません」
「そうか、それもそうだな」
「気を落とさずに、大首領様。彼らの犠牲もまたどこかに伝わり、いつしか『正義の味方』を生み出す種火になるかもしれません」
「そうか、それもそうだな」
白衣の女の言葉に、それまで嘆きに嘆いていた首領はころりと態度を変えて笑顔を浮かべる
「気を取り直して次のターゲットを探そう」
「はい、大首領様の仰せのままに」
「はい、大首領様の仰せのままに」
かくして『悪』は『悪』であるために『悪』を為し続ける
いつか何処かで生まれる『正義』に倒されるその日まで
いつか何処かで生まれる『正義』に倒されるその日まで