悪の秘密結社 02
「んー、やっぱりダメですね」
白衣姿の女は首を捻りながら、作業台の上に散らばった材料を、脇にあるゴミ箱へとどしゃどしゃと放り込む
「やっぱり部品の質でしょうか。最近は材料集めしてないから、部品の選定も大変なんですよね」
女はそう呟くと、手術用の薄いゴム手袋を外し、とことこと内線電話へと向かう
細い指先がぺちぺちとボタンを押すと、何度かコールを繰り返した後に、壁に設置された猛禽類を象った紋章がぴかぴかと明滅し始めた
細い指先がぺちぺちとボタンを押すと、何度かコールを繰り返した後に、壁に設置された猛禽類を象った紋章がぴかぴかと明滅し始めた
《プロフェッサー、研究の進展は如何かな?》
低い男性の声は、やはり電話機ではなく紋章から流れ出てきた
「申し訳ありません、順調とは言い難いです」
白衣の女はそう言って、紋章に向けて深々と頭を下げる
「昨今、どうも材料が足りておりません。素材Aは戦闘員を動員すれば簡単に調達できますが、素材Bはなかなか難しく」
《ふむ……確かに、素材Bは戦闘員を動員したところでそう簡単には集められないからな》
「そこで、材料不足を解決するために手に入れたい資料がありまして」
《ほほう。君の研究が進むのは我が組織にとって喜ばしい事だ。その資料を手に入れるために必要なものは、何でも使いたまえ》
「はっ、ありがとうございます総統閣下」
《なに、君の存在は我が組織に非常に役立っている。成果を楽しみにしているぞ》
「ご期待に沿えるよう尽力いたします、我が組織の栄光のために」
《そうだともプロフェッサー、君は我が組織をより強く、より大きく、より邪悪にできると信じているとも》
《ふむ……確かに、素材Bは戦闘員を動員したところでそう簡単には集められないからな》
「そこで、材料不足を解決するために手に入れたい資料がありまして」
《ほほう。君の研究が進むのは我が組織にとって喜ばしい事だ。その資料を手に入れるために必要なものは、何でも使いたまえ》
「はっ、ありがとうございます総統閣下」
《なに、君の存在は我が組織に非常に役立っている。成果を楽しみにしているぞ》
「ご期待に沿えるよう尽力いたします、我が組織の栄光のために」
《そうだともプロフェッサー、君は我が組織をより強く、より大きく、より邪悪にできると信じているとも》
紋章から流れ出る声は、実に嬉しそうに、実に楽しそうに
《さあ、悪を行おう。無慈悲に、無闇に、そして無意味に》
「ではこれより、悪を為すための悪行を開始致します」
《ああ、いつかより良き正義に出会えるよう、最善の最悪を尽くしたまえ》
「ではこれより、悪を為すための悪行を開始致します」
《ああ、いつかより良き正義に出会えるよう、最善の最悪を尽くしたまえ》
ぷつりと音を立てて、紋章の明滅が止まる
白衣の女は笑顔を浮かべると、ぱちんと指を鳴らす
それと同時に視界の外から染み出すように、全身を黒いタイツのような服で覆った無個性な仮面の男の群れが現れる
白衣の女は笑顔を浮かべると、ぱちんと指を鳴らす
それと同時に視界の外から染み出すように、全身を黒いタイツのような服で覆った無個性な仮面の男の群れが現れる
「さ、これから学校町へ向かいます。資料入手が目的ですが、材料調達もできるようならまとめてやってしまいましょう。なにせあの町は材料Bがとても豊富ですから」
それまで着ていた白衣を脱ぎ、汚れた布類が押し込まれた籠にばさりと放り込む
その汚れは全て、赤黒い血によるもの
その汚れは全て、赤黒い血によるもの
「まずは廃棄品の処分を。胴体と腕部は実験体10022号から10036号の餌に。脚部は加工して捕虜64552号の食事に。捕虜64552号の食事が済んだら頭部を閲覧させて反応を記録しておいて下さい」
ビニールの封から取り出した真新しい白衣に袖を通しながら、女は澱む事なくてきぱきと指示を飛ばす
黒ずくめの仮面の男達、この組織の戦闘員は一切無言のまま白衣の女の指示に従い、ゴミ箱に詰め込まれた女の死体を運び出していく
黒ずくめの仮面の男達、この組織の戦闘員は一切無言のまま白衣の女の指示に従い、ゴミ箱に詰め込まれた女の死体を運び出していく
「お掃除もお願いしますね。私、血のにおいって嫌いなんです、臭いから。それでは後は任せましたよ」
ぷしゅうと空気が漏れるような音と共に自動で開いた扉から、新しい白衣の裾を翻して部屋を出ていく白衣の女
この『悪の秘密結社』に所属する、プロフェッサー・ヴィッキーはこうして学校町へ向かう事になる
悪を為し、悪を行い、悪を見せつけるために
この『悪の秘密結社』に所属する、プロフェッサー・ヴィッキーはこうして学校町へ向かう事になる
悪を為し、悪を行い、悪を見せつけるために
―――
バスの座席で、くうくうと寝こけていたヴィッキーを、戦闘員の一人が遠慮がちに揺さ振った
「……ふぁ? あら、もう着くのですか。流石早かったですね」
あふ、と欠伸をしながらぐいと身体を伸ばして立ち上がる
皺の寄った白衣をぱんぱんと払い、笑顔で車内を見回した
皺の寄った白衣をぱんぱんと払い、笑顔で車内を見回した
「ごきげんよう諸君、バスの旅は快適ですか?」
その笑顔と正反対に、完全に怯え切った様子の乗客達は、全員が子供であった
「ははは、何をそんなに怯えているのですか。安心して下さい、逆らわなければ即座に痛い目に遭う事はありませんから」
その言葉に、顔を腫らした少年がびくんと身体を竦める
「そういう事だから、大人しくしていて下さいね? 運転手さん、目的地はそろそろですか?」
「あ、ああ、もうすぐ学校町との境だ! 学校町に着けば、子供達は解放してくれるんだな!?」
「勿論です、私達は約束は守る主義ですから。ですからスピードは落とさないように、あなたが死んだら子供達も巻き添えですからね。私達は平気ですが」
「あ、ああ、もうすぐ学校町との境だ! 学校町に着けば、子供達は解放してくれるんだな!?」
「勿論です、私達は約束は守る主義ですから。ですからスピードは落とさないように、あなたが死んだら子供達も巻き添えですからね。私達は平気ですが」
運転席の周りには、妖しげなコードが繋げられた自動小銃がいくつも並べられており
スピードメーターに接続されたそれは、速度が一定以下になると自動的にトリガーが引かれる仕組みになっているようだ
スピードメーターに接続されたそれは、速度が一定以下になると自動的にトリガーが引かれる仕組みになっているようだ
「くそっ……こんな仕掛けをする技術や資金があるなら、普通のバスにでも乗れってんだ」
運転手がこっそりと呟いた愚痴を耳聡く聞きつけたヴィッキーが、ずいと運転席に顔を寄せて囁く
「そうは言われましても、こちらもかなり妥協しているんです……本当はスクールバスより、幼稚園バスの方が良かったんですよ」
「……は? な、何で」
「……は? な、何で」
その言葉に、ヴィッキーはさも当然、何故そんな事を聞くのかといった顔で答える
「だって、その方が悪そうじゃないですか」
返す言葉も無く音にならない息を漏らすだけの運転手から離れ、腕時計に視線を落とすヴィッキー
「さて、六時間程に及ぶバスの旅もそろそろ終わりなようです」
戦闘員達がてきぱきと運転席周囲の自動小銃を片付け、あっという間に小さなトランクへと収めていく
「今回の一件は社会的には私達に一切触れる事の無い、奇妙な事故として片付けられるでしょう。世間の都市伝説的存在への扱いなんてそんなものです」
大仰に手を広げて、楽しそうに楽しそうに語るヴィッキー
「さて……厳密には、まだ学校町には着いてないので約束は守られません」
その言葉に、車内に居たほぼ全員の思考が止まる
「あなた達は私達の存在を知っている。あなた達は私達の存在を覚えている。だからこそ存分に」
戦闘員の一人が、そんなポーズのままのヴィッキーをひょいとお姫様抱っこで持ち上げ、蹴破った乗降口から時速80kmで流れる地面へと身を躍らせた
「存分に私達を怨み、蔑み、憎しみ、恐怖して下さい」
そんな台詞が残された車内で
かちん、と
小さいながらはっきりとした音が聞こえたかと思うと
次の瞬間、バスは速度を落とす事無く走行したまま、爆発した
かちん、と
小さいながらはっきりとした音が聞こえたかと思うと
次の瞬間、バスは速度を落とす事無く走行したまま、爆発した
「さて……流石にこの町の中では、目的の事以外では大人しくしてないいけませんかね。複数の組織を敵に回しては、より良い正義が生まれる可能性が落ちるというものです」
かくして、この町に悪意の塊が一欠片
静かに静かに転がり込んだ
静かに静かに転がり込んだ