ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗 10
学校町から北区にある神社への道、そこから一時間ほど外れた獣道を進んだ先。
そこに、首塚組織の隠れ里へ続く『門』の一つが存在する、その石碑を前に俺たちは立っていた。
「これが…首塚の隠れ里への入り口?」
「そうらしい、平将門の言う事が本当ならな」
小首を傾げて聞いてくる太郎さんに頷くと、古ぼけた石碑に近づき手を翳す。
「ここに手を当て合い言葉を言えば門が開くらしい…合い言葉、何だっけ『将門様カッコイー』だっけ?」
「どんな合い言葉よそれは! たしか『将門は米かみよりぞ斬られける、俵藤太が謀にて』でしょ」
俺のボケに対し、ポケットの中に入れておいた鏡の中から律儀に突っ込みを入れる声が聞こえる。
鏡を取り出し、目の前に掲げると案の定、ジト目で此方を睨んでる幽霊少女の姿があった。
「はいはい、ちょっとした冗談だろ、ほれどいてろ」
ぷらぷらと片手で少女を追い払うような仕草をしながら、今言われたとおりの言葉を言い放つ。
次の瞬間、目の前に建つ石碑を中心に空間が歪み、虚空にぽっかりと開いた穴が出現した。
「ところで、この合い言葉ってどういう意味なんだろうね」
太郎さんが、不思議そうに此方に問いかけてくる
「何でも昔、藤六右近って歌詠が歌ったとかいう、平将門のお気に入りの歌らしい」
「へえ、そんな事よく知ってるね、すごいなぁ」
「まあな、この前、ご先祖様から聞いた」
俺の言葉に「あ、そうなんだ…」と苦笑しながら太郎さん、ふと先日この逸話を俺に語っていた時のご先祖様の様子を思い出す。
何でも、平将門はこの歌を聞いて大いに受けて爆笑したらしく、その様の事をご先祖様は
まるで「こんな駄洒落に受けてしまう辺り、あの妖怪爺も存外にぎゃぐせんすがないです」と言わんばかりにでせせら笑っていた。
ドンだけ平将門の事が嫌いなんだ、この偽幼女は…と、半ば呆れつつ。
ならば、見せてもらおうかご先祖様のぎゃぐせんすとやらを、と面白い洒落を一つせがんでみると
ご先祖様は自信満々に、無い胸をエヘンと張りながら「ふとんがふっとんだー」と言い放ってきたのだった。
こんな駄洒落が受けると思う辺り、このロリ婆も存外にぎゃぐせんすがないようで。
そんな事を考えながら、俺の右肩の辺りに浮かんで珍しく実体化しているご先祖様の顔を見ていると、何を勘違いしたのかヘラリと照れたように此方に向かってご先祖様が笑いかけてくる。
溜息を一つ吐いたあと、苦笑と共に声を出す。
「さて、そろそろ行くか」
ゆらゆらと陽炎のように揺れる不安定な『門』を四人で潜り、俺たちは首塚組織の拠点の中へと足を踏み出した。
そこに、首塚組織の隠れ里へ続く『門』の一つが存在する、その石碑を前に俺たちは立っていた。
「これが…首塚の隠れ里への入り口?」
「そうらしい、平将門の言う事が本当ならな」
小首を傾げて聞いてくる太郎さんに頷くと、古ぼけた石碑に近づき手を翳す。
「ここに手を当て合い言葉を言えば門が開くらしい…合い言葉、何だっけ『将門様カッコイー』だっけ?」
「どんな合い言葉よそれは! たしか『将門は米かみよりぞ斬られける、俵藤太が謀にて』でしょ」
俺のボケに対し、ポケットの中に入れておいた鏡の中から律儀に突っ込みを入れる声が聞こえる。
鏡を取り出し、目の前に掲げると案の定、ジト目で此方を睨んでる幽霊少女の姿があった。
「はいはい、ちょっとした冗談だろ、ほれどいてろ」
ぷらぷらと片手で少女を追い払うような仕草をしながら、今言われたとおりの言葉を言い放つ。
次の瞬間、目の前に建つ石碑を中心に空間が歪み、虚空にぽっかりと開いた穴が出現した。
「ところで、この合い言葉ってどういう意味なんだろうね」
太郎さんが、不思議そうに此方に問いかけてくる
「何でも昔、藤六右近って歌詠が歌ったとかいう、平将門のお気に入りの歌らしい」
「へえ、そんな事よく知ってるね、すごいなぁ」
「まあな、この前、ご先祖様から聞いた」
俺の言葉に「あ、そうなんだ…」と苦笑しながら太郎さん、ふと先日この逸話を俺に語っていた時のご先祖様の様子を思い出す。
何でも、平将門はこの歌を聞いて大いに受けて爆笑したらしく、その様の事をご先祖様は
まるで「こんな駄洒落に受けてしまう辺り、あの妖怪爺も存外にぎゃぐせんすがないです」と言わんばかりにでせせら笑っていた。
ドンだけ平将門の事が嫌いなんだ、この偽幼女は…と、半ば呆れつつ。
ならば、見せてもらおうかご先祖様のぎゃぐせんすとやらを、と面白い洒落を一つせがんでみると
ご先祖様は自信満々に、無い胸をエヘンと張りながら「ふとんがふっとんだー」と言い放ってきたのだった。
こんな駄洒落が受けると思う辺り、このロリ婆も存外にぎゃぐせんすがないようで。
そんな事を考えながら、俺の右肩の辺りに浮かんで珍しく実体化しているご先祖様の顔を見ていると、何を勘違いしたのかヘラリと照れたように此方に向かってご先祖様が笑いかけてくる。
溜息を一つ吐いたあと、苦笑と共に声を出す。
「さて、そろそろ行くか」
ゆらゆらと陽炎のように揺れる不安定な『門』を四人で潜り、俺たちは首塚組織の拠点の中へと足を踏み出した。
長い板張りの通路を、妙にチャラチャラした格好の男の案内で進み続ける事、数十分。
俺たちは、静謐に包まれた純和室の中心で、一人静かに酒を嗜む武者姿の男の前に居た。
「存外に、来るのが早かったな青年…」
ニヤリと嗤いながら、俺の眼を真っ直ぐに見据えてくる祟り神の皇。
膝が震えるのを必死に堪えながらも、俺は強がるように平将門の視線を睨み返しながら言葉を返す。
「あんたが言う、俺に与える「力」とやらが気になって夜も眠れなくてな、居ても立っても居られなくなって、つい駆け付けてしまったよ」
此は半分本当だ、俺の「組織」への復讐、その為の「力」を俺は、喉から手が出るほどに欲っしている。
「くかか、そう慌てるな若造、焦りは隙を生み、自らの破滅を早めるぞ?」
そう言いながら、グビリと手元の酒を飲む平将門。
ちっ……さっさと、力を頂いて、さっさと帰りたいんだがな、こんな落ち着かない場所には正直長時間居たくない。
「それよりも、そこな童は初めて見る顔だな、名は何という?」
「えっ……あ、えっと……」
急に話を振られて、挙動不審になる太郎さん。
今にも泣きそうな表情の少年を、宥めるように頭を撫でながら苦笑と共に頷いてやる。
「あの、太郎……です、旧北区小学校の、三階トイレの太郎です」
「ふむ……童、なにやら妙な歪みを感じるな、その歪な力……なるほど、ここ最近「組織」と敵対していた謎の怪談仮面とはお前の事か」
「えっ!? な、何でっ……あ…」
くかか、と愉快そうに嗤う平将門。
太郎さんは、カマを掛けられた事に気づき、絶句している。
まあ、別にばれてもかまわないんだけどな、そもそもばれて拙いならわざわざこんな場所に連れてこない。
「くくく……組織を騒がす怪人とやらの割に、中々初い反応だ、しかしその力、その魂の質、面白い……童、貴様も我が配下にならぬか?」
「駄目だ、こいつは俺のモノだ、アンタには絶対にやらん」
既に、予想していた平将門の言葉に間髪入れずに、断りの言葉を言い放つ。
その瞬間、何故か空間が凍り付いたような気がした。
訝しげに周りを見る、隣にいる太郎さんは何故か驚いた様な表情で眼を丸くしている、かと思うと段々顔を赤く染めていき俺と視線が合うと慌てて視線を床へと落とす。
鏡の中を見る、何故か涙目になりながら、少し引くように俺から身体を離し、いやいやをするように首を振りながらブツブツ何事かを小声で呟いてる幽霊少女。
背後を見る、何かやけに生暖かい視線を俺に向けながら、サムズアップを俺に向けてくる。
部屋の入り口の方では何故か、先ほどの案内役のチャラい男がずっこけていた、ていうかまだ居たのか。
周りを見渡しても、余計に訳が分からなくなった俺は、静かに手元の酒に口を付けている平将門に向かって言う。
「もちろん、この何故か涙目になって壊れてる幽霊少女も、意味不明にむかつく笑顔で妙なジェスチャー向けてくるうちのご先祖様もアンタにゃやらん、此奴ら三人は組織に対する俺の大事な切り札だからな」
俺たちは、静謐に包まれた純和室の中心で、一人静かに酒を嗜む武者姿の男の前に居た。
「存外に、来るのが早かったな青年…」
ニヤリと嗤いながら、俺の眼を真っ直ぐに見据えてくる祟り神の皇。
膝が震えるのを必死に堪えながらも、俺は強がるように平将門の視線を睨み返しながら言葉を返す。
「あんたが言う、俺に与える「力」とやらが気になって夜も眠れなくてな、居ても立っても居られなくなって、つい駆け付けてしまったよ」
此は半分本当だ、俺の「組織」への復讐、その為の「力」を俺は、喉から手が出るほどに欲っしている。
「くかか、そう慌てるな若造、焦りは隙を生み、自らの破滅を早めるぞ?」
そう言いながら、グビリと手元の酒を飲む平将門。
ちっ……さっさと、力を頂いて、さっさと帰りたいんだがな、こんな落ち着かない場所には正直長時間居たくない。
「それよりも、そこな童は初めて見る顔だな、名は何という?」
「えっ……あ、えっと……」
急に話を振られて、挙動不審になる太郎さん。
今にも泣きそうな表情の少年を、宥めるように頭を撫でながら苦笑と共に頷いてやる。
「あの、太郎……です、旧北区小学校の、三階トイレの太郎です」
「ふむ……童、なにやら妙な歪みを感じるな、その歪な力……なるほど、ここ最近「組織」と敵対していた謎の怪談仮面とはお前の事か」
「えっ!? な、何でっ……あ…」
くかか、と愉快そうに嗤う平将門。
太郎さんは、カマを掛けられた事に気づき、絶句している。
まあ、別にばれてもかまわないんだけどな、そもそもばれて拙いならわざわざこんな場所に連れてこない。
「くくく……組織を騒がす怪人とやらの割に、中々初い反応だ、しかしその力、その魂の質、面白い……童、貴様も我が配下にならぬか?」
「駄目だ、こいつは俺のモノだ、アンタには絶対にやらん」
既に、予想していた平将門の言葉に間髪入れずに、断りの言葉を言い放つ。
その瞬間、何故か空間が凍り付いたような気がした。
訝しげに周りを見る、隣にいる太郎さんは何故か驚いた様な表情で眼を丸くしている、かと思うと段々顔を赤く染めていき俺と視線が合うと慌てて視線を床へと落とす。
鏡の中を見る、何故か涙目になりながら、少し引くように俺から身体を離し、いやいやをするように首を振りながらブツブツ何事かを小声で呟いてる幽霊少女。
背後を見る、何かやけに生暖かい視線を俺に向けながら、サムズアップを俺に向けてくる。
部屋の入り口の方では何故か、先ほどの案内役のチャラい男がずっこけていた、ていうかまだ居たのか。
周りを見渡しても、余計に訳が分からなくなった俺は、静かに手元の酒に口を付けている平将門に向かって言う。
「もちろん、この何故か涙目になって壊れてる幽霊少女も、意味不明にむかつく笑顔で妙なジェスチャー向けてくるうちのご先祖様もアンタにゃやらん、此奴ら三人は組織に対する俺の大事な切り札だからな」
その俺の言葉と共に、周りから妙に複雑な感じの溜息が聞こえる、なんなんだこいつら……。
「くかか……なるほど、今回、自らの手駒をわざわざ我が前に晒したのは、その忠告の為か」
「まあな、作戦前に気に入ったからって、強引に俺の戦力の要を引き抜かれても困る」
「くかか……我は、その様な無粋な真似はせんよ、来る者を拒む事はなし去る者は追わぬ」
「ふん、その言葉、信用出来るほどにアンタとは深い関係でも無いしな」
それだけだ、と簡潔に述べると、目の前の武者はカカカカと歯を剥き出して嗤う。
この祟り神、何かあれば嗤ってるイメージがあるが、もしかして笑い上戸なのだろうか…。
「くかか、しかし言葉ほどには信用していない訳でもないだろう? わざわざ我との口約束の為に、この場まで来たのだからな」
その言葉には無言で応える。
「くく……答えぬか、まだまだ青いな青年、ああ、それとも貴様のその態度、それこそが、いつか我が配下の一人が言っていた「つんでれ」というものなのか?」
何やら、名高き平将門の口から出てはイケナイ台詞が聞こえたような気がするが突っ込むのも怖いので無難にスルーする、入り口のチャラ男がまたもや盛大にずっ転けていたが無視だ無視。
膨大な労力を掛けて必死に突っ込みを入れそうになる自分を自制している俺を気にせず、目の前の大怨霊が、手に持っていた杯を音を立てて置く。
陶器の杯と漆喰が奏でる澄んだ音が部屋に響くと同時、急速に辺りの空間が歪み。
次の瞬間には、全く別の場所へと俺たちは移動していた。
地肌が剥き出しになった広大な通路、所々に浮遊する妖しげに発光する人魂が揺らめいている。
その俺たちの前方に存在する、何とも重厚な、まるで地獄の門を彷彿とさせる巨大な鉄拵えの扉が存在した。
「この扉の奥に「力」がある、それを手にするも良し、しなくとも良し、貴様自身が判断し決めるが良い」
平将門が尊大に言い放つと、数十トンはあろうかという鉄の扉が、俺の前で左右に開き出す。
一瞬圧倒されるほどの、怖気を扉の奥から感じ、全身に鳥肌が立つ。
頭に手を当て、迷いを振り払うように首を振る。
確かに、この中には力がある、強大な力が、ならば、俺が今出来る事は足を前に踏み出す事のみ!
決意と共に扉の奥へと進み出す、俺が通り抜けるとそれに着いてこようとする他の者たちを遮るように扉が閉じていく。
閉じていく扉の間からは、愉しそうに嗤う平新皇の声が聞こえた。
「くかか……なるほど、今回、自らの手駒をわざわざ我が前に晒したのは、その忠告の為か」
「まあな、作戦前に気に入ったからって、強引に俺の戦力の要を引き抜かれても困る」
「くかか……我は、その様な無粋な真似はせんよ、来る者を拒む事はなし去る者は追わぬ」
「ふん、その言葉、信用出来るほどにアンタとは深い関係でも無いしな」
それだけだ、と簡潔に述べると、目の前の武者はカカカカと歯を剥き出して嗤う。
この祟り神、何かあれば嗤ってるイメージがあるが、もしかして笑い上戸なのだろうか…。
「くかか、しかし言葉ほどには信用していない訳でもないだろう? わざわざ我との口約束の為に、この場まで来たのだからな」
その言葉には無言で応える。
「くく……答えぬか、まだまだ青いな青年、ああ、それとも貴様のその態度、それこそが、いつか我が配下の一人が言っていた「つんでれ」というものなのか?」
何やら、名高き平将門の口から出てはイケナイ台詞が聞こえたような気がするが突っ込むのも怖いので無難にスルーする、入り口のチャラ男がまたもや盛大にずっ転けていたが無視だ無視。
膨大な労力を掛けて必死に突っ込みを入れそうになる自分を自制している俺を気にせず、目の前の大怨霊が、手に持っていた杯を音を立てて置く。
陶器の杯と漆喰が奏でる澄んだ音が部屋に響くと同時、急速に辺りの空間が歪み。
次の瞬間には、全く別の場所へと俺たちは移動していた。
地肌が剥き出しになった広大な通路、所々に浮遊する妖しげに発光する人魂が揺らめいている。
その俺たちの前方に存在する、何とも重厚な、まるで地獄の門を彷彿とさせる巨大な鉄拵えの扉が存在した。
「この扉の奥に「力」がある、それを手にするも良し、しなくとも良し、貴様自身が判断し決めるが良い」
平将門が尊大に言い放つと、数十トンはあろうかという鉄の扉が、俺の前で左右に開き出す。
一瞬圧倒されるほどの、怖気を扉の奥から感じ、全身に鳥肌が立つ。
頭に手を当て、迷いを振り払うように首を振る。
確かに、この中には力がある、強大な力が、ならば、俺が今出来る事は足を前に踏み出す事のみ!
決意と共に扉の奥へと進み出す、俺が通り抜けるとそれに着いてこようとする他の者たちを遮るように扉が閉じていく。
閉じていく扉の間からは、愉しそうに嗤う平新皇の声が聞こえた。
暗い暗い部屋、光を取り込む窓が一切無く、光源となる物が殆ど存在しない冷たい石造りの部屋。
暗闇に慣れてきた俺の眼が捉えた光景は、そんな石牢のような寂しげな部屋の真ん中に、数々の札や縄や鎖によって雁字搦めに絡め取られた一口の刀だった。
カタカタカタ……。
静寂に包まれた石部屋の中心で刀が震える。
カタカタカタカタ……。
まるで、全身を絡め取る拘束から逃れようとするように。
暗闇に慣れてきた俺の眼が捉えた光景は、そんな石牢のような寂しげな部屋の真ん中に、数々の札や縄や鎖によって雁字搦めに絡め取られた一口の刀だった。
カタカタカタ……。
静寂に包まれた石部屋の中心で刀が震える。
カタカタカタカタ……。
まるで、全身を絡め取る拘束から逃れようとするように。
カタカタカタカタカタカタ……。
まるで万物の全てが憎いと、我が望みの叶わぬ世の理が憎いと。
叫ぶように慟哭するように、ただただ奮え、音を立てる。
「これは……やばい……」
刀を中心に、どす黒い怨念が部屋中を駆け巡りうねりをあげているのを感じる。
足下から立ち上る障気に当てられ、頭がクラクラとする。
此はかなり拙い、この場に長く止まると、下手をすればこの刀に中てられて発狂しかねん……どうする、諦めるか?
しかし、これだけの障気、これだけの怨念、我が物にする事が出来れば……。
ポケットの中で、ギュッと十円玉硬貨を握りしめる。
若干、気持ちが落ち着いたような気がして、刀の下へと足を近づける。
瞬間、俺の存在に気がついたかのように、刀から殺気が迸る。
その向かう先は、この俺自身。
《貴様、何ものぞ!》
頭に響く、声、声、声、
《ああ、憎し、おお、憎しや、栄之丞!》
《貴様か、貴様か、栄之丞!》
栄之丞……?
《動く事すらままならぬ、我が前に、我が姿を嘲いに来たか!》
誰だ、何だこの声は……
《ああ、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いぃいぃぃいっ!》
頭の中に駆け巡る怨嗟の声。
《我が宝、八ツ橋を奪い、我が地位を奪い、我が全てを奪った栄之丞!》
《憎い憎い憎い八つ橋も憎い! 我が心を奪い弄び捨てた八つ橋! 憎き栄之丞へと笑顔を向ける八つ橋が憎い!》
痛い、頭の中に直接投げ掛けられる怨みの飛礫。
《あぁ、憎い、憎い、殺したい、何処に居る、何処だ、憎き者ども何処に居る、今度こそ我が手で殺してくれる!》
《おぉ、おぉ、憎い、とても憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎っ!》
まるで万物の全てが憎いと、我が望みの叶わぬ世の理が憎いと。
叫ぶように慟哭するように、ただただ奮え、音を立てる。
「これは……やばい……」
刀を中心に、どす黒い怨念が部屋中を駆け巡りうねりをあげているのを感じる。
足下から立ち上る障気に当てられ、頭がクラクラとする。
此はかなり拙い、この場に長く止まると、下手をすればこの刀に中てられて発狂しかねん……どうする、諦めるか?
しかし、これだけの障気、これだけの怨念、我が物にする事が出来れば……。
ポケットの中で、ギュッと十円玉硬貨を握りしめる。
若干、気持ちが落ち着いたような気がして、刀の下へと足を近づける。
瞬間、俺の存在に気がついたかのように、刀から殺気が迸る。
その向かう先は、この俺自身。
《貴様、何ものぞ!》
頭に響く、声、声、声、
《ああ、憎し、おお、憎しや、栄之丞!》
《貴様か、貴様か、栄之丞!》
栄之丞……?
《動く事すらままならぬ、我が前に、我が姿を嘲いに来たか!》
誰だ、何だこの声は……
《ああ、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いぃいぃぃいっ!》
頭の中に駆け巡る怨嗟の声。
《我が宝、八ツ橋を奪い、我が地位を奪い、我が全てを奪った栄之丞!》
《憎い憎い憎い八つ橋も憎い! 我が心を奪い弄び捨てた八つ橋! 憎き栄之丞へと笑顔を向ける八つ橋が憎い!》
痛い、頭の中に直接投げ掛けられる怨みの飛礫。
《あぁ、憎い、憎い、殺したい、何処に居る、何処だ、憎き者ども何処に居る、今度こそ我が手で殺してくれる!》
《おぉ、おぉ、憎い、とても憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎っ!》
「うるっせええええええええええええええっ!!!!」
《憎い憎いにくごがばぁっ!!?》
ゴギンッ! という鈍い音と共に、部屋の中央に拘束された古びた刀が大きく揺れる。
地肌を晒したままのその部屋の地面に転がっている岩石、その中でも赤ん坊の頭ほどある大石の直撃を受け。
さすがの、妖刀も妙な悲鳴を上げて絶句した。
カシャリ、カシャリと、強引に揺らされた鎖が音を立てる。
俺は、未だに頭痛の残る頭を片手で押さえながら、手に持った石をドスッと乱暴に、刀の近くに投げ捨てる。
カタリッ、と何か、ビクつくような音を立てる目の前の、推定妖刀。
《き、貴様、何を考えている…この我が障気に中てられながら、空気も読まずにその様な暴挙に出るなど…》
何やら、ブツブツと文句を言う妖刀を無視して、ポケットの中に入れていた鏡を取り出し刀を映す。
鏡の中には妖刀に重なるような形で拘束された、醜い相貌を持つ着物姿の男が映っていた。
地肌を晒したままのその部屋の地面に転がっている岩石、その中でも赤ん坊の頭ほどある大石の直撃を受け。
さすがの、妖刀も妙な悲鳴を上げて絶句した。
カシャリ、カシャリと、強引に揺らされた鎖が音を立てる。
俺は、未だに頭痛の残る頭を片手で押さえながら、手に持った石をドスッと乱暴に、刀の近くに投げ捨てる。
カタリッ、と何か、ビクつくような音を立てる目の前の、推定妖刀。
《き、貴様、何を考えている…この我が障気に中てられながら、空気も読まずにその様な暴挙に出るなど…》
何やら、ブツブツと文句を言う妖刀を無視して、ポケットの中に入れていた鏡を取り出し刀を映す。
鏡の中には妖刀に重なるような形で拘束された、醜い相貌を持つ着物姿の男が映っていた。
「……で?」
《憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いに…》
問いかけに、まだ主導権を取り返そうとしているのか、どす黒い怨嗟の声を上げようとする男。
しかし、俺が、これ見よがしに地面の岩石の選別を始めると、とたんに静かになる。
溜息、頭上を見るが、何時ものように空は見えず、ただ岩肌の暗い天井だけが見えた。
「お前、もしかして籠釣瓶か?」
《……その通りだ》
「何年か前に「組織」が多大な犠牲の末に捕獲したと昔聞いた事があったが、なぜ平将門が…」
《……貴様、我が身をこの様な場所へと置く、憎き祟り神の手の者か?》
「そうだと、言ったら?」
ぞわり、と、男の身体から怒気と共に怨嗟の念が巻き起こる。
「冗談だよ、いや奴の配下と言えばそうだが、別に忠誠を誓ってる訳じゃない」
《貴様、何ものだ? 何を考えている?》
「何ものかか……まあ、ただの微弱な人間かな、何を考えてるか? 決まっている」
ありったけの、憾みを言の葉に乗せ言う。
「復讐を……ただ、俺の大切な人を奪ったモノへの復讐をだ…」
カタリ……カタリ……と、俺の負の念に同調したのか、目の前の男が憑く刀が音を鳴らす。
《惰弱な身で在りながら、とても暗く底の深い怨念を宿す者、ある意味、我が身に近しき者か……なるほど、あの祟り神が我が前に寄越す訳だ》
そう語る、男に俺は、しかし頭を横に振る。
《憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いに…》
問いかけに、まだ主導権を取り返そうとしているのか、どす黒い怨嗟の声を上げようとする男。
しかし、俺が、これ見よがしに地面の岩石の選別を始めると、とたんに静かになる。
溜息、頭上を見るが、何時ものように空は見えず、ただ岩肌の暗い天井だけが見えた。
「お前、もしかして籠釣瓶か?」
《……その通りだ》
「何年か前に「組織」が多大な犠牲の末に捕獲したと昔聞いた事があったが、なぜ平将門が…」
《……貴様、我が身をこの様な場所へと置く、憎き祟り神の手の者か?》
「そうだと、言ったら?」
ぞわり、と、男の身体から怒気と共に怨嗟の念が巻き起こる。
「冗談だよ、いや奴の配下と言えばそうだが、別に忠誠を誓ってる訳じゃない」
《貴様、何ものだ? 何を考えている?》
「何ものかか……まあ、ただの微弱な人間かな、何を考えてるか? 決まっている」
ありったけの、憾みを言の葉に乗せ言う。
「復讐を……ただ、俺の大切な人を奪ったモノへの復讐をだ…」
カタリ……カタリ……と、俺の負の念に同調したのか、目の前の男が憑く刀が音を鳴らす。
《惰弱な身で在りながら、とても暗く底の深い怨念を宿す者、ある意味、我が身に近しき者か……なるほど、あの祟り神が我が前に寄越す訳だ》
そう語る、男に俺は、しかし頭を横に振る。
「お前に近しき者? 違うな……それは違う」
《……何?》
「さっき、お前は、憎き者ども何処に居る、と言ったな」
《…………》
「今度こそ、我が手で殺してくれる、そう言ったな」
「今度こそ? それは少しおかしいんじゃないか?」
カタリ……妖刀が震える。
「「吉原千人斬り」詳しくは知らんが、たしか江戸時代に起こった、復讐に狂った男が自らを裏切った女と男と、そしてその他大勢の人間を切り殺し回ったという事件だったな」
「この話が本当だったら何故お前は、憾みを晴らした筈のお前が、未だにこうして怨嗟を撒散らしているのか、何故、女を奪った男を殺したい男に走った女を殺したい、なんて叫び続けるのか…」
「その答えは、一つ……つまり、お前は、失敗したんだな、復讐を……」
蒼白に歪む、刀に憑かれた男のその表情が、如実に肯定を示していた。
《それが、どうした……一度は確かに失敗した、だが…》
「既に、お前のかつて居た場所は300年も前の遙か遠い時代の事だ、既に貴様の恨む者たちはとっくの昔に死んでいる」
ザワリ……俺の言葉に周囲の空間がさざめく様に揺らぐ。
「お前の復讐は既に、手遅れな程に失敗しているんだ……そんな、お前の様な負け犬と、俺が「近しき者」だと? 笑わせる」
《ならば、ならば、貴様はどうだというのだ、その弱き身で微かな望を託し、卑しくも我が力を手に入れんと我策するする程だ、
その貴様の言う、「大切な人」とやらを奪った存在は、それこそ絶望的な程に強大なのであろう》
「そうだな、相手は「組織」の暗部「鮫島事件」だ、俺だけでは手に追い切れんだろうな」
《ならば、貴様も我と同じ穴の狢よ、復讐を成すこともなくただ恨みを叫び、世の理を嘆き、周りを害する存在となる》
「いいや、そうはならん、言ったはずだ俺とお前は違う、一緒に戦ってくれる仲間がいる、俺に全てを掛けると言ってくれる友人が居る、俺に力を貸してくれる家族が居る、お前の様に独り狂い、ただ凶刃を振るうだけの狂人とは俺は違う」
《言葉だけでは何とでも言える》
「なら、俺の言葉が信用出来ないのだったら、その自分の眼で見ると良い」
《……なに?》
「俺の言葉を信用出来なくとも自らの眼は信用出来るだろう? だから俺に憑いてこい、お前の束縛は解いてやる、そして我が復讐の完遂を見届けろ」
《くっ、くくく……何とも、使い古された手だ……その様な見え透いた言で、我が力が手に入るとでも?》
「まあ思わんなぁ…だから俺は自らの全てをかける、我が復讐、万が一にも失敗すれば、この命、この体、この魂、全てをお前の好きにすればいいさ」
《貴様、後悔するぞ……》
「後悔? ありえんな、お前の出来なかった事、俺は絶対に成し遂げる。「栄之丞」から「八つ橋」を奪い返す、お前が絶望に狂う程に、お前がこの世を詛う程に渇望し続けたその情景を、特等席で見せてやる!」
《ふ、ふふふ、ふはははははっ! 面白い、そこまで言うのならば良いだろう、貴様の絶望に狂う様を、お前がこの世を詛う様を、特等席で見せてもらおうではないか!》
《……何?》
「さっき、お前は、憎き者ども何処に居る、と言ったな」
《…………》
「今度こそ、我が手で殺してくれる、そう言ったな」
「今度こそ? それは少しおかしいんじゃないか?」
カタリ……妖刀が震える。
「「吉原千人斬り」詳しくは知らんが、たしか江戸時代に起こった、復讐に狂った男が自らを裏切った女と男と、そしてその他大勢の人間を切り殺し回ったという事件だったな」
「この話が本当だったら何故お前は、憾みを晴らした筈のお前が、未だにこうして怨嗟を撒散らしているのか、何故、女を奪った男を殺したい男に走った女を殺したい、なんて叫び続けるのか…」
「その答えは、一つ……つまり、お前は、失敗したんだな、復讐を……」
蒼白に歪む、刀に憑かれた男のその表情が、如実に肯定を示していた。
《それが、どうした……一度は確かに失敗した、だが…》
「既に、お前のかつて居た場所は300年も前の遙か遠い時代の事だ、既に貴様の恨む者たちはとっくの昔に死んでいる」
ザワリ……俺の言葉に周囲の空間がさざめく様に揺らぐ。
「お前の復讐は既に、手遅れな程に失敗しているんだ……そんな、お前の様な負け犬と、俺が「近しき者」だと? 笑わせる」
《ならば、ならば、貴様はどうだというのだ、その弱き身で微かな望を託し、卑しくも我が力を手に入れんと我策するする程だ、
その貴様の言う、「大切な人」とやらを奪った存在は、それこそ絶望的な程に強大なのであろう》
「そうだな、相手は「組織」の暗部「鮫島事件」だ、俺だけでは手に追い切れんだろうな」
《ならば、貴様も我と同じ穴の狢よ、復讐を成すこともなくただ恨みを叫び、世の理を嘆き、周りを害する存在となる》
「いいや、そうはならん、言ったはずだ俺とお前は違う、一緒に戦ってくれる仲間がいる、俺に全てを掛けると言ってくれる友人が居る、俺に力を貸してくれる家族が居る、お前の様に独り狂い、ただ凶刃を振るうだけの狂人とは俺は違う」
《言葉だけでは何とでも言える》
「なら、俺の言葉が信用出来ないのだったら、その自分の眼で見ると良い」
《……なに?》
「俺の言葉を信用出来なくとも自らの眼は信用出来るだろう? だから俺に憑いてこい、お前の束縛は解いてやる、そして我が復讐の完遂を見届けろ」
《くっ、くくく……何とも、使い古された手だ……その様な見え透いた言で、我が力が手に入るとでも?》
「まあ思わんなぁ…だから俺は自らの全てをかける、我が復讐、万が一にも失敗すれば、この命、この体、この魂、全てをお前の好きにすればいいさ」
《貴様、後悔するぞ……》
「後悔? ありえんな、お前の出来なかった事、俺は絶対に成し遂げる。「栄之丞」から「八つ橋」を奪い返す、お前が絶望に狂う程に、お前がこの世を詛う程に渇望し続けたその情景を、特等席で見せてやる!」
《ふ、ふふふ、ふはははははっ! 面白い、そこまで言うのならば良いだろう、貴様の絶望に狂う様を、お前がこの世を詛う様を、特等席で見せてもらおうではないか!》
愉快そうに笑いながら、掌をこちらへと向けて伸ばす、怨嗟に狂いし凶刃。
その彼の手を、躊躇せずに俺は取―――。
その彼の手を、躊躇せずに俺は取―――。
―――暗転。
激痛と共に、体の何処かで致命的な何かの破砕音が聞こえた気がする。
まさか、ここで容量不足に陥るとは……。
どうやら弱い物ばかりとはいえ、都市伝説を複数所持する俺の器の容量は。
強大なこの妖刀の全能力を抱え込む事を許さないようであった。
どうやら弱い物ばかりとはいえ、都市伝説を複数所持する俺の器の容量は。
強大なこの妖刀の全能力を抱え込む事を許さないようであった。
グラリと回る、視界の外で。
呆れたように、呟く妖刀の声が聞こえた。
呆れたように、呟く妖刀の声が聞こえた。
《本当に、大丈夫なのだろうな……?》
「と、とりあえず……俺の体が保つ範囲まで、…少し手加減を頼む……がくりっ…」
「と、とりあえず……俺の体が保つ範囲まで、…少し手加減を頼む……がくりっ…」
そう言いながら、冷たい石畳の上で俺は意識を手放すのだった。