ギザ十と幽霊少女とご先祖様と組織の狗 09
太郎さんの学校からの帰り道、ふと右手に小さな寒けを感じて立ち止まる。
不甲斐ない俺を、またご先祖様が慰めようとでもしているのだろうか。
苦笑しながらも、反対の手で「幽霊の映る鏡」を取り出すと右手を映し覗き込む。
そこには、予想通り俺の右手の指をまるで壊れ物を扱うように優しく
しかし、予想外の人物の小さな手によってチョコンと握られていた。
「おま……何してんの?」
呆然と問いかける俺の横に、顔を赤く染めてそっぽを向く少女が見える。
「あんたが、その……なんか落ち込んでるみたいだから…」
まるで拗ねるように口を尖らせ、ポソポソと小声で呟く幽霊少女。
「まさか、お前から、そんな言葉が聞けるなんてな……明日は空から槍でも降るか?」
くっくっ…と笑いながら横に立つ少女の頭を乱暴に撫でる、ように手を虚空に翳し動かす。
軽口を叩く俺に真っ赤になって怒る少女の姿、いつもの光景を思い浮かべる俺に
だが、目の前の幽霊少女は、黙ったまま上目遣いで此方を心配そうに見ているだけだった。
そうか、こいつに心配されるほどに、今の俺は酷い面をしているのか……。
大きく溜息を吐く。
「そうだな、お前の言う通り、俺は今、心底落ち込んで、心底迷ってる」
その言葉に、少女はギュッと俺の指先を掴む力を強めたようだ、同時に右手の寒けも強まる。
「でも、まあ…そんなに心配するほどのもんでもねえよ、俺には、まだやる事がある、迷っても落ち込んでも、やるべき事がある」
「やるべき事……」
「俺は何に変えても果たすべき目標がある、俺から大切なものを奪った「鮫島事件」を解き明かし、俺から大切なものを奪った「組織」を潰す!」
「大切な、もの……?」
「そう、大切なものだ、大事なものだ、何ものにも代え難い俺の宝物を奴らから取り戻す、その為ならどんなに汚い事だってやるし、「組織」に尻尾を振る事だって躊躇しない、誰を犠牲にしてでも、何を犠牲にしてでも、俺は最後までやり遂げる」
「その為に、あの子を、太郎さんを使い潰してでも?」
「……ああ、そうだ」
「その為に、どこかの誰かが不幸になっても?」
「ああ、もちろんだ」
「自分自身が傷ついても? ご先祖ちゃんが悲しんでも? 私が……私の事も、その「大切な人」の為なら使い捨てるの?」
「あ……? お前、何を言って……」
不甲斐ない俺を、またご先祖様が慰めようとでもしているのだろうか。
苦笑しながらも、反対の手で「幽霊の映る鏡」を取り出すと右手を映し覗き込む。
そこには、予想通り俺の右手の指をまるで壊れ物を扱うように優しく
しかし、予想外の人物の小さな手によってチョコンと握られていた。
「おま……何してんの?」
呆然と問いかける俺の横に、顔を赤く染めてそっぽを向く少女が見える。
「あんたが、その……なんか落ち込んでるみたいだから…」
まるで拗ねるように口を尖らせ、ポソポソと小声で呟く幽霊少女。
「まさか、お前から、そんな言葉が聞けるなんてな……明日は空から槍でも降るか?」
くっくっ…と笑いながら横に立つ少女の頭を乱暴に撫でる、ように手を虚空に翳し動かす。
軽口を叩く俺に真っ赤になって怒る少女の姿、いつもの光景を思い浮かべる俺に
だが、目の前の幽霊少女は、黙ったまま上目遣いで此方を心配そうに見ているだけだった。
そうか、こいつに心配されるほどに、今の俺は酷い面をしているのか……。
大きく溜息を吐く。
「そうだな、お前の言う通り、俺は今、心底落ち込んで、心底迷ってる」
その言葉に、少女はギュッと俺の指先を掴む力を強めたようだ、同時に右手の寒けも強まる。
「でも、まあ…そんなに心配するほどのもんでもねえよ、俺には、まだやる事がある、迷っても落ち込んでも、やるべき事がある」
「やるべき事……」
「俺は何に変えても果たすべき目標がある、俺から大切なものを奪った「鮫島事件」を解き明かし、俺から大切なものを奪った「組織」を潰す!」
「大切な、もの……?」
「そう、大切なものだ、大事なものだ、何ものにも代え難い俺の宝物を奴らから取り戻す、その為ならどんなに汚い事だってやるし、「組織」に尻尾を振る事だって躊躇しない、誰を犠牲にしてでも、何を犠牲にしてでも、俺は最後までやり遂げる」
「その為に、あの子を、太郎さんを使い潰してでも?」
「……ああ、そうだ」
「その為に、どこかの誰かが不幸になっても?」
「ああ、もちろんだ」
「自分自身が傷ついても? ご先祖ちゃんが悲しんでも? 私が……私の事も、その「大切な人」の為なら使い捨てるの?」
「あ……? お前、何を言って……」
「ごめん、冗談……」
沈黙、暗い夜道を照らす街灯から聞こえる微かな可動音だけが俺の耳に届く。
項垂れるように地面を見つめる少女、その後ろには暇そうに大きな欠伸をし、その拍子に近くを飛んでた蠅が口に入って嫌そう顔を顰めるご先祖様が見える。
どれだけの時間、無言で立ち尽くしていただろうか、目の前の少女は突然顔を上げると、何時もの調子で声を上げた。
「私も「組織」は気にくわない、念願の復讐を邪魔した挙げ句、私を殺したあいつらは許さない」
「実際に、手にかけたのは俺だが…」
「でも、命令したのは「組織」でしょ、それにアンタは私を殺すのは嫌だったでしょ」
「あー、別に、躊躇の欠片もしませんでしたが?」
だんだん、何時もの俺たちの調子に戻ってくる。
「はっ、そんな事言って、墓場に行けば直ぐに殺せる筈なのに迷って迷って、グルグルグルグル同じ道を逃げ回って結局夜が明ける直前まで決心付かなかった癖にさぁ」
「うぐ……何故、その事を……」
「ご先祖ちゃんから、聞いたもん」
未だ、口の中の蠅を吐き出そうとしている、ご先祖様を睨むと、キョトンとして円らな瞳を向けてくる。
「まあね、あんたには一宿一飯の恩義もあるし、それに一応、例の「約束」もあるしね、私も最後まであんたに付き合ってあげるわ」
一宿一飯どころじゃねーだろ、お前の所為でどれだけ食費が嵩んでると……。
そう思いながらも、完全に何時もの調子に戻った少女に、安堵を覚える。
「そうだな期待してるよ、何せお前は「組織」に対する俺の切り札の一つだからな」
そう言って笑う俺の心には、既にそれまでの迷いは消えていた。
ただ、組織への恨みだけを胸に、進む。
太郎さんを、ご先祖様を、目前の少女を、俺自身の命さえも、利用し尽くし組織を潰す。
それは目の前のこいつも同じだろう、組織に復讐する為に俺を利用する幽霊少女。
暗い決心を新たに誓い歩き出す俺たちへと、唐突に声を掛ける者が居た。
沈黙、暗い夜道を照らす街灯から聞こえる微かな可動音だけが俺の耳に届く。
項垂れるように地面を見つめる少女、その後ろには暇そうに大きな欠伸をし、その拍子に近くを飛んでた蠅が口に入って嫌そう顔を顰めるご先祖様が見える。
どれだけの時間、無言で立ち尽くしていただろうか、目の前の少女は突然顔を上げると、何時もの調子で声を上げた。
「私も「組織」は気にくわない、念願の復讐を邪魔した挙げ句、私を殺したあいつらは許さない」
「実際に、手にかけたのは俺だが…」
「でも、命令したのは「組織」でしょ、それにアンタは私を殺すのは嫌だったでしょ」
「あー、別に、躊躇の欠片もしませんでしたが?」
だんだん、何時もの俺たちの調子に戻ってくる。
「はっ、そんな事言って、墓場に行けば直ぐに殺せる筈なのに迷って迷って、グルグルグルグル同じ道を逃げ回って結局夜が明ける直前まで決心付かなかった癖にさぁ」
「うぐ……何故、その事を……」
「ご先祖ちゃんから、聞いたもん」
未だ、口の中の蠅を吐き出そうとしている、ご先祖様を睨むと、キョトンとして円らな瞳を向けてくる。
「まあね、あんたには一宿一飯の恩義もあるし、それに一応、例の「約束」もあるしね、私も最後まであんたに付き合ってあげるわ」
一宿一飯どころじゃねーだろ、お前の所為でどれだけ食費が嵩んでると……。
そう思いながらも、完全に何時もの調子に戻った少女に、安堵を覚える。
「そうだな期待してるよ、何せお前は「組織」に対する俺の切り札の一つだからな」
そう言って笑う俺の心には、既にそれまでの迷いは消えていた。
ただ、組織への恨みだけを胸に、進む。
太郎さんを、ご先祖様を、目前の少女を、俺自身の命さえも、利用し尽くし組織を潰す。
それは目の前のこいつも同じだろう、組織に復讐する為に俺を利用する幽霊少女。
暗い決心を新たに誓い歩き出す俺たちへと、唐突に声を掛ける者が居た。
「…そこな青年よ」
どす黒い、まるで夜の闇すら塗り潰さんとするかのような真黒の気配。
背後からのし掛かる悪寒を振り払うように、振り返りいつの間にか直ぐそばまで近づいていた異形の存在を睨む。
まるで歴史ドラマの合戦場から抜け出してきたような武者姿の男。
だが、TVで見るような安っぽい役者とはレベルの桁違う、幾千もの血を浴び、幾万もの怨嗟を背負う、まさしく真の鬼武者と呼び得る存在がそこにいた。
「お前たちは、「組織」が憎くはないか? 我は、将門。「首塚」に奉られし祟り神、平将門である。……どうだ?我の下で、働いてみる気はないか?」
その投げ掛けられた言葉と共に、ぞわり、と首筋に刀の切っ先を突きつけられるような恐怖が走る。
「平将門……あの、有名な首塚の平将門か?」
止まらぬ冷や汗を拭う事もなく目の前の男、平将門を睨み付ける。
まさか、こんな大物がこの町に入り込んでいるとは……
目線だけで手の中の鏡を見ると、幽霊少女は震え俺の服の裾を握りながらも果敢に目の前の伝説的な大怨霊を俺と同じく警戒しながら睨み付けている。
「くかかっ……その通り、我こそが世に名高き祟り神、平新皇こと平将門よ」
嗤う平将門の周りの空間が、その言葉の前にひれ伏すかのように歪むのが見えた。
その姿、その存在感、その底の見えぬ程暗く深く暗い力は、正しく祟り神の皇として相応しい。
まるで、この前こっそり内緒でプリンを食べた際に見る羽目となった、本性を現したご先祖様の姿に劣らない……。
いや、それ以上に禍々しい、目の前の武者の死線に膝を折りそうになるのを必死に堪える。
「くくっ……なかなか骨があるようだな青年……それにそこな女子も」
ガクガクと震えながらも必死で俺の横に立つ少女が、目の前の悪夢のような男の声にビクリと硬直する。
「かかかっ……そして、何とも懐かしい顔だ、ざっと300年程ぶりか? のう、山本五郎左衛門よ」
いつの間にか、俺と平将門の間を遮るように立つご先祖様。
山本五郎左衛門……悪霊の中の悪霊、日の本に蠢く魑魅魍魎の半分を統べる魔神の名。
自らが死した後、死と怨嗟を撒散らす存在と化した荒ぶる御霊に付けられた悪神としての名の中の一つである。
もっとも、聞いて分かる通りのその名は男性名の為、花も恥じらう乙女(本人談)のご先祖様には頗る不評であったりする。
例に漏れず、機嫌が悪くなるご先祖様。
いつもの笑顔が消え、絶対零度の無表情がとても怖い。
あ、なんか小声で呟いた……ていうか、今の絶対「擦り潰すぞこの糞爺…」って言ったよな? え、言ってない?
一触即発の緊張感、正直このまま回れ右して帰りたい、きっと横で涙目になってる少女もそう思っているに違いない。
だが、そんな俺たちを逃さぬかのように平将門の視線は俺たちへと標準を定めている。
「くかかかっ…良い殺気だ、とても心地よい、しかし300年ぶりに貴様とやり合うのも心躍る話だが、今回は貴様自身には用はないのだよ、我が今用があるのは貴様の背後のその男だ」
そう言いながらご先祖様越しに俺に鋭い視線を向ける平将門、こんな化け物に目を付けられるような事をしただろうか……。
「さっき、「組織」が憎いかと聞いたな、配下になれと言ったな、俺はその「組織」の人間だぞ、何故そんな話を持ちかける?」
背後からのし掛かる悪寒を振り払うように、振り返りいつの間にか直ぐそばまで近づいていた異形の存在を睨む。
まるで歴史ドラマの合戦場から抜け出してきたような武者姿の男。
だが、TVで見るような安っぽい役者とはレベルの桁違う、幾千もの血を浴び、幾万もの怨嗟を背負う、まさしく真の鬼武者と呼び得る存在がそこにいた。
「お前たちは、「組織」が憎くはないか? 我は、将門。「首塚」に奉られし祟り神、平将門である。……どうだ?我の下で、働いてみる気はないか?」
その投げ掛けられた言葉と共に、ぞわり、と首筋に刀の切っ先を突きつけられるような恐怖が走る。
「平将門……あの、有名な首塚の平将門か?」
止まらぬ冷や汗を拭う事もなく目の前の男、平将門を睨み付ける。
まさか、こんな大物がこの町に入り込んでいるとは……
目線だけで手の中の鏡を見ると、幽霊少女は震え俺の服の裾を握りながらも果敢に目の前の伝説的な大怨霊を俺と同じく警戒しながら睨み付けている。
「くかかっ……その通り、我こそが世に名高き祟り神、平新皇こと平将門よ」
嗤う平将門の周りの空間が、その言葉の前にひれ伏すかのように歪むのが見えた。
その姿、その存在感、その底の見えぬ程暗く深く暗い力は、正しく祟り神の皇として相応しい。
まるで、この前こっそり内緒でプリンを食べた際に見る羽目となった、本性を現したご先祖様の姿に劣らない……。
いや、それ以上に禍々しい、目の前の武者の死線に膝を折りそうになるのを必死に堪える。
「くくっ……なかなか骨があるようだな青年……それにそこな女子も」
ガクガクと震えながらも必死で俺の横に立つ少女が、目の前の悪夢のような男の声にビクリと硬直する。
「かかかっ……そして、何とも懐かしい顔だ、ざっと300年程ぶりか? のう、山本五郎左衛門よ」
いつの間にか、俺と平将門の間を遮るように立つご先祖様。
山本五郎左衛門……悪霊の中の悪霊、日の本に蠢く魑魅魍魎の半分を統べる魔神の名。
自らが死した後、死と怨嗟を撒散らす存在と化した荒ぶる御霊に付けられた悪神としての名の中の一つである。
もっとも、聞いて分かる通りのその名は男性名の為、花も恥じらう乙女(本人談)のご先祖様には頗る不評であったりする。
例に漏れず、機嫌が悪くなるご先祖様。
いつもの笑顔が消え、絶対零度の無表情がとても怖い。
あ、なんか小声で呟いた……ていうか、今の絶対「擦り潰すぞこの糞爺…」って言ったよな? え、言ってない?
一触即発の緊張感、正直このまま回れ右して帰りたい、きっと横で涙目になってる少女もそう思っているに違いない。
だが、そんな俺たちを逃さぬかのように平将門の視線は俺たちへと標準を定めている。
「くかかかっ…良い殺気だ、とても心地よい、しかし300年ぶりに貴様とやり合うのも心躍る話だが、今回は貴様自身には用はないのだよ、我が今用があるのは貴様の背後のその男だ」
そう言いながらご先祖様越しに俺に鋭い視線を向ける平将門、こんな化け物に目を付けられるような事をしただろうか……。
「さっき、「組織」が憎いかと聞いたな、配下になれと言ったな、俺はその「組織」の人間だぞ、何故そんな話を持ちかける?」
「くくっ……何を言う、貴様のその魂に刻まれた暗く心地よい感情、「組織」に恨みがあるのだろう? 「組織」に復讐したいと考えているのだろう?
そして、そこな女子も同じく……くかか…若干、別の感情も圧し隠しているようだが、貴様らのその黒く歪な復讐心を我が下で成就させてやろうというのだ」
まるで、至高の玩具を目の前にした子供のような無邪気な目で、まるで生贄を前にした悪魔のような邪悪な目で、俺に嗤いかける祟り神の皇。
その言の葉は魅力的で、未だ準備が万全とは言えないままに、「組織」との決戦に赴かんとする俺にとっては僥倖とも言える展開。
「ふ、ん……流石は平将門、何でもお見通しか? それで、あんたの配下に下れば一体俺に何の利があるんだ?」
「くかか…良い目だ、我が圧倒的な力を前にして尚、その微弱な身でありながら我を利用し飲み下してみせよう画策する、
その卑しくも勇ましい性根は何とも我が部下として望ましい…よかろう、我に下った暁には「組織」の情報と、微弱な貴様にも扱え得る「力」を与えよう!」
とても愉快そうに、そう宣言する平将門の言葉に、俺は目を瞑り考える。
力、情報、どちらも今の俺に、必要なものだ。
数瞬後、目を開き、俺の側に立つご先祖様を見る、先ほどの平将門の言には一片の偽りもないのだろう、真剣な表情で俺を静かに見つめ返す表情は俺の好きにしろと言っている。
鏡の中に映る、俺の手を握り傍らに立つ少女を見る、不安そうな表情は既に形を潜め、俺と目が合うと小さく、だが力強く頷いてくる。
溜息、俺は何時ものように空を見上げ、既に答えの決まっている自身の心に問いかける。
伸るか、反るか……。
黒い雲海から覗く満月の光に、俺の弾いた十円玉が反射する。
緩やかに回転しながら落ちてくる硬貨を空中で掴み取る。
その決心と共に強く握った拳を、平将門へと向けて突き出す。
「忠誠は誓わない、場合によってはあんたの命令に逆らう事もあるだろう、それでも良いのなら……」
絶望的なまでに無謀な状況で掴み取った一抹の希望を開く。
「新しき仮初めの主よ、今この時より俺は貴方の配下となろう」
怪しく照らす月光の下、開かれた掌の上では平等院鳳凰堂がまるで歓喜に蠢くかのように鈍く輝いていた。
そして、そこな女子も同じく……くかか…若干、別の感情も圧し隠しているようだが、貴様らのその黒く歪な復讐心を我が下で成就させてやろうというのだ」
まるで、至高の玩具を目の前にした子供のような無邪気な目で、まるで生贄を前にした悪魔のような邪悪な目で、俺に嗤いかける祟り神の皇。
その言の葉は魅力的で、未だ準備が万全とは言えないままに、「組織」との決戦に赴かんとする俺にとっては僥倖とも言える展開。
「ふ、ん……流石は平将門、何でもお見通しか? それで、あんたの配下に下れば一体俺に何の利があるんだ?」
「くかか…良い目だ、我が圧倒的な力を前にして尚、その微弱な身でありながら我を利用し飲み下してみせよう画策する、
その卑しくも勇ましい性根は何とも我が部下として望ましい…よかろう、我に下った暁には「組織」の情報と、微弱な貴様にも扱え得る「力」を与えよう!」
とても愉快そうに、そう宣言する平将門の言葉に、俺は目を瞑り考える。
力、情報、どちらも今の俺に、必要なものだ。
数瞬後、目を開き、俺の側に立つご先祖様を見る、先ほどの平将門の言には一片の偽りもないのだろう、真剣な表情で俺を静かに見つめ返す表情は俺の好きにしろと言っている。
鏡の中に映る、俺の手を握り傍らに立つ少女を見る、不安そうな表情は既に形を潜め、俺と目が合うと小さく、だが力強く頷いてくる。
溜息、俺は何時ものように空を見上げ、既に答えの決まっている自身の心に問いかける。
伸るか、反るか……。
黒い雲海から覗く満月の光に、俺の弾いた十円玉が反射する。
緩やかに回転しながら落ちてくる硬貨を空中で掴み取る。
その決心と共に強く握った拳を、平将門へと向けて突き出す。
「忠誠は誓わない、場合によってはあんたの命令に逆らう事もあるだろう、それでも良いのなら……」
絶望的なまでに無謀な状況で掴み取った一抹の希望を開く。
「新しき仮初めの主よ、今この時より俺は貴方の配下となろう」
怪しく照らす月光の下、開かれた掌の上では平等院鳳凰堂がまるで歓喜に蠢くかのように鈍く輝いていた。