「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 魔法少女銀河-21

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【不思議少女シルバームーン第八話 第五章「復活」】


「俺たちはネバーランド。
 俺たちはを争いや苦しみから開放しにきた夢の国の住人だ。
 この国の時間で正午、午後0時に俺たちはこの町に“死の河”を展開してお前らを俺の一部として取り込む。
 お前らはそこで痛みも苦しみも憎しみも希望も絶望も無い命の一つとして生きることになる……。
 それまでの時間、たった一時間だがせいぜい有意義に過ごしてくれ。
 ああそうそう、俺たちを止めようと躍起になっている化物共に教えてやる。
 今からこの街全体に大量の吸血鬼をばら撒く、御存知の通りあの手の化物はねずみ算式に増えていく。
 たとえ俺の計画を止められたところで……お前らの大好きなこの街はお終いだ。
 せいぜい哀れな箱庭の住人の為に一時の安息を守ってやるんだな!」

 テレビに突如として映った見覚えのある化物の姿。
 何をすることも出来ずに私は一人で自分の部屋に篭っていた。

「お、お嬢様大変でございます!この街からお逃げくださいませ!」
「あらバットン……」
「何をなさっているのですか!奥様も大奥様も居らっしゃらないのでございますよ!
 今こんな事件に巻き込まれてしまえば貴方が死んでしまいます!」
「死んじゃう……か。」
「そうです!どこか安全なところに……。」
「いいよ別に。」

 正直、どうでも良かったのだ。
 死のうが生きようが一緒なのだ。
 どうせ死んだものだと思ったからこそ好きでもない修行も真面目にやっていた。
 好きでもない物やり続けるのも死ぬのもたいして違いはない。
 無論自分から死ぬ気は無いが殺されるならそれも運だし……

「どうせ私なんて……私なんて無力で、正義を押し付けることしか出来なくで、自分で何も選び取れない与えられるだけの生き物だったし。
 きっと生きてても死んでても大して差はないってば。」
「お、お嬢様!」

 珍しくバットンが声を荒らげた。

「失礼ながら今のお嬢様は身勝手が過ぎます!」

 我が儘な私に文句ひとつ言わずついてきたバットンが怒っている。
 私が身勝手だと声を荒げている。

「スバル殿も!ヨツバ様も!お嬢様や大切な人を守るために今戦っているのです!
 その努力を無にする気ですか!そのようなことは朝月家に代々仕えてきた使い魔として決して許せません!
 貴方は貴方の戦いをなさってください!
 逃げるのが格好悪いのかもしれない。
 逃げるのすら面倒だとおもっているのかもしれない。
 お嬢様の真意はバットンめには図りかねますがそれでも!
 それでもやるべきことをやることからはお逃げなさらないでください!」

 ……仕方ない。
 逃げるだけ逃げなきゃ駄目か。

「それで良いのかな?」

 突然、部屋のドアが開く。
 顔を包帯でぐるぐる巻きにして帽子を深く被った男が立っていた。

「お、お前は!?お嬢様この男は……!」
「言わなくても解るわ、お父様……よね。」

 男は黙って頷くと私の所へと近づいてくる。
 私だって父の顔を覚えている訳ではない。
 でも解るのだ。
 この優しい、暖かな眼差しは、親鳥のような瞳は。

「それで、良いのか?」
「待て人間!」
「バットン、貴様の説教聞かせてもらった。
 魔女の使い魔としては中々に忠烈、褒めてつかわす。
 が……俺の娘である以上、それを素直に聞いているだけでは駄目だ。」

 父は私の寝転んでいたベッドの側まで来て私の頭を優しく撫でる。
 服の袖から古傷だらけの腕が覗く。
 包帯の隙間からは微かに血の香りがした。
 恐らく相当激しい戦闘を終えた後なのだろう。
 確かお父様は人間だ、ならばこの程度の怪我でも相当治りは遅いはず。
 なのにどうして……

「……怖いか?」

 頷く。

「全部戦ってできた傷だ。」
「戦わないでいようとは思わなかったの?」
「ああ、俺は戦いを避けようとは思わなかった。
 何度も逃げはしたけどな、今だって殺されかけた所を逃げてきた。」
「なんで?」
「欲望が有ったからだ。もっと欲しい、もっとしたい、もっと得たい、そういう欲望だ。
 自分の心から信じたものに嘘をつけなかったから戦って戦って戦った。
 その途中で何の罪も無い人を犠牲にした。それでも欲望を止められなかったし止めなかった。
 触れるもの皆焼き尽くすだけの燃え立つような欲望だけが俺を突き動かし続けていた。
 欲望のある限り立ち向かう力は無限大だ。
 何度折られて何度傷つけられようとも欲望一つで人は立ち上がっていける。」
「お父様は悪い人なの?」
「それはお前が決めろ。」

 その時だけ、父の声はひどく冷たく聞こえた。

「分からないよ……何が正しくて何が悪いのかなんて。」
「頭で考えるな、感じるままに動けば良い。駄目なら誰かが正してくれるさ。」

 もう、優しい声に戻っている。

「…………。」
「欲望を止めるな、止めれば止めただけ心が傷つき死に近づく。
 体の傷は治るが心の傷は治らないんだ。
 心が死んだ人間は身体が死んだ人間より惨めなんだ。」

 私の心の傷。
 正義を押し付けて失敗した傷。

「じゃあずっと心が痛いの?」
「いいや、心の傷は治らないがそれを優しさとか強さに変えることはできるさ。
 俺は我が儘で臆病な自分の心を傷つけたくなかったせいで優しくも強くも無い人間でしか居られなくなった。
 その傷は宝物なんだよ、人類誰もが手に入れられて、でも俺は捨ててしまった宝物なんだ。」

 胸に手を当てて考えてみる。
 霙に拒絶された時、私は胸が痛かった。
 でも霙はどうだったんだろう。
 彼女だって理由は知らないが心を痛めてたんじゃないだろうか。
 だったらそれを癒せないだろうかと私は思った。
 癒したいと思った。
 守りたいと思った。
 そうだ、私は誰かの悲しむ顔を見たくなかったんだ。
 だから守ろうと思ったんだ。
 人々の平和な生活を守ろうと思ったんだ。
 これが私の欲しているものだ、何があっても変わらない私の原点だったんだ。

「気づいたな、お前の欲望。」
「……でも私、今は力が。」
「知っているよ。
 だから今日はこいつを渡しに来たんだ。十二年間分の誕生日プレゼント。」

 金属製のステッキを渡される。
 細くて靭やかだがそれ以上に重い。

「なにこれ……?」
「打神鞭、都市伝説を狩る為の武器だ。レプリカだけどな。
 ちょっと貸せ。」

 父はそれを私の手からとるとまるで小枝のように振り回す。
 すると部屋の中に突如として風が起こり開きかけになっていた魔導書がすべて閉じてしまった。

「やっぱあれの文字って普通の人間が見ると頭がガンガンするぜ。」
「風を操ってるの?」
「お前の得意科目だろう。そもそもお前は魔女だ。
 でもそれと同時に人間でもあるんだ。
 お前は魔女として自分から力を引き出し続けてきたけど人間として契約を使っても良いと俺は思うぜ。」
「に、人間貴様!誇り高き魔女を何だと思っている!」
「まあまあ固いこと言うなよ。」

 そう言って父は私の手の上に再び打神鞭を置いた。
 私は打神鞭を握り締める。

「契約ってどうするの?」
「お、お嬢様!?」
「私の今やるべきことはこれよ。」
「ああ、帰ったらヨツバ様になんと言われるか……」
「おいバットンあんまりうるせえと煮こむぞ。」

 父は懐から巻物を取り出して開く。

「ここに名前を書け。」

 私は羽ペンを使って自分の名前を書く。
 すると先ほどまで重かった筈の打神鞭がまるで爪楊枝みたいに軽くなった。

「馴染んでいるみたいだな。」
「うん、使い方もなんとなく解る。
 契約ってこんな簡単に力が手に入るのね。」
「ああ、しかし契約だけでは戦うための精神(センス)が手に入らない。
 でもお前は正義の味方として戦ってきたからその心配はしなくていい。
 お前の精神(センス)と新しい力があればきっと負けないさ。」
「うん!」
「良い子だ。お前は本当に、兄妹の中でも一番真面目で良い子だよ。」
「えへへ……。」
「今、奴らのアジトではスバルが奴らのボスと一人で戦っている。
 ヨツバさんは足止めを食らって身動きがとれない。
 そして街では沢山の人が吸血鬼に襲われている。」
「私、スバルを助けてくる!私が居ない間頑張ってくれたもん!」
「そうだな、それが良い。
 街ではお前を助けた刑事さんが頑張っているし、
 ヨツバさんはまあ……放っておいても大丈夫だし。」
「そうだね。」
「お嬢様までなんということを!」
「事実だろうよ、日食が近い今ならあの人の力も高まっている筈だぞ。」
「確かにそうだが……。」
「じゃあお父様!私行きます!」
「おう、行って来い!」
「その前にお願いして良いかな?」
「なんだ?」
「抱っこして。」

 父が恥ずかしそうな顔をしている。
 包帯の上からでも解る辺り表情が豊かな人なんだろうなあ。
 彼は私をベッドから抱きかかえて床へと下ろす。

「大きくなったってのになあ、おい……。」
「うふふ、昔と一緒だ。」
「覚えているのか?」
「うん。さて……これから着替えるからちょっと二人とも部屋から出て。」

 父とバットンを追い出して魔法少女用の衣装に着替える。

「それじゃあ行ってきます!」
「え、ちょ……もうちょっと名残り惜しんだりとか……」
「言い忘れてたけどお父様、きっとお父様だって遅くはないと思います。
 まだきっと、宝物を手に入れられますよ。」

 窓を開けて後ろも見ずに箒にまたがって飛び立った。
 後ろからバットンの声が聞こえた気がしたがもう気にしない。
 抜けるような青い空は私のために追い風を準備してくれていた。
 右手には冷たく白く輝くステッキ。

「お待ちくださいお嬢様ああああああ!」

 後から追いかけてくるバットン。
 ああもう笑えるくらいに愉快なくらいに正しく魔法少女だ。
 私は町の真上をまっすぐに飛び続ける。
 下から人の声が聞こえる。

「あっ!鳥だ!」
「いやUFOじゃない!?」
「違うぞあれは魔法少女だ!」

 あ、昼間に飛んだら人に見られるのを忘れていた。

「あの服って最近まで噂になってた魔法少女じゃない!?」
「そういえば俺、あの子に助けてもらったこと有るぞ!」

 あれ?記憶消失の魔法……

「お嬢様、帰ったら一から魔法の修行やり直しでございますね。」

 ごめんなさい失敗してたみたいです。

「頑張れ魔法少女!」
「ガンバレ!」
「頑張れ!」
「応援してるぞー!」

 サムズアップしてみせながら私は空高くへと舞い上がった。
 しばらく飛んでいると遠くに映る人影。

「待っていたぜ魔法少女!」

 突然、人影は私との距離を詰める。
 人影の正体は翼の生えた男だった。

「俺の名前は鳥人(ライディーン)。ネバーランドの一員さ。
 あの水族館の事件を起こした奴の仲間と言えば分かりやすいか。」
「あ、あの時の事件の奴らね!」
「空から俺たちのアジトを狙っているみたいだがそれを止めるのが俺の仕事なんでね。
 悪いがここであんたは……」

 炎が燃え上がるような音。
 空を切り裂く二つの風。

「え?」
「「ライダアアアアアアアアアアダブルキイイイイイック!」」

 ライディーンとやらが喋るのを中断して赤と白の影が目の前に躍り出て、
 ダブルラリアット風にライディーンに蹴りを浴びせかける。

「灸おおおおおおおお!後任せたあああああああああああ!落ちる落ちる落ちる!」

 白い方の影はライディーンに蹴りを入れるとそのまま地面に落下していった。
 私はどちらにも見覚えがあった。

「今のは刑事さんと……」
「元気そうだなお嬢さん。やはり君は笑顔のほうが美しいよ。」

 真っ赤な炎に身を包み、孔雀のような七色の羽を背中から生やしている伊達男。
 水族館で私たちを助けてくれた人だ。

「灸さん!」
「名前を覚えていてくれたか、嬉しいねえ。」

 そう、彼の名前は久慈灸、正義の味方だ。

「慈円兄貴!」
「吾城!お前なんでこんなことしてやがる!」
「兄貴が家出ていったからだよ!あんたが憎くて!あんたを探すためにここまで来たんだ!」
「ほう……じゃあ丁度いい。お前の相手はこの俺だ!」
「勿論だ!」

 二人は私には分からない言葉、恐らく中国語、でまくし立てあった後、何らかの武術の構えを取る。
 どうやら私は邪魔者なようだ。

「お嬢さん!さっさと行きな!下は真が頑張っている!
 空は俺が守る!あんたは本丸を叩きにいけ!」
「はい!」

 私は再び学校町の中心、巨大な塔がそびえる場所まで箒のスピードを上げ始めた。
【不思議少女シルバームーン第八話 第五章「復活」】

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