少女は、目を怪我した少年と保健室にいた。
「……悪かった」
「自分は十分真面目でしたが、少しふざけていた部分もあるので、お互い様です」
目を怪我少年――――雄介は、少女――――DKGこと薫に目の手当てをしてもらっていた。
薫が投げつけた教卓が雄介の顔から落ちると、雄介の目から血が流れていた。
もちろん薫が教卓を投げつけた事にも教室内の人間も驚いていたが、雄介の惨状にはもっと驚いた。
中には驚いてはいるが落ちついている者もいたが、それでもパニックは止まらず、教室中は大騒ぎだった。
責任ある薫が保健室に連れて行くことで混乱は免れたが、それでも雄介の目の痛々しさは変わらなかった。
「……本当に悪かった……。本当に、本当に……っ」
「いやー、失明していないので大丈夫ですよ」
思わず泣きそうになってしまった薫に、怪我を負わせた薫に、優しく励ますように接する雄介。
どうしてこの男はここまでしても愛想を突かないのだろうか?
こんな事になってしまったのは、アメリカにいたころの片っ端から殺していた癖が出てしまったのだろうか?
確か昨日の晩もキッチンからベランダの外に投げるという、よく考えなくてもとても危険な事だったのだ。
前に学生生活を送った時はこんなことは無かった。
もしかしたら、契約した事により力が大きくなった反動で、本能の部分も大きくなってしまったのだろうか?
(いや、そんな事を考えて逃げる事はよそう)
今は雄介に対する謝罪しかない。
「というか謝らないで下さいよ。許すといっているんですから、それ以上はいりませんよ」
「……だけど」
「それでもというなら、キスを御所望します! 口に! 唇にっ!」
「…………」
雄介はいつものようにおちゃらけモードに入ったが、その言葉を真剣に考える。
(……本当に悪いことしたしな、流石に口は抵抗があるが、頬ぐらいならしてやっても良いか? ……いや、こいつは俺のせいでこうなってるんだ。口にしてやるべきか……)
「え? あの怒ってるんですか? それとも真剣にお考えに? え、あ、いや! まだいいです! 冗談ですから! まだこちらも心の準備ができていませんでして!!」
真剣な顔つきで悩んでいる薫を見て慌てて撤回する雄介だが、その声は薫の耳には届いていない。
だが、二人は何やら不穏な視線を感じ、サッと保健室の扉の隙間を見る。
覗いていた何か達は、覗いていた事がばれたのに気が付き、廊下をドタバタ走って逃げて行った。
「……今のは都市伝説か?」
「ええ、この中央高校はかなり契約者がいるんです。その為、ここには人を困らせるような都市伝説はいません」
「今思い切り覗いてたぞ」
「人間だってこういう事普通にします」
「そうか……、じゃあ俺みたいに普通に学校に通う都市伝説もいるのか」
はーそうなのかそうなのか、と感心しているように頷いている薫に対し、今度は雄介が深く考え込んでいる。
「……あれ? 純粋な都市伝説がこの学校を通うって、初めてなんじゃ……」
「・・・Really?」
よほど驚いたのか、母国語で聞き返してしまった薫。
「ええ、いや、そもそも学校に通う都市伝説って、いたっけかな……?」
「……おいおい、何気に例がない事やってるのかよ俺達」
「……そう、なりますね」
何やら、先ほどとは違う意味で喰う気が重くなってきた。
「すごいプレッシャーで倒れそうなんだが……」
「大丈夫です安心してください。私が支えますから」
「今はお前が怪我してるんだから、俺に任せとけ」
「いえいえ私が」
「いや、そこは俺が」
…………。
「私が」
「俺が」
「私」
「俺」
「私!」
「俺!」
いつの間にか何の言い合いになっているかも忘れ、二人はムキになってしゃー! と睨み合う。
「うぅるっさい! ここは若者がずっこんばっこんする場所じゃねーよ自重しやがれ!」
シャー! と保健室の角のカーテンが開かれ、探しても見つからなかった保険の先生がいた。
保険の先生はショートカットで、それなりに美人だ。
だが、胸はとても寂しく、薫と比べると……保険の先生をいじめる事になるのでやめておこう。
「ずっこんばっこん? それは何だ?」
「聞かない聞かない。はしたない言葉だから覚えないように」
「ガキじゃあるまいし、ブルーフィルムなら大丈夫だ」
雄介は薫がいったブルーフィルムが何なのかとても気になったが、保険の先生の睨みが厳しい。
顔が赤いので、また朝から飲みでもしたのだろうか? 理科だったかの不良教師といい、よくPTAに訴えられないものである。(花子さんとかの人に土下座)
「おるぁあ! カップルは出てけ出てけ! あー人肌が恋しいよー!」
そっちの方が自重してほしいのだが、もうそんな話をするのも面倒くさくなってきた。
「それでは、嫁と一緒に退散します」
「嫁じゃない」
ペシッ、と薫に頭を叩かれ、二人はいそいそと保健室から出て行った。
「……悪かった」
「自分は十分真面目でしたが、少しふざけていた部分もあるので、お互い様です」
目を怪我少年――――雄介は、少女――――DKGこと薫に目の手当てをしてもらっていた。
薫が投げつけた教卓が雄介の顔から落ちると、雄介の目から血が流れていた。
もちろん薫が教卓を投げつけた事にも教室内の人間も驚いていたが、雄介の惨状にはもっと驚いた。
中には驚いてはいるが落ちついている者もいたが、それでもパニックは止まらず、教室中は大騒ぎだった。
責任ある薫が保健室に連れて行くことで混乱は免れたが、それでも雄介の目の痛々しさは変わらなかった。
「……本当に悪かった……。本当に、本当に……っ」
「いやー、失明していないので大丈夫ですよ」
思わず泣きそうになってしまった薫に、怪我を負わせた薫に、優しく励ますように接する雄介。
どうしてこの男はここまでしても愛想を突かないのだろうか?
こんな事になってしまったのは、アメリカにいたころの片っ端から殺していた癖が出てしまったのだろうか?
確か昨日の晩もキッチンからベランダの外に投げるという、よく考えなくてもとても危険な事だったのだ。
前に学生生活を送った時はこんなことは無かった。
もしかしたら、契約した事により力が大きくなった反動で、本能の部分も大きくなってしまったのだろうか?
(いや、そんな事を考えて逃げる事はよそう)
今は雄介に対する謝罪しかない。
「というか謝らないで下さいよ。許すといっているんですから、それ以上はいりませんよ」
「……だけど」
「それでもというなら、キスを御所望します! 口に! 唇にっ!」
「…………」
雄介はいつものようにおちゃらけモードに入ったが、その言葉を真剣に考える。
(……本当に悪いことしたしな、流石に口は抵抗があるが、頬ぐらいならしてやっても良いか? ……いや、こいつは俺のせいでこうなってるんだ。口にしてやるべきか……)
「え? あの怒ってるんですか? それとも真剣にお考えに? え、あ、いや! まだいいです! 冗談ですから! まだこちらも心の準備ができていませんでして!!」
真剣な顔つきで悩んでいる薫を見て慌てて撤回する雄介だが、その声は薫の耳には届いていない。
だが、二人は何やら不穏な視線を感じ、サッと保健室の扉の隙間を見る。
覗いていた何か達は、覗いていた事がばれたのに気が付き、廊下をドタバタ走って逃げて行った。
「……今のは都市伝説か?」
「ええ、この中央高校はかなり契約者がいるんです。その為、ここには人を困らせるような都市伝説はいません」
「今思い切り覗いてたぞ」
「人間だってこういう事普通にします」
「そうか……、じゃあ俺みたいに普通に学校に通う都市伝説もいるのか」
はーそうなのかそうなのか、と感心しているように頷いている薫に対し、今度は雄介が深く考え込んでいる。
「……あれ? 純粋な都市伝説がこの学校を通うって、初めてなんじゃ……」
「・・・Really?」
よほど驚いたのか、母国語で聞き返してしまった薫。
「ええ、いや、そもそも学校に通う都市伝説って、いたっけかな……?」
「……おいおい、何気に例がない事やってるのかよ俺達」
「……そう、なりますね」
何やら、先ほどとは違う意味で喰う気が重くなってきた。
「すごいプレッシャーで倒れそうなんだが……」
「大丈夫です安心してください。私が支えますから」
「今はお前が怪我してるんだから、俺に任せとけ」
「いえいえ私が」
「いや、そこは俺が」
…………。
「私が」
「俺が」
「私」
「俺」
「私!」
「俺!」
いつの間にか何の言い合いになっているかも忘れ、二人はムキになってしゃー! と睨み合う。
「うぅるっさい! ここは若者がずっこんばっこんする場所じゃねーよ自重しやがれ!」
シャー! と保健室の角のカーテンが開かれ、探しても見つからなかった保険の先生がいた。
保険の先生はショートカットで、それなりに美人だ。
だが、胸はとても寂しく、薫と比べると……保険の先生をいじめる事になるのでやめておこう。
「ずっこんばっこん? それは何だ?」
「聞かない聞かない。はしたない言葉だから覚えないように」
「ガキじゃあるまいし、ブルーフィルムなら大丈夫だ」
雄介は薫がいったブルーフィルムが何なのかとても気になったが、保険の先生の睨みが厳しい。
顔が赤いので、また朝から飲みでもしたのだろうか? 理科だったかの不良教師といい、よくPTAに訴えられないものである。(花子さんとかの人に土下座)
「おるぁあ! カップルは出てけ出てけ! あー人肌が恋しいよー!」
そっちの方が自重してほしいのだが、もうそんな話をするのも面倒くさくなってきた。
「それでは、嫁と一緒に退散します」
「嫁じゃない」
ペシッ、と薫に頭を叩かれ、二人はいそいそと保健室から出て行った。
教室に戻ると、ムードは険悪だった。
そりゃそうだろう。ただの上から目線で物を言う美少女かと思いきや、教卓を投げて怪我をさせたのである。
授業は淡々と続けられたが、授業の合間の休み時間は教室中がピリピリとしており、薫としては今すぐ帰りたい気分だ。
そんな事を繰り返して昼休み、薫は今まで誰とも話す事無く過ごし、さらには転校生というアドバンテージが裏目に出てしまった。
(……教卓なんて投げなければ……。ちくしょうっ!)
「かーおーるさーん! 一緒におーべんとたーべましょおー!」
ぴょーんとウサギの様に跳ねながらやってくるのは、誰でもない雄介である。
目の怪我は完全に完治しており、周りからは、どんな体してるんだお前!? と驚かれていたが、雄介は愛の力だの薫の魔法の力だのと言い、はぐらかしていた。
「……お前は友達と食べてろ」
「恋人と食べますのでご安心を」
「ほう、お前に恋人なんていたのか」
「ええ、目の前にいるとても可愛い人です」
「ん? お前の目の前には世界一の美少女しかいないはずだが?」
「もう照れなくていいですよぅ。薫、あなたしかいないよ」
「気色悪い。そんな関係じゃないだろ俺達」
「ではどんな関係で?」
「名字が一緒なだけだ」
「ああ!」
「納得したか?」
「もう、遠まわしに嫁だなんて……恥ずかしいっ!」
「して無い! 捏造スンナ!」
「そんな!? もうあの暑い夜の日を忘れたと!?」
「いつの話だ!?」
「……あれは、そう。あなたと初めて会った日の事」
「ああ、お前が勝手に家にずかずか入って来て……」
「激しかったですよね」
「ああ、お前の刀がぶっ刺さった時は、もう……ってしまった!?」
薫はようやく周りを見渡し、クラスメイト達がこっちの話を喉をならしながら、堂々と聞いている。
二人はサッ、と顔を近くによせ、他の人間にも都市伝説にも聞こえないように囁きあう。
「(……しまった、またドジったちくしょう! 激しかったとか刀とか、もう不穏すぎるだろ)」
「(……いえ、多分ピンクの意味で勘違いしてます。ほら、あそこの生徒前屈みになっているでしょう?)」
「(……ピンクと前屈み、どういう関連性があるんだよ)」
「(……まあ、わからないなら私にお任せあれ)」
雄介は薫の頬を両手で挟み、更に顔を近づける。
そりゃそうだろう。ただの上から目線で物を言う美少女かと思いきや、教卓を投げて怪我をさせたのである。
授業は淡々と続けられたが、授業の合間の休み時間は教室中がピリピリとしており、薫としては今すぐ帰りたい気分だ。
そんな事を繰り返して昼休み、薫は今まで誰とも話す事無く過ごし、さらには転校生というアドバンテージが裏目に出てしまった。
(……教卓なんて投げなければ……。ちくしょうっ!)
「かーおーるさーん! 一緒におーべんとたーべましょおー!」
ぴょーんとウサギの様に跳ねながらやってくるのは、誰でもない雄介である。
目の怪我は完全に完治しており、周りからは、どんな体してるんだお前!? と驚かれていたが、雄介は愛の力だの薫の魔法の力だのと言い、はぐらかしていた。
「……お前は友達と食べてろ」
「恋人と食べますのでご安心を」
「ほう、お前に恋人なんていたのか」
「ええ、目の前にいるとても可愛い人です」
「ん? お前の目の前には世界一の美少女しかいないはずだが?」
「もう照れなくていいですよぅ。薫、あなたしかいないよ」
「気色悪い。そんな関係じゃないだろ俺達」
「ではどんな関係で?」
「名字が一緒なだけだ」
「ああ!」
「納得したか?」
「もう、遠まわしに嫁だなんて……恥ずかしいっ!」
「して無い! 捏造スンナ!」
「そんな!? もうあの暑い夜の日を忘れたと!?」
「いつの話だ!?」
「……あれは、そう。あなたと初めて会った日の事」
「ああ、お前が勝手に家にずかずか入って来て……」
「激しかったですよね」
「ああ、お前の刀がぶっ刺さった時は、もう……ってしまった!?」
薫はようやく周りを見渡し、クラスメイト達がこっちの話を喉をならしながら、堂々と聞いている。
二人はサッ、と顔を近くによせ、他の人間にも都市伝説にも聞こえないように囁きあう。
「(……しまった、またドジったちくしょう! 激しかったとか刀とか、もう不穏すぎるだろ)」
「(……いえ、多分ピンクの意味で勘違いしてます。ほら、あそこの生徒前屈みになっているでしょう?)」
「(……ピンクと前屈み、どういう関連性があるんだよ)」
「(……まあ、わからないなら私にお任せあれ)」
雄介は薫の頬を両手で挟み、更に顔を近づける。
結果からいうと、二人は教室で堂々とキスしていた。
「――――ッ!?」
「「「オォおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
薫はファーストキスを奪われ顔を赤くし、教室はあまりの急展開に男女関係無く歓声をあげる。
リア充爆発しろとよくいわれるが、他人の恋路ほど面白いイベントは無いのだ。
顔を赤くした薫はというと、また怒って机を投げつけないように、冷静に考える。
(……そういえば、さっきキスしろとか言ってたな。キス位であの怪我を許してくれるのはありがたいが、まさか大勢の目の前ってのは、流石に恥ずかしすぎるだろ)
雄介は顔をゆっくりと離し、にっこりと笑う。
だが薫はまず周りの誤解を解くことにし、
「「「オォおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
薫はファーストキスを奪われ顔を赤くし、教室はあまりの急展開に男女関係無く歓声をあげる。
リア充爆発しろとよくいわれるが、他人の恋路ほど面白いイベントは無いのだ。
顔を赤くした薫はというと、また怒って机を投げつけないように、冷静に考える。
(……そういえば、さっきキスしろとか言ってたな。キス位であの怪我を許してくれるのはありがたいが、まさか大勢の目の前ってのは、流石に恥ずかしすぎるだろ)
雄介は顔をゆっくりと離し、にっこりと笑う。
だが薫はまず周りの誤解を解くことにし、
「言っておくけどな、これはさっきのお詫びであって、恋人とかのキスじゃないからな」
天然の爆弾を落とした。
「「「イェえええええええええええええええええええええ!!」」」
「何でさっきよりも盛り上がってるんだよ!?」
「もう、このツンデレさんめー☆」
「「「めー☆」」」
このクラス、随分とノリがいいらしく、めー☆ を見事に合唱していた。
「まてまて! ツンデレってなんだよ!? 意味はよくわからないが否定した方がいいニュアンス!? ええい、違うぞ! 俺はツンデレじゃないからな!!」
「「「フォ――――――――!!」」」
「俺の話を聞けぇぇええええええええええええええ!!」
もう誰も、薫を怖がる者はおらず、皆笑っていた。
薫だけは、苦笑いだったが、幸せそうに見えたのは、気のせいではない。
「「「イェえええええええええええええええええええええ!!」」」
「何でさっきよりも盛り上がってるんだよ!?」
「もう、このツンデレさんめー☆」
「「「めー☆」」」
このクラス、随分とノリがいいらしく、めー☆ を見事に合唱していた。
「まてまて! ツンデレってなんだよ!? 意味はよくわからないが否定した方がいいニュアンス!? ええい、違うぞ! 俺はツンデレじゃないからな!!」
「「「フォ――――――――!!」」」
「俺の話を聞けぇぇええええええええええええええ!!」
もう誰も、薫を怖がる者はおらず、皆笑っていた。
薫だけは、苦笑いだったが、幸せそうに見えたのは、気のせいではない。
つ・づ・けっ!