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連載 - ラップトップハッピネス-03

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ラップトップハッピネス 第三話「ラップトップハッピネス」】

 この少女の名前は影山遥というらしい。
 この少女の父親を殺す時に偶然知っただけだが。
 あの後、俺は宣言通り十分間で彼女の元に戻り、シチューを作ってやった。
 俺は既に“腹いっぱい”だったので食べはしなかったのだが彼女が素直に食べてくれないので仕方なく少しだけ食べてみせた。
 夜が明けるとすぐに俺は彼女を連れて町を出た。
 盗んだバイクでしばらく走って山奥に入る。
 あそこには金持ちが所有する古い別荘がある。
 誰もいないしこっそり忍び込んで夜を明かすとしよう。

「さて、今日はのんびりと眠れるね。」
「ここはどこなの?」
「うーん?知り合いの家。」

 バイクの後ろでまだ弱々しく息を吐く少女の声。
 毒が抜けきっていないのか。
 バイクを別荘の前に止めると透過で内側から鍵を開けて家の中に入る。
 管理人が居たがそれは毒で早々に始末して丁寧に整えられたベッドがある寝室に入る。

「君の寝室はそっちだ。」
「別れて寝るの?」
「仕方ないだろう、君だって出会ったばかりの男とは寝たくな……」

 服の裾を掴まれる。
 引っ張られる。

「寂しい……。」

 冷静に考えてみれば目が見えないんだ。
 誰かが側に居ないと何かにつけ不自由だ。

「それは悪かったな、じゃあ……
 あっちのベッドが二つ有る部屋にしようか。」
「うん!」

 事情が事情だ。 
 男と同じベッドで寝るのも彼女は嫌だろう。

「俺は飯の準備をしてくるが何か用事が有ったらすぐに言ってくれ。
 暇だったら音楽を聞いていてくれてもいいし、……ああそうだ。
 ご飯を食べ終わったら手伝ってほしいことがあるんだ。」

 遥がわずかに身体を硬くする。

「俺、絵を描くのが趣味なんだけどモデルになってくれないか?
 一時間か、二時間くらいか。夕暮れが綺麗になるだろう。」
「はぁ……。」

 俺は適当に台所を探し当てて冷蔵庫にあった冷えて硬くなった米を電子レンジで温める。
 ごま油をフライパンに敷いて煙が出るほどに強火で暖め、そこに溶いた卵を流し込む。
 卵が殆んど固まりかけたところで米を叩きこんで勢い良くかき混ぜる。
 卵と米が絶妙に絡まり合って黄金に輝きはじめる。
 刻んだ葱とひき肉を突っ込んでフライパンを勢い良く振る、振り回す。
 塩コショウをふりかけ、醤油を少々、そしてオイスターソースを混ぜ込んで出来上がり。
 出来たチャーハンを皿に盛って部屋に持っていく。
 遥は俺の姿に気づいて何かをこそこそと隠す。
 本……?
 まあ良いか。

「チャーハンができたよ。」
「チャーハン?」
「猫舌か?」
「ちがうよ。」
「じゃあ素直に食うといい。」
「そこのテーブルに座ってくれ。」

 遥は素直に、行儀よく座る。

「口開け。」
「はーい。」

 スプーンで湯気を立てて炒飯を食わせる。
 小さくて薄紅色の唇に吸い込まれていった黄金色の米粒達。
 それはすぐに少女の表情も輝かしく彩った。

「おいしい!」
「それはよかった。」

 まるで雛鳥みたいだ。
 多くの人間は庇護欲をそそられるだろうこと間違い無い。
 生活の中で覚えさせられたのか、それとも生まれ持ってのものなのか……。
 まあ気にしても栓のないことか。
 俺が多めに作っていた筈のチャーハンを遥は全て平らげてしまった。

「じゃあ俺は自分の分の飯を作ってくるから。」
「まだ食べてなかったの?」
「うん、君はまだ身体が弱っているだろう?
 だから栄養のあるものを食べて早く元気になって。」
「……ありがとう。」

 俺は部屋から出て管理人の倒れている部屋へ向かう。
 心臓を抜き取って、その中から血を抜いて口に含む。
 年をとっているせいか少々固いが噛めば噛むほどに味が出る。
 これは今晩のつまみにしよう。
 骨を抜き取ってガリガリと齧る。
 滴る骨髄。
 口を少し汚してしまった。
 うん、でも悪くない。
 契約したての頃はどうにも気持ちが悪くて調理して食べていたが最近では抵抗感がない。
 肉はまだ保存が効くしとっておくとして……

「蓮さん、何処?」

 おや、不幸なお姫様が呼んでいる。
 いかなくてはいけないな。
 消化器官を身体の中から抜き取ってゴミ箱の中につっこむ。
 血で汚れた口と何故か濡れている目元を丁寧に拭いてから二階へ上がる。

「どうしたんだい?花でも摘みに行くのかい?」
「花?」
「ああ、トイレとかかなーって。」
「そういうこと言われると恥ずかしいです。」
「だから花を摘むと言ったじゃないか。
 それで結局は何の用だい?」
「用が無きゃ……呼んじゃ駄目ですか?」
「そういう訳ではないが……。」
「夕暮れまであとどれくらいありますか?」
「あと一時間ってところかな。」
「じゃあそれまで本を読んでくれますか?」

 ああ、だからさっき本を手にとっていたのか。
 別に断る理由もない。
 シェークスピアの短編を手にとって読み聞かせるとしよう。
 ベッドに腰掛けながら読み始める。
 すると遥は俺の膝の上に乗ってきた。
 少しでも本を読んでいる気分になりたいのか。
 しばらく読んで聞かせていると唐突にチャイムが鳴った。

「飯島下弦です!蒼崎蓮さんはいらっしゃいますか!
 こちらに敵意はありませんのでお話だけでも聞いていただけないでしょうか?」

 うわ声でけえ……じゃなくて何故ここが解った。
 昨日殺した爺の身内か何かか?
 膝の上の少女がビクっと震える。

「知り合いか?」
「お父さんの務めていた会社の人……。」
「どのみち追手と考えるべきか。」

 本を傍らにおいて立ち上がる。
 遥は顔を真っ青にしている。
 どのみちろくな人間じゃないらしい。

「ここで、少しだけ待っていてくれるかい?」

 遥は静かに頷く。
 超音波を使った索敵によればあの女以外の敵は今のところ居ない。
 警戒させないために単身で来ているのか。 

「十分で戻ってきてくれる?」
「今度はもうちょいかかるかもなあ。」
「でも戻ってきてくれる?」
「約束する。」

 ああ、可愛らしい表情で笑う娘だ。
 俺は君のことを便利な道具としか思っていないのに。
 君が俺にとって道具以上の存在になったら、俺は君を殺す。
 そして心から涙する。
 それで初めて俺は人間になれる。
 生まれ変われる。
 だから……

「だから、待っててくれよ?」

 俺は玄関へと向かった。


【ラップトップハッピネス 第三話「ラップトップハッピネス」 to be continued】


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