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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 悪の秘密結社-11

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Elfriede

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悪の秘密結社 11


 ぴん、と
 金属を弾く澄んだ音が響く
 空中踊る十円玉をぱしりと掴み取り、くいと引き絞る

「こっくりさんこっくりさん、ヴィクトリアとかいう女の隠れ家はこの先か」

 その言葉に応じて、三Z-No.592の肩に群れていた人の獣耳尻尾の少女達がぱっと散開し、頑丈そうな鉄扉に群がっていく
 少女達が嬉しそうにぺしぺしと扉を叩くと、扉に『こ』『の』『と』『び』『ら』『の』『さ』『き』という文字が浮かび上がっていく

「ひのふの……八文字か、充分だな」
「がんばったよー」
「ほめてほめてー」
「あとでなでてー」

 腕に群がる少女達から、爆発的に膨れ上がった霊力が十円玉に注がれる

「いちげきひっさーつ!」

 狐少女の号令と共に放たれた十円玉は、轟音と共に冷凍用の倉庫ほどもある鋼鉄製の扉を易々とひしゃげさせ、建物そものを揺るがせた

「お、吹っ飛ばなかったか。すげぇ頑丈」

 曲がった極太のビス数本で、辛うじて壁にぶら下がっていた扉を、豪快に蹴り飛ばすZ-No.592
 暗い下り階段を、壁に引っ掛かり表面を削りながら転げ落ちていく扉だったもの

「さーって、お邪魔しますよーっと」

 ポケットに手を突っ込んで、じゃらりと十円玉の量を確認し
 Z-No.592はきゃいきゃいとはしゃく少女達を率いて、階段を軽い足取りで降りていく
 あちこちが落ちた扉に削られへこまされたコンクリートの階段を、こつこつと
 どこか色合いのおかしい照明に照らされて、深く深くへと

「あー、なんつーかこれ、アレかな」

 表向きは古臭いビルでしかなかった建物の地下に、洞窟でもくり抜いて最新の軍事基地でも差し込んだかのような、ちぐはぐな通路が伸びている光景
 無意味に無駄に無闇に、あちこちでちかちかと明滅するランプ
 Z-No.592はぽんと手を打つ

「悪の秘密結社、ってやつか」

 通路の先に、じわりと浮かび上がるように現れる、黒い全身タイツのような姿の戦闘員達

「正義の味方ってガラじゃないんだけどね、俺」

 質量を感じさせない、奇妙なステップで向かってくる戦闘員達に、くいと腕を突き出して

「まあ、アレだよ。乗ってやる」

 十枚ほどの十円玉を握り込み、Z-No.592は叫ぶ

「こっくりさんこっくりさん! どうせこいつら、一発でぶっ倒せんだろ!」
「はったおせー!」
「ぶったおせー!」
「ですとろーい!」

 飛び交う狐、狗、狸の少女達が、戦闘員の額に、左胸に、次々と触れて『はい』の文字を浮かび上がらせ

「それじゃあまとめて! さようならっと!」

 その手から放たれた十円玉は絡み合うような軌道で通路を縦横無尽に駆け、戦闘員達の頭部を、胸を、容赦無く貫いていく

「個も持たねぇがらんどうの雑魚は引っ込んでな!」
「じゃあ、雑魚でなければいいのね?」

 ぱきん、と
 乾いた音を立てて、十円玉の一枚が真っ二つに割れる

「ようこそ、我ら『悪の秘密結社』の秘密基地へ」

 満面の笑顔で両手を広げ、心の底から歓迎の意を表した、似た面影を持つ数人の女

「あんたがヴィクトリア? ああ、あんた『達』かな?」
「ええ、近しい方々からはヴィッキー、もしくは教授と呼ばれています。以後お見知り置きを」
「んで、後ろの毛色の違う連中は?」

 Z-No.592が放った十円玉を叩き割った何者か
 その姿は、人間の造形に昆虫の外殻を貼り付けたような、不気味な姿
 戦闘に立つ一人は、すらりとした赤い鞘翅を背負った女性のような姿をしており
 大きな複眼に覆われた頭部と、人の面影を残した頬から顎のラインを隠すように覆う甲殻が、僅かに震える

「ネエ」

 感情の篭らない声が、二の句を告げる

「ワタシ、キレイ?」
「『口裂け女』みたいな文言だな。まーフォルムは綺麗だと思うぜ、嫌いじゃない」
「キレイナノ? コレデモカ!」

 口元を覆っていた甲殻がばくんと開き、昆虫らしい大きな顎がぎちりと開く
 床を蹴り滑るように迫り来る赤い昆虫人間
 その腕を覆う甲殻が変形し、蟷螂のような鎌が、蟹のような鋏が現れる

「オマエモオナジカオニシテヤロウカ!」
「まるっきり『口裂け女』じゃないかこいつ。お前、何しやがった」

 視線はヴィッキーに向けたまま、赤い昆虫人間の刃を掻い潜り懐に潜り込み
 普段は腕を支点に弓のように開くこっくりさんの台紙型の力場を、親指と人差し指の間に展開して、パチンコのように十円玉を番える

「こっくりさんこっくりさん、虫っぽいこいつの装甲薄いのはどこだ?」

 ぽつぽつと、赤い昆虫人間の腹部に浮かび上がるいくつかの『お』『な』『か』の文字

「悪いが、手加減できそうなほど余裕のある力量差じゃなさそうなんでな」

 ずどん、と
 鋭い衝撃音と共に赤い昆虫人間の身体が浮いて、突っ込んできた勢いそのままに空中に放り投げられ、通路に叩きつけられ転がったまま動かなくなった

「もう一回聞くが……こいつらは何なんだ?」
「我々の悲願ですよ」

 ヴィッキーは笑顔のまま、苦労して作り上げたものを見せびらかすように、興奮を隠さず語る

「『悪の秘密結社』には、やはり怪人が必要でしょう?」
「今まで作れてなかったのかよ」
「殺して、死体から自分を模した『フランケンシュタインの怪物』を作ってはいたんですが……それはただの死体人形ですからね」

 ねー、と顔を見合わせて肩を竦め合うヴィッキー達

「やっと私の趣味に合う方法で怪人を作るための技術を手に入れて、もう嬉しくてたまらないんですよ」
「随分と趣味が悪いこったな」
「そりゃあもう、『悪の秘密結社』のプロフェッサーたる者が、趣味が悪くないとダメでしょう?」

 そう言うとヴィッキーは、きらきらと淡く輝く結晶体をポケットから取り出す

「これ、何だと思います?」
「俺に質問をするかね」

 するりと十円玉を取り出し、腕に展開した台紙の上に置く

「こっくりさんこっくりさん、あれ何だ?」

 その言葉に反応して、十円玉の上に手を置いた少女達が、やや戸惑いを浮かばせながら十円玉を動かしていく
 十円玉が指し示した文字は『と』『し』『で』『ん』『せ』『つ』

「都市伝説?」

 続けて少女達が指し示したのは『は』『な』『こ』『さ』『ん』という文字

「花子……さん」

 その言葉に反応して、結晶体を持ったヴィッキーの後ろで、他のヴィッキーがぱちぱちと手を叩く

「優秀な都市伝説と契約しているのですね。素晴らしい」
「あんたに誉められても嬉しかないけどな……それが『花子さん』ってのはどういう意味だ」
「文字通りの意味ですけどね?」

 手のひらの上で結晶体を転がし、弄びながらくすくすと笑い声を上げる

「都市伝説の人間化の研究、ご存知ですか?」
「それをかっぱらった馬鹿を叩きのめすために来たんだけどな、俺は」
「まあ研究内容を知っている前提でお話させてもらいますよ? 都市伝説の人間化というのは、手っ取り早い話……都市伝説の意志と記憶、つまり『魂』を取り出して保存、残る都市伝説要素のエネルギーを材料に人間の身体を構築するという錬金術です」
「らしいな。それが怪人を作る事にどう繋がるんだよ」
「簡単ですよ。『魂』を取り出した後のエネルギー、都市伝説としての存在そのものを結晶化したものが、これです」

 ヴィッキーがぱちんと指を鳴らすと、背後に控えていた怪人がすいと道を開け
 戦闘員が、一人の若い女を引き摺ってくる

「この結晶を、人間と合成するとどうなると思います?」
「……っ! こっくりさんこっくりさん、あいつの――」

 Z-No.592が言葉に紡ぐよりも早く
 ヴィッキーの手の結晶は、焼けたナイフがチーズに刺さるかのように、するりと女性の後頭部に差し込まれる

「あ、ああああああ、ああああああああああああああ」

 がくがくと震えながら、頭を押さえ身体を丸める女性

「契約という共生をするにせよ、呑み込むという支配をするにせよ……そこには互いの意志が存在しますが。それを介在しない場合、都市伝説というエネルギーに都市伝説という個が存在しない場合」

 ぷちり、ぷちりと
 ぎちり、ぎちりと
 音を立てて、女性の身体が変貌していく

「人体は、都市伝説というエネルギーを排除しようとします。強固な意志があれば充分可能なのかもしれませんが……例えば、脳改造などで命令を聞くだけの木偶人形などの場合」

 髪の毛が抜け落ちて、頭部を覆う黒いおかっぱにも見えなくもない外骨格
 肌が変質して盛り上がる甲殻の胸部を走る赤いラインは、吊りスカートの名残か

「本能と肉体が都市伝説エネルギーを拒否し排除しようとするものの、それは体表に留まりながら内部に浸透し……やがて変質したまま一体となるわけです」

 腰周りに鎧のようなスカートのような甲殻が広がり
 出来上がった『もの』は、『トイレの花子さん』をモチーフにした『怪人』としか言えない代物だった

「まだ一人につき一つの都市伝説しか埋め込めませんが。この結晶を複数埋め込めたり、取り外し可能にしたりするアタッチメントも製作中ですからご期待下さいね」
「なるほどね……こりゃまあ確かに、放っておくとやばそうだ」
「あなたの後ろのそれも、放っておくとまずいんですが。修理してはダメですか?」
「悪の秘密結社の怪人なんて、倒されてナンボなんじゃないのか?」
「それはそうですが。ではそのままで」

 ヴィッキーがポケットから取り出したスイッチをぽちりと押し込むと、Z-No.592とヴィッキーの間に強固なアクリル板のような障壁がシャッターのように下りてくる

「最近はただ消滅するだけの怪人が多いですが……古式ゆかしい特撮の怪人って」

 にたりとヴィッキーの笑顔が歪む

「死ぬと、爆発するんですよね」
「なっ――」

 直後に、背後に感じた熱波と衝撃が
 Z-No.592の全てを飲み込んだ

―――

 辛うじて、意識だけはまだあった
 だがその身体が原型を留めているのが不思議なぐらいの有様は、見ずともに判る

「こっくりさん、こっくりさん……俺、あとどんだけ、持つ?」

 あわあわと泣きそうな顔をしている狐、狗、狸の少女
 だが問われた事は問われたままに返すしかできない彼女達は、ただ十円玉を動かすだけしかできない
 綴られた文字は『あ』『と』『ご』『ふ』『ん』

「……うっし、んじゃその五分で……こいつら全部、ブッ潰す」

 Z-No.592の脳裏に浮かぶのは、目を覚ました途端に親友の心配をし
 そして、友人の無事を知らされると、今度は悪の存在を必死で伝えようとしていたメイの姿
 都市伝説に呑まれかけ、その力と存在を否定されかけてなお、何処かの誰かに向けられる悪を止めて欲しいと懇願するその姿

「あの子に……心配かけらんねぇからな……きっちり……片付けてやんねぇと」

 赤くぬめる指先で、焦げて歪んだ十円玉を掴み
 突き出した腕に、弓状の力場を展開する

「こっくりさん、こっくりさん! あのクソ女は、間違いなく悪い奴だな! そして……怪人どもは、止めてやるべきだな!」

 涙目の少女達が目にも留まらぬ速さでヴィッキー達に迫り
 その場に居る『悪の秘密結社』側の者、その全ての全身に余す事なく『はい』の文字を刻み付ける

「くたばれ、地獄で懺悔しろ」

 放たれた数十枚の十円玉は、ドリルのように渦を巻き
 先程の爆発に耐えた障壁をあっさりと打ち砕き、通路そのものを抉り取り、そこにある全てを粉微塵に粉砕していった

―――

 重い地響きが伝わってくる様子に、さほど動じた様子も無くスピーカーの向こうで大首領がふむと唸る

《大丈夫かね、この基地は?》
「大丈夫でしょう。大首領の間はおろか、この研究室にすら届きませんよ」

 笑いながら、ヴィッキーは一抱えほどもある大きなガラス容器を引っ張り出す
 それは大小様々なケーブルが容器の内部まで続いており、それに詰められたものに接続されていた

「あの黒服の少年は少々勿体無いですが、実験段階の怪人を相手に遊んでもらって、データを収集する事にします」

 ガラス容器の中には、大量のケーブルやチューブが接続された、ミイラのような老婆の首が溶液に漬されていた
 それは、『ヴィクター・フランケンシュタイン』と契約したオリジナルのヴィクトリア

「さて、魂を移し変える技術が手に入った事ですし、実験も充分にしたので活用させてもらう事にしますよ。『フランケンシュタインの怪物』に任せ切りでは、『私』も面白く無いでしょうから」

 そう語りながら、やや表情に残念そうな色を隠せない様子もある

「できれば、エルフリーデ女史か……メイちゃん、沙々耶ちゃん、いずれかの肉体が欲しかったですね。かつて善良な人間だった肉体を乗っ取るとか、悪の華でしたし」

 溜息を一つ吐いて気を取り直し、ヴィッキーはいつもの調子に戻り
 紋章の刻まれたレリーフの、大首領の声を伝えるスピーカーに向かってヴィッキーは深々と頭を下げる

「『私』のより一層の忠誠と悪意にご期待下さい、大首領閣下」

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