*
【VSジャガー人間】
もしも肉食獣が人型だったらどうなるか。
幾つもの解答が出てくるだろう。
だが、人間は、日本人はひとつの正解を知っている。
幼少の頃に見たテレビの、特撮ものというジャンルの中で。
人型の肉食獣。――彼らは怪人と呼ばれた。
幾つもの解答が出てくるだろう。
だが、人間は、日本人はひとつの正解を知っている。
幼少の頃に見たテレビの、特撮ものというジャンルの中で。
人型の肉食獣。――彼らは怪人と呼ばれた。
学校町に放たれたジャガー人間もまた、怪人の部類に入るのだろうか。
ジャガーよりも速く、ジャガーよりも硬く、ジャガーよりも強く、ジャガーよりも残忍に夕闇が迫る学校町を疾る。
彼らは人の知能を持つのか否か。
本来群れることのないジャガーとは違い、ジャガー人間は数体から十数体の群れで行動をしていた。
ジャガーよりも速く、ジャガーよりも硬く、ジャガーよりも強く、ジャガーよりも残忍に夕闇が迫る学校町を疾る。
彼らは人の知能を持つのか否か。
本来群れることのないジャガーとは違い、ジャガー人間は数体から十数体の群れで行動をしていた。
鋼鉄をも容易に切り裂くその爪が狙うは「ただの」人間。
未だかつて見たことのない脅威に足が震え腰が砕け、その場に立つことすらかなわないのは赤子を抱いた母親。
ごくり、とジャガー人間の内の一体が唾を飲み込んだ。
土の中から生まれた彼らは知っている。
目の前の人間は餌であることを本能で理解している。
未だかつて見たことのない脅威に足が震え腰が砕け、その場に立つことすらかなわないのは赤子を抱いた母親。
ごくり、とジャガー人間の内の一体が唾を飲み込んだ。
土の中から生まれた彼らは知っている。
目の前の人間は餌であることを本能で理解している。
何体かのジャガー人間が黄色の風となり、母親とその手に抱かれた赤子を襲う。
何が起こったかわからぬまま、強い衝撃を受けて転がる母親と手から落ちた赤子。
泣き叫ぶ赤子を守ろうと手を伸ばしたのが母親の本能によるものならば、ジャガー人間の行動は本能からは遠いところにあった。
口元に獰猛な笑みを浮かべて、赤子に向かって伸びる手をその足で踏みつけた。
何が起こったかわからぬまま、強い衝撃を受けて転がる母親と手から落ちた赤子。
泣き叫ぶ赤子を守ろうと手を伸ばしたのが母親の本能によるものならば、ジャガー人間の行動は本能からは遠いところにあった。
口元に獰猛な笑みを浮かべて、赤子に向かって伸びる手をその足で踏みつけた。
ぶつり。
鉄をも切り裂くその爪で母親の手足の腱を切る。
四肢を封じた上で母親を仰向けに転がし、ゆっくりと服を縦に切り裂く。
喉元に鋭利な爪を当てると滲み出てきた血はぷつぷつと赤い玉を作り出す。
獰猛な笑みが淫靡な笑みに変わる。
彼らはこの状況を楽しんでいた。
四肢を封じた上で母親を仰向けに転がし、ゆっくりと服を縦に切り裂く。
喉元に鋭利な爪を当てると滲み出てきた血はぷつぷつと赤い玉を作り出す。
獰猛な笑みが淫靡な笑みに変わる。
彼らはこの状況を楽しんでいた。
それまで聞こえていた赤子の泣き声が不意に止まる。
別のジャガー人間が揃えた五指を赤子に突き立てていた。
母親の視線のその先で。
別のジャガー人間が揃えた五指を赤子に突き立てていた。
母親の視線のその先で。
母親の絶叫。
いっそ狂えたら良かっただろう。それができないのは自身の体に刻まれる爪の痕。鋭利な痛みが母親の精神を繋ぎ止めていた。
発狂しそうなほどの叫びが心地良いのか恍惚の表情を浮かべ、喉元の爪を真っ直ぐ下に正中線に沿わせるかのように下ろす。
皮膚がめくれ、裂ける血管、流れる血、収縮する臓器。
ピンク色の「中身」に舌舐めずりさえする姿は人のものでも獣のものでもなかった。
いっそ狂えたら良かっただろう。それができないのは自身の体に刻まれる爪の痕。鋭利な痛みが母親の精神を繋ぎ止めていた。
発狂しそうなほどの叫びが心地良いのか恍惚の表情を浮かべ、喉元の爪を真っ直ぐ下に正中線に沿わせるかのように下ろす。
皮膚がめくれ、裂ける血管、流れる血、収縮する臓器。
ピンク色の「中身」に舌舐めずりさえする姿は人のものでも獣のものでもなかった。
母子の身に突如起こった理不尽な出来事。
しかし、ジャガー人間は知らない。
己の身にも理不尽な出来事が起こる可能性があることを知らない。
先刻まで、この場でのピラミッドの頂点は彼らジャガー人間だった。――先刻までは。
しかし、ジャガー人間は知らない。
己の身にも理不尽な出来事が起こる可能性があることを知らない。
先刻まで、この場でのピラミッドの頂点は彼らジャガー人間だった。――先刻までは。
黒服の男が、母親を切り裂いていたジャガー人間を左足の蹴りのみで吹き飛ばした。
いつの間に現れたのか、突然そこに現れた黒服に、驚くジャガー人間の群れ。
いつの間に現れたのか、突然そこに現れた黒服に、驚くジャガー人間の群れ。
「ザオリク、ベホマ」
わずかな言葉で赤子を蘇生させ、母親を完治させた男は、ふたりを庇うようにジャガー人間の前に立ち塞がった。
「赤ん坊を抱いてこの道を走って逃げろ」
「え? で、でも」
「逃げてる最中に黒服に会ったら助けを求めろ」
「でも、あなたは、え、でも」
「ここには応援が来る。――赤ん坊にまた死んで欲しくなかったらさっさと行け」
「は、はい!」
「え? で、でも」
「逃げてる最中に黒服に会ったら助けを求めろ」
「でも、あなたは、え、でも」
「ここには応援が来る。――赤ん坊にまた死んで欲しくなかったらさっさと行け」
「は、はい!」
黒服を気にしつつ何度も振り返りながら、母子は走り去った。
母子は知らない。黒服のピオリムという呟きを受けて自身の速度が向上したことも、ジャガー人間が黒服から放たれる殺気によって動けなかったことも。
ともあれ、この場においてのピラミッドの頂点は入れ替わり、一方的な殺害劇が幕を開けた。
母子は知らない。黒服のピオリムという呟きを受けて自身の速度が向上したことも、ジャガー人間が黒服から放たれる殺気によって動けなかったことも。
ともあれ、この場においてのピラミッドの頂点は入れ替わり、一方的な殺害劇が幕を開けた。
「動かないなら勝手にやらせてもらう」
動けぬジャガー人間の間を恐れることなく悠々と通り、一体の右手を掴んで下に引いた。
ぶちり。
肩から下が一気に引き抜かれ、血が噴出する。
やや遅れて左腕が引き千切られる。
やや遅れて左腕が引き千切られる。
「アアアアアアアァァァァアアァァァァァアァァァァァァ!!」
悲鳴を上げ、逃げ出すジャガー人間。
だが、ジャガー人間は間違っていた。悲鳴を上げる暇があるなら逃亡すべきであった。
逃亡の二歩目を踏み出すべく前に出した脚も引き千切られ、転倒。
黒服は容赦せず、残る片脚を両手で掴み、立ち尽くすジャガー人間に叩きつける。
動き出したジャガー人間の懐に飛び込み、正中線に沿って手刀。
体に刻まれた線に両の指を当て、そのまま左右に開くとどれだけの力が込められていたのか容易にジャガー人間は真っ二つに裂かれた。
膝を砕き、バランスを崩したジャガー人間の両脚を抱えてそのままジャイアントスイング。
周囲のジャガー人間はおろか、電柱、壁に頭部を叩きつけてもその勢いは止まることのない超回転。
頭部が砕け散り、脳漿が散らばり、回転が止まる頃にようやく別のジャガー人間達は行動を開始した。
耳を切り飛ばし、眼を抉り、鼻を削ぎ、肉片が飛び散ったのは全て別々のジャガー人間だ。
だが、ジャガー人間は間違っていた。悲鳴を上げる暇があるなら逃亡すべきであった。
逃亡の二歩目を踏み出すべく前に出した脚も引き千切られ、転倒。
黒服は容赦せず、残る片脚を両手で掴み、立ち尽くすジャガー人間に叩きつける。
動き出したジャガー人間の懐に飛び込み、正中線に沿って手刀。
体に刻まれた線に両の指を当て、そのまま左右に開くとどれだけの力が込められていたのか容易にジャガー人間は真っ二つに裂かれた。
膝を砕き、バランスを崩したジャガー人間の両脚を抱えてそのままジャイアントスイング。
周囲のジャガー人間はおろか、電柱、壁に頭部を叩きつけてもその勢いは止まることのない超回転。
頭部が砕け散り、脳漿が散らばり、回転が止まる頃にようやく別のジャガー人間達は行動を開始した。
耳を切り飛ばし、眼を抉り、鼻を削ぎ、肉片が飛び散ったのは全て別々のジャガー人間だ。
「お前達はあの親子を意味もなく弄び殺し傷付けた。同じことをされても文句は言えないな――もっとも、畜生如きが言葉を話せるわけもないが」
周囲に漂う血臭に惹かれたのか、どこからともなく現れるジャガー人間の群れ。
彼らへの黒服の行動はシンプルなものであった。
彼らへの黒服の行動はシンプルなものであった。
殺害。
斬殺であり、殴殺であり、焚殺であり、扼殺であり、暗殺であり、射殺であり、毒殺であり、
縊殺であり、抹殺であり、撃殺であり、格殺であり、圧殺であり、謀殺であり、要殺であり、
必殺であり、禁殺であり、磔殺であり、誅殺であり、捕殺であり、轢殺であり、密殺であり、
屠殺であり、絞殺であり、爆殺であり、銃殺であり、刺殺であり、撲殺であり、薬殺であり、
畜殺であり、焼殺であり、虐殺であり、鏖殺であった。
縊殺であり、抹殺であり、撃殺であり、格殺であり、圧殺であり、謀殺であり、要殺であり、
必殺であり、禁殺であり、磔殺であり、誅殺であり、捕殺であり、轢殺であり、密殺であり、
屠殺であり、絞殺であり、爆殺であり、銃殺であり、刺殺であり、撲殺であり、薬殺であり、
畜殺であり、焼殺であり、虐殺であり、鏖殺であった。
徹底的に殺して殺して殺して殺して殺し尽くした。
逃げるものも立ち向かってくるものも何もできないでいるものも押し並べて平等に殺した。
自らの行動は善でも悪でも構わない。
逃げるものも立ち向かってくるものも何もできないでいるものも押し並べて平等に殺した。
自らの行動は善でも悪でも構わない。
ジャガー人間は母子を理不尽に傷付け殺した。
その瞬間、ジャガー人間は彼の敵となった。
その瞬間、ジャガー人間は彼の敵となった。
辺り一面が赤黒い血で塗り潰される頃、ようやくジャガー人間の群れはいなくなった。
「後始末ぐらいは〈組織〉がやるだろ」
母親へ告げた応援云々は母子をこの場から立ち去らせるために吐いた嘘だ。
最初からひとりで現れた黒服は誰も当てになどしていない。
最初からひとりで現れた黒服は誰も当てになどしていない。
「っと、メールか……拡散希望? ――知るか阿房が」
見知らぬアドレスから送られてきたチェーンメールを中身を読むことなく削除して、黒服――江良井卓は帰路へと着いたのであった。
*
→「赤い幼星」に続く