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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 夏の夜の-04

最終更新:

Elfriede

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夏の夜の 04


「何度聞いても、セックスと愛の結び付きがよくわからないんだけど」

 現役女子高生の口から漏れるその言葉に、サキュバスは何度目かわからない溜息を吐く

「ですから、理屈よりも感情の問題が大きいんですってば」
「生命体の本能に、何で感情が入る余地があるのよ」

 残暑が厳しい最中、地味な駆動音を立てて首を振る扇風機が生温い空気を掻き回し、二人が食べているカップアイスをじわじわと溶かしていく

「ほら、お互いが好きだからこそ男と女は結婚して夫婦になるわけで。子作り行為というものは愛があってこそですね? 繰さんのご両親なんかも」
「うちの父さんと母さん、書類上でこそ結婚してるけど。私が生まれる前からそもそも同居すらしてないわ。物心ついた頃から直接会った事は無いし」

 サキュバスが引き攣った顔で沈黙し、その頬を汗がつぅっと伝う
 高級マンションの上層階にも関らず聞こえてくる蝉の鳴き声が、沈黙を一層際立たせる

「か……顔も声も知らない親ですか」
「それは知ってるわよ。特に母さんはテレビがあるところならよく見かけるし」
「へ? それってどういう」
「母さんは現役の女優。指定された役はどんなものでも完璧に演じるらしいわ。演技の切り替えが泡が浮いては消えるようだからって、ついた渾名が『泡沫の魔女』だって」
「へぇ……凄い人なんですね」
「女優としては凄いらしいわね。興味は無いけど」
「興味が無いって……」
「直接会った事も無い、テレビの向こうの存在が親って言われてもね。中学校を卒業するまで面倒見てくれたホームヘルパーのおばさんの方がよっぽど親らしいわ」

 ふう、と一つ溜息を漏らし、繰はひらひらと手を振る

「ともあれ、親を例えに出されても私にはさっぱりわからないから。もっとこう、丁度良い事例は無いの?」
「結構人それぞれですから、実体験が伴わないものを例にしても通じ難いでしょうし」

 腕を組んで、うーんと唸るサキュバス
 その尻尾や翼が思考に合わせてぴこぴこと動いていたりする

「そうなるとやっぱり、好きな人と一緒に育んでいくしか無いんですかねー」
「好きな人って……やっぱり、その……先生?」
「あたしは繰さんの心の中の様子を知ってますし、まあ傍から見てても完璧にそうですよ?」
「うぐ……」

 そう言われて、あからさまに頬を染めて俯く様子は、確かにその指摘の通りである

「素直に面と向かって、好きとか愛してるとか言えるようになれば問題ないですよ、うん」
「そんな恥ずかしい真似、どうしてしなきゃいけないのよ!?」
「自分の気持ちを把握して、好きな人にそれを伝えられる事が第一歩ですよ。そしてですね、当面の問題ですが」

 ここからが本題と言わんばかりに、サキュバスは真面目な顔になる

「繰さんの性欲の発散についてです」
「そんなものどうやって発散させるのよ」
「本当なら、ディランさんと直接結ばれてもらうのが一番手っ取り早いんですが」
「その手っ取り早い手段に何か問題でもあるの?」
「問題と言うか」

 サキュバスが呆れた顔で、身を乗り出して繰の顔を見詰める

「な……何よ」
「保健体育の知識で結構です。まずセックスという行為の状況をしっかり思い浮かべて下さい」
「しっかりって……そんな大層なものじゃ」

 ぶつぶつと呟きながら、思案顔になる繰の耳元にサキュバスが口を寄せ

「では、その女性側のビジョンを自分に置き換えて下さいね」
「……それがどうしたって言うのよ」

 溶け掛けたアイスを口に運びながら、脳内で自分の身体を思い浮かべる繰
 その耳元で、サキュバスが囁いた

「そして、男性側のビジョンをディランさんに置き換えて下さい」

 ぷ、と小さな音を立てて、スプーンを咥えた繰の口の端から溶けたアイスが吹き出した

「んぐっ、鼻っ……鼻痛っ……アイス入った……」

 顔を押さえて悶絶する繰の顔は、どうしようもない程に赤面している

「今の思考を踏まえたうえで。ディランさんの前で、裸になれます?」
「なれるわけないでしょ!?」

 涙目になっているのは、怒りのせいか、羞恥のせいか、鼻に入ったアイスのせいか

「というわけで、ご本人との実地を望めるぐらい気持ちの整理がつくまで、別の発散方法をですね」
「別に発散させなくたって、何も問題は」
「あたしみたいな雑魚い淫魔や夢魔が、寝てる隙にまた入り込んできますよ?」
「ぐ……」

 先日の一件で、ディランや通りすがりの契約者と黒服に迷惑を掛けた事実が、どすりと繰の頭に重石となって圧し掛かる

「あたしが追っ払えれば問題ないんですが、あたしも雑魚ですんで」
「自分で言うのね」
「自覚はしてますから。ともあれ、性欲発散と性行為の予備知識として、一人でやる方法を教えたいと思います」
「一人でって? 二人いないとやりようがないでしょ、あんな事」
「そりゃあ子供を作るなんて結果まで求めたらそうですけど。発散なら経過だけで充分なので」

 そう言うとサキュバスは、椅子から立ち上がりバスルームに向かって歩きながら手招きをする

「お風呂場で何するつもりよ」
「裸でする行為の代替ですから、裸になった方が都合がいいですし。リビングでやってて来客があっても困るじゃないですか」
「まあ、そりゃそうね……で、何であなたも脱いでるの?」
「お風呂場に服を着て入っても仕方ないですし。あと、繰さんの身体に直接教えると色々後が怖そうなので、まずは実演からかなーと」
「……本当に、何をするつもりなのよ」
「流石にどこまでどうなるかは、繰さんの素養次第なものでなんとも」

 教えられる立場である以上仕方なしと、渋々といった調子で脱衣所に踏み込んでいく繰
 一見気楽なように見せるサキュバスの方も、繰の能力を知らされているので、突然殴り殺されたりしないかと内心は気が気でないのだが
 兎にも角にも、何も知らない少女への手解きの第一歩となる戦いが、擦りガラスの向こうで幕を開けたのだった

―――

「おーもーたーいー」

 小柄なサキュバスの体躯に対して、モデル体型とも言える長身グラマーな繰を運ぶのは相当な事のようである
 湯上りほんのり桜色の繰は、心ここに在らずといった様子でくてりとサキュバスに身を預けている

「ほらぁ、風邪引いちゃいますから着替えますよー」
「……あ、うん」

 ようやくバスルームから引っ張り出された繰の身体を、サキュバスは丁寧にタオルで拭いていく

「……んっ」

 どこか微妙な、切なげな声が漏れる繰に対し、サキュバスはちょっと困ったように眉を下げる

「思春期丸ごと分ぐらい溜まってたわけですし、契約で体力も有り余ってますし。もう少し発散しときます?」
「……嫌よ、見られてるの恥ずかしい」
「一人でやる方法は教えてあげたんですから、後はもう見ませんよ。というかむしろ、見られないような環境でするように気をつけて下さい」
「他人に見られたら自殺ものよ、こんなの」

 そう言って、タオルを持ってるサキュバスの手をきゅっと握る

「あなた、私の友達に凄く似てるの。顔もそうだし、声の雰囲気とかも」
「あ、そうなんですか」
「……だからなんか、余計に恥ずかしいわ」
「まあお友達の目の前で披露する事なんて無いと思いますし……でもそんなに似てます?」
「他人行儀な喋り方と、体型以外はね」
「体型も合わせてみます? どれだけ似てるか」

 繰の心の中で、ディランと同じように強い輝きを放っていた親友の存在は、サキュバスも知っている
 そしてサキュバスは、相手の好みに合わせるために外見の調整はある程度可能だったりもする

「変な悪戯とかしないでよね?」
「後が怖いのでやりませんよ。ともあれ、捌け口の作り方を知った分、しばらくはちょっとした事で気持ちが昂ぶりやすいと思うので、夏休みのうちにしっかり発散させておいて下さいね」
「……知らない方が良かったんじゃないかしら」
「それはそれで、またあたし達みたいなのに憑かれたら今度こそ性欲大爆発ですよ?」

 サキュバスはそう言って、悪戯っぽく微笑む

「まあ、男の人とするのはあれとは全然違いますから」
「……挿れるんだっけ」
「そりゃもう奥まで。好きな人が相手なら、気持ち良さというか……幸福感が半端ないですよ?」
「……指より大きい?」
「男の人にそれ言ったら泣かれますよ。というか繰さん、まだ指も挿れてないのに」
「だってここ臓器よ!? そもそも教科書の図解なんか大袈裟に描いてると思うじゃない!」
「まあ個人差は色々ありますが。人体ってそういう風に出来てますから、人間同士なら大丈夫ですって。そもそも赤ちゃん出てくるんですよ、ここから」
「……生命って凄いわね」
「あたしも割とそう思います」

 二人はくすりと微笑み合い

「もうしばらく、相談とか頼むかも」
「あたしで答えられる範囲でしたら」

 暑い夏の夜は、過ぎ去っていくのであった


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