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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 逢瀬佳奈美と宮定繰-01

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Elfriede

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逢瀬佳奈美と宮定繰 01


 真っ暗な部屋にカーテン越しに浮かぶ街灯の明かり
 僅かにカーテンが揺れる度に、そこに何かが居るように感じる
 冷蔵庫やエアコンの待機駆動音
 僅かにその音がぶれる度に、それが何かの唸り声のように感じる

「う……ぅ……」

 ベッドの上で布団を頭まで被り、目をぎゅっと瞑り耳を塞いでいても
 今度は己の呼吸や心臓の鼓動が、恐ろしい程に響いてくる
 そんな様子で一睡もできず朝まで過ごし
 窓の外が明るくなり、雀の鳴き声が聞こえ始めた頃

「繰ちゃん、朝だよ?」

 遠慮がちなノックと共に扉を開いて顔を覗かせたディランの姿に、繰は安堵したようにくたりと枕に倒れこんでいた

―――

「いや、私はもう担当を外れているんですが」
「解任じゃなくて転属なら、引き継ぎをちゃんとしてくれないと困るって言伝されてきましたので」

 ディランと繰が学校へと行っている時間、サキュバスは『組織』の施設でA-No.18782の後ろをついて歩き回っていた

「ディランさんと私は部署も違うわけで。色々と部署や派閥のしがらみがありますから、ずっとついてこられると色々困るんですが」
「じゃあ、繰さんについて知ってる事を全部話して下さい」
「本人に聞いて下さいよ」
「あの子、自分の事についてほとんど何も理解してないんです」

 A-No.18782の服の袖をぎゅっと掴み、サキュバスは上目遣いにサングラスの下にある瞳を見詰める

「あの子、もう三日もまともに寝てないんです。卒業するのに学校も休みたくないからって、無理してふらふらのまま学校に行くし」
「あー、なるほど」

 何か事情を察したように、A-No.18782が唸る

「宮定さんって、私や前任者が担当してた頃は、そりゃあもう毎晩のように敵を求めて夜の町を彷徨ってたんですがね」
「毎晩……ですか?」
「ほぼ毎晩です。今思えば、ずっと不安だったんでしょうね。寝ている間に何かあったらどうしよう、って」
「寝なくても平気……ってわけじゃないですよね?」
「学校で寝てたそうですよ。授業中の居眠りだったり、保健室や屋上だったり」
「何で、家で寝ないで学校で」
「都市伝説が騒ぎを起こさないような、昼間で人が居るところなら安心して眠れたという事でしょう。お友達も同じ学校に居ますしね」
「菊花ちゃんが居ても、そこまで……」
「ディランさんと会ってからは、随分と落ち着いていたんですがね」

 その口振りから、二人の仲は充分に理解している雰囲気だ

「ディランさんに、さっさと本契約をしてもらうべきじゃないですかね?」
「あの方と本契約をするには、圧倒的に性知識と恋愛度胸が足りません。後者についてはディランさんもですが」
「……難儀な方々ですね」
「まったくです」

 サキュバスとA-No.18782は、お互い肩を落として軽く溜息を吐く

「ともあれ、誰か居ないと寝られないんですから解決策は簡単じゃないですか」
「簡単?」
「あなたなりディランさんなりが、添い寝でもしてあげて下さい。手を握るとか抱き締めるとかすれば効果は充分でしょう」
「すいません、あたしは無理です」
「ふむ、そりゃまたどうして」
「今、あたしって普通の食事でお腹を満たしてるんです」
「それが何か?」
「サキュバスの本来の食事が何だと思ってるんですか! 繰さんを抱っこして寝るなんて、粗食でダイエットしてる食べ盛り女子高生の目の前にカレー皿を置くようなもんですよ!?」
「なら残る手は一つでしょう」

 A-No.18782はサキュバスが掴む袖をやんわりと振り解いて、作り笑いを浮かべた

「ディランさんにお伝え下さい。頑張って下さいね、と」

―――

「繰、大丈夫? 顔色悪いよ?」
「大丈夫……次の授業の、準備しなきゃ」

 昼食も終えた昼休みの終わり際
 精気の無い蒼白さで、目の下にはやや隈が浮いている繰に、佳奈美が心配そうに声を掛ける

「今更、真面目になったつもりも無いけど……卒業ぐらいはちゃんとしないと、働くのも大変でしょ」

 元々、卒業できないようならすっぱり学校を辞めて、『組織』の構成員として生きていくつもりだった繰
 そのための力であり技能であった菊花との契約を失った今、貯金が尽きる前に働き口を探さなければいけない

「それに、先生は真面目だから」

 繰が名前を呼ばず、ただ先生とだけ呼ぶ相手はこの学校ではただ一人だけ

「留年とかしたら、きっと気にすると思うから、頑張らないと」
「でもね、今の繰の方がずっと心配だと思うよ?」

 佳奈美は正面から繰の頬にぺたりと両手を当てて、むにむにと顔を揉みしだく

「菊花ちゃんが居なくなって不安なのも判るけど……辛いなら、一人で抱えてちゃダメだよ? あたしは頼りないかもだけど、学校には契約者の先生や生徒もいっぱい居るんだし」
「ん……ありがと」

 疲れ果てた顔色は変わらないものの、表情にはやや柔らかさが戻ってきた気がする

「んー、まだ元気なーい」

 そう言うと佳奈美は、繰の頭をぎゅうと胸に抱く

「か、佳奈美?」
「あたし達は、色々怖いものを普通の人より知ってるけど。今まで繰がそうしてきてくれたように、そういうものから守ってくれる人はたくさん居るんだよ」

 そんな様子を見たクラスの女子達が、何事かとわらわらと集まってくる

「佳奈美ー、どうしたの?」
「なんか宮定さんが元気無いっぽいね」
「ずるいなー、私も繰ちゃん抱っこするー」
「わたしもわたしもー」

 三年生になった折の、契約者を一つのクラスにまとめるためのクラス換えで、繰は佳奈美と同じクラスに編成されており
 不自然さを減らすために相応の人員入れ替えがあったものの、昨年のメイド喫茶に巻き込んだ面子の大半は残留しており、なんだかんだで繰の存在はあっさり馴染んでいた
 割とスキンシップ過剰の風潮があるこのクラスで、色々悩まされる事も多かった繰であったが
 佳奈美以外にも心を開ける友達が増えたのも事実である

「そういえばさー、繰ちゃん」

 背中に覆い被さって抱きついていた女生徒が、耳元で呟く

「ディラン先生との関係ってばどうなってるの?」
「か、関係って?」
「……あれだけバレバレで誤魔化せてると思ってるの?」
「英語の授業だけ熱心さが違うし」
「朝とか帰りとかよく一緒だし」
「繰ちゃんが、名前を呼ばないで先生って呼ぶのディラン先生だけだし」
「目が合うと赤面してるし」
「姿を見るとちょっとはにかんでるし」
「ディラン先生、宮定さんの事だけ名前で呼んでるし」
「先生も割といつも繰の事を目で追ってるし」

 周囲の女生徒から一斉に指摘されて、自分の態度が周囲に全く隠せてなかった事に、絶望的な程の羞恥心が湧き上がる

「きょ、教師と生徒なんだから、関係も何もそれだけよ。先生は真面目な人なの、皆知ってるでしょ?」
「うん、真面目よね」
「真面目過ぎるよね」
「そもそも学園祭の時のアレぐらいの据え膳で手を出さないって凄いよね」
「あ、それ知らない。何それ」
「当事者だけの秘密」
「ずるーい」
「こんな調子で、卒業したとしても進展すると思う?」
「どうかなぁ」
「進展と言えば佳奈美の方はどうなん?」
「学園祭に来てた彼氏とはどうよ?」
「こっちにとばっちり!?」
「卒業したら結婚ってホント?」
「えー、らっぶらぶぅ」
「卒業したらするかもだけど、まだ予定も立ってないよ!? 式とかどうすればいいんだかわかんないし、少なくとも親とか親戚と相談してから!」
「招待しろー」
「ブーケよこせー」
「披露宴で美味しいもの食べたーい」
「彼氏の周りの良い男紹介してー」
「欲望がストレート過ぎるよ!?」

 どうしようもない騒がしさの中
 それが妙に心地良くて
 繰の意識は、うとうととしたまま
 するりと眠りに落ちてしまっていた

―――

「ん……」

 気が付くと、そこはベッドの上
 冬の早い夕暮れに、窓の外は既に暗くなりかけている

「繰ちゃん、大丈夫?」

 そう言って顔を覗き込んできたのは、見慣れた愛しい人

「先生……授業は?」

 外の様子からして、既に放課後であろう時間
 何か理由をつけて保健室に放り込まれたであろう繰はともかくとして、少なくともディランは六時限目に繰のクラスで授業があったはずである

「クラスの皆がね、昼休みに職員室に来て。繰ちゃんについていて欲しいって」
「……受験生も多いのに何やってんのよ、もう」

 溜息を吐きつつも、その気遣い自体はそれなりに嬉しくは感じている

「教師として問題は無いの、そういう行動は」

 自分のせいでディランの評価を落とすような事はしたくない
 そういう思いで、やや強い口調で訊ねる

「校長先生は、都市伝説に理解のある人だから」

 そう言ってから
 繰が寝ている間から、ずっと握っていた手に、僅かに力を込める

「それに、教師として問題があったとしても……繰ちゃんの方が大事だから」

 その言葉に、繰の顔が真っ赤に染まる

「不安な時は、ずっとこうしていてあげるから。それで足りない時は」

 握っていた手を引き、繰を引き起こすと
 ベッドの縁に座り、その胸に繰を抱き寄せる

「ずっと、こうしていてあげるから。だから、安心して」
「先生……」

 胸の鼓動を
 温かさを
 においを
 すぐ傍にいるという全てを感じながら、繰は顔を上げ
 ディランの顔を見詰めて、求めるようにそっと目を閉じ
 ようとしたところで

「先生」
「どうしたの、繰ちゃん?」
「ちょっと入り口の扉、思い切り開けてきて」

 僅かながらの熟睡と安堵のせいで取り戻した感覚が、ほんの少し隙間の開いた保健室の扉に向けられる
 そんな繰の言葉と同時に、慌てて扉から離れていく足音がいくつか聞こえてきた

「……油断も隙もありゃしない」
「油断とか隙とか、あったの?」

 状況が掴めず首を傾げるディランに、繰は苦笑を浮かべていた

―――

「様子はどうだった?」
「途中でバレたけど良い雰囲気ー」
「あれでいて進展が無いってのもどうなんだろうね」
「なんか、ずっと傍にはいるけどそれだけって感じになりそうかなぁ」
「どっちも押しが弱いのよねぇ」
「佳奈美といい繰といい、あんだけ良い男を捉まえておいてさー」
「そうそう、佳奈美もなんかラブラブだけど、そこからもう一歩が長そうよね」
「どうも遠慮しがちなのよ、あの子達」
「やっぱり私達の計画を進めるべきね」
「佳奈美んちの方には連絡つけてるんでしょ?」
「ん、佳奈美のお母さんてば超ノリノリ」
「彼氏の方は?」
「佳奈美のお母さんから連絡先貰ったから、これから」
「うっし、そっちに計画を持ちかけて、受けて貰えるようなら速攻よ」
「ついでに繰も巻き込むべきね」
「ディラン先生には話す?」
「ダメダメ、絶対黙っていられないと思う」
「委員長とか、獄門寺くんとか、小鳥遊くんにも話してないもんね」
「嘘とか隠し事とかダメそうだもんね」
「あ、でも獄門寺くんは割と気付いてるっぽいよ?」
「え、マジ?」
「相談って基本女子トイレでしかしてないのに」
「ノリノリで喋ってる時に声が漏れちゃったかな?」
「内緒話でもたまたま聞いてしまう事があるのですよ、にぱー☆」
「ともかく、内緒モードは継続。衣装の方は繰のも都合つけれる? できればディラン先生のも」
「ふふふ、わたしの就職先を舐めちゃいけないわね。繰とディラン先生の写真、できれば全身入ってるやつ頂戴。サイズは一応学園祭の時のデータはあるけど、育ってる可能性もあるから測っておいて。繰ちゃんは特に胸辺り」
「佳奈美のも?」
「一応。体育の着替えの時に触った感じは、その……ご愁傷様だけど」
「よーし、三月頭には準備を終わらせるわよ。余計な気を遣わせないように受験組は死ぬ気で受かれ」
「内定決まってる就職組、入試が終わるまでの間は任せたわよ」
「おうよ、任せときなさい」

 水面下で進む女子集団の企みは、着々と進行していく
 それが何かは、当事者達には明かされないままに


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