逢瀬佳奈美と宮定繰 02
平時にはゆったりとしたリビングであるはずのその空間
部屋の中央にあったはずの淡い色合いの上品なソファーは部屋の隅に追いやられ
磨き上げられたフローリングの上には何体ものマネキンが立ち並んでいる
大きなテーブルを彩っていた花瓶やテーブルクロスは除けられて作業台と化し、代わりに大きな紙が広げられていた
部屋の中央にあったはずの淡い色合いの上品なソファーは部屋の隅に追いやられ
磨き上げられたフローリングの上には何体ものマネキンが立ち並んでいる
大きなテーブルを彩っていた花瓶やテーブルクロスは除けられて作業台と化し、代わりに大きな紙が広げられていた
「やほー、しゃちょー」
中央高校の制服姿の少女がぱたぱたと部屋に駆け込んでくると、ソファーに寝転がってスケッチブックと睨み合っていた男がそちらへ顔を向ける
「おう、もうそんな時間か」
「時計見ようよ、しゃちょー」
「そんなもん見てる暇があったら手か頭を動かすっての」
「時計見ようよ、しゃちょー」
「そんなもん見てる暇があったら手か頭を動かすっての」
社長と呼ばれた男はそう言って、手にしたスケッチブックに視線を戻した
彼はこの町に店を構える衣装デザイナー兼ブティックの経営者である
彼はこの町に店を構える衣装デザイナー兼ブティックの経営者である
「しゃちょー、デザインあがりそう?」
「まあなんとかな。三月仕上げの期間は丁度手が空いてたから良かったものの、六月仕上げでこんな仕事持ち込んできたらブン殴ってたぞ」
「ブン殴ってからちゃんとやってくれるけどね、しゃちょー」
「仕事だからな。引き受けた以上は仕上げるのが筋ってもんだ」
「まあなんとかな。三月仕上げの期間は丁度手が空いてたから良かったものの、六月仕上げでこんな仕事持ち込んできたらブン殴ってたぞ」
「ブン殴ってからちゃんとやってくれるけどね、しゃちょー」
「仕事だからな。引き受けた以上は仕上げるのが筋ってもんだ」
そう言われて少女は、苦笑いを浮かべる
「じゃあさ、しゃちょー」
「何だ?」
「もう一着追加いける?」
「何だ?」
「もう一着追加いける?」
社長はふむ、と小さく唸り
ぱたむと閉じたスケッチブックを片手に持ち直し、少女の頭を思い切り引っ叩いた
しかも縦で
ぱたむと閉じたスケッチブックを片手に持ち直し、少女の頭を思い切り引っ叩いた
しかも縦で
「ひぎゃっ!? ……い、いや、た、縦はマジで痛いっ!?」
ごつりと鈍い音の一撃を食らった脳天を押さえて悶絶する少女
「クソやかましい、二着同時とかナメてんのか。体格までぴったりな双子とかじゃあないんだろう?」
「前の依頼のふにふにつるぺたすとーんと真逆の、ぴしすぱぼいーんかな? 外見もほんわか系と真逆のクール系」
「前の依頼のふにふにつるぺたすとーんと真逆の、ぴしすぱぼいーんかな? 外見もほんわか系と真逆のクール系」
涙目のまま顔を上げて、自慢するようににぱぁと笑う少女の脳天に、再び叩き込まれるスケッチブック
「おふぉぉ……ほ、星が見える……」
「馬鹿かお前は。いくら暇とはいえ他の雑務もある中で、男女セットで合計四着とかナメてんのか」
「だ、だって! これのチャンスを逃したら、結婚式とか華やかな事とか全然やりそうにない娘なんだもん! 晴れの舞台を彩ってあげるのが、しゃちょーの仕事なんでしょ!?」
「本音は?」
「面白そうだったから、つい」
「馬鹿かお前は。いくら暇とはいえ他の雑務もある中で、男女セットで合計四着とかナメてんのか」
「だ、だって! これのチャンスを逃したら、結婚式とか華やかな事とか全然やりそうにない娘なんだもん! 晴れの舞台を彩ってあげるのが、しゃちょーの仕事なんでしょ!?」
「本音は?」
「面白そうだったから、つい」
三度叩き込まれた攻撃に、流石にダウンしてソファーに倒れ込む少女
頭を押さえてうーうーと唸っている
頭を押さえてうーうーと唸っている
「……まあ引き受けた以上はやるしか無ぇな。先に逢瀬って娘の方のデザイン上げて、縫製の連中がそっち仕上げてる間にもう一件のデザインをやる」
「うー、おー、流石しゃちょー」
「時に、お前は卒業とか大丈夫なのか?」
「ういうい、なーんも問題なし。これから卒業式まで二ヶ月ぐらい休んでも楽勝楽勝」
「よし、それじゃあ学校休め」
「ほいほい……って、なんですとっ!?」
「冗談だ。というか学校は行って逐一サイズ測ってこい。年頃の女の子は一週間前のサイズがアテにならん」
「おうさ、毎日揉んで確かめちゃる」
「あと日曜祝日問わずプライベートな時間は全部うちに来い。パターン切ってからレース縫いやら刺繍入れやらしてたら、ぶっちゃけ縫製を工場に回す余裕も無い。搬送考えたら間に合わん」
「しゃちょーの『アレ』も込みでも?」
「込みでも下手すりゃ、ラストスパートで徹夜仕事になる」
「徹夜も『アレ』込みで?」
「たりめーだ」
「うー、おー、流石しゃちょー」
「時に、お前は卒業とか大丈夫なのか?」
「ういうい、なーんも問題なし。これから卒業式まで二ヶ月ぐらい休んでも楽勝楽勝」
「よし、それじゃあ学校休め」
「ほいほい……って、なんですとっ!?」
「冗談だ。というか学校は行って逐一サイズ測ってこい。年頃の女の子は一週間前のサイズがアテにならん」
「おうさ、毎日揉んで確かめちゃる」
「あと日曜祝日問わずプライベートな時間は全部うちに来い。パターン切ってからレース縫いやら刺繍入れやらしてたら、ぶっちゃけ縫製を工場に回す余裕も無い。搬送考えたら間に合わん」
「しゃちょーの『アレ』も込みでも?」
「込みでも下手すりゃ、ラストスパートで徹夜仕事になる」
「徹夜も『アレ』込みで?」
「たりめーだ」
そう言うと社長は、スケッチブックを床に置いて腕を頭の後ろで組み
「つーわけで、頼む」
「ほいさ」
「ほいさ」
すうっと目を閉じて、ものの数秒で寝息を立て始める
その寝姿を確認して、少女は音を立てないようにこっそりと部屋から出ていった
雑然と並ぶ資材、整然と並ぶ道具類
その影から隙間から、ひょこり、ひょこりと姿を現す小さな影
それらはこそこそと、ソファの傍らに置かれたスケッチブックへと集まってくる
その寝姿を確認して、少女は音を立てないようにこっそりと部屋から出ていった
雑然と並ぶ資材、整然と並ぶ道具類
その影から隙間から、ひょこり、ひょこりと姿を現す小さな影
それらはこそこそと、ソファの傍らに置かれたスケッチブックへと集まってくる
「寝た?」
「寝たね」
「デザインはできてる?」
「まだラフだね」
「仕上げる?」
「デザインは自分でやりたがるよ」
「じゃあどうしよう?」
「どうしよう?」
「寝たね」
「デザインはできてる?」
「まだラフだね」
「仕上げる?」
「デザインは自分でやりたがるよ」
「じゃあどうしよう?」
「どうしよう?」
顔を見合わせる小さな人の姿をした集団
その意識がスケッチブックに向けられている、その隙に
その意識がスケッチブックに向けられている、その隙に
「確保ーっ!」
出ていった時と同じように、音を立てずに部屋に戻ってきた少女が、小さな集団を両手でがばりと抱きすくめ
「わー!?」
「また捕まったー!?」
「ずるいぞー!」
「反則だー!」
「やかましい」
「また捕まったー!?」
「ずるいぞー!」
「反則だー!」
「やかましい」
つい今し方まで寝こけていたはずの社長が、気だるそうな顔でむくりと起き上がる
「俺と契約してんだから平時から働け、チビ共」
「僕達『小人さん』は、主が寝てる時に代わりに仕事をするんだぞー!」
「寝てる時も仕事が進むんだから充分じゃないかー!」
「僕達『小人さん』は、主が寝てる時に代わりに仕事をするんだぞー!」
「寝てる時も仕事が進むんだから充分じゃないかー!」
きゃいきゃいと騒ぐ『小人さん』達に、社長は笑顔で告げる
「お前達が働いてくれて、俺が寝ずに働くぐらいのペースで仕事が進む。それなら俺とお前らが寝ずに働けば、更に倍のペースで仕事が進むな?」
「鬼だー!?」
「鬼がいるー!」
「黙れ。俺は社長で、お前らとは契約してるんだ。俺の決定に従え」
「都市伝説舐めんなー!」
「都市伝説の契約は雇用契約じゃないぞー!」
「鬼だー!?」
「鬼がいるー!」
「黙れ。俺は社長で、お前らとは契約してるんだ。俺の決定に従え」
「都市伝説舐めんなー!」
「都市伝説の契約は雇用契約じゃないぞー!」
睨む社長と喚く『小人さん』達
「ごめんねー、あたしが持ち込んだ仕事なの」
少女は抱えた『小人さん』達の頭を撫でる
「あたしも手一杯頑張るし、通ってる間はご飯も作るから頑張ってくんないかな?」
「よしきたー!」
「任せとけー!」
「お前ら、契約者舐めてんのか」
「『小人さん』は可愛がってくれる方の味方さー!」
「むしろ契約のやり直しを要求するー! こっちと契約するー!」
「そいつがうちに就職したらそれも考えてやる。とりあえず今は働けお前ら」
「じゃーデザインさっさとあげろー」
「型紙も作れないだろー」
「やかましい、体型合わせたマネキン作ってんだ、下地の型ぐらい先に引けるだろうが」
「それじゃ、あたし型紙やりますから、『小人さん』に手伝ってもらっていいですか?」
「そいつらお前の言う事の方が良く聞くしな、任せた」
「よしきたー!」
「任せとけー!」
「お前ら、契約者舐めてんのか」
「『小人さん』は可愛がってくれる方の味方さー!」
「むしろ契約のやり直しを要求するー! こっちと契約するー!」
「そいつがうちに就職したらそれも考えてやる。とりあえず今は働けお前ら」
「じゃーデザインさっさとあげろー」
「型紙も作れないだろー」
「やかましい、体型合わせたマネキン作ってんだ、下地の型ぐらい先に引けるだろうが」
「それじゃ、あたし型紙やりますから、『小人さん』に手伝ってもらっていいですか?」
「そいつらお前の言う事の方が良く聞くしな、任せた」
そう言うと社長は、またソファーに転がってスケッチブックを開く
「布は六番のケースの使え」
「はいよ……って、これお店で一番高級なやつ!」
「色のイメージ合わせたらそれだ。着せるのにもバタバタしそうだし、ちょっと暴れたぐらいじゃシワやヘタレにならない良いもん使わんとな」
「むー、布面積が大体あれぐらいで……職人さん達の経費が」
「はいよ……って、これお店で一番高級なやつ!」
「色のイメージ合わせたらそれだ。着せるのにもバタバタしそうだし、ちょっと暴れたぐらいじゃシワやヘタレにならない良いもん使わんとな」
「むー、布面積が大体あれぐらいで……職人さん達の経費が」
脳内で算盤を弾いた少女が強張った顔で振り返る
「しゃちょー、予算から盛大にはみ出します!」
「お前が身体で払え」
「ひゃい!? しゃ、しゃちょーのえっちー!?」
「あほう、働いて返せって事だ。給料から天引きな」
「なん……だと……? うぐー、むう……佳奈美と繰のリアクションを考えたら面白そうだからまあいいか」
「あとはお前の友達を片っ端から顧客にしてしまえ。次から社割は無いがな」
「む、その手があった」
「お前が身体で払え」
「ひゃい!? しゃ、しゃちょーのえっちー!?」
「あほう、働いて返せって事だ。給料から天引きな」
「なん……だと……? うぐー、むう……佳奈美と繰のリアクションを考えたら面白そうだからまあいいか」
「あとはお前の友達を片っ端から顧客にしてしまえ。次から社割は無いがな」
「む、その手があった」
かくして少女の就職先をも巻き込んだ、佳奈美のクラスメイト達の陰謀は着実に進んでいく
来るべき、卒業式
その日に向けて
来るべき、卒業式
その日に向けて