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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 鴉―KARAS― -11

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鴉―KARAS― 第十一話「天道是非の槍」】

 先手は九郎。
 目にも留まらぬ速さで男に接近し、袈裟懸けに剣を振り下ろす。
 ――――筈だった。
 突如彼の視界が反転する。
 糸だ。
 極細のワイヤーが既にそこに仕掛けられていたのだ。
 それに足を取られて彼は転んでしまったのだ。

 体勢を立てなおした九郎はそこで思わぬものを見る。

「……あれは!?」

 男の背後に居並ぶ無数の銃口。
 おそらくあれ自体は都市伝説と関係の無い通常兵器だろう。
 しかしあの物量で攻められれば……

「力を抜け、深呼吸をして受け入れろ。すぐに楽になれるぞ?」

 鋼鉄のカーテンが彼の視界を塞ぐ。
 それでも通常の攻撃なら一撃くらいは大丈夫、そう思っていた。

「九郎、それは駄目だ!躱せ!」

 遅かった。
 明らかに発射直後より銃弾が加速している。
 そんなものを回避できる筈がない。
 致命傷にこそならないものの鎧を貫通した衝撃は骨を痛めつけ肉を食いちぎる。

「―――――こいつでも喰らいなさい!」

 トトの目が光る。
 彼女の本来の能力である“魔眼”の力。
 男性であればレジストできない類のもの。

「男の戦いに手を出すな、流し目美人」

 ジョーカーの男は何食わぬ顔で釘を投げつける。

「必中必滅の呪い、“朱に染まる死界(アカイヘヤ)”」

 それは赤い部屋の逸話の具現、眼球を追尾する釘の一撃。
 狙いは無論トトの眼球。
 とはいえそう簡単に当たる筈もない。

「魔犬劇場、ブラックドッグヴァスカヴィル!」

 トトの呼び声と共に“息子たち”であるティンダロスの魔犬が列を為して現れる。
 半分は男の投げつけた釘の盾となって貫かれる。

「ふむ、やはり通用しないか。ランクが違うらしいな」

 もう半分は九郎と共に再び男への強攻を仕掛ける。

「九郎!」

「解ってる!」

 再び弾幕の嵐が降り注ぐ。
 九郎を男の元に到達させるために散っていく魔犬。
 しかし彼らはすぐさま再生して再び男に襲いかかる。
 増えていく敵、精気溢れる若人、既に若くない男の頬が少しだけ緩む。

「――――――面白い」

 取り出すは黒白一対の刀。

「政宗、村正、解放。過剰回転(オーバードライブ)開始」

 風景が歪む。
 男は両腕をだらりと下げ、無造作に両手で刀を弄んでいる。

「有象無象に用は無い、ここで間引かせてもらおう」

 一瞬で九郎以外の魔犬が地面に伏せる。
 まるでそれは臣下が王に対する礼のように。

「――――くっ!」

 体が重い。
 九郎も一瞬でも気を抜けば地面に伏せることになる。
 一歩、また一歩、近づくごとに重力の鎖が彼の身体を責め苛む。
 しかし離れればまたあの弾幕の餌食になる。
 ならば――――選択肢は一つ。

「うおおおおおおおおおおおお!」

 九郎は再び男に到達する。
 男の二刀が九郎の逃げ道を絶つようにして襲いかかる。
 それでも進む。
 前進、前進、前進、前進。
 凌ぎ、捌き、受けて、躱し、確実に仕留め得る間合いまで亀の歩みを進めていく。
 上げる足は鉄塊のごとく重く、滝のような剣撃に隙など無い。
 あと一歩、あと一歩分足りない。
 そう思っていた時、突如男が腕を真後ろに回す。
 レーザー攻撃。
 トトの錬金術で作られた急造のレーザー装置によるものだった。
 九郎はこの時、隙ができたとは思えなかった。
 光速で来る攻撃に反応した、そう彼は考えた。
 だがやるべきことは変わらない。
 彼は全ての力を込めて足を一歩前に踏み出す。

「よく到達し得た、褒美だ」

 次の瞬間、重力の枷が消える。

「――――え?」

 大きく体勢を崩す九郎。
 鎧の隙間から白い刀で肩を突き刺され、ふたたびトトの元まで吹き飛ばされる。

「これでもはや刀を振るうことは敵うまい?」

 偶然か、必然か、先程動きを止められた魔犬は時空間を超える猟犬ティンダロス。
 そんな彼らは肉体を破壞されてもすぐに再生をすることができる。
 しかし重力とは時間を超える力だ。
 十一次元の宇宙の旅人だ。
 ティンダロスといえどその戒めからは逃れられないのだ。

 結論から言おう。

 この男の重力拘束解除という決断は失敗だった。

「キャア!」

 男の背後で悲鳴が上がる。
 ティンダロスが少女に襲いかかろうとしていたのだ。
 絶好の追い打ちのチャンス、彼女を見捨てて攻撃に移れば九郎達は完全に勝ちの目を失っていた。
 しかし男は迷わずに九郎たちに背を向けて魔犬の牙から少女を守る。

「―――――――――!」

 腕と足に捻じ込まれる牙、激痛。
 しかし、体内から生えた釘で逆にティンダロス達を八つ裂きにする。
 男は重力によるティンダロスへの拘束を再開、しかし一対の刀は鞘にしまう。

「赤い部屋、過剰注入(オーバーエッジ)」

 取り出したのは釘。
 赤い部屋、という有り触れた低級な都市伝説の扱う被害者の目を貫く為に使われる釘やプラスドライバーと同じもの。 
 ドクン、拍動のようでそれにしては巨大すぎる音が釘から響く。

「……あれは、まずい!」

 治癒の呪文を九郎にかけおわったトトが叫ぶ。
 されど時すでに遅し、最初と同じ銃弾の壁。
 これ自体は一度見てしまえば只の鉄や鉛である以上トトの錬金術で原子間結合を分解し、無効化できる。
 問題はその次だ。

 彼らは見てしまった。
 銃弾の壁の隙間から人間の身長程に巨大化した釘剣、否、釘槍とでもいうべきものを。
 男がそれを投げ槍のフォームで構え……

「必中必殺、真・朱に染まる死界(アカイヘヤ)」

 投げつけた。
 疾い、斥力操作による加速もあるが問題はそれではない。
 まずは注ぎ込まれている膨大な心の力。
 都市伝説としての強度は恐らく神話レベルの物と比べても遜色はない。
 次に、あれが赤い部屋の惨劇の再現であること。
 都市伝説と契約することの本質はその再現にこそ有る。
 なればこそ再現を行う時に力はもっとも発揮される。
 “壁の隙間や鍵穴から現れた釘やプラスドライバーが目を貫く”
 あんな巨大な物で貫かれるのだとしたら頭蓋ごと完全に破壞される。
 弾幕を抜けて、釘が迫る。
 九郎はそこで迷いなく防御を捨てた。
 トトの腕を引っ張り正面から弾幕に突っ込む。
 自ら弾幕に当たりに行くことで釘槍の攻撃範囲から逃れようとする。
 疾いが故に逆に向かわれれば軌道の変化が追いつかないと考えたのだ。
 それは正しい。

「愚かな、必中と言ったではないか
 俺が必中といえばソレはもうすでに必中なのだよ
 赤い部屋の惨事の再現なのだ、お前らがその眼を貫かれる結果は確定している。」

 が、相手が悪い。

「え?」

 釘槍は確かに遙か彼方まで飛んでいった。
 だがそれはそのままの速度を保ち、いやそれどころか加速して百八十度反転する。
 迫る釘槍、九郎は死を確信する。
 だがその死の淵で彼は思う。
 何故あの男はあそこまで理不尽に強いのかと。
 男の能力を思い出してみる。
 引力操作、斥力操作、釘槍軌道操作、平行世界の運営、そして因果律操作。
 操作しかしていない。
 思えばそうだ、肉体強化もしていなければ物質変化も何も無い。
 釘の錬成だって今までたったニ本しかやっていない。
 あれはそもそもあの男が錬成したものだったのか?
 既に作成されたものにあの男が心の力を注ぎ込んだだけじゃ……。
 極限状況、九郎の思考は極限まで高速化される。
 あの男は操作しかしていない。
 そんな規格外に対抗するには?
 自分だって変化能力だけしか使わなければいい。
 それ一つで、自らも不条理になれば良い。
 あの男を貫き、あの後ろの少女を殺傷せしめる力。
 一撃が届くより――――捷く!
 自分が契約している都市伝説を想起する。
 トト神?否、マイノグーラ……違う。
 変則契約なのだ。
 本来トトは人間が契約できる代物じゃない。
 彼女と自分の間に存在する都市伝説。
 直接に自らと繋がって自らの命を保っているもの。
 そう、八咫烏。

「火輪よ(ヤタ)――――」

 答えは出ていた。

「―――――死を誘え(ガラス)」

 鎧が黄金色に染まる。
 そして、弾け飛ぶ。
 それは既に太陽と同じ力を持つ。
 辺りを焼き尽くす灼熱の衣。
 すぐ後ろのトトの気配が消える。
 前にいた男の殺気も消える。
 強い衝撃、右目を射ぬかれた。
 頭蓋の砕ける音。

「お父さん!」

 最後に九郎が聞いたのは間違いなく霙の声。 
 ――――馬鹿な、仕留め損なった?
 しかしその驚愕もすぐさま無に帰る。
 彼は今度こそ、死んだのだから。
 変化系統の契約者として八咫烏の“太陽の化身”としての力を引き出した。
 代償はその甲冑。
 能力は申し分無かった、故に恐るべきは日輪すら貫いたあの釘槍だったといえよう。
 もし十年後にこの戦いがあれば行方は変わっただろう。
 しかし今は、鷲山九郎という契約者には圧倒的に経験が足りなかった。

【鴉―KARAS― 第十一話「天道是非の槍」 続】


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