ドクター104
「何やってんですか、お姉」
「だ、だって……」
「だ、だって……」
それは2月15日、バレンタインデーの翌日の夜
私室のドレッサーの上にぽつんと置かれた可愛らしい包みを見つけたデリアが、飽きれたような顔で姉であるコンスタンツェに詰め寄っていた
私室のドレッサーの上にぽつんと置かれた可愛らしい包みを見つけたデリアが、飽きれたような顔で姉であるコンスタンツェに詰め寄っていた
「こ、今年はまた増えてたでありますよ? あれだけ貰ってるところに一つ増えたところで、印象は何一つ残らないでありますよ?」
「増えたって……あの人、昔のご学友と患者さん以外でそんなに縁とかありましたっけ?」
「ほら、昨年は世界中色々渡り歩いたでありますから。『秘密図書館』の司書さんとか、各地の魔術協会や錬金術ギルドの研究員の方々とかから」
「遠方からの義理チョコに遠慮してどうするんですか、お姉。手渡しの本命はそれだけで格が違うんですよ?」
「増えたって……あの人、昔のご学友と患者さん以外でそんなに縁とかありましたっけ?」
「ほら、昨年は世界中色々渡り歩いたでありますから。『秘密図書館』の司書さんとか、各地の魔術協会や錬金術ギルドの研究員の方々とかから」
「遠方からの義理チョコに遠慮してどうするんですか、お姉。手渡しの本命はそれだけで格が違うんですよ?」
その包みは、拙い手作りのチョコレート
射撃と拳銃の手入ればかりしてきた手で、あれこれ失敗を重ねながら作った代物である
射撃と拳銃の手入ればかりしてきた手で、あれこれ失敗を重ねながら作った代物である
「毎晩一緒のベッドで寝たり、何ヶ月も二人きりで世界中を旅したりして、どうしてそこまで奥手になれるんですか」
「有羽さんは真面目な人でありますよ!? ふしだらな真似をして嫌われたらどうするんでありますか!」
「そういうキャラでしたっけ? ていうか、どこのお子様ですか、お姉は」
「小官もデリアもまだ15歳でありますよ!?」
「生理がきてれば女として機能してるんですから問題ないでしょうに」
「日本の国内法的に、せめてあと1年は経ってからの方が有羽さんも困らせないで済むのではないかと、小官は愚考する次第でありまして」
「本気で愚考ですね」
「有羽さんは真面目な人でありますよ!? ふしだらな真似をして嫌われたらどうするんでありますか!」
「そういうキャラでしたっけ? ていうか、どこのお子様ですか、お姉は」
「小官もデリアもまだ15歳でありますよ!?」
「生理がきてれば女として機能してるんですから問題ないでしょうに」
「日本の国内法的に、せめてあと1年は経ってからの方が有羽さんも困らせないで済むのではないかと、小官は愚考する次第でありまして」
「本気で愚考ですね」
デリアはふうと溜息を吐くと、ちょいちょいと手招きをして
「わかりました。私に作戦がありますのでちょっと耳を貸して下さい」
「別に誰も聞いてはいないと思うでありますが……」
「いいからこっちへ来て下さい」
「うぅ、妙な事を考えていたりしないでありますよね?」
「別に誰も聞いてはいないと思うでありますが……」
「いいからこっちへ来て下さい」
「うぅ、妙な事を考えていたりしないでありますよね?」
困惑するコンスタンツェの耳元に口を寄せ、そっと何かを囁いた
―――
「……ん?」
何か悲鳴じみた声が聞こえたような気がして、有羽は読んでいた本を読むのを止めて顔を上げる
ここしばらく平和な日が続き、都市伝説関係者も平和な日常のための相談や診察に訪れる者ばかり
だがここは学校町、いつ何が起きてもおかしくはないのだ
すぐさま胸元から如意棒・レプリカを抜こうとしたのだが
ここしばらく平和な日が続き、都市伝説関係者も平和な日常のための相談や診察に訪れる者ばかり
だがここは学校町、いつ何が起きてもおかしくはないのだ
すぐさま胸元から如意棒・レプリカを抜こうとしたのだが
「あの、入ってもいいでありますか?」
ドアの向こうから聞こえてきた声と特徴的な口調に、有羽の顔から警戒の色が消える
「どうしたんだ、普段は気にしないで入ってくるだろ」
「小官だってタイミングを気にしたくなる時があるでありますよ」
「小官だってタイミングを気にしたくなる時があるでありますよ」
そっとドアを開けて、周囲を探るように廊下を見回してから部屋に入ってくるコンスタンツェ
いつもツーテールに結い上げてあるウェーブのかかった髪を下ろし、寝間着姿だった
いつもツーテールに結い上げてあるウェーブのかかった髪を下ろし、寝間着姿だった
「……どうしたんだ、本当に?」
訝しむように問い掛ける有羽を前に、どこかあたふたとした様子で後ろ手に持っていた小さな包みをぐいぐいと押し付けるように突き出してくるコンスタンツェ
「一日……いや、そろそろ二日遅れでありますが、ば、ばばばばば、バレンタインのチョコレートであります!」
一瞬、きょとんとした顔になる有羽だが
すぐに優しげな笑みを浮かべてその包みを受け取る
すぐに優しげな笑みを浮かべてその包みを受け取る
「そうか、大変だったな」
「そんな事は無いでありますよ! 小官でもお菓子作りぐらいはできるであります!」
「そんな事は無いでありますよ! 小官でもお菓子作りぐらいはできるであります!」
ぷうと頬を膨らませて抗議するコンスタンツェの頭を、慈しむように撫でる有羽
「ありがとうな、色々手間をかけさせて」
「いえ……あと、もう一つあるのでありますが」
「もう一つ?」
「いえ……あと、もう一つあるのでありますが」
「もう一つ?」
照れたように俯いていたコンスタンツェが、有羽の身体にきゅっと抱きついて
不意を打たれてバランスを崩した有羽は、傍らにあったベッドにぼすりと座り込む
コンスタンツェはその膝に足を掛け、肩に手を回し
頬を紅潮させた顔を、そっと近付け
不意を打たれてバランスを崩した有羽は、傍らにあったベッドにぼすりと座り込む
コンスタンツェはその膝に足を掛け、肩に手を回し
頬を紅潮させた顔を、そっと近付け
「こら」
有羽は己の唇に触れてきそうになったコンスタンツェの唇を、くいと人差し指で押さえ
軽く押し返したところで、デコピンの要領で弾いた中指でコンスタンツェの鼻の下をぺちんと打ち据える
軽く押し返したところで、デコピンの要領で弾いた中指でコンスタンツェの鼻の下をぺちんと打ち据える
「ふむぐっ!?」
鼻の下を押さえて悶絶するコンスタンツェに、有羽は呆れたように声を掛ける
「何を考えてるんだ、デリア」
「……あ、バレてました?」
「コンスタンツェの代わりにチョコレートを渡しにきたのかと思って気付かないふりをしてたら……何をする気だった」
「何ってまあ、いけるとこまで?」
「……あ、バレてました?」
「コンスタンツェの代わりにチョコレートを渡しにきたのかと思って気付かないふりをしてたら……何をする気だった」
「何ってまあ、いけるとこまで?」
涙目ながら笑顔を浮かべてそう答える、コンスタンツェのふりをしたデリアのこめかみに、有羽の両拳が押し付けられ
「いだだだだだだだだ!? 痛い痛い痛い痛いっ!」
多少の手加減はしているとはいえ、契約により強化された身体能力による力は容赦無くデリアの頭を締め付ける
「どういうつもりだ。また何か妙なのに憑かれてるのか?」
「い、いえ……その、お姉がどうも奥手が過ぎるようなので、いっそ有羽さんの方から責任を取るように仕向けられないかなーと……いだだだだだだだだ!」
「い、いえ……その、お姉がどうも奥手が過ぎるようなので、いっそ有羽さんの方から責任を取るように仕向けられないかなーと……いだだだだだだだだ!」
ぐりぐりとこめかみを絞られ、じたばたとのた打ち回るデリア
ようやく解放された時には、何の抵抗もできずにぐったりとベッドの縁に倒れ付していた
ようやく解放された時には、何の抵抗もできずにぐったりとベッドの縁に倒れ付していた
「そ……それにしても……よく私とお姉の見分けがつきましたね……私が本気でお姉を真似たら、見破れるのドクターと先生だったのに」
それだけコンスタンツェの事を意識してるのかと、内心ほくそえむデリアだったが
「健康管理の面で、平時からきちんと見てないといけないもんだしな」
「医者的視点!?」
「身内の健康にも気を遣わないと駄目だろ、医者の不養生なんてのはいざという時に一番困る」
「医者的視点!?」
「身内の健康にも気を遣わないと駄目だろ、医者の不養生なんてのはいざという時に一番困る」
前の彼女とやらはどうやってこの朴念仁を落としたんだと、デリアは頭を抱えそうになる
「女性の裸とか見て欲情したりしないんですか」
「診察してれば嫌でも見るもので、いちいち欲情してたら仕事にならないだろ」
「……不能とか言いませんよね?」
「TPOは弁えてるだけだ」
「じゃあ医療行為の時以外はちゃんとしてますよね?」
「待て、何故脱ごうとする」
「いや、ちょっと確認しておこうかと」
「診察してれば嫌でも見るもので、いちいち欲情してたら仕事にならないだろ」
「……不能とか言いませんよね?」
「TPOは弁えてるだけだ」
「じゃあ医療行為の時以外はちゃんとしてますよね?」
「待て、何故脱ごうとする」
「いや、ちょっと確認しておこうかと」
寝間着のボタンを外して胸元を開こうとしたデリアの手を、有羽の手ががしりと掴んで止める
そして、丁度そのタイミングで
そして、丁度そのタイミングで
「デリア、どういうつもりでありますか! 事と次第によっては……」
どうやら、梱包用の紐で縛り上げられていたのだろう
何か刃物で切断された様子の紐を身体のあちこちに絡めたまま、有羽の部屋に飛び込んできたコンスタンツェ
そこには寝間着をはだけた妹と、その腕を掴む想い人の姿
何か刃物で切断された様子の紐を身体のあちこちに絡めたまま、有羽の部屋に飛び込んできたコンスタンツェ
そこには寝間着をはだけた妹と、その腕を掴む想い人の姿
「あ、お姉? これはちょっとした事情がありまして」
流石にまずいと思ったのか、とにかく何か状況を有耶無耶にしようと語ろうとしたデリアの言葉を遮るように
「デリアが妙な事をしようとして、有羽さんに止められたでありますね?」
「あ、やっぱわかります?」
「あ、やっぱわかります?」
ぷちん、と
何かが切れるような音がした気がして
じゃきりと抜き放たれた拳銃を、流れるような手捌きで安全装置を外してチャンバーをスライド、そして銃口をぴたりと妹に突きつける
何かが切れるような音がした気がして
じゃきりと抜き放たれた拳銃を、流れるような手捌きで安全装置を外してチャンバーをスライド、そして銃口をぴたりと妹に突きつける
「やば、お姉、マジギレ?」
「安心するであります……弾丸は訓練用のゴム弾であります」
「ちょ、あ、あれって通常装備でも当たるとマジで痛いのに!?」
「妹を撃つ事になるのは、小官もトラウマが甦るでありますよ?」
「じゃ、じゃあとりあえず穏便に済ませましょう、ね?」
「安心するであります……弾丸は訓練用のゴム弾であります」
「ちょ、あ、あれって通常装備でも当たるとマジで痛いのに!?」
「妹を撃つ事になるのは、小官もトラウマが甦るでありますよ?」
「じゃ、じゃあとりあえず穏便に済ませましょう、ね?」
口ではそう言いつつ、デリアは一瞬緩んだ有羽の手を振り解き
すぐ間近にあった銃口を払い除けるように懐に潜り込むと、足元を崩すように引き倒し、コンスタンツェの身体をベッドの上に放り投げて廊下へと逃げ出していった
すぐ間近にあった銃口を払い除けるように懐に潜り込むと、足元を崩すように引き倒し、コンスタンツェの身体をベッドの上に放り投げて廊下へと逃げ出していった
「お仕置きはもう有羽さんに目一杯されたので、勘弁して下さいね!」
ぱたぱたと廊下を駆けていく足音に、すぐさま跳ね起きて後を追おうとするコンスタンツェだったが
「そういえば、デリアが持ってきたチョコレート。あれはコンスタンツェのか?」
「へ? あ、デリアが持ち出したのは、その、小官のであります」
「デリアが勝手に持ち出したなら、返した方がいいか?」
「ふぇぁ!? い、いえ、その、もとより、ゆ、有羽さんに差し上げるつもりだったのでありますが……」
「そうか」
「へ? あ、デリアが持ち出したのは、その、小官のであります」
「デリアが勝手に持ち出したなら、返した方がいいか?」
「ふぇぁ!? い、いえ、その、もとより、ゆ、有羽さんに差し上げるつもりだったのでありますが……」
「そうか」
有羽は少し安心したようにそう呟いて
「ありがとう、な」
そっと頭を撫でられた、それだけで
コンスタンツェが抱いていた怒りは一瞬で蒸発し、頬を紅潮させて頭から湯気となって抜けていく
コンスタンツェが抱いていた怒りは一瞬で蒸発し、頬を紅潮させて頭から湯気となって抜けていく
「……小官も、いつまでも子供ではないでありますよ?」
「子供じゃないって言ってるうちは子供だよ」
「むぅ……」
「子供でいるうちは、早く大人になりたいと思うかもしれないけどな。子供でいられるのは、長い人生のほんの少しだ。コンスタンツェやデリアは、都市伝説組織でずっと働いてきたわけだし、今ぐらいはもっと子供として楽しんでおいた方が良いと思うぞ」
「子供じゃないって言ってるうちは子供だよ」
「むぅ……」
「子供でいるうちは、早く大人になりたいと思うかもしれないけどな。子供でいられるのは、長い人生のほんの少しだ。コンスタンツェやデリアは、都市伝説組織でずっと働いてきたわけだし、今ぐらいはもっと子供として楽しんでおいた方が良いと思うぞ」
こうして諭されていると、有羽は兄か父かといった雰囲気になってくる
想いを遂げられる日は来るのだろうかと、コンスタンツェは内心溜息を吐きながら
想いを遂げられる日は来るのだろうかと、コンスタンツェは内心溜息を吐きながら
「小官が大人になる頃には、有羽さんはどこかへ行ってしまう気がするであります」
「そうか? アンナの問題もまあ決着したし、診療所を離れるつもりは当分無いんだが」
「仕事とかの話ではないであります」
「よくわからないが……それじゃあ約束しよう。コンスタンツェが大人になるまで、俺はこの診療所を離れない」
「そうか? アンナの問題もまあ決着したし、診療所を離れるつもりは当分無いんだが」
「仕事とかの話ではないであります」
「よくわからないが……それじゃあ約束しよう。コンスタンツェが大人になるまで、俺はこの診療所を離れない」
その言葉に、コンスタンツェの胸がちくちくと痛む
「では……小官が、大人になったら。有羽さんはいなくなってしまうでありますか?」
「都市伝説に関ってると、いつ何があるかわからないしな。まあトラブルさえ無ければ、俺はここを離れたくはないとは思うが」
「都市伝説に関ってると、いつ何があるかわからないしな。まあトラブルさえ無ければ、俺はここを離れたくはないとは思うが」
その言葉は本当かと
確認するかのように、コンスタンツェが有羽の手をきゅっと握る
無言のその問い掛けに、有羽もその手を握り返して応える
有羽としては、コンスタンツェの気持ちに気付いていないわけではない
というかデリアが普段からあれこれやらかしてくるので、気づかない方がおかしいというレベルである
確認するかのように、コンスタンツェが有羽の手をきゅっと握る
無言のその問い掛けに、有羽もその手を握り返して応える
有羽としては、コンスタンツェの気持ちに気付いていないわけではない
というかデリアが普段からあれこれやらかしてくるので、気づかない方がおかしいというレベルである
「有羽さん……また、一緒に寝てもいいでありますか?」
「また、悪い夢を見そうなのか?」
「デリアに銃を向けたら、ぶり返した気がするであります」
「また、悪い夢を見そうなのか?」
「デリアに銃を向けたら、ぶり返した気がするであります」
さほど深刻さは見えない、むしろ軽口のような答えを返して
コンスタンツェは有羽のベッドに潜り込むのであった
コンスタンツェは有羽のベッドに潜り込むのであった