小ネタその21 噂の深層
小さなマンションの一室
仏壇の前に置かれた写真立て
そこに収められた少女の笑顔は、とても朗らかで
その前に座る夫婦の沈痛な面持ちを、悲痛な程に際立たせていた
仏壇の前に置かれた写真立て
そこに収められた少女の笑顔は、とても朗らかで
その前に座る夫婦の沈痛な面持ちを、悲痛な程に際立たせていた
「あなた達に頼る事は、もう何一つありません。帰って下さい」
少女の父であった男は、はっきりとそう告げる
「娘が不安を訴えた時。我々が捜査をお願いした時。あなた方、警察は何もしてくれませんでした」
その喉から絞り出される声は、犯人への憎悪と等しいほどに恨みに満ちており
「あなた方がやったのは……ただ私達夫婦を、娘の死に様を、マスコミと共に晒し上げて、無様に犯人を取り逃がした。それだけです」
少女の母であった女は、夫が糾弾する様をただ黙って聞いている
目の前に平伏する老刑事に視線を向けたまま
目の前に平伏する老刑事に視線を向けたまま
「あの時は、私は捜査から外されていました」
「だから、責任が無いと?」
「いいえ……無理を通してでも現場に捻じ込むべきでした。そうしていれば、報道が過熱しているうちに手を打てたかもしれなかった」
「だから、責任が無いと?」
「いいえ……無理を通してでも現場に捻じ込むべきでした。そうしていれば、報道が過熱しているうちに手を打てたかもしれなかった」
老刑事は顔を上げて、真っ直ぐに男の顔を、目を見詰める
「どうか、私を。いや……警察を、今一度信用して下さいませんか。犯人の逮捕にはあなた達の協力が必要なのです」
「そうやって、私達をまたマスコミの晒し者にするつもりですか」
「犯人の逮捕に、今一度必要な事なのです。大々的な報道がもう一度あれば、必ず犯人を逮捕してみせます」
「そうやって、私達をまたマスコミの晒し者にするつもりですか」
「犯人の逮捕に、今一度必要な事なのです。大々的な報道がもう一度あれば、必ず犯人を逮捕してみせます」
老刑事の真剣な顔と声に、男は僅かにたじろぐ
だが
だが
「……帰って下さい。もう、事件の事を大っぴらにしてもらっては、困るのです」
「それは、どういう」
「俺が犯人探しを引き受けたからだよ」
「それは、どういう」
「俺が犯人探しを引き受けたからだよ」
玄関口にいつの間にか立っていた青年が、薄笑いを浮かべながら靴を脱いで部屋に上がり込む
「この事件に関する報道が途絶えて、今日で丁度一年」
青年は、人差し指を突き立てて、にやりと笑う
「今日からきっかり一週間後に、あんた達が探してる犯人は死体で見付かるよ。死体発見の通報をくまなくチェックしてな、その中に必ず奴の死体がある」
くくっと喉を鳴らせて笑う青年
夫婦はそれに動じた様子もなく、ただ俯くだけ
老刑事は鋭い眼光を青年に向ける
夫婦はそれに動じた様子もなく、ただ俯くだけ
老刑事は鋭い眼光を青年に向ける
「お前さん、殺し屋でも気取ってるのかね?」
「くっ……くはは! 詐欺師呼ばわりは何度もされたが、殺し屋扱いは初めてだな!」
「くっ……くはは! 詐欺師呼ばわりは何度もされたが、殺し屋扱いは初めてだな!」
青年はさもおかしそうに笑いながら、どかりと老刑事の前に座り込む
「半分正解だが、半分ハズレだ。殺し屋ってのは依頼を受けて金を貰うもんだろ? 俺はこっちから殺させてくれと頼みにきて、金は一銭も取らないからな」
刑事の前で殺すという事を口走ったせいか、青年は誤魔化すように首を振る
「ああ、殺させてくれってのは正確じゃないな。別に俺が手を下すわけじゃないし、誰かに頼んだりするわけでもないんだからな」
「お前さん……『契約者』か」
「お前さん……『契約者』か」
老刑事の言葉に、青年はひゅうと口笛を吹く
「あんた、知ってるんだ。警察にそういう部署とかあったりすんの?」
「あるわけが無い。警察ってのはね、常識と平穏を守るためにあるんだから……ただ、私が知っているだけだ」
「あるわけが無い。警察ってのはね、常識と平穏を守るためにあるんだから……ただ、私が知っているだけだ」
その眼光が、青年を射竦める
「お前さん、何をするつもりだ?」 アンタタチ
「別に、悪い事はしねぇよ。不甲斐ない警察の尻拭いさ」
「別に、悪い事はしねぇよ。不甲斐ない警察の尻拭いさ」
青年はそう言って、またくくっと喉を鳴らす
「全国放送規模の報道が一年以上続けられ、その報道が途絶えてから一年以上が経過した者をターゲットにして、だ。狙いを定めてから更に一週間の間、ターゲットに関しての全国放送規模の報道が一切無ければ……そいつは死ぬ」
自らの能力を説明してから、青年は念を押すように老刑事の目を見詰める
「言っておくが俺は、この能力を罪の無い者や、罪のはっきりしない者にも使った事はない。恨まれていようが逮捕され刑に処された者にもだ」
「我々警察が捕らえる事ができず、公の場に出ずに逃げ遂せている者のみを対象にしているという訳か」
「それも、被害者や遺族に意思確認をした上でな。どうしても法で裁きたい、警察を信用したいと言われりゃ、すっぱり引き下がるのが信条さ。元々は殺しのための能力じゃ無ぇしな、俺の『志○けん死亡説』は」
「……犯罪者は、法の下で裁かれるべきだ」
「俺もそう思うよ。だが、実際のところ裁けてないから仕方ないじゃん?」
「今一度、報道を利用すれば、私の能力で逮捕してみせる。全国放送規模の報道で、『逮捕された』という情報を流せば、どこに隠れている犯罪者でも二十四時間以内に逮捕ができる。それが『高○名人逮捕説』の能力だ」
「我々警察が捕らえる事ができず、公の場に出ずに逃げ遂せている者のみを対象にしているという訳か」
「それも、被害者や遺族に意思確認をした上でな。どうしても法で裁きたい、警察を信用したいと言われりゃ、すっぱり引き下がるのが信条さ。元々は殺しのための能力じゃ無ぇしな、俺の『志○けん死亡説』は」
「……犯罪者は、法の下で裁かれるべきだ」
「俺もそう思うよ。だが、実際のところ裁けてないから仕方ないじゃん?」
「今一度、報道を利用すれば、私の能力で逮捕してみせる。全国放送規模の報道で、『逮捕された』という情報を流せば、どこに隠れている犯罪者でも二十四時間以内に逮捕ができる。それが『高○名人逮捕説』の能力だ」
想像以上の効果的な能力に、青年は一瞬絶句し
「おいおい……何でその能力、もっとバンバン使わないわけ?」
「一介の刑事に、そうそう報道機関に働きかけて、未確定の情報を流させる事はできんよ。都市伝説の契約能力など、契約者しか理解しないだろうからな」
「一介の刑事に、そうそう報道機関に働きかけて、未確定の情報を流させる事はできんよ。都市伝説の契約能力など、契約者しか理解しないだろうからな」
その言葉に、青年はやれやれと肩を竦める
「今回はできんの?」
「今回だけだがね」
「何でだよ」
「金さ」
「今回だけだがね」
「何でだよ」
「金さ」
老刑事は、自重気味に笑った
「マスコミを動かすにゃあ金がいる。定年間近のジジイが用意できたのは、たったの一回分だけだ」
「じゃあ最後の質問だ」
「じゃあ最後の質問だ」
笑みの消えた顔で、青年は老刑事をまっすぐに見据える
「何で、この事件を解決しようと選んだ?」
「一度関ったから、じゃあ駄目かね」
「ふぅん……それじゃま、決めるのはそっちだな」
「一度関ったから、じゃあ駄目かね」
「ふぅん……それじゃま、決めるのはそっちだな」
青年はそう言うと、それまで黙って話を聞いていた夫婦を振り返る
「こっちの刑事さんに任せりゃ、逮捕される。ただし犯人は……初犯で計画性は無しときたらまあ死刑は無ぇわな、加害者様の人権が大事で大事で仕方ない今の日本の司法じゃな」
夫婦は、やや狼狽した様子で青年と老刑事を交互に見る
「刑事さんを突っぱねて俺に任せたままにしておけば……一週間後、犯人は罪の報いを受けてあの世逝きだ。勿論、殺すのは俺でもあんた達でもない。人一人殺して逃げ回ってる奴が、逃亡先でたまたま死ぬだけ、有る意味で天の裁きってやつだね」
あからさまに死を誘う青年の言葉に、老刑事は何も反論しない
「あんた達は選ぶわけじゃない。ただ、どうあって欲しいかを口にすればいい。娘を殺した奴が、どう裁かれるべきかを」
―――
逃亡を続けた殺人犯の最後は、あまりにも呆気なかった
ネタの無い頃合だったワイドショーは大々的に食いつき、その有様は一週間が経った今でも世間を賑わせている
ネタの無い頃合だったワイドショーは大々的に食いつき、その有様は一週間が経った今でも世間を賑わせている
「マスコミは結果にだけはよく食いつくね。警察の捜査の邪魔ばっかりしやがる癖にな」
ワンセグでニュースの映像を見ながら、青年は小馬鹿にしたように笑う
「あんたも大変だったね」
「私は金を出しただけだよ。犯人が捕まって欲しいと願ったのはあの子の親だし、報道での呼び掛けで集まった情報で動いたのは潜伏先の所轄の警察達だ」
「あんたの能力が無けりゃ、その情報も入らなかったり、警察がドジ踏んだりしたかもしれないだろ?」
「私の契約能力なんてもんが、ただの妄言かもしれんだろう?」
「だが、あんたは経過を語り、結果が残った。まあ今回は俺の負け……いや、まあポイントでいきゃあ勝ちなのかな」
「私は金を出しただけだよ。犯人が捕まって欲しいと願ったのはあの子の親だし、報道での呼び掛けで集まった情報で動いたのは潜伏先の所轄の警察達だ」
「あんたの能力が無けりゃ、その情報も入らなかったり、警察がドジ踏んだりしたかもしれないだろ?」
「私の契約能力なんてもんが、ただの妄言かもしれんだろう?」
「だが、あんたは経過を語り、結果が残った。まあ今回は俺の負け……いや、まあポイントでいきゃあ勝ちなのかな」
青年が見ていたワイドショーの内容は、先程までの殺人犯逮捕のものとは比べ物にならない大騒ぎのものだった
逮捕された男の親族だったという大物政治家の急死に、マスコミはこぞって喰らいついていたのだ
その大物政治家は一年程前に違法な献金の問題で公の場から姿を晦ましており、様々な方面から手を回してマスコミ各所を黙らせていたのだが
逮捕された男の親族だったという大物政治家の急死に、マスコミはこぞって喰らいついていたのだ
その大物政治家は一年程前に違法な献金の問題で公の場から姿を晦ましており、様々な方面から手を回してマスコミ各所を黙らせていたのだが
「お前さんが狙ってたのは、最初からそっちだったのかい」
「献金問題のついでに親戚の犯罪の話題まで押さえつけてたんだ。警察にまで圧力を掛けて、担当の刑事を捜査から追いやったりもしてたしな」
「罪の無い者や、罪のはっきりしない者には手を下さないんじゃなかったのか?」
「はっきりしてるぜ? あのジジイを告発しようとして変死した秘書、俺の親父だもん」
「献金問題のついでに親戚の犯罪の話題まで押さえつけてたんだ。警察にまで圧力を掛けて、担当の刑事を捜査から追いやったりもしてたしな」
「罪の無い者や、罪のはっきりしない者には手を下さないんじゃなかったのか?」
「はっきりしてるぜ? あのジジイを告発しようとして変死した秘書、俺の親父だもん」
そう言って青年はけらけらと笑う
「まあ、大事な証拠を息子に盗み見されるような警戒具合じゃ、当然の結果だったのかもしれんけどね。だからまあ、アレだ。『被害者遺族の意思確認』はしっかりしてあるぜ?」
「殺人事件の犯人は、ついでだったとでも言うのかい」
「まとめて片付けた方が後腐れ無いかなと思っただけだよ。片方だけ始末すると、関連報道が賑わって狙うチャンスが先送りになるしな」
「殺人事件の犯人は、ついでだったとでも言うのかい」
「まとめて片付けた方が後腐れ無いかなと思っただけだよ。片方だけ始末すると、関連報道が賑わって狙うチャンスが先送りになるしな」
ワンセグの映像を切り、携帯電話をポケットに押し込み
青年は老刑事の肩をぽんと叩いて、そのまま擦れ違うように歩いていく
青年は老刑事の肩をぽんと叩いて、そのまま擦れ違うように歩いていく
「お前さん、その都市伝説との契約を解除する気は無いのかい」
「警察と裁判所がもっとまともに機能するようになったら、そもそも使う機会は無いかもな」
「警察と裁判所がもっとまともに機能するようになったら、そもそも使う機会は無いかもな」
ひらひらと手を振りながら去っていく青年を、老刑事は黙って見送る
それは青年の行動を認めたためか、己の不甲斐なさを認めたためか
老刑事は何も語らず、静かにその場を去るのみだった
それは青年の行動を認めたためか、己の不甲斐なさを認めたためか
老刑事は何も語らず、静かにその場を去るのみだった