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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 逢瀬佳奈美と宮定繰-04

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Elfriede

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逢瀬佳奈美と宮定繰 04


 それは卒業式の夜の事
 脱いだばかりのウエディングドレスが、保管用にと預けられた専用のハンガーに掛けられて、開け放たれたクローゼットに吊るされている
 ディランが着ていた白いスーツも、それに寄り添うように並べて吊るされている
 照明の切られた暗い部屋の中、窓から漏れ込む微かな明かりが、ベッドに横たわる二人の姿をシルエットで浮かび上がらせていた

「先生……」

 どこか不安げな、憂いを帯びた声
 ディランはその不安を拭うかのように、そっと繰の身体を抱き締める

「まだこういう事が怖いなら、無理をしなくてもいいんだよ?」
「ん……そういう、事じゃないの」

 腕を背中に回して、ディランの胸に顔を寄せながら

「愛し合うために、その……するのは、解るの。でも、子供を作る行為でもあるのよね?」
「正直、僕と繰ちゃんだと、できるかはわからないけど。子供ができるのが、怖いの?」
「ううん……先生と愛し合って、そうして子供が産めるなら、その、とても嬉しい事だとは思うんだけど」

 繰の顔が、不安げに歪む

「私は、親が子に何をするべきなのか、知らないから。子が親にしてもらう事を、何も知らないから」

 背中に回した震える手に、きゅっと力が篭る

「そんな私が、産まれてきた子をきちんと愛してあげられるか、不安で仕方ないの」
「大丈夫」

 繰が己の不安を吐露するのを遮るように、ディランが優しくそう囁く

「難しく考えなくてもいいんだよ。繰ちゃんなら、きっと良いお母さんになれるから」
「そ、そんな簡単に解る事なの?」
「解るよ」

 そっと繰の頬を撫で、優しく顔を上げさせて

「繰ちゃんが大好きな僕が、保障するから。それでも不安なところは、二人で一緒に埋めていこう」

 優しく触れ合う、優しい口付けを交わし
 抱き締めあう腕が自然と離れ、指が触れ合い絡み合い

―――

 そこは、夢の中
 身体も心も愛欲と快楽で溺れる程に満たされた中で、押し込められるように追いやられた不安という名の理性
 ただただ孤独だった幼少期の思い出を体現するかのように、幼い容姿の繰が裸身でじっと立ち尽くしている

《大丈夫だよ》

 声は、直接心に語りかけてくるかのように

《繰はとても優しい子。ディランも、佳奈美も、友達も……そして私もそれは知っているよ》
「でも、わたしはなにもしらない。おかあさんがなにをすればいいのか、なにもしらない」
《解らないのはとても不安。でも繰なら、解らなくても大丈夫》

 諭すでもなく、ただ導くように

《佳奈美とお友達になる方法を、繰は知っていた? ディランに好きと伝える方法を、繰は知っていた?》

 声は、優しく語る

《産まれてくる子に、自分と同じ辛い思いをさせたくないって解ってる。だから繰は大丈夫》
「でも、こわいよ……あかちゃんは、わたしにことばをつたえられない。わたしみたいに、ひとりでがまんさせてしまうかもしれない

 頭を抱え、身体を丸め
 駄々をこねる子供のように、周囲を拒絶して座り込む繰

「わたしにはむりだよ。きっとこどもをつらいめにあわせてしまう。せんせいをしつぼうさせてしまう」

 そんな彼女の様子に、声はふうと溜息を漏らし

《じゃあ、私で練習しようか》
「……え?」

 思わず顔を上げたその時に
 頭をぺしぺしと叩かれた

《本当に解らない時だけ、教えてあげる。でも、繰がちゃんとお母さんをできてるのなら、私はただの子供だからね?》

 声は、そう言って
 小さな光の粒となり、繰の小さな体躯の小さなお腹に吸い込まれるように消えていく

―――

「あ、繰? ひさしぶりー」
「あら、佳奈美?」

 卒業してから半年程
 状況と生活の変化に対応するため四苦八苦していた二人は、メールや電話などは度々していたものの、顔を合わせて会うのは久し振りだった

「学校が無いとやっぱりあんまり会わなくなっちゃうねー」
「そんな遠くでもないんだけどね。私は先生のところに住んでたままだからマシだったけど、佳奈美は大変だったでしょ?」
「宏也さんのお部屋に引越しするところからだったからねー。ところで今どれぐらい?」

 佳奈美の問いに、繰はどこか躊躇するように視線を逸らす

「……六ヶ月、ぐらい?」

 既に服の上からでも解る程度にぽってりとしたお腹に手を置いて、苦笑を浮かべる繰

「そういう佳奈美は?」
「四ヶ月ちょっとかな? でも、服がゆったりしてるとあんまりわかんないでしょ」

 そう言って服を押さえて見せる佳奈美のお腹は、確かにそんな感じに見える

「ん? 六ヶ月?」
「佳奈美、気持ちは判るけど指折って数えないで、お願いだから」

 卒業から半年して再会して、妊娠六ヶ月
 つまりはまあ、そういう事で

「ディラン先生、凄いなぁ」
「佳奈美、その誉められ方あんまり嬉しくない」
「あはは、ごめんごめん」

 耳まで真っ赤になって俯く繰の隣に、佳奈美がぽすんと座る

「名前とか決めてる? 男の子? 女の子?」
「女の子。名前はまだ……なんか、決めあぐねちゃって。佳奈美は?」
「男の子。数字の十に、宏也さんの也ってつけて、とおや」
「あなたの家系、数字の桁続きね。お婆ちゃんが万華で、お母さんが千春でしょ? 妹さんが百華で、あなたの子が十也」
「……ほんとだ!?」
「しかも小さくなっていってるし」
「どうしよう! 大きくした方がいい!? 億康とか!」
「別に大きくする必要はないけど。あと、なんかその名前は止めときなさい。なんとなくだけど」
「はいはい、あんまり興奮しちゃ駄目ですよお母さん達」

 二人のとりとめもない会話に割り込んできたのは、看護婦姿の『口裂け女』のミツキ

「宮定さん、診察室へどうぞ」
「ありがとうございます。佳奈美はすぐ帰る?」
「宏也さんが迎えに来てくれるから待ってるー」
「ん、それじゃまた後でね」

 軽く手を振りながら診察室に入っていく繰

「ふむ。経過は順調だな」

 一通り診察を済ませたドクターは、繰のお腹を優しく撫でながらそう呟く

「あの、先生」

 繰の中では、先生という名称はディランに向けられるものなのだが
 こういった場では何かとややこしいなと内心思い、ディランの事もきちんと名前で呼べるようにならなければと常々思ってはいる
 それでも、慣れと気恥ずかしさからなかなか上手くいかないのもまた事実だったりする

「私の、その、だ、旦那さんは……人間じゃないんですけど、大丈夫なんでしょうか」
「経過を見る限り何ら問題は無いな。当院では男性側が都市伝説、女性側が人間という夫婦の出産を二件ほど経験しているぞ?」

 他にもそういった夫婦がいるという事例を告げられて、少し心が落ち着く

「私は……まだ高校を卒業したばかりで。母親として上手くやっていけるか、不安なんですが」
「ふむ」

 その言葉に、ドクターは小さく唸る

「君は、一人で子供を育てるつもりかね?」
「え? い、いえ」
「そうだとも。君には共にその子を成した愛する人が居る。診察室で話していた心を許せる友人が居る。ボク達も微力ながら力を尽くそう」

 肩に手を置いて、ドクターは優しく微笑む

「君はきっと良い母になれるとも。根拠は無いがボクが保障する」
「根拠、無いんですか」
「敢えてあるとするならば、ボクの女性を見る目は確実という辺りかな?」

―――

 年の暮れの寒い日の事
 診療所の待合室で、落ち着かない様子でそわそわと歩き回っていたディランとそれを宥めているサキュバスが、ぴたりと動きを止めた
 分娩室に響く産声は、その存在が確かなものだと主張しているかのようで
 すっかり憔悴し切った繰の意識をはっきりさせるには充分なものだった

「母子ともに問題なし。元気で可愛い女の子だ」

 産後の処置を手早く済ませたドクターが、繰の手を優しく握る

「赤子の処置もすぐ終わるが、抱くのはベッドに戻ってからにするかね?」
「いえ……すぐ、見たいです」
「判った。それではミツキ、旦那さんを呼んできてくれ」
「はい、了解です」

 まだ慌ただしい様子の分娩室
 ミツキに案内されたディランが入ってくると、繰の顔に僅かにほころぶ

「繰ちゃん、頑張ったね」
「……うん」

 言葉は少ないが
 ただ、多くは必要無いだけ
 そんな二人の間に、新生児用の長肌着に包まれた小さな小さな命が運ばれてくる

「首が据わってないから、きちんと腕で支えてあげるように……そう」

 ミツキに教えられ組まれた腕の上に、ドクターの手からそっと赤子が移される
 生命そのものを感じさせる声を上げている小さな身体
 それを確かめるかのように、自然と繰の指先が小さな手に触れようとした、その時
 まだ目も見えていない、呼吸をするだけで精一杯の赤子の手が、ぺしぺしと繰の指先を叩く
 それはかつて、声の出ない友がそうしたように
 それはかつて、夢の中で語りかけてきた誰かがそうしたように

「ねえ、先生……名前、決めちゃっていいかな」
「うん。何て名前にするの?」

 繰は指先を叩かれながら、涙を浮かべて囁いた

「おかえり、菊花」


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