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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 逢瀬佳奈美と宮定繰-03

最終更新:

Elfriede

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逢瀬佳奈美と宮定繰 03


 早朝、まだ朝日が昇るよりも前
 煌々と明かりの灯ったブティックの入り口に、一台のトラックがやってくる

「おう、来てくれたか」
「時間外労働ぶっちぎりだけどね」

 玄関先の常夜灯の蒼白い光のせいだけではない、疲労困憊で血の気の失せた顔をした顔をしたブティックの社長
 運転席から身を乗り出して、運転手の青年は笑顔で嫌味を言うが、それを嫌味と受け取る気力も残っていないようだ

「朝イチじゃ駄目なの?」
「本当は夜半前に搬入したかったんだが、ギリギリ間に合わなくてな。頼めるのがお前しかいなかった」
「いや、俺も引き受けたくなかったんだけどね。時間外労働や超過勤務は運転の敵だもん」

 そう言いながらも青年は運転席を降りて、荷台の扉をがちゃりと開く

「徹夜何日目?」
「四日目。そろそろヤバイから手早く頼む」
「了解、積荷はどこ?」
「こっちだ」
「ほいほいっと……んじゃ、ちょっと車頼むね」

 ふらふらと歩く社長の後ろについていきながら、青年は空っぽのはずの運転席に呼びかける
 そこには不自然な角度で、フロントガラスを背に膝を抱えて座る少女が、呼びかけに応えるように笑顔で手を振っていた

「布ものにしては丈夫だが、このまま運べるか?」
「マネキンごと持ってってもいいなら、ちゃんと固定すれば問題無いよ。届け先の許可は?」
「宿直の教師に話がついてる。空き教室が確保してあるそうだから、そこへ頼む」
「了解っと」

 青年がふと視線を落とすと、そこにはソファで眠りこけてるアルバイトの少女の姿

「中央高校の子?」
「明日卒業式だから帰って寝とけって言ったんだがな。ギリギリまでやりたいっつってこの有様だ」
「ふぅん……これ、その子の発案?」
「いんや? うちのツテがあったら引き受けただけで、黒幕は別の奴だそうだが」
「俺達の代も結構ハッスルしてたけど、年々気性が激しくなってるのかな、中央高校の生徒」
「こいつらの代が異様に派手なだけだろ……と、んじゃ頼む。俺もマジやばい、寝れる」
「寝るのは良いけど、搬出終わって鍵掛けてからにしなよ?」
「ぬぅ……早急に頼む」
「はいはい。こっちのマネキンごと四着と、他は?」
「その他の小物と着付けの仕様書。仕様書は箱に入れないで上に乗っけておいてくれ」
「了解了解」

 言われるが早いか、指定されたものをてきぱきと荷台に積み込んでいく青年
 ものの数分で、荷台の中にしっかりと固定されていくマネキン達を見送り、安堵したように玄関先に座り込んでしまう社長

「んじゃ、ちゃっちゃと運んでくるからゆっくり休むといいよ……って」

 青年が声を掛けたその先には、座り込んだまま寝息を立てている社長の姿

「しょうがないなぁ……えーと」

 青年は社長をひょいと抱え上げると、室内をきょろきょろと見回し

「ここでいいや」

 ソファで寝ているアルバイトの少女をぐいぐいと端に寄せ、空いたスペースに社長を押し込んで、ご丁寧に毛布も掛け直していった
 ぱたぱたとトラックの運転席に戻った青年は、そこで待っていた少女、『あの世送りのカーナビ』に微笑み掛ける

「鍵、掛けといてあげれる?」
「ん、いいけどね。たまには使わないと感覚忘れちゃうし」

 少女がちょいと指を振ると、念動力か何かの力でブティックの入り口の鍵がかちゃんと掛かる
 本来は、車のドアにロックを掛けて獲物を逃がさないようにするための能力なのだが、そこは契約による拡大解釈というやつである

「そいじゃま、慌てず安全運転で急いで行くとしますか」
「はーい、信号に引っ掛からない道をナビるからねー」

 ゆっくりと発進し、店の前から遠ざかっていくエンジン音
 そして訪れる、夜明けまでの僅かな時間の静寂
 目を覚ましたアルバイト少女のリアクションでそれがぶち壊されるまで、まだ二時間ほどの余裕があったのだった

―――

 人の気配の全く無い、だがそれ以外の数多の気配がざわめく明け方の中央高校
 夜明けと共にそれらは物陰へと、隙間へと、潜む場所へと隠れていく
 そんな気配の残滓を蹴散らすように、宿直の教師の立会いの下で荷運びに奔走する青年の姿
 運び込まれたそれは、誰も訪れない空き教室で、静かに己の出番を待つ
 遠く離れた体育館で行われる卒業式が、恙無く終わるその時を

―――

 卒業を、そして進学や就職を称え合う笑顔
 別れを惜しみ再会を約束する涙
 様々な生徒達の様々な表情が交錯する中、宮定繰はどこか所在なさげにぼんやりと自分の席に座り込んでいた

「どしたの、繰?」
「佳奈美……」

 丸めた卒業証書でぺしりと頭を叩かれて顔を上げると、そこには親友である逢瀬佳奈美の笑顔

「なんか、こう……ね、あんまり実感が湧かないのよね、卒業って言っても」
「まー繰は卒業とか割とどうでもいいやって考えだったし、人生の節目っていうよりちょっとしたハードルって感じだったもんね」
「単位や出席日数が大丈夫だって判った時点で、大体片付いた感じだったし」

 ふうと溜息を吐いて、佳奈美が背にした教室の様子をぼんやりと眺める

「ただ、もうここに来なくなるってだけ……なのよね」
「宮定さんが何か寂しい事言ってるー!」
「私達と毎日顔を合わせる事が無くなるってのに!」
「みゃーちゃんのいけずぅ」
「くっくるんとあたしの関係ってその程度のものだったのね!」
「にゃー!?」

 佳奈美をぐいぐいと押し退けて、周囲に居たクラスメイトの女子達が繰の周りに人垣を作る

「宮定さんは、私達と会えなくなるのは寂しくないの!?」
「いや……皆、大体近場の大学とか就職先じゃない。会おうと思えばすぐ会えるし」
「学校では会おうと思わなくても会えてたんだから。宮定さんはこれから毎日、私達全員と会おうと思ってくれる?」
「皆それぞれの生活あるんだし、そういうわけにもいかないでしょうが」
「みゃーちゃんが思うか思わないかが問題なの。そこんところどうなのかな?」
「ぶっちゃけ毎日とかは鬱陶しいから無理」
「ごふうっ!?」
「ばっさり斬って捨ててきた!?」

 項垂れ崩れ落ちる数名のクラスメイト達に、繰は苦笑を向ける

「鬱陶しいってのは冗談だけど。毎日顔を合わせるとか、家族でもなきゃ無理でしょ、常識的に考えて」
「じゃあ家族になる! 繰ちゃんは嫁と旦那どっちがいい!?」
「姉とか妹でもいいよ?」
「いっそ娘とか」
「それならママと呼んで!」
「本気で言ってたら流石にぶっ飛ばすわよ?」
「冗談だってばー」
「本気に聞こえたらそれはそれでどうかと思うぞぅ?」
「あんた達の冗談は、たまに冗談に聞こえないから扱いに困るのよ」

 笑顔で拳を握り込む繰を、クラスメイト達はぺちぺちと叩く

「ていうか繰、お嫁さんって正直どう?」
「どうって……何よ」
「ウェディングドレスの花嫁って、素敵だと思わない?」
「……まあ、綺麗だとは思うけど」
「友達のウェディングドレス姿とか、祝福したくなると思わない?」
「まあ、そりゃあ友達の門出ぐらいは祝って当たり前だと思うけど。誰か結婚とかの予定でもあるの?」

 質問の意味が理解できず、首を傾げる繰

「式の日取りとか決まってるなら顔ぐらいは出すけど……ねえ、佳奈美?」

 困ったように親友の姿を探すが、ふと気が付けば人垣の何処にも佳奈美の姿は見当たらない

「逢瀬さんが何処に行ったのか、気になる?」
「……どういう意味?」

 クラスメイトの一人が、意味ありげにくすりと微笑み
 すぅっと腕を上げると、ぱちんと指を鳴らした
 それと同時に周りを囲んでいた人垣が一糸乱れぬ動きで繰の両腕をがしりと押さえつける

「ちょっ、何!?」

 ずるりと椅子から引き摺り下ろされ、即座に両足も押さえ込まれ
 そのまま担ぎ上げられるように教室から運び出されていく

「な、何っ!? どういうつもりっ!?」

 狼狽する繰と、きゃいきゃいとはしゃぐ女子一同
 事情を知らされていない一部の女子と大半の男子は呆然とその様子を見送り
 ただ一人事情を察していた獄門寺龍一だけが、一人静かに溜息とも感心ともつかない微妙な吐息を漏らしていたのだった

―――

「にゃー!? すとっぷ、すとーっぷ!?」
「ええいカナちん、ここまできて往生際が悪いぞ!」
「往生際も何も、卒業式の日に学校で真っ裸に剥かれるとか流石にどうかと思うよ!?」

 現在では使われていない空き教室の一つ
 ガラスは全て目隠しの暗幕が掛けられており、昼間だというのに蛍光灯の頼りない明かりだけが、佳奈美の柔肌を照らし出している

「大人しくぱんつも脱ぐが良い! そうでないと着付けができん!」
「だから、何の着付け!?」
「今日という日に限って柄物なんぞ穿いてくる方が悪い! くまさんプリントとかギャルゲーのヒロインかー!」
「理不尽な怒られ方だよ!? というか何で白いレースの下着とかガードルとか用意されてるの!?」
「うふふ、勿論カナちんに穿かせるために決まってるじゃない」
「いやだから何でー!?」
「全身コーディネートだからに決まってるでしょう! 全部手縫いの逸品なんだから、心して穿くがよい!」
「何であたしのサイズの手縫いの逸品なんて存在してるのかな!?」
「カナちんの彼氏さんにサイズ聞いた」
「宏也さーん!?」
「ええい、埒が開かん! クラスメイト諸君、埒を開けたまえ!」
「佳奈美、ごめんねー」
「面白そうだったからついつい」
「でも佳奈美にも悪い事じゃないから、とりあえずやってみ?」
「わ、わかったから!? 自分で脱いで自分で穿くから放してー!?」
「佳奈美、下着のつけ方適当だから却下。フィッティングとかちゃんと勉強してる私に任せなさい」
「にゃー!?」

 どったんばったんと騒がしい空き教室に、コンコンと響くノックの音
 すぐさまほぼ全裸の佳奈美を隠すようにクラスメイト達が暗幕を展開する

「おっけー、いいよー」

 そっと扉の隙間から中の様子を伺い、佳奈美のあられもない姿が廊下に見えないと確認してから
 繰を担いだ女子一同が、空き教室にどかどかと乗り込んでくる

「ちょっと、さっきから何してるのこれ!? というか放しなさいよそろそろ!」
「繰っ!?」
「佳奈美!?」

 親友の声を互いに確認し、思わず声が荒くなる二人

「予定よりちょっと早いよー」
「むしろそっちが遅くない?」
「あれ、そう? 佳奈美が抵抗するから手間取っちゃって」
「何さ、事情話してないの?」
「サプライズにしようと思ってたから」
「サプライズで着付けまでするなら、眠らせるか気絶させないと無理でしょ。ちゃんと事情話して」
「あ、そういやそうね」
「じ、事情って何!? いやホントに何!?」

 全く事情が理解できない会話を繰り広げるクラスメイト達に、佳奈美は目を白黒させながら悲鳴じみた声を上げる

「んふふー、あのねー?」

 こそこそと佳奈美に耳打ちをするその声は、暗幕の向こうの繰には聞こえない

「ちょっと、佳奈美に何してるの!? 佳奈美、大丈夫!?」
「あ、うん。とりあえず変な事じゃないのは判った……けど、せめて説明してから連れてきて欲しかったよ」

 はふうと漏れる溜息の音と
 観念したかのように、僅かな衣擦れの音が暗幕の向こうから繰に伝わってくる

「本当に何をしてんのよ、皆」
「んふー、秘密ぅ」
「見てのお楽しみってやつ?」
「さぁて見るだけで済むかなぁ、うへへ」
「あんた喋り方おかしい」
「ごめん、ここ三日ぐらいで四時間ぐらいしか寝てないから」
「何やってんのよあんたは……」

 床には足をついたものの、両腕をがっちりと押さえつけられたままの繰は、妙ににやにやしているクラスメイト達を不安げに見回す

「普段からちゃんとフィッティングしてないとねー、こうやって脇腹とかお腹に肉がね?」
「寄せて上げたりしながらの解説は色々と生々しいよ!?」
「下着はちゃんとつけないと健康にも影響あるから説明してんの。その辺雑だから、佳奈美の胸は育たないのよ」
「……ちゃんとやってたら育つの?」
「寄せて上げた分が定位置に収まるぐらいには?」
「下着オッケー? それじゃあ本命いきまーす」
「ふわぁっ!? なにこれ!」

 驚いた声を上げる佳奈美に、繰を押さえつけているクラスメイトの少女がにやりと笑みを浮かべる

「うふふー、お気に召してくれた? うちの就職先のデザイナー兼社長手ずから仕上げた逸品よ。あ、刺繍と縫製はあたしー」
「刺繍とか縫製とか……服?」
「うん、特別な服よ? 特別な日に着るための」
「特別な日って、卒業式? 着物か何か?」
「大学の卒業式だとそういうの着るねー。でもうちの就職先、洋裁だから」
「あー、和装も良かったかもねー」
「逢瀬さんそっちも似合うかも」
「でも流石にそっちのコネは無かったしなぁ」
「神社のコネとか一番あるの、佳奈美だもんねぇ」
「毎年巫女さんやってたし」
「こっそりやるの難しいもんね」

 そんな話をしている間に、暗幕の向こうでは衣擦れの音が止み

「凄いなぁ、サイズぴったり」
「そりゃあもう期日ギリギリまで毎日サイズ確認してたからね。手で」
「やたらとセクハラ増えてたの、このせい!?」
「かなみーん、着付け終わったなら見せて見せてー」
「そうそう、宮定さんにも見せたげないと、なんかまだ心配そうだしー」
「拉致られてひん剥かれてるとこに遭遇したら心配するわよ普通!?」
「色々小物もあるからちょっと待ってねー」
「暴れたから髪もちょっと整えてー……うん、良し」
「これ持ってねー」
「こういうの持つの本番じゃないの?」
「うふふー、ノリよノリ」

 ばさりと暗幕が取り払われ、視線を遮るものが無くなった
 黒が占めていた視界に現れたのは、純白のドレスに身を包んだ佳奈美の姿
 首周りから胸元にかけては緻密な刺繍で彩られ、腰周りから足元にかけてをふわふわと覆うレースのプリーツ
 大輪のコサージュとレースのリボンで彩られた造形は、まるでプレゼントとしてラッピングされているかのようだった
 そして何よりそのドレスを印象付けるのは、照れたようにはにかむ佳奈美の顔を覆うヴェールと、白いすらりとした長手袋に覆われた両手で抱えたブーケ

「ウェディング、ドレス?」
「ドレスだけではありませーん」

 クラスメイトの一人が、携帯電話を取り出して何処かへと連絡をしている
 気付けば何やら騒がしい廊下から、遠慮がちに教室に入ってきたのは

「あれ、おとーさん?」

 佳奈美の父である、逢瀬乗次である
 佳奈美も、卒業式に保護者として来ているのは知っていたが、こうして校内で出会う事は想定外だった

「お話を聞いた時はびっくりしたよ、佳奈美」
「いや、あたしも何も知らなかったからびっくりだよ!? というかお父さん知ってたの!?」
「千春さんがもうノリノリだったから」
「おかーさんまで!?」
「それよりも、あまり待たせるのも申し訳ないからね。ほら佳奈美、行こうか」
「え、待たせるって? おかーさんにも見せるの?」
「……本当に何も聞いてないんだね」

 父に手を引かれて廊下へと出て行く佳奈美を呆然と見送ってから
 繰はようやくクラスメイトの拘束から解き放たれる

「どう、びっくりした? びっくりした?」
「佳奈美ってば目をキラキラさせちゃってたよね。あんまり状況は理解してなかったけど」
「大丈夫、すぐ状況は理解するわよ」
「そうね、お父さんが道すがら説明してくれるだろうし」
「それじゃあ次ね」
「ええ、次よ次」

 繰を捕まえていた面々は教室の出入り口を封鎖し
 佳奈美の着替えを担当していた面々が、手をわきわきと動かしながら繰ににじり寄ってくる

「え……な、何?」

 クラスメイトの女子一同は、天使のような笑顔を浮かべながら、獰猛な肉食獣のような気配で

「繰も、着ようか?」
「何を!?」
「ウエディングドレス♪」
「な、何で私がそんなの着るのよ!」
「宮定さんってばさー、放っといたら一生着ないでしょ、こういうの」
「……好き好んでは着ないわよ、そりゃ」
「ディラン先生かわいそー」
「な、何でそこで先生の名前が出てくんのよ!?」
「繰は見せたくないの? ディラン先生に」
「はっ……は、ははは、恥かしいでしょ!? 私にああいうの似合うわけがっ!」
「大丈夫、デザインはちゃんと宮定さん用だから。サイズも」
「どういう事!?」
「宮定さんが着てくれないと、デザインも予算も製作に費やした膨大な時間と労力も全部無駄になるの」
「う……ぐっ……」

 迷っている
 それはつまり、着てもいいという気持ちも内心あるという事

「とりあえず着てみてよ、一回も着てもらえないと作ったあたしが無くぞぅ」
「友達の努力を無駄にするのー?」
「きっと似合うと思うんだけどなー」
「ディラン先生も、きっと喜んでくれると思うんだけど」

 そう判断したクラスメイト女子一同の総攻撃に
 繰は抗戦も逃亡も許されず、なし崩し的に暗幕の向こうへと引きずり込まれていくのであった

―――

 そこは、ついしばらく前まで卒業式が行われていた体育館
 並べられた椅子などはほぼそのままだったが、ただ壇上へと向かう中央の椅子だけが取り除かれ、赤い絨毯で道を作られていた

「お待たせ」

 乗次がそう言って笑顔を向けた先に立っていたのは

「宏也、さん?」

 佳奈美が戸惑うのも無理は無い
 そこに居た広瀬宏也という男の外見については、今まで『組織』の『黒服』としての姿しか見た事が無い
 特徴と個性を消すための特徴と個性であった黒いサングラスとスーツではない、佳奈美のドレスに合わせたかのような純白のタキシード姿である

「それじゃあ、宏也くん」

 乗次は佳奈美と組んでいた腕をそっと解き

「佳奈美の事、よろしく頼むよ」
「ええ、俺の一生を以って応えます」

 戸惑う佳奈美の手を、乗次の手が宏也の腕へと運ぶ

「え、これ、その、えええええ!?」
「お前の友達、よくもまあこういう事考えついた上に実行するもんだな。俺なんかよりずっとぶっ飛んでるよ」

 見れば、壇上には誰かが立っている
 卒業式では校長が卒業証書の授与のために立っていたそこには、佳奈美にも見覚えのあるマッドガッサー一味の神父の姿
 並べられた椅子には佳奈美の見知った母や妹、滅多に会わない親戚達の他に、神父と一緒に来たのであろうマッドガッサー一味の面々の顔があった

「宏也さんは知ってたの?」
「まあな。そうでなきゃこんな格好はしてないし、知り合いの神父を手配したりもできないな」
「んもー、何で教えてくれないの?」
「友達連中が、あんまりにも楽しそうだったんで、つい……な」

 そう言いながら、宏也はふと時計を見る

「さて、もうそろそろかね」
「え、これ本当に式なの? 進行するの?」
「そりゃあわざわざ神父まで呼んだんだしな。そろそろってのは、それとは別に……お、来たな」

 宏也の視線は、壇上とは反対側
 体育館へと向かってくる廊下に向けられる
 そこには宏也と同じように、すらりとした白いタキシードを着せられたディランが、クラスの女子数名に背中を押されて運ばれてくる姿があった

「ディラン先生? あ、もしかして」
「そのもしかして、だな」

 悪戯が成功したようなにやにやした笑みを浮かべる宏也に釣られて、佳奈美もまた顔を輝かせる
 佳奈美達の元へと運ばれてきたディランの後ろからやってきたのは、A-No.18782にエスコートされてきた花嫁の姿
 全体的にふわりとしていた佳奈美のドレスとはまた違う、百合の花のようなすらりとしたシルエット
 チャイナドレスにも似た造形の、スリットの入ったシャープなラインのスカートが繰のスタイルを引き立てている

「どうも」

 ディランはもとより、宏也とも面識のあるA-No.18782は、過去のいざこざなど気にした様子も無く慇懃に頭を下げる

「何でお前さんが、彼女のエスコートなんだ?」
「まあ色々事情があって他にアテが無かったので。彼女の友人にも『引継ぎはちゃんとしなさい』と怒られたので、こうして来た次第です」

 そう言うとA-No.18782は、繰の手をディランに向けてそっと差し出させる

「では、以後の宮定さんについては完全に一任しますので。書類については既に決済も終わってますので問題なく。あとは……」

 ぴらりと取り出した書類を、二組のカップルに手渡していく

「後日、自治体の役所の方にこちらをどうぞ。『組織』では受理できませんのでお間違えのないように」

 渡された書類に書かれていた文字は、婚姻届

「戸籍上の問題などがありましたら、いつでもご相談は承りますよ? それでは」

 ディランと繰も引っ張り出し、準備は万端と言わんばかりに集まってきたクラスメイト達に紛れるように、A-No.18782はするりと姿を消してしまった

「食えねぇ奴だな」
「悪い人ではないんですけどね」

 顔を見合わせて、くすりと笑みを浮かべる宏也とディラン
 そして二人は、クラスメイト達に急かされる花嫁の手をそれぞれ取って、壇上へ向かって歩み出す
 まるでこれからの未来を暗示するかのような
 脇道など何一つ無い、祝福に彩られた真っ直ぐな道を

―――

「はー……今日一日で、一生分はしゃいじゃった気分だー」

 学校での挙式、そして披露宴という体の大騒ぎに二次会三次会を経て、ようやく家に戻ってきた佳奈美
 そのまま宏也と一緒に居ても良かったのだが

「第……何回だっけ、もうわかんないけどとりあえずあたし会議ー」

 今まで共に歩んできた都市伝説、『合わせ鏡の向こうに自分の死に顔が見える』が潜む三面鏡を開く
 いつもならそこには三面鏡の合わせ鏡に無限に映る自分が、一斉にこちらを見てくるはずなのだが

「お疲れ様」

 いつもとは違う、落ち着いた声
 こちらを見ているのは無数の合わせ鏡の中から、ほんのいくつかだけだった

「……あれ? 何で、おばーちゃんが居るの?」

 そこに映る姿は佳奈美の知る祖母の姿
 に、よく似た老いた女性の姿だった

「あたしは相変わらずね。鏡というものは自分の姿を映すものでしょうに」
「……え? えー!? だって今までは普通に今のあたしばっかり映ってたよ!? もしかしてもの凄い成長したとか!」
「成長なんかこれっぽっちもしてませんよ。あたしはあたしとは契約してからずっと、自分の死に顔を『近い順番』にしか映せてないだけなんですから」

 その言葉の意味がよく理解できず、佳奈美は首を捻る
 今まで三面鏡に映し出されていた『無限』の佳奈美の姿は、佳奈美の容姿がさして変わらぬ間に死が訪れる可能性が『無限』にあったという意味
 それは、安芸葉鳥という男が張り巡らせたドミノ倒しが要因であり
 それが取り除かれた今となっては、若くして命を落とす可能性がほぼ無くなったという事

「前の契約者は、死の『可能性』すら自在に映し出せて分身を生み出せたのだけど。あたしは本当にへっぽこねぇ」
「うぐぅ」

 いつもと同じからかいの言葉も、年老いた自分の姿が相手だと年上を相手にしているようで反撃がしにくい

「まあ、こうして死の予定も随分先になったみたいだし。あたしはそろそろお暇しようかと思っているのだけど」
「え? それってどういう事?」
「何だかんだで無限を内包したあたしの存在はね、あたしにとって負担になるだろうから。折角宏也さんが人間になったのに、あたしが都市伝説に呑まれちゃったら意味が無いでしょ?」
「そっか……それはそれで寂しいかなぁ」
「友達も沢山出来て、家族と素直に暮らせて、末永く共に歩む旦那まで手に入れて何を贅沢な」

 冗談めかしてそう語る鏡の中の佳奈美

「鏡に映る自分との一人遊びはもうお終い。自分よりももっと大事なもの、たくさんできたでしょう?」
「……うん」
「それじゃあ、あたしとあたしの契約はここまで」
「今まで、ありがとう」
「あたしは、あたし。自分にお礼を言ってどうするの」
「でも、こうして話してきたあたしは、やっぱりあたしとは違うあたしだから」

 佳奈美はそう言って、笑顔を向ける

「本当に、ありがとう」
「うん、それじゃあね」

 そう言って、鏡の中の佳奈美の姿はふつりと消え
 鏡として本来あるように、ただ前に立つ佳奈美の姿をそのままに映す三面鏡がそこにはあった

「本当に……ありがとう」

 佳奈美は繰り返し呟いて
 そっと、静かに三面鏡を閉じたのだった



 これにて一人の少女の物語は終わり

―――





 ぱたぱたと駆けてくる小さな足音
 朝の静かな部屋の中に、元気に飛び込んでくる小さな姿

「百華ー、早く支度しないと遅刻するわよー」

 遠くから聞こえてくる母の声に、逢瀬百華は身に纏ったセーラー服を見せびらかすように鏡の前に立つ

「第四回、あたし会議~」

 そんな百華の声に呼応するように、三面鏡に映るセーラー服姿の百華が、一斉にこちらを向いた

「今日から一年生、待ちに待った中学校でーす!」
「だいじょうぶー? あたしって狡猾い割に迂闊さんだからなー」
「大丈夫だよー、あたしだってもうお姉さんとしての自覚はあるんだから!」
「佳奈美お姉ちゃんのとこの十也くん、大きくなったよねー」
「繰さんのところの菊花ちゃんもねー」
「まー二人とも、あたしと一年ぐらいしか違わないんだけどね」
「そう、あたしは二人のお手本となる立派なお姉さんにならなきゃいけないのです!」
「でもぶっちゃけ、十也くんの方がしっかりしてるよね」
「菊花ちゃんの方がお姉さんみたいだよね」
「下手すると九衛ちゃんより年下に見られてるよね」
「だ、大丈夫! 佳奈美お姉ちゃんよりはしっかりしてるから!」
「そんな佳奈美お姉ちゃん、八澄くん産まれてからはかなりしっかりしてるしねー」
「とりあえず中学校初日から遅刻しそうになってるようだとまずいと思うよー?」
「なんですとっ!?」

 先程の母の警告がすっかり右から左へと通り抜けていたのか
 時計を見れば割とギリギリな時間である

「いっけない、急がないと!」
「急ぐのはいいけど、車には気をつけてねー」
「友達にはちゃんと挨拶しようねー」
「もちろん先生にもねー」
「大丈夫、社交性には自信があるんだから! それじゃ、いってきまーす!」

 百華は三面鏡をぱたんと閉じて、ぱたぱたと部屋を駆け出していき

 また一人の少女の物語が、始まっていく



The End?


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