――幸福な時を刻んだ彼ら彼女等が過ごした記念の一日
そのような感じでお読みいただければ幸いです――
そのような感じでお読みいただければ幸いです――
※当話は性的表現など、十八禁要素を含みます。お読みになる方は自己責任でお願いいたします※
「じゃあ夢子ちゃん、悪いけどリカちゃんのこと、頼んだぜ」
そう言ってリカちゃんを差し出した舞に、夢子は笑みで頷いた。
「はい、分かりました。リカちゃん、よろしくね?」
「わかったの」
元気よく返事を返したリカちゃんは、しかしその小さな頭を横に傾け、不思議そうに訊ねた。
「でも、お兄ちゃんもお姉ちゃんもどうしたの? 夢のお姉ちゃんと一緒に遊びに行かないの?」
「あー、まあ、ちょっと……な」
何やら歯切れ悪く言葉を返す舞の不審を取り繕うように、夢子が言葉を継いだ。
「お二人は大事な、とっても大事な二人だけのお仕事があるんですよ――ね?」
「あっははは……」
……ね、って言われてもなぁ……。
内心で呟きながら、舞はリカちゃんに頷いてやる。
「おう、まあそんな感じだから、さ。リカちゃんは夢子ちゃんと遊んできな」
「んー、わかったの」
疑問もなさげに再び元気よく答えたリカちゃんの様子に、舞は胸を撫で下ろす。
……さすがにリカちゃんに言うわけにはいかねえもんなぁ……。
マスコットに乗っかって≪夢の国≫へと遊びに行くリカちゃんに手を振りながら、舞は夢子に向き直る。頬をかいて言葉を探すようにしながら、
「あー、なんつーか、悪い……な。他の場所に預けてもいいんだけど……やっぱ動く人形が普通に動きまわって遊べるところに頼みたくてさ」
「いえいえ、頼っていただいて光栄です」
夢子はそう言って笑みを深くし、悪戯っぽく言う。
「いよいよTさんと愛を交わすのですね?」
「ん……まあ、な」
舞の答えに夢子は「キャー」と小さく黄色い声を出して舞に抱きついた。舞の顔を見上げて満面の笑みで一言。
「がんばってくださいね!」
この無邪気なような老獪なような、不思議な雰囲気をもつ友人の言葉に舞は苦笑した。
「あー、夢子ちゃん、あまり大声じゃ」
ばつが悪そうに舞。今回の状況になるまでに色々と場を整えようとしてくれた彼女にだからこそ、今夜のことを包み隠さずに話しはするが、大きく喧伝されるのは避けたい所だ。
夢子ははっとした表情で口もとを抑えると、一歩下がって舞に頭を下げた。
緩やかな動きなのに妙に威儀の整った礼に「そこまでする事はない」と言うと、夢子は頭を上げて、再び悪戯っぽく笑った。
「それにしても、やっと……ですね」
「そうだな。なんだかんだで忙しかったから」
舞はしみじみと頷く。
……大学もそうだけど、都市伝説との関わりもあったしな。
≪マヨヒガ≫に住み始めてから数年、≪マヨヒガ≫に迷い込んできた者を通していくつかの事件にも巻き込まれた。忙しかった時には皆に手伝ってもらったこともある。それらの事情を知っている夢子は頷いて、
「それでもさっさと初枕を共にしてしまえと、千勢さんなどはかなりせっついておられましたよね」
「あれはあれでしんどいけどな……」
……千勢姉ちゃんなりに俺たちのことを思ってのことだったんだろうけど。
荒っぽいやりかたに大変な目に遭ったこともあった。
それらを思い返していると、夢子がでは、と声をかけてきた。
「私もそろそろ行きますね」
「ああ、また明日な」
「はい、また明日。……お二人にとって今夜が佳き日でありますように」
一礼と共に去った夢子を見送って、舞は頬をかいて、照れを緩和するために敢えて思うことを言葉にする。
「なんつーか、皆オープンっつーか、さすがにモニカや騎士のおっちゃんにはこんなこと報告しづれえけど」
みんなが気にかけてくれることは知っている。舞が契約の影響からか、歳を取らなくなっていることが分かったこともあって、女性陣は特に舞のことを気にかけていたように思う。
……まあ、身体の成熟具合が完全じゃねえかもしれねえけどよ……。
内心のため息と共に、相変わらずあまり豊かではない胸を見下ろす。
「こ……個人差の範囲内だろチクショウ!」
こぶしを握り込みつつ言って、舞は≪マヨヒガ≫の母屋を振り返った。
気合いを込めるように深呼吸を一つして、
「――よし、Tさんのとこに行くか」
そう言ってリカちゃんを差し出した舞に、夢子は笑みで頷いた。
「はい、分かりました。リカちゃん、よろしくね?」
「わかったの」
元気よく返事を返したリカちゃんは、しかしその小さな頭を横に傾け、不思議そうに訊ねた。
「でも、お兄ちゃんもお姉ちゃんもどうしたの? 夢のお姉ちゃんと一緒に遊びに行かないの?」
「あー、まあ、ちょっと……な」
何やら歯切れ悪く言葉を返す舞の不審を取り繕うように、夢子が言葉を継いだ。
「お二人は大事な、とっても大事な二人だけのお仕事があるんですよ――ね?」
「あっははは……」
……ね、って言われてもなぁ……。
内心で呟きながら、舞はリカちゃんに頷いてやる。
「おう、まあそんな感じだから、さ。リカちゃんは夢子ちゃんと遊んできな」
「んー、わかったの」
疑問もなさげに再び元気よく答えたリカちゃんの様子に、舞は胸を撫で下ろす。
……さすがにリカちゃんに言うわけにはいかねえもんなぁ……。
マスコットに乗っかって≪夢の国≫へと遊びに行くリカちゃんに手を振りながら、舞は夢子に向き直る。頬をかいて言葉を探すようにしながら、
「あー、なんつーか、悪い……な。他の場所に預けてもいいんだけど……やっぱ動く人形が普通に動きまわって遊べるところに頼みたくてさ」
「いえいえ、頼っていただいて光栄です」
夢子はそう言って笑みを深くし、悪戯っぽく言う。
「いよいよTさんと愛を交わすのですね?」
「ん……まあ、な」
舞の答えに夢子は「キャー」と小さく黄色い声を出して舞に抱きついた。舞の顔を見上げて満面の笑みで一言。
「がんばってくださいね!」
この無邪気なような老獪なような、不思議な雰囲気をもつ友人の言葉に舞は苦笑した。
「あー、夢子ちゃん、あまり大声じゃ」
ばつが悪そうに舞。今回の状況になるまでに色々と場を整えようとしてくれた彼女にだからこそ、今夜のことを包み隠さずに話しはするが、大きく喧伝されるのは避けたい所だ。
夢子ははっとした表情で口もとを抑えると、一歩下がって舞に頭を下げた。
緩やかな動きなのに妙に威儀の整った礼に「そこまでする事はない」と言うと、夢子は頭を上げて、再び悪戯っぽく笑った。
「それにしても、やっと……ですね」
「そうだな。なんだかんだで忙しかったから」
舞はしみじみと頷く。
……大学もそうだけど、都市伝説との関わりもあったしな。
≪マヨヒガ≫に住み始めてから数年、≪マヨヒガ≫に迷い込んできた者を通していくつかの事件にも巻き込まれた。忙しかった時には皆に手伝ってもらったこともある。それらの事情を知っている夢子は頷いて、
「それでもさっさと初枕を共にしてしまえと、千勢さんなどはかなりせっついておられましたよね」
「あれはあれでしんどいけどな……」
……千勢姉ちゃんなりに俺たちのことを思ってのことだったんだろうけど。
荒っぽいやりかたに大変な目に遭ったこともあった。
それらを思い返していると、夢子がでは、と声をかけてきた。
「私もそろそろ行きますね」
「ああ、また明日な」
「はい、また明日。……お二人にとって今夜が佳き日でありますように」
一礼と共に去った夢子を見送って、舞は頬をかいて、照れを緩和するために敢えて思うことを言葉にする。
「なんつーか、皆オープンっつーか、さすがにモニカや騎士のおっちゃんにはこんなこと報告しづれえけど」
みんなが気にかけてくれることは知っている。舞が契約の影響からか、歳を取らなくなっていることが分かったこともあって、女性陣は特に舞のことを気にかけていたように思う。
……まあ、身体の成熟具合が完全じゃねえかもしれねえけどよ……。
内心のため息と共に、相変わらずあまり豊かではない胸を見下ろす。
「こ……個人差の範囲内だろチクショウ!」
こぶしを握り込みつつ言って、舞は≪マヨヒガ≫の母屋を振り返った。
気合いを込めるように深呼吸を一つして、
「――よし、Tさんのとこに行くか」
●
舞が≪マヨヒガ≫に入ると、ちょうどTさんは≪マヨヒガ≫の意識のようなものを神棚に封印しているところだった。
暖かな光を放つ神棚の中央に飾られた鏡に礼をして、Tさんは部屋に入って来た舞に言う。
「≪マヨヒガ≫にも今日一日は休んでいてもらうことになった。そちらはどうだ?」
「お、おう、リカちゃんはちゃんと夢子ちゃんにお任せしてきたぜ」
そう報告しつつ、舞はどこか落ち着かなげに目線を泳がせた。
「じ、じゃあとりあえず≪マヨヒガ≫にもちょっと寝ててもらったことだし、ここ全体の掃除とか、してみるか?」
「そうだな」
Tさんは仄かに笑んで、掃除用具を取りに行った。
暖かな光を放つ神棚の中央に飾られた鏡に礼をして、Tさんは部屋に入って来た舞に言う。
「≪マヨヒガ≫にも今日一日は休んでいてもらうことになった。そちらはどうだ?」
「お、おう、リカちゃんはちゃんと夢子ちゃんにお任せしてきたぜ」
そう報告しつつ、舞はどこか落ち着かなげに目線を泳がせた。
「じ、じゃあとりあえず≪マヨヒガ≫にもちょっと寝ててもらったことだし、ここ全体の掃除とか、してみるか?」
「そうだな」
Tさんは仄かに笑んで、掃除用具を取りに行った。
●
≪マヨヒガ≫にある蔵の中は、皆から持ち込まれたものや自分からやってきたモノによってけっこうな充実具合になっていた。
普段はTさんや舞が暮らしている部分以外の部屋やこの蔵は≪マヨヒガ≫が管理しているところではあるが、今日は管理者には寝てもらっている。舞とTさんは収蔵品の整理を行いながらのんびりと会話をしていた。
「さっすがに広いよなぁ……ざっと掃除してみるだけでも一日がかりの作業になっちまう」
「そうだな。≪マヨヒガ≫の力も回復して家具類も増えた。掃除箇所が増えた事にもなるな。
だが、ここの収蔵品もそうだが、≪マヨヒガ≫の家具には全て≪マヨヒガ≫の奇譚に語られる加護がある。一日や二日≪マヨヒガ≫が封印された所で失われるような加護でもない。ある程度手を加えておくくらいで事足りるだろう」
「そうだなぁ、そこら辺の便利さは都市伝説様々だ」
力を分け与え過ぎて消滅しかかっていた≪マヨヒガ≫をTさんと舞の二人に紹介した徹心の話では、現在の≪マヨヒガ≫の力はもう既に全盛期の頃に戻っているという話だった。
「徹心のおっちゃんは俺たちに感謝するついでに≪マヨヒガ≫の回復力に驚いてたけどさ、皆がいろいろ持ち込んでるんだからそりゃ回復だって早くなるはずだよな」
「その持ち込みを得ることができることも含めての評価なのだろう。――さて、次は迷い込んで来た者用の客間を掃除しよう」
「おう」
掃除すべき部屋はまだまだ沢山ある。急がなくてはざっとした掃除すら一日では終わらないだろう。
……気を紛らわすにはちょうどいいか。
掃除用具を持って先を歩くTさんを追いながら、舞はぼんやりとそんな事を考えた。
普段はTさんや舞が暮らしている部分以外の部屋やこの蔵は≪マヨヒガ≫が管理しているところではあるが、今日は管理者には寝てもらっている。舞とTさんは収蔵品の整理を行いながらのんびりと会話をしていた。
「さっすがに広いよなぁ……ざっと掃除してみるだけでも一日がかりの作業になっちまう」
「そうだな。≪マヨヒガ≫の力も回復して家具類も増えた。掃除箇所が増えた事にもなるな。
だが、ここの収蔵品もそうだが、≪マヨヒガ≫の家具には全て≪マヨヒガ≫の奇譚に語られる加護がある。一日や二日≪マヨヒガ≫が封印された所で失われるような加護でもない。ある程度手を加えておくくらいで事足りるだろう」
「そうだなぁ、そこら辺の便利さは都市伝説様々だ」
力を分け与え過ぎて消滅しかかっていた≪マヨヒガ≫をTさんと舞の二人に紹介した徹心の話では、現在の≪マヨヒガ≫の力はもう既に全盛期の頃に戻っているという話だった。
「徹心のおっちゃんは俺たちに感謝するついでに≪マヨヒガ≫の回復力に驚いてたけどさ、皆がいろいろ持ち込んでるんだからそりゃ回復だって早くなるはずだよな」
「その持ち込みを得ることができることも含めての評価なのだろう。――さて、次は迷い込んで来た者用の客間を掃除しよう」
「おう」
掃除すべき部屋はまだまだ沢山ある。急がなくてはざっとした掃除すら一日では終わらないだろう。
……気を紛らわすにはちょうどいいか。
掃除用具を持って先を歩くTさんを追いながら、舞はぼんやりとそんな事を考えた。
●
結局全ての部屋の掃除を終えることができたのは、夕方を過ぎてからだった。
舞が作った夕食を済ませ、Tさんが食器を洗っている間に風呂に入った舞は、浴衣に袖を通して寝室の布団の上でくつろぎながら一人ごちる。
「やっぱり部屋が多いと掃除も大変だ。≪マヨヒガ≫には悪いけど、俺たちが普段使う部屋以外のとこはこれからも管理を任せるしかねえな。その分、しっかり迷い人には対応しよう」
最近は≪マヨヒガ≫が迷いこませる人間や都市伝説の数が当初よりも増えてきた。Tさんや、他に人が居ればその人たちが上手く迷い人に対応してくれるが、そろそろそれなりの対応の仕方を舞も覚えなければならないだろう。それがこの≪マヨヒガ≫の主の一人である自分の役目でもあると舞は考えている。
今後のことを考えてがんばろう。と心に思い、
「舞? 大丈夫か?」
「――うわっ?!」
唐突に聞こえたTさんの声に悲鳴を上げた。
「てぃ、Tさん……お、おう。大丈夫だ」
いつの間にか物思いに沈んでしまっていたらしい。
いかんいかんと心に思い、舞は布団の上で正座で固まってTさんを見上げた。
浴衣を着たTさんは湯上りの少し湿った髪をタオルで拭きながら言う。
「今朝から極度に緊張しているように見えるが……あまり焦ることはないぞ? 別の機会を設けても――」
「そ、それはいい! 本当に大丈夫だからっ!」
言って、思ったよりも大きな声が出たことに舞本人驚きつつ、心配そうにこちらを見て来るTさんへと舞は改めて笑みを見せた。
「……なんつーか、どうも調子がおかしいな」
まいったまいったと笑って、舞は緊張を抜くために深呼吸を一つした。
舞が作った夕食を済ませ、Tさんが食器を洗っている間に風呂に入った舞は、浴衣に袖を通して寝室の布団の上でくつろぎながら一人ごちる。
「やっぱり部屋が多いと掃除も大変だ。≪マヨヒガ≫には悪いけど、俺たちが普段使う部屋以外のとこはこれからも管理を任せるしかねえな。その分、しっかり迷い人には対応しよう」
最近は≪マヨヒガ≫が迷いこませる人間や都市伝説の数が当初よりも増えてきた。Tさんや、他に人が居ればその人たちが上手く迷い人に対応してくれるが、そろそろそれなりの対応の仕方を舞も覚えなければならないだろう。それがこの≪マヨヒガ≫の主の一人である自分の役目でもあると舞は考えている。
今後のことを考えてがんばろう。と心に思い、
「舞? 大丈夫か?」
「――うわっ?!」
唐突に聞こえたTさんの声に悲鳴を上げた。
「てぃ、Tさん……お、おう。大丈夫だ」
いつの間にか物思いに沈んでしまっていたらしい。
いかんいかんと心に思い、舞は布団の上で正座で固まってTさんを見上げた。
浴衣を着たTさんは湯上りの少し湿った髪をタオルで拭きながら言う。
「今朝から極度に緊張しているように見えるが……あまり焦ることはないぞ? 別の機会を設けても――」
「そ、それはいい! 本当に大丈夫だからっ!」
言って、思ったよりも大きな声が出たことに舞本人驚きつつ、心配そうにこちらを見て来るTさんへと舞は改めて笑みを見せた。
「……なんつーか、どうも調子がおかしいな」
まいったまいったと笑って、舞は緊張を抜くために深呼吸を一つした。
●
「調子が狂うのは、これからすることのせいだろうな」
そう言って向かい合わせに座ったTさんに、顔をほんのりと赤らめて小さく頷いた。
「リカちゃんと会う前まではさ、だいたい一年くらい二人で生活してたわけじゃん? リカちゃんと契約した後も前までとそう変わらないような生活を送ってたと思ったんだけどさ……いざこうして久しぶりに二人っきりになると、無性に……恥ずかしい」
「そうだな、あの時から関係性も変わったこともある」
そう言うTさんに相槌を打って、舞はそして、と言葉を繋ぐ。
「今日で、また少し……関係性も変わるよな」
「ああ」
応え、Tさんは舞に確認を取るように問いを投げた。それは二人の間でこれまでに何度かあった問いかけで、
「舞、俺は元は人だが、今では厳密な意味では人とは違う存在だ。それでも構わないか?」
「それなら俺だって歳を取らなくなってるじゃねえか。もう普通の人とは違うよ。Tさんと同じだ。それにな、都市伝説が人を名乗っちゃいけねえって事はないと思うぜ? けっこう多くの都市伝説や人を見てきたけどさ、人かそうじゃないかってのは凄く曖昧なものなんだと思うんだ」
そこまで言ってから話題が脇に逸れて行くのを自覚して、舞は自分の照れ具合を思ってしばしうつむく。
布団のシーツを見ながら何度か口の中で言葉を転がして、やがて意を決して顔を上げた。
「だいたい、それに……だな。その、あ、愛してほしいって頼んだのは……俺の方であって……だな」
身体全体が熱を帯びてくる。その感覚に舞は先程よりも深くうつむいた。
湯上りで結っていない髪が肩から零れる。それを指先でいじりながら舞は続ける。
「俺、は……初めてだから……えっと……優しくしてくれると……嬉しい」
それが幸せだ。とは言わない。そもそも幸せというだけならば舞は今こうしてTさんと睦み合うことができるだけでも幸せなことなのだ。
Tさんは舞の言葉の選択に気付いたのか、口もとを緩めて舞の頭に手を乗せた。
舞は照れ隠し気味にTさんに問いを放る。
「――で、Tさんは実際、こういうのって何回目なんだ?」
「都市伝説化したこの体では今夜が初めてだな」
様々な意味にとれる答えをノータイムで返され、舞は「何かずりい……」と呟いた。だが、深くは追求しない。Tさんが過去の自分と今の自分とで、どこか一線引いていることを理解しているし、過去を掘り返しても意味はあまりないと思うからだ。
だから、
……今、新しく関係性を刻んでやる――
そう心の中で威勢良く思うと、舞は正座を崩して尻を布団にぺたんとつけて座った。顔を上げようとして、未だ恥じらいが強くてTさんの顔を正視できない。諦めてうつむきがちに目だけでTさんを見上げた。
そして面映ゆげに、瞳を僅かに潤ませて、
「えーと、よろしく……お願いします?」
「そこで疑問形はずるいな」
Tさんは苦笑を浮かべた。
「だが、そういう甘えも悪くない。俺の覚悟を示す意味で答えようか」
Tさんは舞の頭に置かれた手を髪に通し、解かれた髪に手櫛を通してその感触を楽しむようにする。やがて髪をいじっていた舞の指に自分の手を絡め、正面から彼は舞に言った。
「舞、お前が欲しい。心も体も共に在って欲しい」
「何かの儀式みてえだ」
Tさんの言葉に小さく笑って、舞はTさんと今度こそ目を合わせた。時間と共に熱さを増していく顔を気にしながら口を開く。
「比翼連理の契りって奴だな。全部Tさんにあげる……でも」
Tさんに自分の全てを許す言葉を紡ぎ、そして、
「ちゃんと、俺のこと好きって言って、キスしてくれてからじゃないと……やだ」
消え入るような声でそう言って目を瞑り、顎を僅かに上向けた。
そう言って向かい合わせに座ったTさんに、顔をほんのりと赤らめて小さく頷いた。
「リカちゃんと会う前まではさ、だいたい一年くらい二人で生活してたわけじゃん? リカちゃんと契約した後も前までとそう変わらないような生活を送ってたと思ったんだけどさ……いざこうして久しぶりに二人っきりになると、無性に……恥ずかしい」
「そうだな、あの時から関係性も変わったこともある」
そう言うTさんに相槌を打って、舞はそして、と言葉を繋ぐ。
「今日で、また少し……関係性も変わるよな」
「ああ」
応え、Tさんは舞に確認を取るように問いを投げた。それは二人の間でこれまでに何度かあった問いかけで、
「舞、俺は元は人だが、今では厳密な意味では人とは違う存在だ。それでも構わないか?」
「それなら俺だって歳を取らなくなってるじゃねえか。もう普通の人とは違うよ。Tさんと同じだ。それにな、都市伝説が人を名乗っちゃいけねえって事はないと思うぜ? けっこう多くの都市伝説や人を見てきたけどさ、人かそうじゃないかってのは凄く曖昧なものなんだと思うんだ」
そこまで言ってから話題が脇に逸れて行くのを自覚して、舞は自分の照れ具合を思ってしばしうつむく。
布団のシーツを見ながら何度か口の中で言葉を転がして、やがて意を決して顔を上げた。
「だいたい、それに……だな。その、あ、愛してほしいって頼んだのは……俺の方であって……だな」
身体全体が熱を帯びてくる。その感覚に舞は先程よりも深くうつむいた。
湯上りで結っていない髪が肩から零れる。それを指先でいじりながら舞は続ける。
「俺、は……初めてだから……えっと……優しくしてくれると……嬉しい」
それが幸せだ。とは言わない。そもそも幸せというだけならば舞は今こうしてTさんと睦み合うことができるだけでも幸せなことなのだ。
Tさんは舞の言葉の選択に気付いたのか、口もとを緩めて舞の頭に手を乗せた。
舞は照れ隠し気味にTさんに問いを放る。
「――で、Tさんは実際、こういうのって何回目なんだ?」
「都市伝説化したこの体では今夜が初めてだな」
様々な意味にとれる答えをノータイムで返され、舞は「何かずりい……」と呟いた。だが、深くは追求しない。Tさんが過去の自分と今の自分とで、どこか一線引いていることを理解しているし、過去を掘り返しても意味はあまりないと思うからだ。
だから、
……今、新しく関係性を刻んでやる――
そう心の中で威勢良く思うと、舞は正座を崩して尻を布団にぺたんとつけて座った。顔を上げようとして、未だ恥じらいが強くてTさんの顔を正視できない。諦めてうつむきがちに目だけでTさんを見上げた。
そして面映ゆげに、瞳を僅かに潤ませて、
「えーと、よろしく……お願いします?」
「そこで疑問形はずるいな」
Tさんは苦笑を浮かべた。
「だが、そういう甘えも悪くない。俺の覚悟を示す意味で答えようか」
Tさんは舞の頭に置かれた手を髪に通し、解かれた髪に手櫛を通してその感触を楽しむようにする。やがて髪をいじっていた舞の指に自分の手を絡め、正面から彼は舞に言った。
「舞、お前が欲しい。心も体も共に在って欲しい」
「何かの儀式みてえだ」
Tさんの言葉に小さく笑って、舞はTさんと今度こそ目を合わせた。時間と共に熱さを増していく顔を気にしながら口を開く。
「比翼連理の契りって奴だな。全部Tさんにあげる……でも」
Tさんに自分の全てを許す言葉を紡ぎ、そして、
「ちゃんと、俺のこと好きって言って、キスしてくれてからじゃないと……やだ」
消え入るような声でそう言って目を瞑り、顎を僅かに上向けた。