夜刀浦奇譚
第壱話 -老爺と聖夜-
第壱話 -老爺と聖夜-
十二月二十四日。
イルミネーションが輝き、陽気な音楽が鳴り響き、人々もどこか浮かれたように歩いている。
だが、喧騒は街中だけであって、ひとつ道を曲がり小路に入ると静かな寒い夜となる。
人通りが少ない路地に彼らはいた。
イルミネーションが輝き、陽気な音楽が鳴り響き、人々もどこか浮かれたように歩いている。
だが、喧騒は街中だけであって、ひとつ道を曲がり小路に入ると静かな寒い夜となる。
人通りが少ない路地に彼らはいた。
「準備はいいか、野郎ども!」
「応!」
「応!」
二十名ほどの武装した男達。
彼らの目的はひとつ。
彼らの目的はひとつ。
「いいか、今年こそあのクソッタレな赤い爺いどもに一泡吹かせてやるぞ!」
「応!」
「応!」
聖なる夜に子供達の枕元にプレゼントを置く、聖夜の象徴を狩る者達。
去年も一昨年も一昨々年も彼らは人々に見えないところで戦っていた。
一夜限りの戦いは日本全土のみならず、国外でも繰り広げられ、今では世界各国に支部までできている。
去年も一昨年も一昨々年も彼らは人々に見えないところで戦っていた。
一夜限りの戦いは日本全土のみならず、国外でも繰り広げられ、今では世界各国に支部までできている。
「武器の準備は整ったか!」
「応!」
「お祈りは済ませたか!」
「応!」
「敵は赤い死に損ないだ! 征くぞ!!」
「応!!」
「メリイイイイイイイイイイイ!」
「クリスマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアス!!」
「応!」
「お祈りは済ませたか!」
「応!」
「敵は赤い死に損ないだ! 征くぞ!!」
「応!!」
「メリイイイイイイイイイイイ!」
「クリスマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアス!!」
かしゃり
「――え?」
「伍長!?」
「伍長!?」
兵士達の士気が最高潮まで高まった瞬間、号令をかけていた兵士が倒れた。
ざわめきが少なかったのは兵士達がこの日のために何事にも動じぬよう鍛錬された証ではあるが、伍長は己の鍛錬の結末を見届けることはできなかった。
地に伏した伍長の体からはすでに生命反応が失われている。
ざわめきが少なかったのは兵士達がこの日のために何事にも動じぬよう鍛錬された証ではあるが、伍長は己の鍛錬の結末を見届けることはできなかった。
地に伏した伍長の体からはすでに生命反応が失われている。
「誰がいかせるかい、阿呆」
突然の声。
声の主は背後でも横からでもなく真正面に姿を現した。
声の主は背後でも横からでもなく真正面に姿を現した。
「動くな!」
伍長の次――兵長の声と共に無数の銃口が声の主に向けられる。
全てが当たれば蜂の巣どころの話ではない。
しかし恐る風もなく声の主――老人はその姿を兵士達の前に見せる。
全てが当たれば蜂の巣どころの話ではない。
しかし恐る風もなく声の主――老人はその姿を兵士達の前に見せる。
「散!」
兵長の一言で兵士達が老人を取り囲む。
たとえ老人と言えど一切の油断がない。そもそも彼らの敵は色こそ赤いが老爺なのだ。
たとえ老人と言えど一切の油断がない。そもそも彼らの敵は色こそ赤いが老爺なのだ。
「貴様は奴らの手の者か」
「誰が答えるかよ、阿呆」
「誰が答えるかよ、阿呆」
兵長の迫力に怯むことなく老人は右手に持つあるものを兵士達に向ける。
「……スマートフォン?」
かしゃり
スマートフォンから音が鳴るとひとり、兵士が倒れる。
かしゃり
どさり
かしゃり
どさり
「契約者か!」
「気づくのが遅い喃」
「気づくのが遅い喃」
この間にもばたばたと倒れていく兵士。
そのどれもがわけもわからぬと表情をしているのはどこか滑稽だ。
そのどれもがわけもわからぬと表情をしているのはどこか滑稽だ。
とん
とん
とん
とん
とん
スマートフォンを三回タッチ。
どさ
どさ
どさ
どさ
どさ
タッチした人数が倒れたのを見て、ようやく兵長が老人の契約している都市伝説を把握した。
「あのスマートフォンから離れろ! 『写真に写ると魂を抜かれる』契約者だ!!」
「もう遅いわい」
「もう遅いわい」
兵長の判断ミスを告げるとすれば――敵前逃亡を許さなかったことにある。
彼ら兵士は戦うために集められた義勇軍のようなものだ。死ぬ義務はない。そのミスが戦局を大きく左右する。
彼ら兵士は戦うために集められた義勇軍のようなものだ。死ぬ義務はない。そのミスが戦局を大きく左右する。
かしゃり、かしゃり、かしゃり、かしゃり
老人の指がスマートフォンの画面をタッチするたびに死人がひとりまたひとりと増える。
「触って撮れるのはいいが、流石に疲れる喃」
「――今だ!」
「連写ができるのも知らんのか、阿呆どもめ」
「――今だ!」
「連写ができるのも知らんのか、阿呆どもめ」
かしゃかしゃかしゃかしゃかしゃ
兵士に向けられたスマートフォンが半円を描く。
緩やかとも言える動きなのに、全ての兵士は崩れ落ちた。
簡単に。実に簡単に、この日のために鍛えられた兵士達はその命を失った。
緩やかとも言える動きなのに、全ての兵士は崩れ落ちた。
簡単に。実に簡単に、この日のために鍛えられた兵士達はその命を失った。
「終わりましたか」
「ああ。全部終いよ」
「この中に彼らと成ったあなたの息子さんを殺した兵士はいましたか?」
「いいや。居らんかった」
「では、次の場所へ行きましょう。そちらにならいるかもしれません」
「……居やせんよ」
「ああ。全部終いよ」
「この中に彼らと成ったあなたの息子さんを殺した兵士はいましたか?」
「いいや。居らんかった」
「では、次の場所へ行きましょう。そちらにならいるかもしれません」
「……居やせんよ」
大正生まれの老人は、歩みを進める黒服に毒づくとその後ろについていった。
仇はすでに老衰で死んでいることを老人が知っていることを知らぬ黒服に。
行き場のない恨みを晴らすためだけに自分の曾孫くらいの青年達を殺すことを是としないまま。
仇はすでに老衰で死んでいることを老人が知っていることを知らぬ黒服に。
行き場のない恨みを晴らすためだけに自分の曾孫くらいの青年達を殺すことを是としないまま。
十二月二十四日――クリスマスイブ。
町では、何も知らぬ老若男女の笑顔で溢れている。
町では、何も知らぬ老若男女の笑顔で溢れている。
続く